東京地方裁判所 昭和54年(ワ)8846号 判決 1980年12月19日
原告
柴田毅
右訴訟代理人
戸田満弘
被告
澤井寿々江
右訴訟代理人
高橋寿一
主文
一 原告の請求はいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。
二((二)の土地の袋地性について)
請求原因3の事実のうち原告所有の(二)の土地が別紙第二図面<略>のとおり東側を都有地(東京都港区南青山一丁目三九番二五〇所在)、南側を伊藤五郎の所有地(同所三九番一四七所在)、西側を被告所有の(一)の土地、北側を川口雅一の所有地(同所三九番一四五所在)に囲まれた位置関係にあることは当事者間に争いがない。
<証拠>によると、(二)の土地及び原告の所有である東京都港区南青山一丁目三九番二四五の土地とそれらから約8.5メートルの南方にある公道の間に両者をつなぐ幅員が約五〇センチメートルの通路(前記の南側通路)があること、この南側通路は別紙第二図面でリ・ヨ・ワ・ルの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分であり、右図面のカとヌを結ぶ直線から東側の部分は都有地であり、西側の部分は伊藤五郎の所有地であること、右図面のヲとワを結ぶ線上にブロック塀があること、この南側通路は幅員が約五〇センチメートルであることから人間が一人通行しうる程度のものであることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
右認定によるとき原告所有の(二)の土地と公道との間に、このような南側通路があるとしても、この通路は日常の通行の用に供するには不十分なものであるということができ、よつて(二)の土地が公路に通じているとはいえないから、(二)の土地は袋地であると認められる。
三(被告主張の抗弁事実について)
抗弁1、3、6の事実、同2の事実(但し(四)の建物が被告と柴田和江の協力で新築され実質的に両名の共有であつたとの点を除く。)同4の事実のうち被告所有の(一)の土地のほぼ一杯に被告所有の(四)の建物が建てられており現状では(二)の土地から(一)の土地を通つて西側の公道に出られない事実はいずれも当事者間に争いがない。
<証拠>を総合すると以下の事実を認めることができ下記認定に反する証拠はない。
1 昭和三一年三月二六日に沢井シチは当時国から借り受けていた(一)の土地と(二)の土地に分筆される前の土地の払下げを国から受けた。右土地は前記のとおり昭和四五年七月一七日に被告が相続によつてその所有権を取得し、昭和四五年九月一〇日に前述の交換契約によつて(一)の土地は被告に、(二)の土地は原告に帰属するようになつた。登記簿上右土地が(一)及び(二)の土地に分筆されたのは昭和五四年五月三一日であり、(二)の土地について同年七月二〇日に原告から被告に所有権移転登記がなされた。
2 昭和四一年一一月頃に原告が(五)の建物を増築した際に、増築した部分の出入口が南側通路の方に向つてついており、南側通路の過半部分(別紙第二図面のヨ、カ、ヌ、リの部分)の所有者である伊藤五郎と原告は勤務先が同じ港区役所であつたこともあり、伊藤五郎から右南側通路の使用についての明示の承諾を受けて昭和五三年末まで原告及びその家族は右通路を使用して来た。現在においても南側通路の通行が妨害されているわけではなく、伊藤五郎が原告及びその家族の使用を拒否していることもない。南側通路の一部(別紙第二図面のカ・ワ・ル・ヌの部分で巾五〇センチメートルのうちの約一五センチメートル巾の部分)の所有者である東京都も、右通路の通行を妨害したこともなく、かえつて別紙第二図面のワとヲの二点を結ぶ直線上にブロック塀を築造している実情にある。
3 昭和四五年九月一〇日の原告所有の(四)の建物と被告所有の(二)の土地の交換の際にも、原被告は(一)の土地一杯に(四)の建物が建つていること及び右2の南側通路の存在を充分認識した上で交換契約を結んだものであり、右交換の時点及びその後少くとも昭和五三年末までには(四)の建物の一部を取り壊して(一)の土地に通路を開設する話は原被告間では出ていなかつた。
四(権利乱用の抗弁に対する判断)
以上認定した事実によるとき、本件の南側通路は二で認定したように(二)の土地の袋地性を否定する意味での通路とはいえないが、なお原告及びその家族にとつて過去十数年の利用をこれからも期待しうる通路であることが認められ、右事実と原告の本訴請求が被告主張の抗弁事実6(原告も争わない。)のとおり(二)の土地及び(五)の建物を他人に売却するためのものであること、一方本件土地に通路を開設することにより(四)の建物の一部を取り壊さねばならない被告の損害を考慮するとき、本件において原告が被告に対して囲繞地通行権を主張して妨害の排除に及ぶことは信義誠実の原則に反するというべきである。よつて被告の権利乱用の抗弁は理由がある。
五(結論)
以上のとおりであるから、請求原因5及び6の事実を判断するまでもなく原告の請求は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(菅原雄二)
別紙物件目録<省略>