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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)1613号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一原告が本件土地の所有者であつて、被告が右土地上に本件建物を所有し、占有していることは当事者間に争いがない。

二1 原告と被告が亡父勝五郎と母恵の子であること、被告は昭和四二年一〇月一日結婚し、母恵と同居していたが、昭和四三年五月に転勤により静岡に転出したこと、原告は昭和四五年秋、原告が大阪より東京へ転勤となり、母恵と本件土地上に存した木造建物内で同居したが、原告が昭和四六年夏、現住所に転居したことは、いずれも当事者間に争いがない。

2 右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は亡父勝五郎と母恵の次男として生まれたが、長男が五才で死亡したことから、実質的に長男として、昭和二〇年三月一〇日空襲で死亡した父勝五郎から同日付で家督相続により本件土地の所有権を取得することになつた。その後、母恵は本件土地上に六畳二間のバラックの建物を建て都の住宅資金を借りて改築や増築をし、その建物でお茶の販売をしながら、女手一つで原被告を含めて、三人の子供を養育してきた。右のように、本件土地は原告の所有であつたが、母恵が自分の一存で建物を建てこれを自己名義で登記し、公祖公課を納める等一切の管理使用をしていたが、原告もこれを当然のこととして一切の異議や苦情はなかつた。

(2) 原告は昭和二九年四月日本放送協会に就職し昭和三七年四月大阪転勤となり、そこでの勤務も長くなつたので昭和四五年三月奈良に永住するため土地建物の購入代金一四〇万円のうち母恵から一〇〇万円の援助を受けた。原告が大阪に勤務している間被告は母の恵と同居し、都内に勤務していたが、昭和四三年五月静岡に転勤し永住するつもりでいた。

(3) 原告は、昭和四五年秋、急に東京転勤を命ぜられ、本件土地上に存した木造家屋において母恵と同居したが、些細なことから折合が悪くなり時には原告が母恵を殴打することもあつて、恵から別居するよう要求され、同居後わずか一年間で、現住所地に別居した。他方、被告は、恵が原告と別居後、一人暮しとなり、病気がちで同女から同居を要請されたことから、上司に願い出、永住を考えていた静岡県から東京へ転勤させてもらい、恵と同居することになつた。

(4) 本件土地上には前認定のとおり恵の建てた粗末なバラック風の建物があつたが、雨漏りや破損が甚だしく、昭和五一年頃には建て替えが必要となつた。そこで被告は、昭和五一年ころから、原告に本件土地の所有権を無償で譲つてくれるよう申し入れたところ、原告から、被告が将来恵を扶養し、冠婚葬祭の一切をとり行うならば、被告の長男に贈与することを遺言しても良い旨の返答を得たが、右原告の提案は、現在の権利を安定させることにならないので断わり、その後、何度か被告あるいは恵が原告と折衝したが、話し合いがつかず、有償の譲渡の申し入れも拒否された。そして、本件土地上に建物を建て替えることについても原告から共同住宅なら考慮してもよいが、それ以外の建物の建築には同意できないと拒絶され、住宅金融公庫から融資を受けるため原告の承諾のないのに原告の承諾書を作成し本件建物を建築した。

三右認定に即して被告の抗弁について判断する。

1 使用貸借契約の成立<省略>

2 権利の濫用

原告の所有する土地を被告が勝手に「住宅建築に関する地主の承諾書」(甲第一号証)を作成し、堅固な本件建物を建設したことにつき、原告が立腹するのは理解できないわけではない。しかし、原告は肩書現住所にマンションを所有し、左程不自由なく生活している。他方、被告は、本件建物以外に所有する家屋がなく、妻子と年老いた母恵とともにこの建物に居住する必要がある。そして、被告が本件土地上の本件建物に母恵と同居するに至つたのは、原告と恵との折合が悪く、別居し、病弱の母親を扶養するため永住を考えていた静岡県から転居してきたというように、その責任の一端は原告にある。さらに本件土地は、原告の単独所有となつているが、もともとは亡勝五郎の所有のところ、同人の空襲による死亡で旧法下の家督相続制度の故に、原告の単独所有となつているに過ぎず、恵が戦後、原被告を育てるため、本件土地上にバラックを建て自己の一存で増改築をし、登記も経由していることや公粗公課を始めとする本件土地の管理一切を行い、又原告には、本件土地に代るべき土地取得に際し、苦労して送金していること等前認定の諸事情を考え合わせると、原告の本訴請求は公平性、妥当性を欠く虞れがないとはいえない。反対に、このために、母恵を含めた被告の家族の家庭生活は破壊され、著しい支障をもたらすおそれが多分にあるから結局、権利の濫用にあたると解するのほかない。

よつて、被告の抗弁は理由がある。

(岡田潤)

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