東京地方裁判所 昭和54年(ワ)9085号 判決 1980年3月27日
原告
株式会社東洋製作所
右代表者
石丸保
右訴訟代理人
寺崎萬吉
被告
株式会社協和銀行
右代表者
色部義明
右訴訟代理人
島谷六郎
外四名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
一、二<省略>
三ところで、堀内が東亜工業と被告が昭和五二年一二月一九日銀行取引約定を締結した際、東亜工業が被告に対し負担する銀行取引上の一切の債務につき連帯保証したこと、右取引約定第五条第一項第三号によれば、保証人堀内の預金につき差押命令が発送されたときは主債務者たる東亜工業が被告に対して負担する一切の債務につき当然に期限の利益を失う旨の定めが存することは当事者間に争いがないから、本件差押転付命令正本が発送された昭和五四年七月三一日には、東亜工業の被告に対する前記一、八八〇万円の手形貸付金債務及びこれにつき堀内が負担した連帯保証債務はいずれも弁済期が到来するに至つたものというべきである。
原告は右期限の利益喪失条項の無効を主張するところ、右条項は主債務者にとり多少不利益となる面がないではないが、<証拠>によれば、連帯保証人たる堀内は主債務者東亜工業の代表取締役であることが認められ、代表者の個人企業に等しい会社の多数存在すること公知の事実であるというべき我国会社制度の下においては、代表者個人の信用不安が往々にして法人自体の信用不安に直結することも十分肯認し得るのであつて、かかる場合にそなえる右の如き約定にそれなりの取引上の合理性を有するものというべきであり、契約自由の原則を超えるものとはいうことができないから、原告の主張は採用できない。
四次に被告が抗弁第三項で主張するとおり相殺の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。
原告は、期限の利益喪失条項及び相殺権留保条項が脱法行為で無効である旨主張するが、一般に銀行預金債権は貸付金債権の担保たる機能を有するもので、右各条項は右担保権を実効あらしめるものとして取引の円滑化に資する合理性を有することは否定できず、これを無効でみるというのは当らない。
また、被告が原告主張の三物件につき共同担保権を有することは、極度額八〇〇万円の限度で当事者間に争いがない。しかしながら、債権者が複数の債権回収手段を有する場合に、そのいずれを行使すべきかは、原則として債権者の自由に属するものというべく、特段の事情のない限り、物的担保権の行使をせずに反対債権をもつて相殺に供することが権利の濫用に当ることはない。
さらに、被告は相殺適状を争うが、被告の堀内に対する預金債務につき被告が期限の利益の放棄をなし得ること被告所論のとおりであるから、この点の原告の主張も理由がない。
従つて、本件被差押債権は、本件差押転付命令正本が被告に送達された当時すでに消滅に帰していたものというべきである。
五よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(落合威)
物件目録、目録一、二<省略>