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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)9010号 判決 1981年3月20日

原告 有限会社甲野商事

右代表者代表取締役 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 高場茂美

同 平野隆

被告 株式会社オツヤマ

右代表者代表取締役 丙川春夫

右訴訟代理人弁護士 武岡嘉一

同 宮川典夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金九四四万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五四年九月二三日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は砂利砕石等の販売を営業とする会社であるが、訴外株式会社A(以下「訴外A」という)に対し、工事用の砂を代金九四四万二〇〇〇円で売り渡し、訴外Aから右代金の支払のため左記の約束手形の交付をうけ、現に右手形を所持している。

金額 九四四万二〇〇〇円

満期日 昭和五四年五月一〇日

支払地 東京都新宿区

支払場所 株式会社山梨中央銀行新宿支店

振出地 東京都渋谷区

振出日 昭和五四年四月二〇日

振出人 株式会社A

名宛人 有限会社甲野商事

2  訴外Aは昭和五四年五月二日銀行取引停止となり、約三億五二〇〇万円の債務を負担して倒産し、無資力である。

3  訴外Aは、被告に対し左のとおり金七六五二万八二八七円の手数料債権を有している。すなわち昭和五二年三月二八日、訴外Aは被告との間に、被告が訴外財団法人電気通信共済会に販売する日本電信電話公社向けの貼紙防止用マジックシートの販売促進に協力する代償として、被告が訴外Aに販売額の三〇パーセント(手数料)を支払う旨の契約を締結し(以下「本件販売手数料契約」という。)、その後右販売促進手数料は昭和五三年八月一日から販売額の二〇パーセントに減額され、更に同年一一月以降は二五パーセントに改訂された。訴外Aは被告に対し、昭和五三年一月から昭和五四年三月まで合計金七六五二万八二八七円の手数料債権を有している。

4  そこで原告は、民法四二三条により、被告に対する前記手形債権を保全するため、訴外Aの被告に対する前記手数料債権を代位行使する。

5  よって原告は被告に対し、訴外Aの被告に対する手数料債権金七六五二万八二八七円の内金九四四万二〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五四年九月二三日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因第1項中、訴外Aが建築材料の販売等を営む会社であることは認め、その余は不知。

2  同第2項中、訴外Aが倒産したことは認め、その余は不知。

3  同第3項中、訴外Aが被告に対し、金七六五二万八二八七円の債権を有することは否認し、その余は認める。

三  被告の抗弁

原告主張の被告と訴外A間の本件販売手数料契約は、被告と訴外Aとが通謀のうえ、被告が事業拡張と会社経理の都合上架空の経費を計上するため仮装したものである。

四  原告の再抗弁

仮に、被告と訴外A間の本件販売手数料契約が右両者の通謀による仮装のものとしても、原告は右契約が被告と訴外A間の虚偽の意思表示にもとづきなされたものであることを知らなかったものである。

五  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は否認する。原告は訴外Aの右契約に基づく債権を代位するものであるから第三者には該当しない。

第三証拠《省略》

理由

一  まず被告の虚偽表示による無効の抗弁につき判断する。

《証拠省略》を総合すれば、被告はマジックシートという貼紙防止用の製品等を製造販売する会社であるが、架空の経費を計上し、いわゆる裏金を作ることを企て、昭和五二年三月頃、訴外Aに右裏金作りの協力を依頼したところ、訴外Aの代表取締役である丁原夏夫は被告の裏金作りに協力することにしたこと、その後右丁原は裏金作りの具体的方法について、被告の専務である戊田冬夫と話を詰め、丁原は戊田の指示に基づき、被告と訴外A間において、真実は訴外Aが被告に対しマジックシートの販売促進に協力しないのに協力する形をとり、被告は訴外Aに販売手数料を支払う義務がないのに右販売額の三割を支払うことを内容とする覚書を作成したこと、被告はこのように形の上で訴外Aに支払うこととなった販売手数料を経費として税金上処理し、裏金を作ったこと、

その際、訴外Aは架空の手数料受入れを記帳することになり、右手数料に見合った領収証を買い集める等煩雑な経理上の操作を必要とするため、被告と訴外A間において被告が訴外Aに対し、前記販売手数料の一割を経費ないし謝礼として支払うことの合意が成立したこと、被告が右覚書において訴外Aに支払うことになった販売手数料は、次のような方法で支払った、すなわち被告が得意先から販売代金を回収後、右販売額に右覚書に定めた販売手数料の率を乗じた金額を、住友銀行渋谷支店の訴外A名義の普通預金口座に振込み、その後被告は訴外Aとの前記合意に従い、右販売手数料の一割を訴外Aに経費ないし謝礼として支払ったこと、被告は昭和五四年三月限りで訴外Aとの間で前記覚書にもとづき行ってきた裏金作りを中止し、従来被告が訴外Aに支払ったものとして計上したいわゆる手数料全額を各年度の所得とし、所轄税務署に修正申告を行い納税したこと、

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、被告と訴外Aとの間における本件販売手数料契約は、右両者間が通謀してなした虚偽の意思表示によるもので、右契約は無効であると解せられる。

二  そこで原告の再抗弁につき判断する。

債権者代位権は債権者固有の権利ではあるが、これに基づき行使される権利は債務者に属し、債権者は債務者の地位に代位してこれを行使するものであるから、その行使を受ける相手方は債務者自ら権利を行使する場合と比較して不利益を甘受しなければならない理由はなく、従って相手方は債務者に対抗することのできる事由はこれをもって債権者に対抗することができるものであるから、代位の目的たる債務者の権利が虚偽の意思表示に基づくもので成立しない場合、債権者の保全しようとする債権自体の存否が債務者と相手方との虚偽契約の効力如何によって影響を受けるような場合でない限り、相手方は債権者にも虚偽表示による無効を対抗しうると解すべきである。これを本件につきみるに、単なる金銭債権を有するにすぎない原告が債権保全のため右債権と直接関連のない訴外Aの販売手数料債権を代位行使するような場合においては、債権者たる原告はただ債務者たる訴外Aの地位に代位してこれを行使するにすぎず、右販売手数料契約の有効、無効は原告の保全しようとする債権の成否には何ら影響がないので、原告はその善意、悪意を問わず民法九四条二項にいう「第三者」に該当しない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、代位行使される権利が認められないので、その余の点につき判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野忠和)

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