東京地方裁判所 昭和55年(ワ)6265号 判決
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【判旨】
一請求の原因1(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。
二請求の原因2の事実のうち、昭和五三年一二月二五日、本件居間中央に設置されていた本件こたつから出火し、火は被告建物を全焼したほか原告建物に延焼したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件火災の発生時刻は午後一一時三〇分ころであることが認められる。
三1 <証拠>によれば、本件こたつの構造及び用法は、大略次のとおりであつたことが認められる。
(一) 本件こたつは昭和二五年ころ作られたもので、人が畳に腰掛けて足を中へ下げ入れて暖をとる、いわゆる掘こたつであつて、その畳と同一平面の部分は八八センチメートル四方の方形の木枠に囲まれ、同木枠から深さ約三四センチメートルの位置に底板があり、同底板の中央部分に直径約三五センチメートル、深さ一五センチメートル、厚さ1.5ミリメートルの鍋形の本件火種容器が設置されていた。本件火種容器の最上部は四三センチメートル四方の方形状に広がつており、この水平方形部分は右底板の木枠(以下「本件側部木枠」という。)によつて支えられていた(本件火種容器が存在したこと自体及びそれが本件側部木枠によつて支えられていたことは、当事者間に争いがない。)。また、同火種容器の五分の三の深さまでは外側が地面に埋まつており、同火種容器が地表に接する部分は、囲りを直径三〇センチメートルの円形状の木枠(以下「本件底部木枠」という。)によつて支えられていた。他方、右底板の上方に人が足を置くための木製すのこ(太さ三ないし四センチメートルの角材を格子形に組み合わせたもので、中央部分は炭の出し入れのため直径約四〇センチメートルの円形の穴が開けられており、本件こたつからの取り外しは自由にできた。)が設置されており、また、本件こたつ内には、本件火種容器のほか、ブリキ製炭入れ容器、陶器製火消つぼ、ブリキ製火起し容器、本件火種容器のブリキ製蓋、火箸が置かれていた。
(二) 本件こたつは、本件火種容器に灰を入れたうえ、火を起した炭をその上に置いて熱源とするもので(この事実は当事者間に争いがない。)被告は昭和二五年ころ本件こたつが設けられて以来、毎年冬の間前記方形の木枠の上にこたつ用のやぐらを置き、同やぐらの上にこたつ用の毛布と布団を掛け、その上に木製テーブル板を置いて使用してきた。
2 <証拠>によれば、本件火災の出火原因は、本件側部、底部各木枠が本件こたつの長年の使用により蓄積過熱されて炭化状態にあつたところ、本件火種容器内の灰の量が通常時に比べ少量であつたことから、本件こたつの使用によつて過度に加熱され、ついに右底部木枠が発火したことにあるものと推認することができる。
四被告の重過失の有無について判断する。
1 請求の原因4(一)について
<証拠>によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告は、昭和二五年ころ本件こたつを設置して以来本件火災発生時まで、本件側部、底部各木枠を一度も取り替えなかつた。
(二) 被告は本件火災発生当日である昭和五三年一二月二五日午後四時三〇分ころ、本件火種容器内の灰が少し多いように感じたので、同容器内の灰を前記火起し容器(内側の直径が一五センチメートルの半球型容器)に一杯取り出して庭に捨て、本件火種容器内の灰の量をその容器の容量の約三分の一とした(この点に関し、原告らは被告が右の際灰を大量に投棄した旨主張するが、その投棄量は右の限度で認定しうるにとどまる。)うえ、長さ約七センチメートルの錦炭三本、長さ七ないし八センチメートルの松炭二本及び前記火消つぼの中にあつた消し炭五ないし六本を右火起し容器の中に入れて火を起したうえ、本件火種容器に乗せて本件こたつを使用したが、被告は寝るまで右炭の他に新しい炭を継ぎ足すことはしなかつた。
(三) 被告は、同日午後一〇時三〇分ころ、右火種容器内から右錦炭及び松炭合計五本を前記火箸で取り出してこれを前記火消つぼの中に入れて火を消し、小さくなつた前日の残り炭は火がついた状態にしたまま、本件居間の隣室において就寝した(被告が同日午後一〇時三〇分ころ本件居間の隣室において就寝したこと自体は当事者間に争いがない。本件火災の現場検証調書である前掲甲第一号証の六中の写真をみると、本件火災発生時において、本件火種容器内に大量の炭が残存していたように看取しえないではないけれども、証人菅野昭治の証言によれば、本件こたつのやぐらやすのこ等の木製部分が燃焼して炭化片となり、本件火種容器内に落下した可能性があると認められるから、右写真に炭状に写し出されている物体の少なくとも一部は、炭ではなく右のような木製部分の炭化片であるとも考えられるのであつて、結局右甲第一号証の六によつては、被告が就寝した際本件火種容器内に大量の炭を燃焼状態のまま残存させ又は火のついていない状態で貯め置いていたと認定することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。)。
右認定事実によれば、被告は本件側部、底部各木枠を一度も交換しなかつたほか、本件火種容器内の灰の適量管理や就寝時の火種の後始末についてもきめ細かな配慮を欠くところがあつたことが窺われるけれども、前記認定にかかる本件こたつの構造及び用法に照らしてみると、右認定のような事情の下において本件底部木枠が蓄積過熱により発火するという如き事態は一般人にとつて必ずしも容易には予想しえないところであり、被告がこの点に関して特別の知識経験を有していたことを認めるべき証拠もない。そうとすると、被告の本件こたつの管理については、右のとおり、本件火災の出火原因に結びつくべき手落ちがあつたとしても、未だこのことについて被告に故意に近い著しい注意の欠如があつたということはできず、「失火の責任に関スル法律」但書に規定する重大な過失があつたとは到底いえない。
(篠田省二 小池信行 寺内保恵)