東京地方裁判所 昭和54年(特わ)2475号 判決 1979年12月05日
本店所在地
東京都立川市柴崎町五丁目一一二番地一四
興亜商事株式会社
(右代表者代表取締役 西浦三郎)
本籍
東京都立川市栄町五丁目二五番地の四
住居
東京都立川市幸町一丁目一三番地の三
会社役員
西浦三郎
大正一三年一二月二〇日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官八代宏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告会社興亜商事株式会社を罰金四、〇〇〇万円に
被告人西浦三郎を懲役一年六月に
それぞれ処する。
被告人西浦三郎に対し、この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社興亜商事株式会社は、東京都立川市栄町五丁目二五番地の四に本店を置き(昭和五三年一一月二〇日以降は同市柴崎町五丁目一一二番地一四)、金融業等を目的とする資本金四、〇〇〇万円(昭和五一年一二月一七日以前は二、〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人西浦三郎は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を掌理していたものであるが、被告人西浦は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、収入利息の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ
第一 昭和五〇年一〇月一日から同五一年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一七九、八一一、七五一円(別紙(1)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、同五一年一一月二六日、東京都立川市高松町二丁目二六番一二号所在の所轄立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六、一一三、〇四三円でこれに対する法人税額が一、五九八、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出してそのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七〇、九七〇、七〇〇円と右申告税額との差六九、三七二、七〇〇円(税額の算定は別紙(3)税額計算書参照)を免れ
第二 昭和五一年一〇月一日から同五二年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一六六、六七九、三五二円(別紙(2)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、同五二年一一月二九日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五、四四八、八四五円でこれに対する法人税額が一、二七八、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出してそのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六五、五八四、九〇〇円と右申告税額との差額六四、三〇六、二〇〇円(税額の算定は別紙(3)税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全般の事実につき
一、被告人の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書(二通)
一、西浦節子の検察官に対する供述調書(五通)
一、東京法務局登記官作成の登記簿謄本
一、押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五四年押第一九六四号の一、二)
別紙(1)、(2)の各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄の数額について
<各別紙<1>につき>
一、大蔵事務官作成の収入利息調査書、収入利息過大調査書、割引手形・前受金調査書、支払利息調査書、貸付金未収利息調査書、前受金(差額利息)調査書
<各別紙<2>、<17>、別紙(1)の<4>につき>
一、大蔵事務官作成の架空経費調査書
<各別紙<2>、<6>、<7>、<14>、<16>、別紙(1)の<15>、別紙(2)の<10>につき>
一、大蔵事務官作成の簿外預金調査書
<各別紙<9>につき>
一、大蔵事務官作成の車両調査書
<各別紙<16>につき>
一、大蔵事務官作成の雑費(利息等)調査書、雑費(供託金)調査書
<各別紙<18>につき>
一、大蔵事務官作成の受取利息等調査書
<各別紙<19>につき>
一、大蔵事務官作成の簿外雑収入調査書
<各別紙<19>、別紙(1)の<32>、<33>、別紙(2)の<33>、<34>につき>
一、大蔵事務官作成の簿外益金調査書
<別紙(2)の<21>につき>
一、大蔵事務官作成の貸倒損失過大調査書
<別紙(1)の<24>、別紙(2)の<25>につき>
一、大蔵事務官作成の債権償却特別勘定戻入益過大調査書、債権償却特別勘定戻入益調査書、債権償却特別勘定戻入益修正調査書
<別紙(1)の<25>につき>
一、大蔵事務官作成の債権償却特別勘定繰入額調査書
<別紙(2)の<30>につき>
一、検察事務官作成の昭和五四年一〇月一日付の交際費損金不算入額に関する捜査報告書
<別紙(1)の<34>につき>
一、大蔵事務官作成の簿外有価証券売買損益調査書
<各別紙<36>につき>
一、検察事務官作成の昭和五四年一〇月一日付の未納事業税額に関する捜査報告書
(法令の適用)
被告会社につき
いずれも法人税一五九条、一六四条一項。刑法四五条前段、四八条二項
被告人につき
いずれも法人税法一五九条(いずれも懲役刑選択)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重)。同法二五条一項
(量刑の理由)
一、本件は、二事業年度にわたり、後に述べるような不正な手段により、その所得の大部分を秘匿したうえ、正規の法人税額合計約一億三、六五六万円のうちわずか二八八万円しか申告・納付せずその余の法人税を免れたという事案であって免れた法人税の額は一億三、〇〇〇万円を超える巨額に達し、また正当税額に対する逋脱率は約九八パーセントの高率にのぼっている。
二、日本国憲法は、国家の維持活動に必要な費用は主権者たる国民が共同の費用として負担すべきであるとの考えのもとに納税義務を定めているが、被告人の検察官に対する供述調書中には「これまで数十年にわたり正しい税金を一度も納めたことがなかった。年少のころ貧しく金の力で苦しめられたため、必死で働いてきたが、このように苦労して手にした金はたとえ税金であれ、取られたくなかった。また脱税は誰れでもやっており、正直に納税するのは馬鹿らしいと考えていた。」等の供述記載があり、これらは、本件犯行当時、被告人が納税義務の大切さを理解せず、納税者としての義務意識をはなはだ欠いた状況にあったことを雄弁に物語っている。また被告人は昭和四八年に一度税務調査を受けたことがあるにもかかわらず、その後脱税をやめるどころか、かえってうまく言い逃れて脱税を発見されなかったことに自信をつけ、その後も脱税を継続して本件犯行に至ったものであり、この点も量刑上斟酌すべきである。
三、次に本件犯行の手口についてみると、被告人は、税務調査が発覚しても単に他から金融の代行を頼まれているにすぎないとの弁解ができるように、かねてから蓄積してきた被告会社の簿外資金をいわゆるペーパー・カンパニー等の名義で運用し、その利息収入を公表から除外し、また公表資金で割引いた手形をさらに右のペーパー・カンパニーで割引いた形をとって、この再割引を公表資金から簿外資金に移し、さらには、簿外の不良貸付金を公表に移し、これを貸倒れ処理、債権償却特別勘定への繰り入れ処理をし、また架空給料手当、架空消耗品費、架空調査料等を計上したり、不良手形を安価で買入れ、これを額面額で貸倒れ処理したりして所得を秘匿していたものであって、その犯行手口は多岐巧妙であって、弁護人のいうように決して幼稚単純なものではないというべきである。
四、また被告人は本件の査察を受けた当初、種々弁解して脱税事実を認めなかったばかりか、顧問弁護士にすすめられたとはいえ、右翼の大物という人物に二、〇〇〇万円を贈り、本件もみ消しを依頼した事実もあり、これらの態度は罪障感を欠いたきわめて遺憾なものといわざるを得ない。
五、以上の事情に照らすと、本件は同種脱税事犯中悪質な部類に属するといってよく、被告人に対しては、懲役刑の実刑をもって臨むこともあながち不当とはいえない。
六、ただ、被告人は、右のように当初は頑強に罪責を免れようとしていたけれども、その後関係者の説得等により自己の行った行為の罪悪性を認識し、反省改悟のうえ、事実関係を正直に供述するに至り、また昭和五三年度の法人税については正当な申告・納付をなし、従前の逋脱した国税、地方税については、加算税も含めその相当部分を納付し終え、残余については割賦弁済中であること、当公判廷においても、被告人は反省の情を示し、起訴事実を素直に認めていること、被告人には道交法違反により罰金二万円に処せられた前科が一犯あるほかは、いわゆる街金融にありがちな出資法違反、恐喝等を含め、全く前科検挙歴を有せず、これまで脱税を行ってきたことを除けば、比較的善良な市民生活を送ってきたと認められること、妻が証人として出廷し、未だ学業に就いている子らの将来のため、被告人に対する寛大な処分を嘆願していることなど被告人のために有利に斟酌すべき事情も存するので、これを最大限考慮して、今回に限り、被告人に対して科する懲役刑の執行は猶予することとした。
七、なお、被告会社に対して科する罰金刑については、高率な逋脱率等これまでのべた本件犯行の悪質性等に鑑み、通常の例に比し、相当高額になることはやむを得ないと思料される。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 須田贒)
別紙(1)
修正損益計算書
興亜商事株式会社
自 昭和50年10月1日
至 昭和51年9月30日
<省略>
別紙(2)
修正損益計算書
興亜商事株式会社
自 昭和51年10月1日
至 昭和52年9月30日
<省略>
別紙(3)
税額計算書
興亜商事株式会社
<省略>