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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)9号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

1 原告と訴外文成明とは、昭和四六年二月三日婚姻届をした夫婦であるが、その間に子どもがなく、原告はやや難聴であつた。文成は元警察官であり、柔道に練達していたけれども、女性関係にだらしなく、被告以外にも交際があり、原告と諍いを生じたことがあつた。

2 被告は、昭和五一年一〇月九日東京都日野市の多摩健康増進センターに入社し、そこに勤めていた文成と知り合つた。文成は、被告の自宅が通勤に不便な場所に在つたことから自己の車で被告を送り迎えするようになり、両者は親密の度を深め、被告に対し、自分は独身であり、結婚を前提として交際したいと申し込み、その言葉を信じた被告と同年一一月三日肉体関係を結ぶに至つた。

3 被告は、昭和五一年一一月下旬文成に妻のあることが分り、文成に問い質したところ、文成は妻が子どもを生めない身体であるうえに難聴であるから離婚することになつていると述べたけれども、被告及びその家族らは文成に対する疑念を拭うことができず、被告の家族は被告に対し文成と妻との離婚手続が完了するまで同人との交際を差し控えさせるとともに同年一二月二〇日被告の兄が文、成に戸籍謄本を持参するよう指示した。ところが、文成は、至急戸籍謄本を持参する旨を約しながらなかなか履行しないうえ、昭和五二年一月一三日文成に誘われ家を出ようとする被告を制止しようとした同人の兄に対し暴力を揮つた。そこで、翌一四日被告の義姉が文成の住民票をとつて調べたところ、同人はまだ原告と離婚していないことが判明した。

4 被告は、昭和五二年一月初めころ文成の子を妊娠していることに気づき、同月二二日文成に会つて同人と離別し妊娠中絶の意向であることを伝えたところ、文成が、昨日離婚届を済せた、子どもは是非生んですれ、と懇請したので、被告は意を翻し、家族にも連絡しないまま同日から同月二五日まで文成方に同居した。しかし、文成が同月二一日付でした原告との離婚届は文成が原告に無断で行つたものであつた。

5 被告の家族から捜索願が警察に出され、同月二五日警官と共に被告の家族が迎えに来て文成方から被告を連れ戻り、話し合いの結果、文成において同年二月七日までに戸籍謄本を持参することを確約したが、右期日を過ぎても履行されず、また、同年二月六日原告から電話で文成と離婚の意思がなく、原告を無視して文成と交際している被告に対し語気鋭く非難されるなどの事態に直面し、いたく衝撃を受けた被告は同月一五日ごろ妊娠中絶の手術を受けた。しかし、被告はその後も同年末ごろまで文成との交際を継続した。

6 原告は、上記のような文成と被告との関係に失望のあまり離婚を決意し昭和五三年三月二二日別府市の実家に帰つたが、同日原告の出発直前被告はおみやげ代と称して金五万円を原告に渡した。その際、原告は被告に「いい人を見つけて出直しなさい、今後あなたに対し何もしません。」と述べた。

二以上の認定に反する証拠は他になく、前記事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告は文成に妻のいることが判明したのちも同人との情交関係を継続し、そのため原告と文成との婚姻関係を破綻するに至らしめたものであり、他方、被告が原告に対し前記五万円を提供したことにより原告が被告を宥恕したものとは認め難いから、被告は原告に対し慰藉料支払の義務があり、その額は一五〇万円をもつてするのが相当である。そして、弁論の全趣旨によれば、原告が本件訴訟代理人に対し報酬等として一五万円を支払つたこと及びこれは被告の本件不法行為と相当因果関係にあるものと認められるから、これについても被告は支払義務があるものというべきである。

(牧山市治)

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