東京地方裁判所 昭和55年(ワ)12059号
原告
笹原義一
右訴訟代理人弁護士
木村晋介
同
鷲見賢一郎
同
西山明行
同
小関傳六
同
青木和子
被告
帝都自動車交通株式会社
右代表者代表取締役
須賀清
右訴訟代理人弁護士
尾﨑昭夫
同
大室俊三
同
竹内俊文
右尾﨑昭夫訴訟復代理人弁護士
武藤進
同
額田洋一
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、金一〇七一万五四九二円及びこれに対する昭和五八年八月一九日から支払ずみまで年六分の割合による金員ならびに昭和五八年八月以降毎月二八日限り金二二万六六三二円宛の金員及びこれに対する各支払日の翌日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言(第2、3項につき)
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、ハイヤー、タクシー業(旅客運送業)及び不動産賃貸業等を目的とする会社であり、原告は昭和四七年七月一〇日、被告に入社し、その後同社池袋ハイヤー営業所に勤務してきたものである。
また原告は被告の従業員によって組織された帝都自動車交通労働組合(以下「組合」という。)の組合員であり、池袋ハイヤー支部(以下「支部」という。)に所属していた。
2 被告は、原告を昭和五五年六月六日をもって解雇したと主張して、翌日以降原告を従業員として扱わない。
3(賃金請求)
(一) 主位的主張
(1) 給与について
原告の昭和五四年一一月分から昭和五五年五月分までの給与額は、昭和五四年一一月分二三万四四七五円、同年一二月分二四万四〇六六円、昭和五五年一月分二二万八六三一円、同年二月分二三万八七五三円、同年三月分二三万一二五二円、同年四月分二一万八一七五円、同年五月分一九万一〇七六円であり、その平均額は二二万六六三二円となる。なお、給与は前月二一日から当月二〇日までの分を毎月二八日支給することとされている。
したがって、被告は原告に対し、昭和五五年六月以降毎月二八日限り、右平均給与額二二万六六三二円の支払義務がある。
(2) 賞与について
<1> 被告における賞与は、毎年四月に被告と組合との協議により年間(夏季及び冬季)の組合員一人平均の金額が決定され、夏季賞与については毎年七月一〇日頃(遅くとも七月末日まで)、冬季賞与については毎年一二月一〇日頃(遅くとも一二月末日まで)に支給されている。また各人別の支給基準は、各人の本給に一定の乗率をかけたものによって計算されるが、その計算の基礎となる期間は夏季については、前年一〇月二一日から当年四月二〇日まで、冬季については、当年四月二一日から当年一〇月二〇日までである。
<2> 原告の賞与額
(ア) 昭和五五年夏季の賞与
昭和五五年夏季賞与の算定基準は、本給に四三・四を乗じたものとされているので、原告の受くべき賞与は本給五八〇〇円に四三・四を乗じた二五万一七二〇円となる。
(イ) 昭和五五年冬季以降の賞与
昭和五五年冬季以降昭和五八年夏季までの全組合員の一人平均賞与額は、昭和五五年冬季三三万一〇〇〇円、同五六年夏季三一万円、同年冬季三九万四二〇〇円、同五七年夏季三七万円、同年冬季四三万七四〇〇円、同五八年夏季三九万円であり、原告の受くべき賞与額は右平均賞与額とすべきであるから、被告は右賞与合計二二三万二六〇〇円の支払義務がある。
(3) 被告は原告に対し、昭和五五年六月一三日解雇予告手当金二一万三五〇一円及び退職金として一六万七三四四円合計三八万八四五円を供託した。原告は右金員の還付をうけ、昭和五五年夏季賞与二五万一七二一円及び同年六月分給与の一部一二万九一二四円に充当した。
(4) したがって、被告は原告に対し、昭和五五年六月分給与のうちの未払分九万七五〇八円、昭和五五年七月以降同五八年七月までの未払給料合計八三八万五三八四円、昭和五五年冬季以降昭和五八年夏季までの未払賞与合計二二三万二六〇〇円以上合計一〇七一万五四九二円及びこれに対する弁済期の後である昭和五八年八月一九日から支払ずみまで年六分の割合による遅延損害金、並びに昭和五八年八月以降毎月二八日限り賃金二二万六六三二円の支払及びこれに対する各支払日の翌日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
(二) 予備的主張
(1) 給与について
前記3(一)(1)のとおり。
(2) 賞与について
<1> 被告の賞与算定方法
被告の賞与は、毎年四月に被告と組合との協議により年間(夏季及び冬季)の組合員一人平均の金額が決定され、夏季賞与については毎年七月一〇日頃(遅くとも七月末日まで)、冬季賞与については毎年一二月一〇日頃(遅くとも一二月末日まで)に支給されている。
また各人別の支給基準は、各人の賞与支給本給(各人の本給に各人の賞与考課評点を乗じたもの)に賞与支給率を乗じたものであり、右計算の基礎となる期間は、夏季については前年一〇月二一日から当年四月二〇日まで、冬期については当年四月二一日から当年一〇月二〇日までの給与である。
<2> 原告の賞与
原告の本給は少なくとも五八〇〇円であり、原告の賞与考課評点は昭和四八年上期から昭和五四年下期までの平均は〇・九二四である。そして昭和五五年夏季以降の賞与支給率は、昭和五五年夏季四三・四七四四四、同年冬季五三・四二一四八、同五六年夏季四八・八四八一一、同年冬季六二・三四〇七四、同五七年夏季五六・七八二六四、同年冬季六七・七四〇六八、同五八年夏季五八・八八一三六、同年冬季七二・八六三七八である。
そこで、右算定方法に従い計算すると、冬季の賞与は、昭和五五年夏季二三万二九八八円、同年冬季二八万六二九六円、同五六年夏季二六万一七八六円、同年冬季三三万四〇九六円、同五七年夏季三〇万四三〇九円、同年冬季三六万三〇三五円、同五八年夏季三一万五五五六円、同年冬季三九万四九一円となる。
(3) 前記3(一)(3)の受領ずみの三八万八四五円のうち、二三万二九八八円を昭和五五年夏季賞与に、残金一四万七八五七円を同年六月分給与の一部にそれぞれ充当した。
(4) したがって、被告は原告に対し、昭和五五年六月分給与のうち未払分七万六七七五円、昭和五五年七月以降同五八年七月までの未払給与合計八三八万五三八四円、昭和五五年冬季以降同五八年冬季までの未払賞与合計二二五万五五六九円、右合計一〇七一万七七二八円の支払義務があるところ、原告は被告に対し内一〇七一万五四九二円及びこれに対する昭和五八年八月一九日以降支払済みまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求め、また原告は被告に対し、昭和五八年八月以降毎月二八日限り賃金として二二万六六三二円及びこれに対する各支払日の翌日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4 よって、原告は被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実のうち、被告が原告を採用したことは否認し、その余は認める。
原告を採用したのは、帝都タクシー株式会社(以下「帝都タクシー」という。)であり、その後昭和五四年七月に同社が被告に合併されたので、原告は被告の従業員となったものである。
2 同2の事実は認める。
3(一)(1) 同3(一)(1)の事実のうち、原告の昭和五四年一一月分から同五五年五月分までの給与額及び給与の支払日が原告主張のとおりであることは認め、その余は争う。
(2) 同(2)<1>の事実は認め、同<2>の事実のうち、昭和五五年冬季以降同五八年夏季までの全組合員の一人平均賞与額が原告主張のとおりであることは認め、その余は争う。
(3) 同(3)の事実のうち、被告が原告主張のとおり供託したこと、原告が還付を受けたことは認めその余は争う。
(4) 同(4)は争う。
(二)(1) 同3(二)(1)については、請求原因に対する認否3(一)(1)のとおり。
(2) 同(2)<1>の事実は認める。同<2>の事実のうち、原告の賞与算定考課率及び賞与支給率が原告の主張のとおりであることは認め、その余は争う。
(3) 同(3)、(4)は争う。
三 抗弁
1 被告は、昭和五五年六月六日原告に対し、解雇予告手当金二一万三五〇一円を提供して、解雇の意思表示をした。
2 被告が原告を解雇したのは、次に述べるとおり、被告が昭和五五年五月一五日原告に対し命じた、原告を池袋ハイヤー営業所からタクシー部門である池袋第二営業所への配置転換命令(以下、「本件配転命令」という。)に従わず、これが就業規則五八条七号及び被告と組合との間に締結されている労働協約の二九条七号の解雇事由たる「その他已むを得ない必要がある時」に該当したからである。
(一) 本件配転命令について
(1) 被告の就業規則には、その五条に「会社は業務の都合で従業員に転勤異動及職務転換出向転籍を命じ又は職階の変更を命ずる事がある。前項の場合正当な理由がなければこれを拒むことは出来ない」と規定されている。
(2) 本件配転命令の必要性
<1> 原告は、昭和四七年入社以来被告の池袋ハイヤー営業所に勤務していたが、その間支部を被告として訴訟を起こしたり、また支部から統制違反で処分されるなどしており、池袋ハイヤー営業所の他の従業員(同営業所の運転者はすべて組合員である)とは対立状態にあった。
<2> 昭和五五年三月一五日支部主催の旅行会が催されたが、原告はその宴席で柴田利邦(以下「柴田」という。)から暴行、傷害を受けたとして、同人を巣鴨警察署に告訴するとともに、同人に対し五〇万円の支払を求める民事訴訟を当庁に提起した。
ところで、職場内では、原告が右告訴等を行ったことに対して、従業員旅行の酒席でのいざこざであるのに当人間の話合いは勿論のこと他に調整を求めることもなく直ちに同僚を告訴、民事訴訟を提起したこと、そのため多くの同僚が参考人として警察署や検察庁で取調べを受けたことから、以前からの原告に対する対立感情もあって、原告とは同一職場で働くことができないという雰囲気が強まった。こうした中で同営業所従業員の中から、原告を池袋ハイヤー営業所から排斥しようとの運動が起こり、有志によって署名活動が行われた。その結果、同営業所の佐藤悟朗所長(以下、「佐藤所長」という)と原告を除くすべての従業員が原告を池袋ハイヤー営業所から排除して欲しい旨の上申書に署名し、同上申書は佐藤所長に提出された。
上申書の提出を受けた佐藤所長は、従業員から事情を聴取するとともに、事態の解決を図るべく、原告に対し同僚との融和、協調に努めるように、また柴田に対する告訴等については同僚と殊更に事を構えることなく、円満に解決するよう説得を重ねたが、原告はかたくなにこれを拒否した。
原告は、こうした佐藤所長の努力がなされている間にも、他の同僚に対して「自分の髪一本触れても告訴する。」「五〇万円、一〇〇万円の損害賠償を求める」と公言し、他の従業員の原告に対する不満は一層募り、新たな紛争が起こることも懸念された。しかも、原告を除く他の従業員の原告の配転を求める要求は強固であり、原告を配転させないのなら自分を配転させて欲しいという者も出る状況であった。
そこで佐藤所長は、同営業所の円滑な運営のためには原告の配転を求めるほかないと判断し、被告に対し、原告の異動申請を行った。
<3> 異動申請を受けた被告は、佐藤所長に対し、再度調整に努めるよう命じた。そして同所長が重ねて原告を説得したが、前同様の態度であり、調整は不可能であった。そこで被告は池袋ハイヤー営業所の他の従業員の状況に鑑みて原告を他の営業所へ配置換えするほかはないと判断するに至った。
(3) 本件配転命令の合理性
本件配転命令は、職種・勤務地の変更を伴うものではなく、また、労働条件の不利益変更をもたらさないものである。即ち、
<1> 職種について
本件配転命令は、ハイヤー運転者からタクシー運転者への配転を命ずるものであるが、両者の職務内容はともに営業用旅客乗用自動車の運転という同一のものであり、必要とされる技能も同一である。
<2> 勤務地について
本件配転命令は池袋ハイヤー営業所から池袋第二営業所への配転を命ずるものであるが、右両営業所は東京都豊島区池袋三丁目二一番一九号所在の被告本社内にあり、勤務地に変更をもたらさない。
<3> 賃金等について
原告は、本件配転命令当時、一日あたり金七一一六・七円の平均賃金を得ていたが、この額は原告が命ぜられた配転先である池袋第二営業所所属の全運転者の平均賃金の額を下回るものである。したがって、原告が配転先の池袋第二営業所の同僚と同程度の労務を提供しさえすれば、配転前を上回る賃金が得られることが予想される。そして賃金以外の労働条件に関しても特に不利益はない。
(二) 解雇に至る経緯
原告は本件配転命令に全く応じようとせず、被告からの二度にわたる文書での就労勧告にも応じなかった。
そこで被告は、原告が業務命令たる本件配転命令を正当な理由なく拒否し、業務を誠実に遂行しないものと判断し、原告に対し、解雇の意思表示をしたものである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は認める。
2(一) 同2前文の事実のうち被告が原告に対しその主張の日に本件配転命令を出し、原告が同命令に従わなかったこと、被告の就業規則及び労働協約に被告主張の条項が存在することは認め、その余は争う。
(二)(1) 同2(一)(2)<1>の事実のうち、原告が入社以来被告の池袋ハイヤー営業所に勤務していたことは認め、原告が同営業所の他の従業員と対立状態にあったことは否認する。
同2(一)(2)<2>のうち、原告が被告主張のとおりの告訴をし、民事訴訟を提起したことは認め、その余は争う。
同2(一)(2)<3>の事実は争う。
(2) 同2(一)(3)前文は争う。
同2(一)(3)<1>の事実のうち、本件配転命令がハイヤー運転者からタクシー運転者への配転を命ずるものであること、両者の職務が営業用旅客用自動車の運転を内容とすることは認め、必要とされる技能が同一であることは否認する。
同2(一)(3)<2>の事実のうち、本件配転命令が池袋ハイヤー営業所から池袋第二営業所への配転を命ずるものであることは認める。
同2(一)(3)<3>の事実は争う。
(三) 同2(二)の事実のうち、原告が本件配転命令を拒否したことは認め、その余は争う。
五 再抗弁
1 本件配転命令は、以下に述べる理由により無効であり、したがって本件配転命令に従わないことを理由とする本件解雇も無効である。
(一) 原告が被告に入社した際、原、被告間で原告の職種をハイヤー運転者に限るとの条件が付されていた。したがって、本件配転命令は、労働契約で合意された内容を一方的に変更するものであって無効である。
(二) 次のとおり、本件配転命令は、職務内容等の労働条件を一方的に不利益に変更するものであって無効である。
(1) 乗務態様の変更について
ハイヤー運転者とタクシー運転者では乗務に関して次のような違いがある。即ち、
ハイヤー乗務は、営業所に待機しながら顧客の注文がある毎にその顧客を輸送する運転業務であり、顔見知りの顧客も多く、運行経路も事前に分る。これに対し、タクシー乗務は流しながら見ず知らずのお客の注文に応じてその客を輸送する運転業務である。そして、運行経路も事前に分らない。そのためタクシー乗務では流して運転しながらお客の注文をとるという特別の技能が必要であり、関東一円の一日の人の流れに習熟する必要も、道端にいる人が客かどうか見分ける能力も必要とされる。このような技能はハイヤー業務では全く必要とされないのである。またタクシー業務では、ハイヤー業務に比してはるかに地理に通暁していることが要求され、そのため、タクシー乗務に従事する場合は新たにタクシー乗務のための教習が必要であり、更にタクシー近代化センターに登録するための試験の一つに関東一円の地理の試験に合格することが必要とされているのである。
以上のことからすれば、ハイヤー乗務に従事したことがあるからといって当然タクシー乗務に従事できるものではないのである。
(2) 勤務体系の変更と労働条件の不利益変更
<1> ハイヤー乗務とタクシー乗務とでは次のような差異がある。
(ア) ハイヤー乗務の勤務体系
ハイヤー乗務では、一か月平均一六出番(一六勤務)である。一出番(一勤務)あたりの所定拘束時間は、午前八時三〇分から翌日の午前一時までの一六時間三〇分であり、内休憩時間が四時間三〇分含まれるので、実労働時間は一二時間である。この実労働時間中には、三時間の深夜労働時間が含まれている。
(イ) タクシー乗務の勤務体系
被告には、タクシー乗務の勤務は、一か月平均一三出番(一三勤務)であるが、勤務体系にはA勤とC勤との二つがあり、その内容は次のとおりである。
(a) A勤
一出番(一勤務)あたりの所定拘束時間は、午前七時三〇分から翌日の午前二時三〇分までの一九時間であり、内休憩時間が三時間含まれているので、実労働時間は一六時間である。この実労働時間中には、四時間の深夜労働時間が含まれている。
(b) C勤
一出番(一勤務)あたりの所定拘束時間は、午前一一時三〇分から翌日の午前六時三〇分までの一九時間であり、内休憩時間が三時間含まれているので、実労働時間は一六時間である。この実労働時間中には、五時間三〇分の深夜労働時間が含まれている。
<2> 労働時間について
ハイヤー乗務とタクシー乗務とでは右のとおり勤務体系が違うため、一か月単位の労働時間を比較すると、月間所定実労働時間ではハイヤー乗務一九二時間(一二時間に一六出番を乗じたもの)、タクシー乗務二〇八時間(一六時間に一三出番を乗じたもの)であり、月間所定深夜労働時間では、ハイヤー乗務四八時間(三時間に一六出番を乗じたもの)、タクシー乗務A勤の場合五二時間(四時間に一三出番を乗じたもの)、C勤の場合七一時間三〇分(五時間三〇分に一三出番を乗じたもの)となっており、タクシー乗務はハイヤー乗務に比し不利益となっている。
その他、タクシー乗務はハイヤー乗務に比較して一出番あたりの所定拘束時間が長く、またA勤務では始業時間が一時間早くなるという不利益が生ずる。
(3) 労働密度について
ハイヤー乗務は、営業所に待機しながら顧客の注文がある毎にその顧客を輸送する運転業務であり、手待ち時間(実労働時間中、顧客の注文を待って池袋ハイヤー営業所内のハイヤー運転手待合室で待機していたり、走行途中に駐車場の控室で待機していたりする時間)もあり、顔見知りの顧客も多く、タクシー乗務に比べて精神的にゆとりを持ちながら仕事に従事できる。この手待ち時間は一出番あたり五ないし六時間に及ぶことも少なくなく、しかもこの時間中にハイヤー運転手は待合室や控室で、テレビを見たり、読書や将棋をしたりすることが許されているのである。またハイヤー乗務の場合、一出番あたり違った顧客の運転業務をするのは、多い時で三ないし四回であり、走行距離も一出番あたり約一八〇キロメートルである。
これに比し、タクシー乗務は、流しながら見ず知らずの客の注文に応じて客を輸送する運転業務であり、手待ち時間もなく、常に緊張を強いられている。また手待ち時間がないことから、どのタクシー営業所にもタクシー運転手待合室というものはない。
しかも、タクシー乗務の場合、一出番あたり違った客の運転業務をするのは、平均約四〇回であり、走行距離も一出番あたり三三〇ないし三四〇キロメートルである。
このようにタクシー運転者の方がハイヤー運転者に比し、労働密度が高くなっている。
(4) 賃金の低下
<1> 本件配転命令の当時、被告において、全ハイヤー運転者の平均賃金月額の方が、全タクシー運転者の平均賃金月額よりも一万円ないし二万円高い。
したがって、本件配転命令が原告の賃金の低下をもたらすことは明らかである。
<2> また、ハイヤー運転者の歩合給の程度及び歩率は、「働高に対する歩率は足切額二五八〇〇〇円とし、足切額を超える額の二〇パーセントを支給する。」となっているのに対し、タクシー運転者の歩合給の程度及び歩率は「働高に対する歩率は、足切額三〇三〇〇〇円あるいは二九九〇〇〇円を超える額の四〇パーセントを支給する。」となっている。これを見ると、ハイヤー運転者の方が働高が少なくても歩合給の適用があるがその場合の歩率は低い、逆にいえば、タクシー運転者は働高がより多くないと歩合給の適用はなく、そして一旦歩合給がもらえるところにまで働高が達すると、その場合の歩率はより高いのである。タクシー運転者の賃金形態の方が歩合給的要素、刺激給的要素が強いことは明白である。
(5) その他の労働条件の低下
ハイヤー乗務で使用する車両は外国車若しくは高級国産車である。タクシー乗務で使用する車両は、普通国産車である。したがって、ハイヤー乗務の方がタクシー乗務よりもはるかに乗心地も良く、疲労の少い車両で業務に従事することができる。
またハイヤーのお客は、すべて顧客である。これに対し、タクシー乗務のお客はすべて見ず知らずの客であって、タクシー強盗等の危険も大きい。
(三) 不当労働行為
本件配転命令は、原告の正当な組合活動を嫌悪してなされたものであり、労働組合法七条一号の不利益取扱に該当するので無効である。即ち、
(1) 原告の組合活動
<1> 原告は被告に入社後組合員となり、賃金、退職金の増額、労働時間の短縮、組合民主化等の組合活動に積極的に取り組んできた。その中で原告は、昭和四九年から同五〇年にかけて行われたハイヤー営業所の廃止、縮少、組織変更に伴って被告の行う合理化攻撃に対しても、労働者の生活と権利を守るために積極的に活動してきた。
更に、原告は、昭和五二年二月には、原告に対する年末一時金差別と組合に対する経費援助の是正を求めて東京都地方労働委員会に対して不当労働行為救済申立(都労委昭和五二年(不)第一一号)を行い、また昭和五五年三月には従業員に対する残業手当の不払の是正を求めてその旨の申告を池袋労働基準監督署及び労働省労働基準局に行うなど組合員の権利を守るための活動を行ってきた。
<2> 原告は、昭和四九年九月には組合の執行委員長に立候補し、組合員の約三分の一にあたる八三四票の支持を集め、その後も支部の支部長に立候補する毎に組合員の約三分の一の支持を得てきた。
(2) 本件配転命令の不利益性
<1> 本件配転命令は、再抗弁1(二)のとおり、職務内容を変更し、労働条件を原告の同意なく一方的に不利益に変更するものであって、しかもタクシー乗務を行うにあたって、新たな技能、能力を取得し、タクシー近代化センターの登録試験に合格しなければならず、原告に新たな技能、能力の取得を強制するものであって、原告に不利益を課するものである。
<2> ハイヤー乗務に比較してタクシー乗務は、同僚の労働者と接触する機会が圧倒的に少なく、この点でも原告に組合活動上の不利益を課するものである。
<3> ハイヤー運転者としての社会的地位に比較して、タクシー運転者としての社会的地位に対する社会的評価は低く、本件配転命令はいわゆる左遷にも該当するのであり、原告に対して精神上の不利益を課するものである。
(3) 被告は以上のような原告の組合活動を嫌悪し、原告に対し、従来から下車勤処分、賃金や一時金の差別支給等の不利益取扱いをしており、本件配転命令もその一環としてなされたものである。
(四) 権利濫用
本件配転命令は、業務上の必要性が全くないのにもかかわらず、原告の組合活動を嫌悪し、他の従業員に対する見せしめとするため、原告の正当な権利行使である告訴や民事訴訟の提起を口実としてなされたものであって、権利の濫用にあたる。即ち、
(1) 原告が柴田を告訴し、柴田を被告として民事訴訟を提起した経緯
柴田は、昭和五五年三月一五日に行われた支部主催の旅行会での宴会において、その席上、原告に対し酒、ビール等を無理強いし、因縁をつけ、その上原告と被告との間の問題(昭和五二年都労委(不)第一一号事件)を持ち出し、「これを取り下げろ、取り下げないことでお前は年収で一〇〇万円も損しているのだぞ、妻子がかわいくないのか、このバカ」と皆の面前で馬鹿呼ばわりをした。これに対し原告は柴田を相手にしなかったところ、柴田は激昂し、やにわに原告の顔面に手をかけて眼鏡をはずし飛ばし、腕をつかみ振り回し、胸倉をつかみ、小突き、更には「酒を飲めないのならこうしてやる」と原告の頭上から酒、ビールをかぶせ、また料理用のドンブリをもって頭部に料理の残り汁をかけながら、数回にわたり頭部を殴りつけた。その上、柴田は原告に「これだけやられても、俺の顔一つ殴れないのか、ほれ、なぐれ」と挑発してきたが、原告はじっとがまんし続けたのである。そして原告は柴田のこのような暴行により、治療約一週間を要する「頭部・胸部打撲傷、鼻尖・右前腕・前胸部挫創」の傷害を受けたのである。
右柴田の暴行は、発言内容からして明らかなように、被告の意を体してなされたものであり、今回柴田がなした暴行、傷害を放置すれば、職場において積極的に組合活動を行う者は、今後ますます身体に対する危害をも加えられることになる危険性が増大することになり、更に、暴行・傷害の態様及び結果の重大性にも鑑み、原告は、昭和五五年三月二一日止むを得ずして柴田を告訴し、同年四月一六日東京地方裁判所に対して柴田を被告として損害賠償等請求事件を提起したのである。
(2) これに対し、池袋ハイヤー営業所の佐藤所長は、昭和五五年四月二四日同所長主催の朝礼の後引き続いて持たれた支部の職場集会に出席して「血だらけになったのならともかく、あの位のことで告訴とは、皆迷惑である。この職場から出ていってもらおうではないか」と同営業所の従業員に呼びかけた。
被告の主張する上申書なるものはこの呼びかけに応えて作成されたものであり、原告が同僚との協調性を欠いていたことなどなく、原告を配転する業務上の必要性もないのである。
2 労働協約上の手続違反
被告と組合との間の労働協約には、本件解雇のように「已むを得ない事由」を理由とする場合には、解雇にあたって被告は組合と協議し決定する旨定められているにもかかわらず、被告はこの協議を組合との間で行っていないのであるから、本件解雇は手続に違背し無効である。
なお被告と組合は本件解雇にあたって労使協議会を催しているが、その席上被告からは柴田の暴行傷害の件は報告されず、また、本件配転命令の理由、根拠、必要性についても協議されず、ただ原告が本件配転命令に従わなかったことのみが協議の対象とされたにすぎない。したがって本件解雇について協議が尽されたといえないことは明らかである。
3 解雇権の濫用
本件解雇は、本件配転命令を拒否したことを理由とするものであるが、右配転命令は加害者をかばい、被害者に不利益を与えることを意図したものであって、誰しもかような命令に従うことはできないのである。被告は原告の本件配転命令に対する異議申立にもかかわらず、柴田の原告に対する暴行、傷害について何らの調査を行うことなく、労使協議も尽さず原告の配転命令を奇貨として本件解雇を行ったのである。しかも、本件解雇がなされた昭和五五年六月六日は、原告が本件配転命令が不当労働行為に当たるとして東京都地方労働委員会に救済を申し立てた事件の事情聴取期日であり、被告はこれを殊更無視して解雇を強行しているのである。
これらの事情からすれば本件解雇が権利の濫用にあたることは明らかである。
六 再抗弁に対する認否
1(一) 再抗弁1前文は争う。
(二) 同1(一)の事実は否認する。
(三)(1) 同1(二)前文は争う。
(2) 同1(二)(1)の事実のうち、ハイヤー乗務とタクシー乗務とで運転業務に原告主張のとおりの差があること、タクシー業務に従事する場合に近代化センターに登録する必要があることは認め、タクシー乗務にはハイヤーとは違った技能が必要であるとの点は否認する。
ハイヤー乗務とタクシー乗務とでは技能、資格に差はない。近代化センターへの登録は旅客サービス向上を図る目的によるもので、運転者の資格自体に関係なく、通常の能力を有していれば登録試験は合格するものである。因みに原告は、九〇日以上にわたってハイヤー業務に従事してきたのであるから、登録するだけで十分であった。またハイヤー業務からタクシー業務に移るにあたって社内教育を行っているが、これも、朝の出勤時間、休憩時間のとり方、接客マナー等既に知っていることの反復であり、三日ないし五日程度のものである。
(3) 同1(二)(2)<1>の事実は認める。
同<2>の事実のうち、タクシー乗務がハイヤー乗務に比し不利益であるとの点は争い、その余は認める。
月間所定拘束労働時間を比較すると、タクシー乗務の方が二四七時間であり、ハイヤー乗務の場合には二六四時間となってハイヤー乗務の方が良く、また、出番数もハイヤー乗務の方が三出番多い。日常生活や通勤を考慮すれば労働時間の長さよりも出番数の方が影響が大であろう。そして実労働時間、拘束時間、出番数は相互に関連するもので、これらの関連を無視して単に労働時間のみを取り上げて労働条件の優劣を論ずることはできない。
(4) 同1(二)(3)の事実のうち、ハイヤー乗務には手待ち時間があることは認め、その余は争う。
顧客の運送を行うハイヤー乗務の方が、見ず知らずの客を運送するタクシー乗務よりも、気を遣い緊張するといわれ、タクシー乗務の方が楽という運転者が多く、緊張の度合は、慣れ、経験の問題である。またハイヤー乗務では手待ち時間があるも、これは労働時間であり、労働者の利益、権利として保証されるものではなく、車両の整備、点検や技量、サービス向上に役立たせるよう有効に過すべき時間である。なお、原告主張の走行拒離は客を乗せての走行距離ではない。
(5) 同1(二)(4)<1>の事実は争う。
本件配転命令当時、ハイヤー運転者の総平均給与は、タクシー運転者のそれに比し一万円程度高い。これは、ハイヤー運転者の場合恒常的に月約三〇時間の時間外労働があるが、タクシー運転者の場合は陸運局の指導もあって残業がほとんどないためである。また、時間外労働等の割増賃金を除いた基準内賃金を比較すると、タクシー乗務の方がハイヤー乗務に比し月額四〇〇〇円ないし五〇〇〇円高い。ところで、原告は残業等をしなかったので、残業等をしないタクシー乗務であれば、ハイヤー乗務のときに比べ平均して月額二万円高い収入が得られることになる。
同1(二)(4)<2>の事実のうち歩合給の程度及び歩率が原告主張のとおりであることは認める。
歩合給の程度及び歩率に差が生ずるのは、ハイヤー料金がタクシー料金に比較して高いため同一距離を走行するとハイヤー乗務の方が売上げが高くなるなどの事情があり、これら事情を総合してハイヤー乗務とタクシー乗務の間に格差を生じさせないように考慮した結果である。なお、タクシー乗務での足切額についても、都内のタクシーに対する需要は安定しており、通常の営業運転を行えば確保できる売上げ高であり、問題はない。
(6) 同1(二)(5)の事実は争う。
(四)(1) 同1(三)前文は争う。
(2) 同1(三)(1)<1>の事実のうち、原告が組合員であること、原告が原告主張の救済申立や申告をしたことは認め、原告が昭和四九年から同五〇年にかけて原告主張の如き活動を行ったことは否認し、その余は不知。
同1(三)(1)<2>の事実は不知。
(3) 同1(三)(2)<1>ないし<3>の事実は争う。
原告は、本件配転先である池袋第二営業所においても引き続き組合員の地位を有するのであり、組合活動が制限されることはない。
(五)(1) 同1(四)前文は争う。
(2) 同1(四)(1)の事実のうち、昭和五五年三月一五日支部旅行会が行われ、宴会が催されたこと、原告が柴田を告訴し、また同人に対し民事訴訟を提起したことは認め、その余は否認する。
同1(四)(2)の事実は否認する。
2 同2の事実のうち、被告と組合との間の労働協約に原告主張の如き協議する旨の定めがあること、被告と組合が本件解雇について労使協議会を催したことは認め、その余は争う。
被告は組合との間で協議を尽した上で本件解雇を行ったものである。協議の対象は原告が本件配転命令に違反したことが解雇事由にあたるか否かであり、協議の結果組合も解雇事由にあたるとして解雇を承認したものである。
3 同3の事実のうち、原告が原告主張のとおりの救済申立を行ったこと、本件解雇の日が同事件についての東京都地方労働委員会の事情聴取期日であったことは認め、その余は争う。
第三証拠
本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 当事者
1 被告がハイヤー、タクシー業(旅客運送業)等を目的とする株式会社であること、原告が昭和五四年七月以降被告の従業員であったことは当事者間に争いがない。
ところで、原告は、昭和四七年七月一〇日被告に採用された旨主張し、被告は、原告は同日帝都タクシーに採用された旨主張して争うのでこの点について検討する。(証拠略)、原告本人尋問の結果によれば、帝都タクシーは被告の子会社であり、ハイヤー部門とタクシー部門を有し旅客運送業を行っていたこと、両社は、主に免許の認可関係で別個に扱われるものの労働契約は帝都タクシーの営業所に配属される場合にも被告名で契約を締結することにしており、また帝都タクシーの営業所である池袋ハイヤー営業所も被告の名称を使用していたこと、原告が入社するに際しては、被告の貿易センター営業所々長南敏雄が入社するよう勧誘していたこと、昭和四七年七月一一日から池袋ハイヤー営業所に出勤したこと、昭和四七年八月一二日付で所沢公共職業安定所に提出された採用証明書は被告名義であることが認められ、これらの事実によれば原告は昭和四七年七月一〇日被告に採用され、帝都タクシー池袋ハイヤー営業所に配属されたものということができる。
なお、「運転者」及び「帝都タクシー株式会社」との記載部分については(人証略)の証言により真正に成立したものと認められ、またその余の部分については成立に争いのない(証拠略)によれば、昭和四七年七月一〇日付労働契約書には帝都タクシーを名宛人としていることが認められるが、前示被告と帝都タクシーとの関係、両社の名称の使用状況、原告採用の経緯に照らすと、右記載をもって前示認定を覆すに足りない。
2 原告が被告従業員によって組織された組合の組合員であり、支部に所属していたことは当事者間に争いがない。
二 本件配転命令と解雇
被告が昭和五五年五月一五日原告に対し、本件配転を命じたこと、原告は右命令に従わなかったこと、被告は原告の右命令違反は就業規則五八条七号、被告と組合との間の労働協約二九条七号に定める解雇事由「その他已むを得ない必要がある時」に当たるとして、同年六月六日原告に対し解雇予告手当二一万三五〇一円を提供して解雇の意思表示をしたこと、被告が翌日以降原告を従業員として扱わないことは当事者間に争いがない。
三 本件配転命令について
1 原告は被告に入社した際、被告との間で原告の職種をハイヤー運転者に限る旨の合意があったのであるから、一方的に配転を命ずる本件配転命令は無効である旨主張するので、この点について判断するに、(証拠略)、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告が被告に入社した昭和四七年七月一〇日当時被告としては、ハイヤー運転者を必要としており、原告の採用面接をした当時被告貿易センター営業所々長の南敏雄は、「ハイヤーの仕事をやってくれればいい」と述べていること、被告が昭和四七年八月一二日に所沢公共職業安定所々長宛てに提出した採用証明書には職種として「ハイヤー運転手」と記載されていること、原告は被告入社以来解雇に至るまでハイヤー運転者としてのみ稼働していたことが認められるが、他方(証拠略)を総合すると、原告との雇用契約書には臨時運転者と記載されハイヤー、タクシー運転者の区別がないこと、タクシー運転者とハイヤー運転者はその時々によって需要が異なること、したがって両者間の異動も度々なされていることが認められ、これらの事実に照らすと、採用証明書の職種記載は当時ハイヤー運転者をしていたことからその旨記載したにすぎず、また入社に際しての南所長の発言も、当分の間ハイヤー運転手をしてもらう趣旨ともいえるのであって、いまだ原、被告間に原告をハイヤー運転者としてのみ雇用する旨の合意が確定的に成立していたものとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
よって、原告の右主張は採用しえない。
2 原告は、本件配転命令は、原告の労働条件を一方的に不利益に変更する命令であり、また不当労働行為にあたるうえ、権利の濫用にも該当する旨主張するので、この点について検討するに、当事者間の争いのない事実、(証拠略)、原告本人尋問の結果(第一、二回)に弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。
(一) 本件配転命令に至る経緯
(1) 原告は組合員として支部に所属していたが、支部代議員選挙に関し支部を被告としてその無効の確認を求めて訴訟を提起した。また、原告は昭和五四年六月二〇日ころ「帝労を強くする会」という名称を使ってビラを作成し、これを配付したところ、支部が原告に対して統制処分としての戒告処分に付したので、原告は右処分を不当として、支部を被告として訴訟を提起したりした。更に、原告は、昭和五二年二月二三日、被告を相手方として東京都地方労働委員会に対し、一時金の支給に差別取扱いがあることのほか、組合執行部が被告から得ている賃金は経費援助にあたる旨の主張をして、救済申立(都労委昭和五二年(不)第一一号事件)を行っている。組合は、原告の右救済申立は理由がないとして、原告に対してその取下げを求めている。
ところで、右原告の支部に対する代議員選挙に関する訴訟は和解で終了したものの、支部の負担する訴訟費用は支部組合員からのカンパによってまかなわれたため、支部組合員は臨時出費を余儀なくされ、原告を快く思わない者も多かった。また原告が支部主催の集会で発言すると、集会が長びくことが多くこのことも、支部組合員に快く思われていない原因の一つとなっていた。
(2) 支部は、昭和五五年三月一五、一六日の両日、宮城県内の秋保温泉への旅行会を行った。支部一行約四〇名(支部組合員の外佐藤所長も参加)は、秋保温泉沼田屋ホテルに投宿し、一五日午後六時ころから宴会が始まった。宴会の席上、原告は同じ池袋ハイヤー営業所の従業員である柴田から執拗に酒を勧められたが、これを拒否した。これに対し、柴田は原告に対し酒を飲むよう強要する一方「お前は会社とけんかすることによって年収で一〇〇万円も損しているじゃないか」「早く取り下げたらどうか」「この馬鹿野郎」などと言いながら、原告の顔面を眼鏡を払うようにして飛ばし、頭からビールやどんぶり汁をかけ、さらに小突き回すといった暴行を加え、この暴行は他の同僚によって制止されるまで続けられた。その結果、原告は加療数日を要する頭部、胸部打撲傷、鼻尖、右前腕、前胸部挫創の傷害を受けた。
(3) 柴田に暴行を受けた原告は、同年三月二一日柴田を暴行、傷害で巣鴨警察署に告訴するとともに、同年四月一六日には柴田を被告として五〇万円の支払を求める損害賠償請求訴訟を当庁に起こした。
なお、原告は、告訴、訴訟を提起するまでの間、柴田から暴行を受けたことについて、被告や旅行会の主催者である支部に、その処置について何ら相談することもなかった。
(4) 原告が柴田を告訴したことから、池袋ハイヤー営業所では、柴田や同僚の従業員らが参考人として警察から事情を聴取されることとなり、同営業所の従業員間では、原告は何故告訴したのかと原告の採った態度に不満を持つものもいた。
こうした中で、昭和六〇年四月二三日朝礼の後引き続いて開かれた支部主催の職場集会(明番集会)において、同席していた佐藤所長は支部組合員に対し、柴田の暴行問題に触れて発言し、原告が柴田を刑事告訴し、また柴田に対して五〇万円の支払を求める損害賠償請求訴訟が提起されていることを報告するとともに、「血だらけになったのならともかく、あの程度のトラブルで刑事告訴、民事の損害賠償で皆迷惑している」と述べた。その後支部委員長橋本と佐藤所長は交互に「こんなことでは仕様がないから、本社にお願いして池袋ハイヤー営業所から出て行って貰うしかない。そのために署名をとる」などと述べた。原告はこの佐藤所長らの発言に対し、「いよいよ本音が出て来た、署名をするなら一人一人責任を取って貰う」と反論したりした。また、職場集会(明番集会)は、交替勤務の関係から同月二四日、二五日も開催された。なお、池袋ハイヤー営業所のハイヤー運転者は皆支部組合員であった。
その後、池袋ハイヤー営業所従業員河野力三らが発起人となって被告社長宛てに原告は「従業員全体の規約及び話合いについてこないばかりか我々の職場をかきまわす事ばかりして」いる、原告を池袋ハイヤー営業所から排除してほしい旨の上申書について署名活動が行われた。その結果原告と佐藤所長を除く池袋ハイヤー営業所全従業員の署名が集った。そして右上申書は同年五月上旬右河野から佐藤所長に提出された。
(5) 右上申書の提出を受けた佐藤所長は、同年五月九日、所長代理鳥海、支部支部長橋本、その他二名とともに、原告に事情を聴取しようとしたが、原告は説明の要なしとしてこれに応じなかった。その際佐藤所長は原告に対し、柴田に対する告訴や訴訟を取り下げるよう求めた。
(6) 原告は、告訴後池袋ハイヤー営業所の同僚から、「馬鹿野郎」呼ばわりされたり、「何でそんなことをしたんだ」「何で告訴なんかしやがった取り下げろ」といわれたり脅かされたりもした。原告はこれに対し「正当な権利行使だからつべこべいうな」、「そんな脅しにはのらんぞ」、また「髪の毛一本抜いても傷害罪が成立するときいている」と述べたりして反論した。当時原告は、柴田の暴行は被告の意向によるものと考えていたこともあって、今後は何をされるかわからないという意識を持ち、はりねずみのように神経をとがらせていた。
(7) 右のような原告と他の従業員との状況を聞き込んだ佐藤所長は、原告と他の従業員との間の融和が欠けるに至ったと判断し、同年五月一二日右上申書を添付して被告宛てに原告を池袋ハイヤー営業所から異動して欲しい旨の申請を行った。
(8) 異動申請を受けた被告は、佐藤所長から事情を聴取したが、佐藤所長はその際、柴田が原告に暴行を加えたことは考えられないこと、原告との間で告訴や訴訟を提起したことについて話合いの機会を持ったが原告の理解を得られなかったこと、原告が池袋ハイヤー営業所にいたのでは、職場内の融和が保たれないと報告した。被告は、佐藤所長の報告や上申書から、原告は柴田が原告に暴行を加えたこともないのに軽々と告訴し、しかも、原告の告訴、訴訟のため職場全体の署名が出されるというかつてない事態が生じ原告を池袋ハイヤー営業所に配属しておくことは職場の秩序を乱すことになりかねないと判断し、原告を池袋ハイヤー営業所から配転することとした。そして、配転先については、原告の通勤の便を考えると勤務地は同一場所がよいこと、他のハイヤー運転者との融和を欠いている現在、他の従業員と勤務中接触する機会の少ない運転業務の方が良いこと、ハイヤー運転者の運転技術、地理精通度、健康に与える影響が同程度であること、及び原告の独立心の強い性格を考慮し、同年五月一五日池袋ハイヤー営業所と同一場所にある池袋第二営業所でのタクシー運転業務を命ずる本件配転を原告に命じた。また、組合側にも、被告が原告に対し本件配転を命じたことが報告された。
なお就業規則五条には「会社は業務の都合で従業員に転勤異動及職務転換出向転籍を命じ、又は職場の変更を命ずることがある。」その場合従業員は「正当な理由がなければこれを拒むことは出来ない」旨定められている。
(二) 本件配転命令と労働条件の変更
(1) 乗務態様
ハイヤー乗務は営業所に待機しながら、顧客の注文がある毎にその顧客を輸送する運転業務である。これに対し、タクシー乗務は運転をしながら客を探し、見ず知らずの客をその注文に応じて輸送する運転業務である。
そしてハイヤー乗務の場合には一日二回以上、多い時には五、六回乗務するのに対し、タクシー乗務の場合には一日四〇回位客を拾うことになる。また、タクシー乗務では運転しながら客を探すために、特段の技術は必要としないものの、一日の人の流れを習熟する必要はある。なおタクシー乗務を行う場合には、旅客サービスの向上を目的として設立されたタクシー近代化センターに登録する必要があり、登録に際しては関東一円の地理に関する試験に合格することを要するが、原告のように既に二年以内に九〇日以上にわたってハイヤー乗務に従事していた者は、地理試験を免除されていた(タクシー業務適正化臨時措置法六条、七条三号、同施行規則四条)。
(2) 勤務体系
<1> ハイヤー乗務では、一か月平均一六出番(勤務)であり、一出番あたりの所定拘束時間は午前八時三〇分から翌日の午前一時までの一六時間三〇分である。この中には休憩時間四時間三〇分が含まれるので実働時間は一二時間となり、この実働時間中には三時間の深夜労働時間が含まれている。
これに対し、タクシー乗務の場合には、A勤、C勤の二種類の勤務体系があり、その内容は再抗弁1(二)(2)<1>(イ)記載のとおりである。
<2> そこで月間所定拘束時間を比較するとハイヤー乗務の場合には二六四時間(一出番一六時間三〇分に一六出番を乗じたもの)、タクシー乗務の場合にはA勤、C勤ともに二四七時間(一出番一九時間に一三出番を乗じたもの)となり、出番数もハイヤー乗務の場合一六出番であるのに、タクシー乗務の場合には一三出番となっている。しかし、月間所定実労働時間を比較するとハイヤー乗務の場合には一九二時間(一出番一二時間に一六出番を乗じたもの)、タクシー乗務の場合には二〇八時間(一出番一六時間に一三出番を乗じたもの)になる。また月間深夜労働時間を比較すると、ハイヤー乗務の場合には四八時間(一出番三時間に一六出番を乗じたもの)、タクシー乗務の場合にはA勤では五二時間(一出番四時間に一三出番を乗じたもの)、C勤では七一時間三〇分(一出番五時間三〇分に一三出番を乗じたもの)となる。
<3> 労働密度
ハイヤー乗務の場合には、実労働時間中には顧客の注文を待つため、池袋ハイヤー営業所内のハイヤー運転手控室で待機していたり、あるいは走行途中に駐車場の控室で待機するいわゆる手待ち時間がある。この手待ち時間は一出番中五時間ないし六時間に及ぶこともあり、この時間中には車の手入れや地理の勉強をすることのほか、テレビを見たり、読書をすることも黙認されていた。
これに対し、タクシー乗務の場合にはこのような手待ち時間はない。
また、ハイヤー乗務とタクシー乗務の一日の全走行距離を比較するとハイヤー乗務の場合には、一日平均約一八〇キロメートルであるのに対し、タクシー乗務の場合には、一日平均三三〇キロメートルないし三四〇キロメートルとなる。
(3) 賃金体系について
ハイヤー及びタクシー運転者の賃金体系については、ハイヤー、タクシー各運転者給与取扱細則が定められている。同各細則によると、特別年功給についてはタクシー運転者の方がハイヤー運転者に比較して八一二円高く、乗務手当についてもタクシー運転者の方がハイヤー運転者に比較して少ない乗務回数から手当がつくこと、また歩合給及び歩率についてはハイヤー乗務の場合には二五万八〇〇〇円を足切額とし、同額を超える部分について二〇パーセントの歩率で歩合給を支給するのに対し、タクシー乗務の場合には、三〇万三〇〇〇円(一三勤の場合。一二勤の場合には二九万九〇〇〇円)を足切額とし、同額をこえる部分について四〇パーセントの歩率で歩合給を支給するものとしている。
ところで、ハイヤー乗務の場合月平均三〇時間の残業をするのが常態であり、タクシー乗務の場合には監督庁からの午前二時帰庫の指導もあって残業は多くても月五時間ないし六時間から一〇時間程度である。そして残業手当等の基準外賃金を含めた総給与の一人平均支給額は、昭和四七年当時ハイヤー乗務の場合の方がタクシー乗務の場合に比し一万円ないし二万円上回っており、昭和五五年当時も同様に上回っているが、基準内賃金のみの一人平均支給額で比較すると昭和五五年当時ではタクシー乗務の場合の方がハイヤー乗務の場合に比べ四〇〇〇円ないし五〇〇〇円上回っていた。しかも、原告は池袋ハイヤー営業所勤務中残業や休日出勤をしなかったので、タクシー乗務となり通常の勤務をすれば、月二万円位の賃金増額が見込まれた。
(4) その他
ハイヤー乗務の場合、客が顧客であるから言葉遣いや運転マナー、服装、身だしなみに注意し、客の乗り降りの際にはドアーを開閉するといったサービスが必要となるが、タクシー乗務の場合にはそのような必要はなかった。
(三) 原告の組合活動
原告は、被告入社後支部組合員となり、昭和四九年九月には、組合の執行委員長に立候補し、その後も支部の支部長に立候補するなどしていた。その間原告は前記のとおり昭和五四年六月二〇日「帝労を強くする会」名で夏冬一時金の具体的配分方法の事前公開や午前二時帰庫問題について記載したビラを配付したり、池袋労働基準監督署に対して残業手当未払分の是正を求めて申立を行った。その外、原告は前記のとおり、被告を相手方として東京都地方労働委員会に救済申立(都労委昭和五二年(不)第一一号事件)を行っている。
なお、本件配転により、原告の組合員資格には変更はないが、タクシー乗務の性質上就業時間中の他組合員との接触は少なくなる。
証人柴田利邦、同佐藤悟朗の各証言中右認定に反する部分は措信しない。
被告は就業規則五条により従業員に対し配転を命じ得、従業員は正当な理由がなければ、これを拒否することができないところ、原告は本件配転命令は労働条件の不利益な変更を命ずるものであって許されないと主張するので、まずハイヤー乗務とタクシー乗務との労働条件について検討する。ハイヤー乗務とタクシー乗務は同じく客の輸送を目的とするものではあるが、客の獲得の方法が異なることから乗務態様を異にする結果となるが、ハイヤー乗務からタクシー乗務に変ったからといって運転技術その他に特段の技術を要するものとはいえず、ハイヤー乗務と異なりタクシー乗務では一日の人の流れを知るなどの必要はあるものの、それは習熟の問題に属するのであって、タクシー乗務は通常の能力を有するものであれば、十分に乗務できるものと認められタクシー乗務がハイヤー乗務に比して、この点で不利益とはいえない。次に勤務体系のうち労働時間についてみると、まず月間所定拘束時間はハイヤー乗務の方がタクシー乗務に比して長く、また出番数もハイヤー乗務の方が多い。しかし月間実労働時間数や深夜勤時間数はタクシー乗務の方がハイヤー乗務に比して長くなっているのである。このように労働時間と出番数を合わせてみると、タクシー乗務がハイヤー乗務に比して労働時間の点で必ずしも不利益ということはできず、出勤時間が早くなることのみをもって不利益ともいえない。そして、労働密度の点についてみると、ハイヤー乗務の場合には手待ち時間もあり、また走行距離もタクシー乗務に比較して短いといえるが、他方タクシーの場合走行距離は長いものの運転中随時休息できることもあり得るといえること、また客に対する緊張度もタクシー乗務に比しハイヤー乗務の方が高いものと推認せられることからすれば、手待時間の存在や走行距離の差から、直ちに、タクシー乗務がハイヤー乗務に比して労働密度が不利益になっているということはできない。そこで次に賃金体系について検討すると働高に対する歩合給及び歩率を比較すると、タクシー業務の方がハイヤー業務に比して刺激的要素が強いことが認められるが、そのことから直ちにタクシー乗務の方がハイヤー乗務に比して労働条件が不利益であるとはいえず、しかもタクシー乗務では、特別年功給、乗務手当の支給についてはハイヤー乗務に比して有利に扱われていることからすれば、その賃金体系において特別な不利益はなく、また、総給与平均においてハイヤー乗務の方が上回るとしても、基準内賃金ではタクシー乗務の方が上回ること及び原告が今まで残業、休日出勤しなかったことを考慮するとハイヤー乗務からタクシー乗務に配転になったからといっていまだ賃金関係において不利益を与えるものということはできない。
なお、原告はタクシー乗務とハイヤー乗務とでは使用する車種が異なり、ハイヤー乗務の方が乗心地が良く、またタクシー強盗に合う機会が少ない旨主張するが、ハイヤー乗務使用の車種の方が乗心地が良いとしても、顧客に対する緊張度が高いことを考慮すれば必ずしも労働条件が不利益となったということはできず、またタクシー強盗に合う機会が多いことが労働条件を不利益にするものともいえない。また事故率や社会的評価に差があるとの確たる証拠もない。
したがって、本件配転命令が原告に乗務態様等労働条件の面で不利益を与えるものであると認めることはできない。
次に原告は本件配転命令は不当労働行為であり、また権利の濫用である旨主張するのでこの点について検討する。本件配転命令は右認定のとおり、柴田から暴行を受けた原告が柴田を告訴し、また柴田を被告として訴訟を提起したことに対し、職場内で原告に対する不満が高まり、原告を職場から排除して欲しい旨の上申書が出されたことを契機としていること、そして上申書の署名活動には、佐藤所長や支部長橋本の職場集会での発言が影響していること、被告は柴田が原告に暴行を加えていないと判断していたこと、他方原告は組合においてその執行委員長或いは支部の支部長に立候補したり、被告を相手方として救済申立をし、行政官庁に労働基準法違反の是正を求めて申立をなしたりして活動していること、が認められるが、他方右上申書が提出されたころの池袋ハイヤー営業所では、原告は従業員から告訴を取り下げるよう脅かされたり、原告も髪の毛一本抜けても傷害罪が成立するときいていると反論するなど身構えた勤務態度であったこと、また原告は組合や支部相手に訴訟を起こしたり、組合から救済申立を取り下げるよう勧告されることもあり、池袋ハイヤー営業所の従業員には原告を快く思っていなかったことも認められ、これらの事実によれば本件配転命令が出された昭和五五年五月一五日当時原告は池袋ハイヤー営業所内では他の従業員との融和を欠き、職場内は険悪な雰囲気になっていたものと推認されるのであり、しかも、その原因は佐藤所長らの発言に基因するというよりも、職場内での原告に対する不満が表面化したものといえるのである。また本件配転命令は原告の組合員資格に何ら変更をもたらすものではなく、ただ勤務時間中の他の従業員との接触が少なくなる程度の活動上の影響があるにすぎない。こうしてみると、暴行の加害者である柴田ではなく被害者である原告が配転されることはその限りでは不公平な扱いとみえるが、職場内の融和が現に乱され、その原因が右のとおり原告にある以上職場秩序維持の観点から、被告は、就業規則に基づき原告に配転を命ずることができるのであり、組合活動への影響の程度をも考慮すると職場秩序維持を理由とする本件配転命令は、原告の組合活動を嫌悪して行ったものとはいえず、不当労働行為にはあたらない。そして、本件配転命令は右のような理由に基づくものであって、勤務場所は同一であり、労働条件も前記のとおり不利益に変更されたことも認められないことからすれば、いまだ本件配転命令をもって権利の濫用ということもできず、原告に本件配転命令を拒否しうる正当な理由を見出せない。
従って、本件配転命令に関する原告主張の無効事由はいずれも認められない。
四 解雇について
1 原告が、本件配転命令を拒否したことは当事者間に争いがないところ、右拒否行為は、就業規則五八条七号にいう解雇事由である「其の他已むを得ない必要がある時」に該当するものということができる。
2 ところで原告は、本件解雇は解雇手続に違反し、また権利の濫用として無効である旨主張するのでこの点について判断するに、当事者間に争いのない事実、(証拠略)、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、次の事実が認められる。即ち、
(一) 本件配転命令を受けた原告は、配転を命ぜられた昭和五五年五月二一日以降も池袋ハイヤー営業所に赴いて文書をもってハイヤーの配車を要求し、解雇された同年六月六日まで同様の要求を繰り返した。こうした原告の態度に対し、被告は本件配転命令に従うよう勧告するとともに、配転先である安達池袋第二営業所々長や辻タクシー部長からも原告に対し本件配転命令に従うよう勧告したが、原告はいずれも拒否した。
なお、原告は、同年五月二一日原告を相手方として東京都地方労働委員会に対し、本件配転命令が不当労働行為に当たると主張して救済申立を行った。
(二) 被告は、原告の本件配転命令(ママ)は解雇に値するものと判断し、組合との間で原告の解雇について協議することとした。これは、被告と組合との間の労働協約で就業規則五八条七号該当を理由とする解雇の場合には解雇に関し組合との間で協議することが手続的に要求されていたためである。
被告は、同年六月三日、労使協議会を開催した。協議会は被告側から小尾三五郎常務取締役、片倉専務取締役、小池人事部長、組合側からは鈴木執行委員長、川本副執行委員長、釜田書記長が出席し、席上被告側から原告が本件配転命令を拒否しているとの報告がなされ、拒否が解雇に値するか否かについて協議が行われたが組合側も解雇は止むを得ないとして原告の解雇を了承した。そこで被告は同月六日原告に対し本件解雇の意思表示を行った。
なお、同月六日は、右救済申立事件について東京都地方労働委員会において、被告からの事情聴取が予定されており、被告もそのことは十分知悉していた。
右事実を基礎に、まず、手続違反の点について検討する。本件の如く就業規則五八条七号によって解雇する場合には組合との協議が必要なところ、昭和五五年六月三日開催された労使協議会では、被告からは原告が本件配転命令を拒否しているとの報告がなされ、そのことが解雇に値するか否かの協議がなされたにすぎず、本件配転命令の当否にまで議論がなされていないことが認められるが、しかし、本件配転命令は、組合側に通知されており、また、本件配転命令の契機となった上申書は、支部組合員を含む池袋ハイヤー営業所のほぼ全従業員の署名活動の結果であったとすれば、本件配転命令の当否について組合側として十分判断しうる状況にあったものというべきであり、組合側から本件配転命令の当否について疑問が出されたとの事情もない本件のもとでは、組合側としてはむしろ本件配転命令を是認していたものといえるのであって、労使協議は尽されたとみるべきであり、原告の手続違反の主張は理由がない。
次に原告の解雇権濫用の主張について判断するに、本件配転命令が被害者たる原告を配転させるものであって、その限りでは当事者に不公平感を持たせるものといえるが、前示のとおり職場秩序を乱した原因が基本的には原告にあること、原告は被告からの事情聴取には応じないとの態度を採っていたこと、また職場秩序維持の観点等からすれば、本件配転命令は是認されるものであり、手続的にも組合との協議を尽していることからすれば、本件解雇が権利の濫用に当たるということはできない。なお、本件解雇の日が東京都地方労働委員会の事情聴取の日であったことは前示のとおりであるが、事情聴取の日であることが当事者を何ら拘束するものでもなく、また解雇事由が存在する者を企業内に留めて置く理由となるものではないから、右のような事情があったからといって本件解雇が権利の濫用に当たるともいえない。
以上のとおりであるから、原告の本件解雇が無効であるとの主張は理由がない。
五 以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 遠山廣直)