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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)5489号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因について

1(一) 請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがない。

(二) そして、<証拠>によれば、てると原告との間に本件死因贈与契約が締結された事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(三) 請求原因1(三)の事実は当事者間に争いがない。

2 請求原因2及び3の事実は当事者間に争いがない。

二抗弁について

<証拠>を総合すると本件死因贈与契約は書面によらない贈与であると認められ、被告らが昭和五五年七月七日の本件第一回口頭弁論期日において原告に対し右贈与契約を取り消す旨の意思表示をしたことは記録上顕著である。

原告は、この点に関し、てるは、昭和五四年三月二〇日、訴外丹羽通博との間で、てるが原告に本件建物をその敷地の借地権とともに贈与する旨の意思表示を記載した「覚書」と題する書面を作成している旨主張するが、書面による贈与といいうるためには、贈与者の贈与の意思が書面に記載され、右意思がこれによつて受贈者に対して表示されることが必要であるところ、原告の右主張に対応する書面である前掲甲第一号証は、その中にてるから原告に本件建物を贈与する旨の記載はあるけれど、てると丹羽通博との間の覚書にすぎないものであつて、しかも、てるがこれによつて原告に対して贈与の意思表示をしたとの事実は本件全証拠によつても認められないから、右覚書の存在をもつて本件死因贈与契約を書面による贈与とみることはできないというべきであり、結局、原告の右主張は失当である。

三再抗弁について

1 <証拠>総合すると再抗弁1(一)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。なお、被告は、原告がてると同居することは、負担付贈与契約における負担といえるものではない旨主張するが、従前居住していた住居を引き払つて、肝臓に持病を持つ老令者と同居し、その身の回りの世話をすることは、これをもつて負担付贈与契約における負担とみることに何ら支障のないものというべきであるから右主張は失当である。

そして、<証拠>を総合すると、原告が右約定に従い、昭和五三年三月二六日より家族ともども従前の住居を引き払い、本件建物に転居し、本件建物においててると同居し、(原告がてると同居したことは当事者間に争いがない。)、以来、同人と生計を一にして食事、洗濯、掃除、買物等の家事を行うとともに、てるの生存中、同人が自らなしうること以外の同人の身の回りの世話一切をみてきたとの事実が認められる。ただ、<証拠>によれば、てるが根本萬介や被告山田善吾に対し、原告と一緒に住むようになつてから原告と気が合わないことが多いとか、今後原告にはお世話になれないというような発言をしたことがあるとの事実が認められるが、右発言はその内容が具体性を欠くものであるうえ、原告が右の負担を実行していないという趣旨のものではないし、しかも、<証拠>によつて認められるてるは酒ぐせが悪いうえ、気分屋で気むずかしい性格の持主であつて、被告根本ワキともよく喧嘩をしており、被告山田善吾の妻との間もうまくいかないような状態であつたこと、<証拠>によつて認められるてるが被告山田善吾に対して右発言をしたときには、てるは相当酒に酔つていたこと、前記認定のてるが死亡するまで原告との同居を継続していたこと、<証拠>によつて認められるてるが死亡する約一か月前の昭和五四年三月二〇日に本件建物を原告に贈与する旨の記載のある書面(甲第一号証)を作成していることなどを合わせ考慮すれば、てるが右の発言をしたという事実のみによつては原告が負担を実行したとの右認定は左右されることはないというべきであり、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

2 なお、原告が本件死因贈与契約中の約定に基づいて、家族ともども従前の住居を引き払い、本件建物に転居し、てる死亡の時点でも本件建物に居住していたことは前記認定のとおりであるところ、この場合にはてるの死亡により本件死因贈与の効力が生じ原告がその所有権を取得した時点で本件建物の引渡があつたものというべきであり、したがつて、本件死因贈与契約の履行はすでに終了しているというべきである。

そうすると、いずれにしても、被告らの本件死因贈与契約の取消の主張は失当というべきである。

(窪田正彦)

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