東京地方裁判所 昭和55年(ワ)4596号 判決
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【判旨】
請求原因1について判断するに、<証拠>を総合すると、被告が昭和五三年五月頃、その所有する貸ビルである八千代ビル三階160.50平方メートルが空室となつたので、貸室がある旨掲示したところ、千代田リースの監査役であり、パレスゴルフの社員であつた山田行雄が電話で右ビル三階の借り受け申し込みをしてきたので、被告代表者柳下文子と右山田との間で賃貸借条件の交渉がなされ、両者間で契約条件がすべて取り決められた後、契約書に調印する段階となつて山田から柳下に対し、「実際にはパレスゴルフに使わせてもらいたい」旨要請があり、柳下はこれを承諾し、同月二二日八千代ビル三階について、借主を千代田リース、転借人をパレスゴルフと表示した賃貸借契約書(乙第一号証)が作成され、同日千代田リースの名前で敷金九七一万円が預託されたこと、更に昭和五四年六月頃八千代ビル二階がたまたま空室となつたことから、前同様に山田が柳下に対して「パレスの社員がふえたから二階も契約したい」旨述べて、同月一〇日右柳下と山田との間で相模台ゴルフを借主、パレスゴルフを転借人と表示した貸室賃貸借契約書(乙第一号証)が作成され、相模台ゴルフの名前で同月一五日までに敷金一、二〇〇万円が被告に対して預託されたこと、その後、被告に対する賃料の支払いは千代田リース、又は相模台ゴルフの名前でなされたが、千代田リース、相模台ゴルフは一度も八千代ビルを使用することがなく、現実にはパレスゴルフのみが八千代ビル三階及び二階を使用してきたこと、が認められる。
他方、<証拠>を総合すると、パレスゴルフは昭和四三年一月、資本金二億四千万円で設立され、同四六年に静岡県函南町にゴルフ場をオープンし、同町及び小田原市に計五四ホールのゴルフ場を持ち、順調に営業を続けていたが、昭和四八年ころから同社執行部の乱脈経理などのため経営が悪化しはじめたこと、訴外吉村金次郎は右経営の悪化しはじめたパレスゴルフの株式や債権を買集め、同五三年四月に同社の社長として乗りこんで経営権を握り、その経理を自由に操作するかたわら会員権を乱発したこと、右吉村はパレスゴルフの社長に就任するのと前後して千代田リース(昭和五三年三月二七日設立)、相模台ゴルフ(同五三年一二月二五日設立)、辛川商店など実体のない名前だけのダミー会社を次々と十社近く設立し、それらのダミー会社の一社からパレスゴルフに資金を融資し、半年あるいは一年後、返済期限がくると元金、利子を全額取り立て、しかも借用証等の書類は返さずに自己の操作する他のダミー会社に譲渡し、譲受会社をして該借用書類を用いて更にパレスゴルフからの取立をくりかえさせる等の背任行為をしたこと、しかもそれらの作為的な貸付は法定利息をはるかに上回る月一八パーセント以上の高利でかつ複利計算がなされたため、当初の貸付額は数千万円に過ぎなかつたにもかかわらず、吉村が前記各ダミー会社によりパレスゴルフから右のような方法で取立てた総額は元利計一五億円近くにものぼつたこと、吉村の該背任・横領行為のくりかえしにより、パレスゴルフは昭和五六年二月約一六〇億円もの負債をかかえて倒産したこと、吉村はその支配する千代田リース、相模台ゴルフ等の前記ダミー金融会社の不正な帳簿操作による一億四、〇〇〇万円の脱税が発覚し、同年九月九日東京地方検察庁特捜部により逮捕されたこと、更に吉村は同人がパレスゴルフの社長に就任した昭和五三年四月から一年のうちに一万枚余の会員権証を乱発し、それによつて得た売得金の一部一億円と、激増した会員から集めた年会費五億円余から四億七、五〇〇万円を着服していたとして同年九月二四日業務上横領、背任の疑いで再逮捕され、翌一〇月一四日同容疑で起訴されたこと、以上の事実が認められる(上記認定に反する証人山田行男の証言部分は措信できない)。
右事実に前記、本件八千代ビル三階及び二階がパレスゴルフのみによつて使用され、千代田リース、相模台ゴルフは賃貸借契約書に名前を表示されたのみで、一度も同ビルの使用をしなかつた事実等を併せ考えると、吉村らによつて専らパレスゴルフの資産を横領する為にその名前を利用されたにすぎない、しかも何等実体のない千代田リース、相模台ゴルフが、真実、本件各賃貸借契約の当事者であり、敷金を被告に預託したものとは到底考えられず、本件各賃貸借の実際の契約当事者(借主)はパレスゴルフであり、千代田リース、相模台ゴルフは右吉村及び山田らによつてその名前を作為的に利用されたにすぎず、本件各敷金もパレスゴルフによつて拠出されたものと推認することができる(被告において、本件賃貸借契約の相手方を千代田リース乃至相模台ゴルフの名称で認識していたとしても、その実態が千代田リース又は相模台ゴルフことパレスゴルフであり、前者の各表示は吉村、山田らのパレスゴルフ役員らにより作為的に利用されていたにすぎないものであり、本件各賃貸借契約は千代田リースことパレスゴルフ、又は相模台ゴルフことパレスゴルフと被告間にそれぞれ成立したものと解されるから、その効果に何等の消長をきたさないものというべきである)。 (笠原嘉人)