東京地方裁判所 昭和55年(ワ)4353号 判決 1980年11月14日
原告(反訴被告) 破産者三昌機械株式会社破産管財人 山田治男
被告(反訴原告) 新日本工機株式会社
右代表者代表取締役 山口久吉
右訴訟代理人弁護士 木戸孝彦
同 池田映岳
同 原田肇
主文
一 訴外東洋エンジニアリング株式会社が昭和五四年八月八日東京法務局に対し昭和五四年度金第五四三五九号をもって供託した金六六五万円の還付請求権は原告(反訴被告)がこれを有することを確認する。
二 被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。
三 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、被告(反訴原告)の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 本訴請求の趣旨
1 主文一項と同旨
2 訴訟費用は被告(反訴原告―以下単に「被告」という。)の負担とする。
二 本訴請求の趣旨に対する答弁
1 原告(反訴被告―以下単に「原告」という。)の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
三 反訴請求の趣旨
1 訴外東洋エンジニアリング株式会社が昭和五四年八月八日東京法務局に対し昭和五四年度金第五四三五九号をもって供託した金六六五万円の還付請求権は被告がこれを有することを確認する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
四 反訴請求の趣旨に対する答弁
1 被告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第二当事者の主張
(本訴)
一 請求原因
1 訴外三昌機械株式会社(以下「破産会社」という。)は、東京地方裁判所において、昭和五二年一〇月三日午後三時、同庁昭和五二年(ク)第一九九号事件として破産宣告を受け、原告が右会社の破産管財人に選任された。
2 破産会社は、訴外東洋エンジニアリング株式会社(以下「東洋エンジニアリング」という。)に対し、昭和五一年六月一〇日、被告会社製の工作機械三台(以下「本件工作機械」という。)を一億四三五〇万円で売り渡した(以下、右代金債権を「本件債権」という。)。
3(一) 原告及び東洋エンジニアリングに対し、昭和五四年四月一一日、本件債権のうち六六五万円についてなされた被告申請による東京地方裁判所昭和五四年(ル)第一五〇四号、同(ヲ)第四四七九号差押、転付命令が送達された。
(二) 東洋エンジニアリングは、昭和五四年八月八日、東京法務局に対し、本件債権のうち右六六五万円を債権者不確知を理由として昭和五四年度金第五四三五九号をもって供託した(以下「本件供託」という。)。
4 被告は、本件供託による還付請求権(以下「本件還付請求権」という。)を有すると主張する。
5 よって、原告は、被告に対し、原告が本件還付請求権を有するとの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因事実はすべて認める。但し、被告から東洋エンジニアリングに対し前記のとおり差押、転付命令がなされており、それは有効であるから、本件供託は、債権者不確知ではなく、供託原因を欠き無効である。
三 抗弁
1 被告は、破産会社に対し、昭和五一年五月三一日、本件工作機械を一億三三〇〇万円で売り渡した。
2 請求原因事実2と同じ
3 被告は、昭和五四年四月、本件債権のうち六六五万円について、東京地方裁判所昭和五四年(ル)第一五〇四号、同(ヲ)第四四七九号債権差押、転付命令を取得し、右命令は、同年四月一一日、原告及び東洋エンジニアリングに送達された。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実はすべて認める。
五 再抗弁
1 被告は、昭和五二年一一月八日、破産会社の破産手続(以下「本件破産手続」という。)において、被告の破産会社に対する本件工作機械の売買代金債権を一般破産債権として届出た。
2 右届出債権は、昭和五三年五月一〇日、本件破産手続の債権調査期日において、一般破産債権として確定した。
3 原告は、被告に対し、昭和五三年九月二八日、中間配当として五パーセントの配当率通知を発した。
4 したがって、被告は、右売買代金債権を一般破産債権として届出たことにより、先取特権を放棄したものというべきであるし、少くともその後2、3項記載の事由発生とともに被告は別除権の主張をなしえなくなったものというべきである。
六 再抗弁に対する認否
再抗弁1ないし3の各事実は認める。
同4は争う。
(反訴)
一 請求原因
1 本訴抗弁事実1、2及び3と同じ
2 本訴請求原因事実1及び3と同じ
3 原告は、本件還付請求権を有すると主張する。
4 よって、被告は、原告に対し、被告が本件還付請求権を有するとの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因事実はすべて認める。
三 抗弁
本訴再抗弁事実1ないし3と同じ
四 抗弁に対する認否
抗弁事実はすべて認める。
第三証拠《省略》
理由
(本訴)
一 請求原因について
1 請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
2 そこで、本件供託の効力(供託原因の存否)について判断する。
東洋エンジニアリングによる本件供託は、債権者不確知を理由としてなされたものであるところ、民法四九四条後段に定める供託原因は、事実上であると法律上であるとを問わず債権者が誰であるかを確知しえないことであって、本件のように破産会社の破産宣告後、右会社に対する動産先取特権に基づく物上代位権に基づき差押、転付命令が送達された場合、右差押、転付命令の効力については解釈上争いのあるところであって(被告は右差押、転付命令が確定的に有効であると主張するが)、第三債務者たる東洋エンジニアリングとしては、右差押、転付命令の効力如何により債権者が異ることになるのであるから、まさに債権者を確知しえない場合というべく本件供託は有効である。
二 抗弁について
1 抗弁事実は、すべて当事者間に争いがない。
2 そこで、本件差押、転付命令の効力について判断する。
(一) 民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するには金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をなすことを要すると規定した趣旨は、物上代位権の対象となる債権を特定するためだけではなく、物上代位権の存在を公示し取引の安全を保護するにあるものと解するのが相当である。したがって、先取特権者が物上代位権を行使するためには、先取特権者は自ら差押をしてその物上代位権の存在を公示することが必要であり、これにより、初めて第三者にその優先権をもって対抗することができるものというべきである。従って、物上代位権の対象となる債権が他から差押を受けたり他に譲渡もしくは転付される前にこれを差押えない限り、先取特権者は右差押債権者等の第三者にその優先権をもって対抗することができないものである。
(二) ところで、破産宣告は、破産者の財産につき破産財団を成立させ、右財産に対する破産者の管理処分権を剥奪し、これを、第三者たる破産財団の代表機関の破産管財人に属させることにするものであるから、先取特権者は破産宣告前に物上代位権の対象たる債権を差押えない限り第三者たる破産管財人に対し別除権の行使として物上代位権を行使して優先権を主張することはできないと解すべきである。
(三) そこで、本件差押、転付命令につきみるに、これが破産会社の破産宣告後なされたものであることは明らかであるから、被告は、原告に対し、その対象たる債権について別除権の行使として物上代位権を行使することはできず、したがって、本件差押、転付命令は無効であるというべきである。
以上のとおりであるから、本件差押、転付命令によって、原告が東洋エンジニアリングに対する債権を喪失し、本件還付請求権を有しない旨の被告の抗弁は失当であるといわざるを得ない。
(反訴)
一 請求原因について
請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
被告の本件差押、転付命令は前述のとおり無効と解すべきであるから、被告の反訴請求は失当である。
(結論)
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容し、被告の反訴請求は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 和田日出光)