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東京地方裁判所 昭和54年(行ウ)118号 判決 1985年11月07日

原告 日本航空株式会社

被告 東京都地方労働委員会

参加人 日本航空客室乗務員組合

主文

被告が、参加人を申立人、原告を被申立人とする都労委昭和五二年(不)第一一二号事件につき、昭和五四年九月四日付でした命令を取り消す。

訴訟費用は被告及び参加人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告及び参加人)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  参加人は、原告を相手方として被告に対し、支配介入を理由として不当労働行為救済の申立をしたところ、被告は右申立にかかる都労委昭和五二年(不)第一一二号事件について、昭和五四年九月四日付で別紙(一)のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書は同月二一日原告に交付された。

2  本件命令には以下に述べるとおり事実を誤認し、判断を誤つた違法があるので取り消されるべきである。

(一) 本件命令の事実認定について

(1) 本件命令の理由第1、2、(1)の認定について

本件命令は原告が全日本航空労働組合(以下「全労」という。)育成、参加人の拡大阻止の姿勢を取り続け、この姿勢は根本的には改まつていない旨認定しているが、原告は右の如き姿勢をとつてはいない。しかも被告の右認定は、被告が以前に発した各救済命令によつてなされているが、これら救済命令によつて立証される事実は命令が発せられた事実のみであつて、命令中の認定事実を客観的事実として認定することは許されないのである。いわんや過去にそのような命令が交付されたことから特段の反証のない限り現在もその姿勢が改まつていないという認定は採証法則を誤つているというほかない。

また被告は「かつては新人スチユワーデスは客室訓練所へ入所した時点では組合に入らず、訓練が終了しラインアウト(客室乗務につくこと)してからその所属する組合を選択して」いた旨認定するが、昭和五〇年四月三〇日に原告と参加人との間の試用期間中組合に加入できない旨の条項を含む労働協約が失効してからは右認定の状況とは異り組合の選択加入が行われたのであつて、右認定は誤りである。

そして被告は昭和五〇年一〇月一日原告が地上研修制度、新組織編成を実施してからはある程度両組合の勢力比が接近する状況となつた旨認定しているが、原告の行つている地上研修制度、新組織編成と組合の勢力比との間に何の因果関係もなく右認定は誤りである。

(2) 本件命令の理由第1、2、(2)について

被告は、原告が昭和五〇年末から同五一年一月にかけて実施した小田原MRAアジアセンターでの管理者研修において辻野實客室訓練所長(以下「辻野所長」という。)や島田客室乗員部次長(以下「島田次長」という。)が、同年一月九日のグループ討議の際、同人らが中心となつて参加人への非難と参加人所属の新任教官に対して集中質問を行つた旨認定しているが、これは明白な事実誤認である。

原告は管理者研修を行い、被告が、問題としている第二日目のグループ討議に辻野所長や島田次長が参加しているが、同人らは討議の際聞き役に回り殆んど発言はしていない。しかも辻野所長らは討議後の自由時間の雑談中も被告認定の如き言動は行つていないのである。

(3) 本件命令の理由第1、2、(3)<1>ないし<5>の認定について

<1> 本件命令の理由第1、2、(3)<1>の熊谷朋子が昭和五一年四月一六日全労への加入届に署名した件であるが、これは勤務時間終了後の全労主催のオリエンテーシヨンにおける全労組合員の発言であつて原告の全く関知しないことである。

<2> 同<2>の寺井課長が参加人を非難した旨の認定は全くの事実誤認であつて、そのような事実はない。

<3> 同<3>認定の辻野所長及びF教官の発言も全くの事実誤認である。

辻野所長が朝礼で述べたことは、かつて参加人がストライキを実施したときに後日乗客から先日のストライキは何が目的だつたのか問われ、答えられなかつたスチユワーデスがいたが、このような先輩になつてはいけないということであつて、その趣旨は参加人組合員たる者広く社内外の事情に通じ単なる食事提供者であつてはならないというものであつた。そしてF教官の発言も、スチユワーデスの生理休暇の取得に関し、休暇中に旅行するなど不適切な行動をとつたケースがあることを説明し、訓練生を戒めたものであり、その際組合と組合員の関係について言及したことはあるが参加人を批難したことはない。

<4> 同<4>の生産性研修が客室訓練所の訓練の一環である旨の認定は明らかな誤りである。

この生産性研修は、従前は参加人との協定に基づいて実施していたが、参加人分裂後は全労との協定に基づいて全労組合員に対して行つてきたものである。そしてその実施は原告と全労が日本生産性本部に委託し、またその実施時期も配員の都合上訓練期間中行われているにすぎず、新人養成訓練の一環としてこの研修が行われているのではない。したがつてこの研修で市の沢全労書記長が参加人を批判し、また全労所属のNスケジユーラーがその認定の如き発言をしたとしても、原告の関与するところではない。

<5> 同<5>のO教官の言動についても、全労の一組合員としてのO教官の発言であつて原告は一切関与していない。

(4) 本件命令の理由第1、4、(2)の認定について

被告はクラス担任となる教官の影響力について認定しているが、被告のいう影響力が一体何を意味するのか、何故訓練生の組合からの脱退に影響を与えるのか明らかでない上、本件において組合への加入、組合からの脱退について教官の影響力を推認させるような事情も存しない。しかも現に全労を脱退した者は教官の存在を全く気にもとめずまた教官の了解も得ることなく脱退し、かえつて全労所属の教官が脱退後にその理由を質すという状況であり、被告が引用する熊谷朋子自身脱退にあたり教官から何らの影響をも受けなかつたと述べているのである。

(二) 本件命令の判断について

(1) 本件命令の理由第2、2、(1)、<1>について

被告は原告が客室訓練所教官の任命にあたりその組合所属いかんに多大の関心を払つたであろうことは推認に難くない旨認定しているが、その根拠としてあげている理由のうち、原告が組合分裂後全労育成、参加人の拡大阻止を図つてきたこと及び教官の新人スチユワーデスに及ぼす影響が大きいとの認定が誤りであることは前述のとおりである。原告は客室訓練所における訓練の目的や趣旨、教官の職責の重大性に鑑み勝れた客室乗務員を教官に任命することに努めているのであつて、教官の組合所属に関心を払つたことはない。

(2) 本件命令の理由第2、2、(1)、<2>について

被告は、管理者研修で参加人を批判した島田次長が本件教官選任に関与していること及び管理職や全労所属教官による一連の参加人批判の言動を原告が黙認・放置していたことから、原告としては客室訓練所の教官としては参加人所属の者よりむしろ全労所属の者を好ましく思つていたと判断している。しかし、島田次長がその認定の如き発言をしていないことは前述のとおりであり、また人選過程の検討会議に同次長が出席するのは職責上当然であり、しかも同次長の意向のみによつて人選が決定されるものでもない。したがつてこれをもつて原告の姿勢を評価することは当を得ないものといわざるを得ない。原告は常日頃から客室訓練所内での全労・参加人所属教官の組合活動を厳禁する旨の示達をし、その徹底を図つているのであつて、訓練所管理職による参加人批判の如き事実もないのであるから、本件命令がいうところの参加人批判の言動を原告が黙認・放置したという事実もない。

(3) 本件命令の理由第2、2、(2)について

被告は客室訓練所教官任用基準は、原告の職種別任用基準と類似していることや教官の在職期間がそれ程長くなく絶えず交替していることから、客室訓練所教官の任用はいわゆるエリートを選ぶのではなく、一定の水準に達している客室乗務員であればほぼその任に耐える性質のものと認定する。しかし、教官の職責と客室乗務員の職責は異つており一定の水準にある客室乗務員であれば当然に教官の任に耐えうるという性質のものではなく、原告は客室乗務員養成訓練の重要性に鑑み具体的な任用指針を設けて人選を行つているのであつて、被告の右認定は誤りである。なお教官の在職期間が短いことをもつて教官の水準が低いということもいえないこと明らかである。

次に被告は原告の教官任用基準は複数の該当者が存在した場合の優劣決定のための客観的基準としては不十分であると認定する。しかし原告の教官任用の指針は客室訓練所の教官の職責に照らし合理的な内容を有しこれ以上に客観性を盛り込む必要もない。

更に、被告は越山和紘(以下「越山」という。)及び向井太佳子(以下「向井」という。)の人選について、評価の尺度が客観的に確立していない旨認定する。しかし従業員の勤務状況に関する評価は日常観察の積み重ねからなるものでその手段として上司である客室乗務員からの報告等があるのである。かような方法で得られた事情を総合して客室乗務員の勤務状況が把握されるのであつて、これをもつて一時的断片的であつて客観的尺度が確立していないということはできない。

(三) 以上のとおり本件命令は事実を誤認し判断を誤つているのであり、原告の行つた教官の任用は合理的なものであり、被告認定の如き教官人事に職種別に組合員数と教官数との比に不均衡がみられるのは、適材適所の結果にほかならないのである。

3  本件命令の内容の違法性

本件命令は労働委員会の有する裁量の範囲を逸脱しており取り消さるべきである。即ち、原告が本件命令を履行するためには本来考慮の外におくべき組合所属をまずもつて配慮して教官を任用せざるを得ないのであつて、これは本来原告の有する自由な人事権を著しく拘束するものであつてその合理的範囲を逸脱しているものといわざるを得ないのである。

4  以上のとおりであるから、原告は本件命令の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否(被告及び参加人)

1  請求原因1の事実は認め、同2、3は争う。

2  本件命令の事実認定及び判断に誤りはない。

三  参加人の主張

1(一)  原告の不当労働行為意思

昭和五〇年五月全労客乗支部は参加人から分れて発足したが、この参加人の分裂は原告と全労との緊密な連携の下に行われ、以後原告の全労育成、参加人敵視の方針で様々な不当労働行為を行つてきている。本件の客室訓練所教官の不当配置もその一環であり、管理者研修を利用して教官及び教官候補者を参加人から脱退させて教官を全労組合員で占めることによつて地上業務研修制度で全労に加入した新人スチユワーデスの全労からの脱退を阻止するために原告が故意に行つているものである。したがつて本件命令が原告は参加人の分裂以降全労育成、参加人の拡大阻止の姿勢を採り続け、この姿勢が根本的に改まつているとは認められない旨認定しているのは正当である。

(二)  教官の影響力

教官の影響力特に新人担当の教官の新人乗客乗務員に与える影響力は大きい。新人客室乗務員は採用後約三か月の地上業務研修を経て訓練所に入所するが、新人客室乗務員にとつて初めて接する客室乗務員が訓練所教官であり、接する時間も訓練時間の大半がそうであり、訓練時間外にも及ぶのであつて、その接し方もこれから客室乗務員になろうとしている新人に必要不可欠な業務知識を教えるという立場にあるから学校の先生と生徒にも似た関係あるいはそれ以上の絶対的関係といつても過言ではないのである。そしてかような関係は新人客室乗務員がラインアウトした後も保たれ、乗務問題だけでなく、私的な問題も含め教官は影響力を及ぼすのである。原告及び全労はこのような新人客室乗務員と教官の関係を巧みに利用して全労育成を行つているのである。即ち、一つは教官の新人客室乗務員に対する反参加人宣伝・全労教育であり、一つはその影響力を利用して全労からの脱退を阻止することである。そして原告が仮に新人客室乗務員に対する組合活動を禁止したとしても、それは前者を禁じたにすぎないのであつて根本的解決には至らないのである。そして新人客室乗務員は「世話になつた教官が全労所属である」というだけで全労にとどまることになり、自由公正な選択が妨げられているのである。

(三)  教官選任の不合理性

(1) 教官の適性、能力として原告が定めている任用指針は抽象的であり、職種別任用基準と截然と区別できるものではなく、結局は程度の差にすぎないものであつて、しかも訓練内容に応じた基準もないのである。

選任がこのように程度の差にすぎないものであつて主観的要素の強いものであつてみれば、選任に関与する管理職に参加人所属の候補者に対する公正な評価は期待できず、また全労所属のチーフパーサー等が選任に関与することにでもなればより公正な判断は期待し得ない。

(2) 昭和五二年四月の教官選任について

まず越山についてみるに、その評価資料は初対面の際やグループミーテイングでの印象、先任チーフパーサーの話、スチユワーデスの話程度であり、いずれも偶然に見たことや印象を誇張過大に評価しているにすぎず、また指導力の評価についても過大、誇張されていて他の選任されなかつたパーサーの評価が一面的皮相的で合理性に乏しいのと比べ評価の仕方に著しい差が生じている。次に向井の選任についても、その評価資料はコメントカードという全くの乗客の主観に基づくものである等資料として不適切であつてその評価の仕方も極めて主観的である。しかも他のアシスタントパーサーに対する評価も極めて主観的一面的で説得力に欠けるものである。

いずれにしても、昭和五二年四月のパーサー、アシスタントパーサーの教官選任は主観的評価による選任の域を出ず合理性を欠くものであり、これらの事情に教官数が組合間で不均衡であることに照らせば、教官選任の不合理性は明らかである。

2  本件命令の救済内容について

本件命令は、<1>客室訓練所の教官の選任に当たつてその人選が参加人所属の者としからざる者との間で一方に偏することのないように留意することを命じ今後の教官選任にあたつて本来考慮の枠外におくべき客室乗務員の組合所属の別を配慮することを禁じた上で、<2>今後二年間に現に存在する不均衡を是正すべきことを命じたのであつて、<1>は当然の救済方法であり、しかもこれのみでは不当労働行為によつてもたらされた不公正な状態を解消できるわけはなく、したがつて<2>の救済方法も当然の結論であつてこれ以外に是正の方法は考えられないのである。しかも本件命令は公正な教官人事を行うことによつて不均衡を是正せよと命じているにすぎず、原告の人事権の制約としては極めて緩やかなものであつて何ら、裁量の範囲を越えるものではない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  当事者等

弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

原告は、肩書地に本社を置き、国際路線及び国内幹線における定期航空運送事業を主たる目的とする会社である。

参加人は原告に雇用される客室乗務員のうちチーフパーサー以下の職種に属する者が組織する労働組合である。

なお、原告には別に地上職を主体として組織される全労があり、その客室乗務員によつて構成される客室乗務員支部がある。

三  原告は客室訓練所教官の選任は適材適所の観点から合理的になされたのであつて何ら参加人に対する支配介入に該当しない旨主張して、被告の事実認定及び判断を争うのでこの点について判断するに、成立に争いのない乙第三八、三九号証、同第九六号証、同第一〇一号証、同第一〇三号証の一、同第一一三、一一四号証、同第一二六号証、同第一四一、一四二号証、同第一四四号証、同第一五七、一五八号証、同第一六一号証、同第一六四号証ないし第一六七号証、右乙第一六五号証により真正に成立したと認められる乙第四二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一六号証、同第四〇、四一号証の各一、二、同第四二号証、証人大谷改一の証言に弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告は航空機による定期航空運送を営んでいること前記のとおりであるが、その客室乗務員はチーフパーサー、パーサー、アシスタントパーサー、スチユワーデスから構成され、原告はこの客室乗務員を編成して機内における各種サービスの提供等を行つている。そしてこのサービスの良否は乗客が利用する航空会社を選択する上で重要な要素となつているところから、原告としては客室乗務員の行うサービス内容によつて原告の評価ひいては原告の業績に大きく影響を及ぼすことから、より質の高い優れたサービスを行う必要があり、また非常時に備えるために客室乗務員の養成訓練が必要とされる。

原告は右の要請に応ずるため昭和三四年に客室訓練所を設置し、その後訓練内容、体制等を整備し、昭和五一年八月以降は客室乗員部の内部機構として位置づけられている。

客室訓練所では、新人養成訓練(主に新規採用女子客室乗務員全員を対象とする養成訓練であり、訓練期間は国内線スチユワーデス要員の場合約二・四か月間、国際線スチユワーデス要員の場合約三・七か月間である。)、昇格訓練(上位職種への昇格に際し行う訓練であり、訓練期間は上位職種に応じて一〇日間から約三週間である。)、移行訓練(国内線乗務から国際線乗務へ、あるいは日本航空アジア株式会社への移籍に際し行う訓練であり、訓練期間は約一・五か月間である。)及び再訓練(チーフパーサー以下の全職種の客室乗務員を対象とし、その職務遂行能力の一層の向上を図るためになされる訓練であり、訓練期間は一定しない。)が実施されている。

そして訓練の概要を女子新人国際線乗務員に対する養成訓練を例にとると、本件命令の理由第1、3・(2)記載の表のとおりである。そして訓練は講義形式、スライド・ビデオ機材の利用、LL教室の利用、教室内での実技訓練、モツクアツプ訓練、見学等によつて行われている。

2  客室訓練所の教官制度

客室訓練所において諸訓練を担当する教官は客室乗務員から任用される乗務員教官のほか、英語や救急看護法を担当する常勤の教官や科目によつては社内講師、社外講師によつて実施されている。そして乗務職教官はO・J・Tを除く地上訓練の約五〇パーセント前後を担当しているが、同教官は専任教官、教官及び教官補の三種類に区分される。現在専任教官の任用はなされていない。そして教官補は新人養成訓練及びアシスタントパーサー以下の昇格訓練、再訓練を担当し、教官は客室訓練所で実施する全ての訓練を担当する。

次に右乗務職教官の任用について原告は資格面と経験面の両面から基準を設けている。まず資格面では専任教官の場合管理職客室乗務員又はチーフパーサー、教官の場合チーフパーサー又はパーサー、教官補の場合アシスタントパーサーの各資格を有する客室乗務員から任用するものとされている。経験面では専任教官は過去教官を二年以上経験していることが必要であり、教官については乗務員経験三年以上、教官補の場合には乗務員経験一年以上の実績を必要としている。原告は右資格及び経験基準に合致する乗務員の中から適任者を選任するための指針として次の三点を設定している。

(1)  専門知識、サービス技両、サービス精神等客室乗務員として備えるべき能力に秀でていること、

(2)  原告の公共的輸送機関としての社会的使命を踏まえた上で訓練生を教えることのできる健全な常識と円満な性格を有していること、

(3)  指導教育に適性を有していること、

なお訓練内容に応じた形での任用基準は設定されていないし、原告の職種別任用基準も表現上右任用基準と似たものとなつている。

3  任用手続

(一)  客室訓練所において教官、教官補(以下単に「教官」という。)任用が必要となつた場合、客室訓練所長から教官の任用権者である客室乗員部長に対して任用の要請がなされる。その際には予定されている訓練内容等を勘案して任用すべき客室乗務員の職種、人数、発令時期及び乗務経験の程度や教官経験の有無などの付随条件について訓練所側の意向も伝えられる。そこで客室乗員部長は教官の選考手続を業務課長に命じ選考を行う。業務課長は客室訓練所側の意向を検討した上、経験年数に一定の条件を付したりして(選考枠の選定)、具体的に国内客室乗員室、国際第一客室乗員室、国際第二客室乗員室に職種別選考人数を割り振り、人選を行う。そして各客室乗員室での人選が終了した後、その結果は同室長から客室乗員部長に対して人選リストとして提出され、同部長主催の検討会議が開催され、任命の可否が最終的に検討される。同会議には客室乗員部長、同次長、業務担当課長、各客室乗員室長、同課長、客室訓練所長が出席する。

そして選任された教官に対しては約一週間の任用訓練が実施され、施設の概要、各種機材の取扱要領の説明のほか授業の進め方についての教授がある。

また教官の任期は、客室乗務から長く遠ざかることは好ましくないとの見地から、原則として男子教官は二年、女子教官は一年とされている。また教官に任用されることによつて賃金等の労働条件に格別の差は生じない。

(二)  昭和五二、五三年の教官任用について

(1) 昭和五二、五三年の教官の組合別職種別発令状況は別紙(二)、(三)のとおりであり、その従業員との対比は昭和五二年一一月末日現在別紙(四)のとおりである。

(2) 昭和五二年四月の教官任用の経緯

<1> 昭和五二年二月末、大谷改一客室訓練所長は奥野道夫客室乗員部長に対しチーフパーサー二名、パーサー(男)五名、アシスタントパーサー(女)四名計一一名の教官の任用を要請した。その際、チーフパーサー一名については教官経験者、パーサーについては以前教官であつた川井充及び経験豊かな者四名、アシスタントパーサーについては二名を国内客室乗員室からとの条件が示された。これら条件は前任者の関係や予定されている訓練の関係で付されたものであつた。

そこで奥野客室乗員部長は右要請を業務課長に伝えて検討を行つた結果、国際第一客室乗員室からチーフパーサー(男)一名、パーサー(男)三名、アシスタントパーサー(女)一名、国際第二客室乗員室からチーフパーサー(男)一名、パーサー(男)一名、アシスタントパーサー(女)一名、国内客室乗員室からアシスタントパーサー(女)二名を選出することとした。

なお、選考枠としてチーフパーサーについては、チーフパーサー職経験三年以上、パーサーについては指名された川井を除く他の者については客室訓練所からの要請をも考慮の上パーサー職経験五年以上との選考枠を設定した。アシスタントパーサーについては特段の選考枠は設定されなかつた。

<2> 国際第二客室乗員室における教官の人選

藤田室長は右の如く割り振られた教官要員について影木第一課長と成瀬第二課長と協議の上、第二課では、右基準該当者は川井を除きいずれも、客室訓練所から復帰して間がないことやスケジユール調整の必要のあること等の事情があることから、川井を除く三名をいずれも第一課から選出することとし、以後右影木第一課長を中心に人選が進められた。

<3> 越山の人選について

国際第二客室乗員室第一課には、同課所属の男子パーサーのうち現職経験五年以上の選考枠に該当する者は二〇名いた。そのうち八名は既にチーフパーサーへの昇格が内定していて昇格訓練予定であつたことから教官選考から除外され、残り一二名について選考がなされた。一二名のうち三名については病気であつたり、全労の執行委員であつてスケジユール調整が困難といつた事情や、業務研修生として派遣される予定があつたことから、選考からはずされた。なお、残り九名の組合所属は参加人六名、全労一名、無所属二名であり、越山は全労に所属していた。

人選にあたつて影木第一課長は、部下であるチーフパーサー等からの日常における配下乗務員の勤務態度や接客技両等に関する報告、日常の配下乗務員との会話、各人の人事調査表の記載内容や記載の仕方、査察乗員室の査察レポートやグループミーテイングにおける参加者の態度等を考慮して、残りの九名について検討した結果越山については性格的にも真面目で規律正しい上、業務遂行面でも指導統率力を有し、機内業務全体の円滑で効率的な運営を図る等積極的な姿勢がみられ、また配下スチユワーデスに対しても親身な指導態度が認められたことから、他の候補のパーサーに比し最適任者と評価し、越山が第一課から選出されることになつた。

なおグループミーテイングはチーフパーサー以下の客室乗務員が参加し、業務上の連絡事項の伝達、日頃の業務を通じての問題提起、意見交換を行うもので各人にとつて年数回参加する程度のものであつた。また査察レポートは、機内業務における知識・能力、サービス技両の保持状態をチエツクし、併せてそれらの上達向上の度合いを適正に評価指導する査察制度の一環として、管理職乗務員(乗務経験年数一六年以上の者から選任)が機内での構成乗務員グループ全体、チーフパーサー、パーサーを対象として査察した結果を記載したものである。

<4> 向井の人選について

昭和五二年当時、第一課には八五名のアシスタントパーサーが合計二〇のユニツトに配属され、管理職である一〇人の先任チーフパーサーが二人一組で四つのユニツトを一グループとして管理していた。そこで影木第一課長はその全員を完全に把握することは困難なのでアシスタントパーサーの教官選考については先任チーフパーサーにその管理するグループの中から教官としての適任者一名をそれぞれ推薦させ、それを比較検討した上で一名を選出することにした。その結果五つのグループの先任チーフパーサーから高橋都、轟ふみえ、向井、田村薫、二宮従子がそれぞれ推薦された。

向井の所属するグループは小川洋司及び増元先任チーフパーサーが管理していた。このグループに所属する女子アシスタントパーサーは一七名で、うち向井を含む三名が全労所属、残り一四名は参加人所属であつた。そして小川及び増元両先任チーフパーサーは右一七名のうち昇格予定の一名、教官経験者一名、客室訓練所から復帰後間がない者一名及び病気の者二名を除く一二名について更に検討を加え、日頃業務を通じて知り得た各人の勤務態度、サービス技両(特に言葉使い、身だしなみ、基本的な知識等)、性格、業務や後輩スチユワーデスの指導に対する意欲、乗客からのコメントカード等も勘案した結果、向井が教官として適任と判断し、影木第一課長に推薦した。

影木第一課長は各先任チーフパーサーと共に、各グループから推薦を受けた前示高橋都ら五名から一名を選出すべく検討を加えた。その際高橋都については腰痛が完治していないこと轟ふみえについては結婚による退職の可能性があつたことから右二名をまず除外し、残り三名について比較検討した結果、積極性指導面において向井が教官として最適任と評価して向井を選出した。なお向井を選出するについて他の先任チーフパーサーから異論はなかつた。

<5> 奥野客室乗員部長は右選出結果を受けて昭和五二年三月に二回にわたつて検討会議を開き検討を行つたが、教官としての適性、能力について特段の異論もなく、推薦された者がそのまま承認され、同年四月客室訓練所勤務が発令された。

右検討会議には奥野客室乗員部長、島田同部次長、各室長、課長、大谷客室訓練所長などが参加した。

以上の事実に基づいて検討する。

客室訓練所は右のとおり新人養成訓練をはじめとして各種訓練を行う教育、訓練機関であつて一定の期間内にその職種に応じた能力・適性を備えさせる必要があるとともに、特に新人養成訓練では技両や知識面での充実を図ることはもとより、親身の指導が必要となるのであつて、教官については能力・技両はもちろんのこと、教育、指導に対する意欲や個別的指導、集団的指導についての能力及びその人格が重視されるのである。したがつて上位職が下位職に対して業務を通して行う指導とは自ずと異なるのであつて、教官と上位職を同視することはできず、選任基準に似た表現があるからといつて上位職基準に該当すれば当然に教官としての適性、能力を有しているとはいえないのである。それ故、被告認定の如く上位職としての一定の水準の乗務員であれば当然に教官としての適性や能力があるというものではなく、単純に組合員数比により教官を選任し得るものではないものというべきである。そしてこのことは教官の在職期間が比較的短いことと直接関係のないことであつて、その期間の長短は専ら教官を乗務員として客室乗務に戻す必要性に基づくものというべきである。

次に教官任用基準について検討するに、原告は資格及び経験面から基準を設けるとともに、訓練所の目的を考慮して任用指針を策定した上、具体的選任の際には、訓練の種類等訓練所側の要請やラインの状況等現場の要請を勘案して具体的選考を行つているのである。しかも教官の選任は、昇給、昇格等におけるいわゆる考課基準が労働の質量に対する評価であつて基準自体の客観性がある程度要求されるのに対し、右のとおり教育的側面を重視して行うことから、人格的側面も評価せざるを得ず、選任者の主観によつて左右されるところが多くなることは止むを得ないところといわざるを得ない。また教官職と乗務員職との間で賃金等の労働条件に格別の差がないことからすれば、本来原告において適材適所の見地から合理的範囲内において人選し得るものと認められる。この点に関し被告は複数の者が基準に該当した場合に何ら客観的基準とならない旨判断しているが、右教官選任の性格によれば原告は訓練所の目的に照らし最適任者と考えられる者を選任すれば足りるのであつて、かような相対的、人格的評価についてまで客観的基準を設けることはその性質上困難であり、またその必要性もないのであつて被告の右判断は誤りといわざるを得ない。そして人選の合理性については、具体的人選にあたつて任用基準に該当する者のうち、最適任者がいるにもかかわらず、他の者を選任した場合にその人選は合理性を欠き、しかもその理由が組合所属の有無によるものであるときに、組合運営に対する支配介入に該当するという評価をうけるものというべきである。そこで昭和五二年四月の越山及び向井の選任について検討するに、その人選にあたつての訓練所側からの要請や客室乗員部側で設定した選択枠や人員の割り振り方に別段不合理な点は認められない。そこで人選にあたつて使用された判断資料について検討するに、越山や向井の人選に用いられた資料は各人共通のものではなく一時的、断片的なものであつて主観によつて左右される評価であることは否めないものであるが、しかし一時的、断片的であつてもそれは各人の一側面であることに変りはなく、管理職において適切に判断される限り判断資料とすることも、その評価が日常観察の集積の結果になる以上止むを得ないものと認められる。そこで管理職の評価について検討するに右越山らの選任は第一課においてまずなされたが、その選出にあたつた小川洋司及び増元両チーフパーサー、他のチーフパーサー、影木第一課長らの判断資料の評価には主観的な側面が入りこむことは止むを得ないものの、その判断に合理性を疑わせるほどの特段の事情も存しないし、その後の検討会議にもそのような事情は存しない。しかも右越山らよりも適任者がいるにもかかわらずあえて同人らを選任したという事情も認められない。したがつて右越山らの選任は合理的なものであつたといわざるを得ない。なお被告及び参加人主張の如く昭和五二年度、昭和五三年度の各教官発令の総数において参加人と全労との間に差があり、所属組合員と対比して参加人組合員からの発令が大体において低いことが認められるが、もともと、前示のとおりの教官の職責の重要性から、単に組合員数に応じた教官の人選というようなことは許されないものというべきところ、時期や職種によつては参加人所属の教官が多いことや同等の場合もあり、これら事情に前示越山らの人選に合理性があることを考慮すると、右の時点における不均衡をもつて直ちに原告が教官発令を不合理に参加人に不利に行い、参加人組合に対する支配介入を図つているとはいえない。

したがつて昭和五二年、同五三年の原告の教官発令をもつて参加人に対する支配介入と判断した本件命令は右の点において取り消しを免れないものというべきである。

四  以上のとおりであるから、原告の請求は理由があるからこれを認容すべく、訴訟費用(参加によつて生じた分を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊昭 近藤壽邦 遠山廣直)

(別紙(一))

命令書

(東京地労委昭和五二年(不)第一一二号 昭和五四年九月四日 命令)

申立人 日本航空客室乗務員組合

被申立人 日本航空株式会社

主文

被申立人日本航空株式会社は、客室訓練所の教官(教官と教官補の総称)の選任にあたつて、その人選が、申立人日本航空客室乗務員組合所属の者としからざる者との間で一方に偏することのないよう留意し、今後二年間に各職種別教官の人数比が、申立人組合としからざる者との各職種別人数比におおむね準ずるものとなるように是正しなければならない。

理由

第1認定した事実

1 当事者等

(1) 被申立人日本航空株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を置き、従業員約二万名を雇用して、国際路線および国内幹線における定期航空運送事業を主たる目的とする会社である。

(2) 申立人日本航空客室乗務員組合(以下「客乗組合」という。)は、会社に雇用される客室乗務員約四、〇〇〇名のうち、チーフ・パーサー以下の職種に属する者が組織する労働組合であって、組合員数は二、五五二名(昭和五三年一一月末日現在)である。

(3) なお、会社には別に地上職を主体として組織される全日本航空労働組合がありその客室乗務員支部(以下「全労」または「全労支部」という。)には、一、三六五名(昭和五三年一一月末日現在)の客室乗務員が所属している。

2 組合分裂以降の労使関係

(1) 申立人客乗組合は、昭和四九年春闘において初めてストライキを行つたが、翌五〇年五月同じ客室乗務員をもつて組織される全労客乗支部が結成され、一部客乗組合員も組合を脱退して全労に加入し、ここに組合は事実上分裂し、両組合はその勢力拡大の最重点を新人スチユワーデス獲得におき相きつ抗している。会社は、分裂以降、全労育成、客乗組合の拡大阻止の姿勢をとりつづけているが、この姿勢が根本的に改まつているとは認められない。かつては新人スチユワーデスは、客室訓練所へ入所した時点では組合に入らず、訓練が終了しラインアウト(客室乗務につくこと)してからその所属する組合を選択しており、その際多くの者は客乗組合に加入したので、両組合の所属の比較では大多数が客乗組合員であった。しかし、五〇年一〇月一日会社が後記の地上研修制度、新組織編成を実施してからは、ある程度両組合の勢力比が接近する状況になつた。そして、同時に当委員会において不当労働行為と認定された以下の事実が発生した。<1>地上研修とは、新人スチユワーデスを客室訓練所入所前の約三ケ月程度各事業所での地上勤務につかせる制度であるが、会社はこの間全労組合員を世話役としてつかせ、全労の組合活動を助勢した(昭和五二年不第一二七号事件、五二年五月一〇日決定、この地上研修中に新人スチユワーデスは全員が全労に加入するようになった)。また<2>新組織編成とは、新人スチユワーデスを客乗組合員と接する機会がなくなるような内容の組織編成であり、会社は、とくに客乗組合から脱退したチーフパーサーのグループに新人スチユワーデスを配属させた(<1>に同じ)。<3>当時客乗組合を脱退したチーフパーサーが客乗組合員に対し、脱退を勧誘したりした(<1>に同じ)。<4>五一年に会社が実施したパーサーへの昇格選考に際し、客乗組合員を不平等に取扱つた(昭和五一年不第九九号事件、五三年七月四日決定)。<5>管理職が所属スチユワーデス(客乗組合員)に対し組合からの脱退工作を行つた(昭和五二年不第四三号事件、五三年五月二三日決定)。そして、以上の救済命令のうち<4>を除き確定している。

(2) 会社は、五〇年末から五一年一月にかけて四回小田原MRAアジアセンターにおいて管理者研修を実施した。これは客室乗員部管理職、客室訓練所管理職のほか教官、教官候補をも対象とするものであつた。そのうち一月九日からの研修における第二日目のグループ討議の際、辻野客室訓練所長、島田客室乗員部次長などが中心となつて客乗組合への非難と客乗組合からの参加者への集中質問をした。

(3) 以上のような一連の会社の行為の中で、新人スチユワーデスが組合問題でどのような体験をしたか、以下熊谷朋子の場合についてみる。

<1> 熊谷は五一年四月一日入社し、地上研修として東京支店国内予約課に配属された。四月一六日、東京支店所属の研修生に対し会社の研修が行われたが、その際引き続き全労のオリエンテーシヨンが行われ、全労についての説明があつたあといくつかのグループに分れて懇談会になり、「全労に入らなければクビになる」といつたリーダーの話もあり、そこで全労の加入届に署名した。

<2> 四月下旬から国内予約課で業務の研修に入つたが寺井課長から研修生一五、六名に対し、日本航空における組合変遷の歴史についての説明があつたが、それは客乗組合はストばかりする組合であるということを非難する趣旨のものであつた。

<3> 八月二六日から訓練所における訓練となつた。朝礼の時間、辻野訓練所長は、「赤バツジ(客乗組合を示すもの)をつけてワイワイ騒いでいるやからがいるけれども、君たちはああいうふうにならないでくれ」といつた。

また、F教官(全労所属)は、訓練も最終段階のレギユレーシヨンの時間に「こんなもの(レギユレーシヨン)は、テキストを見ればわかるから授業はやつたことにしておいてくれ」といつて、組合の話になり、そこで客乗組合はストばかりやつて乗客に迷惑ばかりかける組合であり、全労は会社と話合いにより問題を解決していく組合であるといつた趣旨の話をした。

<4> 研修もあとはOJTだけという段階の一二月一五日から二泊三日の合宿で、訓練の一環としての生産性研修が小田原MRAセンターで行われた。この研修は、会社と全労の共催になるもので全労の歴史、産業民主主義の話があり、講師の市ノ沢全労書記長が客乗組合を批判した。また、数名ずつの懇談会に出席したNスケジユラー(乗務日程を決める係で全労所属)は、「僕はスケジユーラーだから、君たちが全労を抜けるとどうなるかわかるだろう」などといつた。

<5> ラインアウト後五二年一月三一日、熊谷は全労を脱退した。するとすぐ訓練所の担当教官だつたOチーフパーサー(全労所属)から「びつくりしたよ、どうして移つたのか理由を聞かせてくれ」との電話があり、これを断ると、後日さらに自宅近くの駅から「組合の話をぜひしたい」との電話で呼び出され、喫茶店で会うと「ストばかりする客乗組合になぜ入つたか、どうして僕に相談しなかつたのか」と質問された。

3 客室乗務員の職種および客室訓練所

(1) 客室乗務員の職種は、先任チーフパーサー(管理職)、チーフパーサー(男)、パーサー(男、女)、アシスタントパーサー(男、女)、そしてスチユワーデス(女)からなり、職務内容は、これら職種、性別および乗務する機種に応じて定められている。

(2) 客室訓練所は昭和三四年に設置され、その後訓練内容、体制も整備されて、五一年八月以来客室乗員部の内部機構として位置づけられている。そして、ここにおいて(ア)新人養成訓練(新規採用した客室乗務員に対し、前記地上研修終了後乗務前に行う訓練)、(イ)昇格訓練(上位職種への昇格に際し行う訓練)、(ウ)移行訓練(国内線乗務から国際線乗務へ、あるいは日本アジア航空株式会社への移籍に際し行う訓練)および(エ)再訓練などが実施されている。訓練の概要を本件で最も問題となる新人養成訓練に例をとると、つぎの表のとおりである。

訓練人員

昭和五二年の場合、女子国際線二三二名(国内線、二四九名)

訓練期間

女子国際線約三・七か月(国内線約二・三か月)

クラス編成

一クラス訓練生二一名以内で、担当教官、同補佐各一名

訓練科目

(ア)非常救難訓練、(イ)英語、(ウ)業務知識、(エ)サーヴイス技倆、(オ)O・J・Tなど

訓練評価

訓練過程において、訓練内容が正しく修得されているか、日常的に観察し、随時試験を行い乗務員としての任用を決める。

4 客室訓練所教官とその任用

(1) 以上の各訓練を実施するために、会社は常時二〇名ないし四〇名程度の教官(教官と教官補の総称)を、客室訓練所に配置しており、その任期は男は二年、女は一年を原則としている。これら教官は客室乗務員のうちチーフパーサー、パーサー(男、女)、アシスタントパーサー(女)から選任されるもので、五二年一二月末(本件申立時)の教官数は四一名であり、管理職は含まれていない。そして、教官として任用されるための資格および経験の基準は、教官の場合、チーフパーサー、またはパーサーで乗務経験三年以上の者とされ、また教官補の場合アシスタントパーサーで乗務経験一年以上の者とされ、教官に任用された者は、訓練を担当する前約一週間の任用訓練をうけるものとされている。会社は、以上の資格および経験基準に合致する乗務員のうちから、<1>専門知識、サーヴイス技倆、サーヴイス精神等客室乗務員として備えるべき能力に秀でていること、<2>会社の公共的輸送機関としての社会的使命を踏まえた上で訓練生を教えることのできる健全な常識と円満な性格を有していること、<3>指導教育に対する適性を有していることといつた任用指針を策定し、訓練の種類、ラインの事情などを勘案の上教官を任用している。

(2) 教官は、以上のような基準に合致する経験および識見をもつた客室乗務員であり、とくにクラスの担任となる教官は、それぞれ約二〇名のクラスの訓練生にとつて、ただ職場の良き先輩として業務上の知識を教えてくれる者というにとどまらず、あらゆる面で頼られ、これに対し職務の内外を問わず有形無形の影響を与える存在である。そして、このことは上記のように複数の組合が存する本件の場合、組合の選択ないし加入脱退などの問題についても同様の影響の及ぶことは自然のなりゆきである。例えば、担当教官が全労組合員である場合、いつたんは全労に所属した訓練生が、訓練所をはなれてラインアウトした後でも全労を脱退して客乗組合に加入することは「教官の顔をつぶすこと」であり、「教官の出世に差し支えるのではないか」と新人スチユワーデスが思うほどであつて、現にいつたん加入した全労を脱退して客乗組合に加入した新人スチユワーデスの何人かは、前記、熊谷の例でみるようにかつての担当教官から「なぜ組合を移つたのか」、「なぜ移る前に自分に相談してくれなかつたのか」などと問い質されている。

5 組合別、職種別の教官数

(1) 会社は、各種訓練の実施状況などに応じ、昭和五二年の一年間に五回の教官人事(任用、解任)を行つたが、その結果同年末における教官四一名を組合別、職種別にその従業員数と対比してみるとつぎの表のとおりとなる。

職種別

客乗組合

全労支部

従業員数

教官数

従業員数

教官数

チーフパーサー

(男)

四四

(三七・三)

(〇)

七四

(六二・七)

一一

(一〇〇)

パーサー

(男)

一九五

(六三・九)

(三三・三)

一一〇

(三六・一)

一二

(六六・七)

パーサー

(女)

三三

(六六)

(〇)

一七

(三四)

(一〇〇)

アシスタントパーサー

(女)

五九六

(九三・三)

(三三・三)

四三

(六・七)

(六六・七)

八六八

(七八・一)

(二二)

二四四

(二一・九)

三二

(七八)

注 ( )内の数字は、従業員数あるいは教官数を、各職種について組合別にその割合を表わしている。

(2) 会社は、本件が申立てられて後五三年には五回の教官人事を行つたが、その結果同年末における教官四二名を組合別、職種別にその従業員と対比してみるとつぎの表のとおりとなり、前表と比較し申立人組合所属の教官が若干増加し、とくにアシスタントパーサーに著しい。

職種別

客乗組合

全労支部

従業員数

教官数

従業員数

教官数

チーフパーサー

(男)

六一

(四一・五)

(一一・一)

八六

(五八・五)

(八八・九)

パーサー

(男)

二五二

(六八・五)

(三八・五)

一一六

(三一・五)

(六一・五)

パーサー

(女)

九五

(八二・六)

(〇)

二〇

(一七・四)

(一〇〇)

アシスタントパーサー

(女)

八五六

(九二・五)

一三

(七六・五)

六九

(七・五)

(二三・五)

一、二六四

(八一・三)

一九

(四五・二)

二九一

(一八・七)

二三

(五四・八)

注 ( )内の数字は、前表に同じ。

6 昭和五二年四月の教官任用の経緯

(1) 昭和五二年四月発令の教官は一一名であつた。まず同年二月客室訓練所長から教官の任用権者である客室乗員部長に対して、チーフパーサーから二名、パーサー(男)から五名、アシスタントパーサー(女)から四名の計一一名を同年四月に教官として選出して欲しいという要請(職種別に教官歴の有無、乗務職の経験程度、国際線、国内線の別についての要請と併せて)があつた。客室乗員部では、チーフパーサーの場合現職経験三年以上、パーサーの場合現職経験五年以上など訓練所長からの要請も考慮して一一名の選出を国際第一乗員室、同第二乗員室、国内乗員室に割りふり、さらに前二者の場合これをそれぞれの第一課および第二課に割りふつた。その結果、国際第二乗員室第一課の場合、チーフパーサー、パーサー、アシスタントパーサー各一名を選出することとなり、結局、パーサーで越山和紘(全労所属)、アシスタントパーサーで向井太佳子(全労所属)がそれぞれ選出された。

(2) 越山および向井の選出経緯は以下のとおりである(なお、同課には客乗組合員で現職経験三年以上かつ教官経験者という条件をみたすチーフパーサーはいなかつたのでこれの選出経緯については検討から除外する)。

<1> 国際第二乗員室第一課には、前述の条件をみたすパーサー(男)一二名がおり、うち三名は病気など選任されなかつたことに特別の理由があるのでこれを除き残る九名につき、その所属組合をみると客乗組合六名、全労一名、無所属二名ということになる。結果として唯一の全労組合員越山が選出されたのは、配下乗務員に対する指導力、統率力や機内業務の効率的運営(このことは査察レポートも高く評価している)さらにグループミーテイングでの発言からみて、九名の候補者中教官として最適任と会社から評価されたためとされている。

<2> さらに同課からのアシスタントパーサー(女)教官選出について、課長は課内各グループの長たる先任チーフパーサー(管理職)に推せんを依頼した。向井を推せんした小川先任チーフパーサーのグループには、除かれることに病気など特別の理由ある者のほか一二名のアシスタントパーサーがおり、所属組合別は客乗組合一〇名全労二名であつた。小川先任チーフパーサーはその中から向井を課長に推せんしたが、他グループからTとNの各アシスタントパーサーが推せんされ、同課としては結局三名のうち向井を教官として選出することとした。向井は全労組合員でT、Nはともに客乗組合員であつた。小川先任チーフパーサーが向井を推せんしたこと、さらに課として向井を選出したことにつき、会社はその理由として向井は、上司に接するときの態度や乗客からのコメントカードなどからみて明朗さ、業務への姿勢、後輩の指導などの面で、他の候補者に比較して相対的に優れていたと評価したことを挙げており、そのことはT、Nを推せんした先任チーフパーサーにも異論がなかつたとされている。

(3) 以上の経緯で選出された越山、向井を含め客室乗員部各室各課より推せんをうけたチーフパーサー、パーサー、アシスタントパーサー計一一名について五二年三月二五日、三〇日の両日客室乗員部長、同次長、各室長、各課長および客室訓練所長などによる最終的な検討会議が開催され一一名全員が教官としての適性を有するものとしてそのまま承認され、同年四月教官として発令された。

第2判断

1 当事者の主張

(1) 申立人の主張はつぎのとおりである。

職種別にみて教官数が組合員人数比と全く不均衡になつているのは、会社が地上研修制度導入以来、全労に加入した新人スチユワーデスがラインアウト後も全労にとどまるよう新人スチユワーデスに影響力の大きい訓練所教官の発令に際し、客乗組合員を不利に扱い、組合の弱体化を企図したものであり、教官の職種別所属組合比に均衡した教官配置がなされるべきである。

(2) 被申立人の主張はつぎのとおりである。

会社は、教官任用にあたり、各候補とされた者につき所属組合などは全く考慮せず各々の適性、能力、業務上の都合などを検討し決定したもので、会社の当然の人事権の行使である。もともと組合間の人数割に応じて教官の適格者が存在するというものではないから、本件にはいわゆる大量観察の適用はない。さらに本件教官配置が組合活動の弱体化につながるとする申立人の主張は、全く理解できない。したがつて本件救済は許さるべきでない。

2 当委員会の判断

(1)<1> 前記認定のとおり、会社は、組合分裂以降一貫して全労育成、客乗組合の拡大阻止を図り、とりわけ、五〇年一〇月、地上研修制度、新組織編成の実施以後は、両組合の勢力比も接近してきている。このような事情のもとで、客室訓練所教官の新人スチユワーデスに及ぼす大きな影響力からみて(第1、4(2))、会社としては、同教官の任命にあたり、その組合所属の如何について多大の関心を払つたであろうことは推認に難くない。

<2> そして五一年一月行われた管理者研修において、客乗組合を非難した島田客室乗員部次長が、本件教官の選任に関与していたとみられること(第1、2(2))、とくに、五一年四月に入社した新人スチユワーデスに対する訓練中ないし、その前後における管理職および全労所属の教官による一連の客乗組合批判の言動について、会社はこれを黙認ないし放置していること(第1、2(3))などからすれば、会社は、客室訓練所の教官としては客乗組合所属の者より、むしろ全労所属の者を好ましく思つていたとみられる。

(2) 他方、<1>本件教官人事は、当該職種における一定の経験基準に合致する者のうち、専門知識、サーヴイス技倆に秀で、指導の適性を有する者が選任されることになつている(第1、4(1))が、この基準はおおむね職種別任用基準に類似している。それは、いわゆるエリートを選ぶのではなく、一定の水準に到達している客室乗務員であれば、ほぼその任に耐えるものとみなされる性質のものであり、このことは教官としての在職期間がそれほど長期でなく、たえず交替していること(五二年、五三年の例では各年五回の発令)からもうかがえる。したがつて、本件教官の任用に際しても、一定の水準にある者は、同一の選考対象になりうると解されるものであつて、前記候補にのぼつた他の中にも適任者がいなかつたとはいえず、それ以上にこれら複数の該当者が存在した場合における優劣決定のための客観的基準としては、前記会社の定めた基準は不十分である。

<2> ところで、五二年四月における越山パーサーの選任状況をみると、会社は、「グループミーテイングでの越山発言などに対する課長の評価」「乗務後のチーフパーサーの報告」「同乗のスチユワーデスの話」「査察レポート」などを総合し、越山が指導面、業務遂行面およびコミユニケーシヨン面で、九名の候補者中最も優れていたので同人を選任したという。しかしこれら評価の対象とされた事項は、かなり一時的、断片的なもので各候補者に対し共通のものとは認められないことからすれば、評価の尺度が客観的に確立されていたわけではなく、評価する者の主観により結論が左右されがちな側面をかなり有しているものとみられる。

<3> 向井アシスタントパーサーの選任についても<2>と同様である。もつとも、会社が越山および向井を選任したことは、それ自体不適切な者を選任したというごときものでないであろう。

<4> しかし、そのこととは別に、前記第2、2(1)で判断したように、会社が両組合の一方を有利に取扱う態度が認められる本件においては、会社の上記選考判断のなかで、いずれかの組合員であることによる積極・消極の評価が混入したものと推認せざるをえない。

(3) 以上(1)、(2)を総合すれば、昭和五二年四月の教官人事において、職種別に組合員数と教官数との人数比に著しい不均衡がみられるのは、会社の公正かつ客観的な人選の結果たまたまそうなつたものであるとは認め難く、むしろ会社が申立人組合所属の者としからざる者とを差別し、申立人組合の弱体化を意図したことによる結果であると判断せざるをえず、これをくつがえすに足る特段の事情も認められない。

3 救済の程度

(1) 会社は、第1、5(2)で認定したとおり、その後の教官発令において申立人組合所属の者を多く採用しており(とくにアシスタントパーサー)、結果として五三年末現在の教官数は両組合員数の対比でかなり接近してきている。

(2) 以上の事情を考慮すると、会社に対し、今直ちに職種別教官の人数比の不均衡是正を命ずることは相当ではなく、教官の任期が二年であることにかんがみ今後二年間、会社が教官の選任を行う機会に逐次これらが不均衡にならないよう留意しつつ、教官の発令人事を行うならば、本件の目的は十分達しうるものと思料される。

第3法律上の根拠

以上の次第であるから、会社がなした本件客室訓練所教官の発令は、労働組合法第七条第三号に該当する。よつて、同法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。

別紙(二)~(四)<省略>

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