東京地方裁判所 昭和54年(刑わ)2393号 判決 1979年10月01日
被告人 若林則男
昭九・一〇・二四生 無職
主文
被告人を懲役三年に処する。
未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、いずれも窃盗罪により、(1)昭和四三年七月二三日東京簡易裁判所で懲役二年六月、(2)昭和四四年四月三〇日豊島簡易裁判所で懲役一年二月、(3)昭和五三年一月二五日台東簡易裁判所で懲役一年にそれぞれ処せられ、いずれも右各刑の執行を受けた者であるが、さらに常習として、昭和五四年七月一二日午後五時五〇分ころ、東京都台東区元浅草三丁目二二番九号竹の湯二階脱衣場において、浴客渡辺幸男使用のロツカー内から同人所有の現金二万円を窃取したものである。
(証拠の標目)(略)
(累犯前科)
被告人は昭和五三年一月二五日台東簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年に処せられ、昭和五三年一二月二五日右刑の執行を受け終つたものであり、右の事実は検察事務官作成の前科調書、昭和五三年一月二五日宣告にかかる調書判決の謄本によつてこれを認める。
(法令の適用)
被告人の判示所為は、盗犯等の防止及処分に関する法律三条、二条(刑法二三五条)に該当するが、前記の前科があるので、刑法五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で再犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。なお、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、盗犯等の防止及処分に関する法律三条に「一〇年間に……三回以上」というなかには、併合罪中、余罪についての裁判を含まない、たとえば本件において、前記(2)の昭和四四年五月七日確定の判決中で有罪とされた窃盗行為の犯行日は、同(1)の昭和四三年八月一日確定の判決以前に犯されていたものであつて、いわゆる余罪にあたつており、(1)の行為と(2)の行為とは元来同時審判が可能だつたのであるから、このような場合には同条の適用上は(1)(2)をあわせて一回と解すべきであり、そうすると本件被告人については同条に「三回以上」とある要件を充足せず結局単純窃盗罪として処断すべきである旨主張する。
そこで検討するのに、同条は窃盗罪中常習として行なわれる一定範囲のものにつき、通常の窃盗罪に対する法定刑である「一〇年以下の懲役」をとくに引き上げ「三年以上の有期懲役」とする規定であるが、その適用対象を引き上げられた刑に相応するよう形式及び実質の双方をかねそなえた常習者に限るため、「常習として」行なつたという実質的な要件のほかに「一〇年間に……三回以上……六月の懲役以上の刑の執行……」という形式的ないし定型的な要件を加えたものと考えられる。これによつて「常習として」行なつた者のうち、右の定型的要件をも具備するごく限られた一部の者だけが同条の適用対象とされることになるが、この場合、右の定型的要件は、直接には常習性の有無を識別するためのものではなく、実質的な常習性を具備している者のなかからさらにその程度の顕著な者を選び出すための基準という役割りをはたすものといえる。そうだとすると、一方で実質的な常習性の要件を具備することを基本的な前提とする限り、「一〇年間に……三回以上……」との他方の要件に関しては字義どおり右の条件に定型的に該当すれば足り、その三回の処罰の対象となつた行為相互間の時期的・内容的な関連(もとより同法三条により、二条所定の一定の罪にかかるものであることを要することは当然の前提であるから、ここではそれ以外の実質的な関連を指す。)を問わない趣旨と解するのが相当である。したがつて、たとえば併合罪については、実体法上一回で一括して処罰される可能性が原則的にあるということができるとしても、手続上現実には二回に分けて処罰されることも当然ありうるのであり(刑法五一条はこのような場合の調整規定である。)、その場合には刑の宣告、刑の執行などという手続的な面では二度別々に自覚、反省の機会が与えられることも事実なのであるから、そのようなことからすると、併合罪中余罪についての裁判も二回にわたつて刑の執行を受けるものであることには変りはないと考えられる。同条が「三回以上……刑の執行を受け……」と規定し、その文理上、刑の執行という手続的な感銘力の面から規定をたてているとみられることにも、右の趣旨があらわれていると考えられる。このように考えてくると、弁護人の主張は採用することができない。
(量刑の事情)
被告人は、昭和三〇年以来、すでに窃盗により一〇回にわたつて懲役刑の執行を受けその刑期は合計一三年一〇か月に及んでいる。にもかかわらず前刑出所後わずか八か月余にして重ねて本件のような犯行に及んだものであり被告人の犯情は、甚だ悪質でその責任は重いと言わなければならない。しかも本件犯行によつて得た金員は競輪などに使つてしまい被害弁償はもとよりできない状態にある。
本件犯行の被害額がそれほど多額でなくてすんだこと、被告人はボイラーの二級免許などを有しており本当にその気になれば定職に就くことも可能であろうと思われること、被告人が今度こそ更正すると誓つていることなどの点は、被告人に有利に考慮できる点であるが、前記のような反覆性を考えると酌量減軽をすることまでは考えられず主文の刑に処するほかないものと考えた。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 秋山規雄)