東京地方裁判所 昭和55年(ワ)652号 判決 1981年9月11日
原告 草野興産株式会社
右代表者代表取締役 大野顕
右訴訟代理人弁護士 中村健
同 鈴木三郎
被告 日商部品株式会社
右代表者代表取締役 中田敏郎
被告 東京ホンダ株式会社
右代表者代表取締役 中田敏郎
右被告両名訴訟代理人弁護士 高桑瀞
被告 中田芳郎
主文
一 被告中田芳郎は、原告に対し、一六九五万円と、これに対する昭和五五年一月二一日から支払いずみまで、年六分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告日商部品株式会社及び被告東京ホンダ株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用中、原告と被告中田芳郎との間に生じたものは被告中田芳郎の負担とし、原告とその余の被告との間に生じたものは原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告と被告日商部品株式会社との間において、被告中田芳郎が、被告日商部品株式会社に対して昭和五四年一二月一〇日別紙物件目録(一)記載の土地・建物についてなした代物弁済契約は、これを取り消す。
2 原告と被告東京ホンダ株式会社との間において、被告中田芳郎が、被告東京ホンダ株式会社に対して昭和五四年一二月一〇日別紙物件目録(一)記載の土地・建物についてなした代物弁済契約は、これを取り消す。
3 被告日商部品株式会社は、別紙物件目録(一)記載の土地・建物につき、浦和地方法務局志木出張所昭和五四年一二月一九日受付第六二七三二号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
4 被告東京ホンダ株式会社は、別紙物件目録(一)記載の土地・建物につき、浦和地方法務局志木出張所昭和五四年一二月一九日受付第六二七三二号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
5 被告中田芳郎は、原告に対し、一六九五万円と、これに対する昭和五五年一月二一日から支払いずみまで、年六分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(被告会社両名)
1 原告の被告日商部品株式会社及び被告東京ホンダ株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(被告中田)
1 原告の被告中田芳郎に対する請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告は、昭和五四年一一月二〇日、常磐塗装工業株式会社(以下「訴外常磐塗装」という。)に対し、一六九五万円を、弁済期昭和五五年一月二〇日との約定で貸し付けた。
(二) 被告中田芳郎(訴外常磐塗装の代表取締役である。以下「被告中田」という。)は、同日、原告に対し、前記(一)の訴外常磐塗装の債務を連帯保証する旨約した。
2 被告中田は、その所有に係る別紙物件目録(一)記載の土地・建物(以下「本件土地・建物」という。)につき、昭和五四年一二月一〇日ごろ、被告東京ホンダ株式会社(以下「被告東京ホンダ」という。)に対し、持分七分の四を、被告日商部品株式会社(以下「被告日商部品」という。)に対し、持分七分の三を代物弁済し、各持分につき浦和地方法務局志木出張所昭和五四年一二月一九日受付第六二七三二号所有権移転登記(当初持分二分の一の登記、昭和五五年二月一六日受付第五八四五号所有権更正付記登記により、被告東京ホンダの持分を七分の四、被告日商部品の持分を七分の三に更正した。)を経由した。
3 右代物弁済当時、訴外常磐塗装振出しの小切手の不渡り(右小切手を昭和五四年一二月二一日支払い呈示したところ、資金不足を理由に支払いを拒絶された。)が予想でき、訴外常磐塗装には前記借金の返済能力がなく、被告中田が前記連帯保証の責任を追及されるおそれがあったにもかかわらず、被告中田には、本件土地・建物のほかに財産はなかったのであるから、右代物弁済は、被告中田が債権者を害することを知ってなしたものである。
4 よって、原告は、被告東京ホンダ及び被告日商部品との間において、債権者取消権に基づき、被告らがした代物弁済契約の取消しと、前記所有権移転登記の抹消登記手続を求め、被告中田に対し、連帯保証金一六九五万円と、これに対する弁済期の翌日である昭和五五年一月二一日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
(被告会社両名)
1 請求原因1(一)ないし(三)の事実は不知。
2 同2の事実は認める。
3 同3は争う。
三 被告会社両名の主張
1 原告は、昭和五四年八月一三日、被告中田との間で、同人所有の別紙物件目録(二)記載の土地・建物について、極度額二〇〇〇万円、債権の範囲金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権及び手形割引取引、債務者訴外常磐塗装とする根抵当権設定契約を締結し、同月一四日その旨の仮登記を経由している。
したがって、原告が被告中田に対して有する前記債権は、右根抵当権により担保されているから、前記代物弁済によって債権者たる原告を害することはない。
2 被告会社両名は、以下のとおり、訴外常磐塗装に対する債権を担保するため、本件土地・建物につき根抵当権を設定していたところ、右根抵当権の実行にかえ本件土地・建物を代物弁済により譲り受けたものであるから、右代物弁済は詐害行為に該当しない。
すなわち、
(一) (被告日商部品関係)
(1) 被告日商部品は、昭和四五年一一月ごろから、訴外常磐塗装に対し、運転資金の援助をしてきた。
(2) 被告日商部品は、訴外常磐塗装に対する債権を担保するため、昭和四六年三月二七日、被告中田との間で、本件土地・建物につき、元本極度額一五〇〇万円の根抵当権設定契約を締結し、同月二九日その旨の登記を経由した。
(3) 被告日商部品は、前記(2)の根抵当権にかえ、昭和五二年七月二一日、本件土地・建物につき、極度額三〇〇〇万円、債権の範囲金銭消費貸借取引、手形債権及び小切手債権、債務者訴外常磐塗装なる根抵当権を設定し、同月二二日、その旨の登記を経由した。
(4) 被告日商部品は、昭和五四年一二月九日現在、訴外常磐塗装に対し、次のとおり、貸金元本二七三〇万七四七九円と利息(年六分)五二八万三九一二円の元利合計三二五九万一三九一円の債権を有していた。
(イ) 昭和五二年七月二五日 五五五万九四七〇円
(ロ) 同年八月二四日 五三九万三二二二円
(ハ) 同年九月二六日 六九二万三〇八七円
(ニ) 同年一〇月一九日 二四三万一七〇〇円
(ホ) 同年同月二五日 七〇〇万円
合計 二七三〇万七四七九円
(二) (被告東京ホンダ)
(1) 被告東京ホンダは、昭和四六年五月ごろから、訴外常磐塗装に対して、運転資金の援助をしてきた。
(2) 被告東京ホンダは、訴外常磐塗装に対する債権を担保するため、昭和五二年七月二一日、被告中田との間において、本件土地・建物につき、極度額四〇〇〇万円、債権の範囲金銭消費貸借取引、手形債権及び小切手債権、債務者訴外常磐塗装なる根抵当権を設定し、同月二二日その旨の登記を経由した。
(3) 被告東京ホンダは、昭和五四年一二月九日現在、訴外常磐塗装に対し、次のとおり、貸金元本三四四七万一〇〇九円と利息九三九万六六六四円の元利合計四三八六万七六七三円の債権を有していた。
期間 貸金額 返済額 残額
(イ) 昭和四六年五月六日から同年九月三〇日までの間 一七二七万七四〇四円 八八八万六六三三円 八三九万〇七七一円
(ロ) 同年一〇月一日から昭和四七年九月三〇日までの間 三〇〇〇万六〇九四円 二一二七万九五六〇円 一七一一万七三〇五円
(ハ) 同年一〇月一日から昭和四八年九月三〇日までの間 一四五七万九一七〇円 一七九三万二七七七円 二三七六万三六九八円
(ニ) 同年一〇月一日から昭和四九年九月三〇日までの間 一五三六万六九四二円 二一三四万七二四〇円 二七七八万三四〇〇円
(ホ) 同年一〇月一日から昭和五〇年九月三〇日までの間 二一六一万五六一四円 一九二五万六五九二円 三〇一四万二四二二円
(ヘ) 同年一〇月一日から昭和五一年九月三〇日までの間 二三〇五万五二五七円 二七三九万〇〇四一円 二五八〇万七六三八円
(ト) 同年一〇月一日から昭和五二年九月三〇日までの間 二四四五万一〇九八円 二〇四五万五一四四円 二九八〇万三五九二円
(チ) 同年一〇月一日から昭和五三年九月三〇日までの間 三五三六万六一八四円 三五七五万六五一四円 二九四一万三二六二円
(リ) 同年一〇月一日から昭和五四年四月二日までの間 一〇〇四万円 四九八万二二五三円 三四四七万一〇〇九円
(ヌ) 利息は、昭和四六年九月三〇日の決算の際には、貸出各月末の残高に対し年五分の割合で計算した。昭和四七年九月三〇日の決算から昭和五一年九月三〇日までの間は年六分で計算した。昭和五二年九月三〇日の決算から昭和五四年九月三〇日までの間は年三分で計算した(昭和五四年九月三〇日現在九一九万八五六〇円となる。)。同年一〇月一日から代物弁済の日の前日である同年一二月九日までの間は、年三分で計算した(総額九三九万六六六四円)。
(三) 訴外常磐塗装は、昭和五四年一二月九日ごろ、事業継続が不可能となった。被告会社両名は、被告中田から、右事実を告げられ、前記訴外常磐塗装に対する債権を回収するため、本件土地・建物の根抵当権実行にかえ、代物弁済により本件土地・建物の所有権を取得したものである。
四 被告会社両名の主張に対する反論
(2の主張に対して)
仮に、被告両会社の債権が被告ら主張のとおりであったとしても、本件土地・建物の価額は、右債権額をはるかに超える。
第三証拠《省略》
理由
一 《証拠省略》によると、請求原因1の事実が認められる。
二 請求原因2の事実は、原告と被告会社両名との間において争いがない。
三 そこで、以下、代物弁済契約が詐害行為に該当するか否かを検討する(なお、以下の判断は、原告と被告会社両名との間における判断であるから、書証の成立も右当事者間で判断する。)。
1 (事実関係)
《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。
(当事者について)
(一) 被告中田芳郎(以下「被告芳郎」という。)は、訴外常磐塗装を経営していた。
被告日商部品は、昭和三〇年八月ごろ、被告東京ホンダから分離独立した会社で、両会社はいわゆる親子会社である。
中田敏郎(以下「訴外敏郎」という。)は、被告東京ホンダの代表取締役社長であり、被告日商部品の代表取締役会長(ただし、代表権をもったのは、昭和五三、四年ごろである)でもある。
被告芳郎は、訴外敏郎の実兄にあたる。
(被告日商部品と訴外常磐塗装との間の取引)
(二) 被告日商部品と訴外常磐塗装は、昭和三〇年ごろから、手形を交換する等の関係にあった。訴外常磐塗装は、振出した手形をおとすことができず、被告日商部品から資金融資を受けるようになり、同被告に対して次第に債務を負担する関係になった。
(三) 昭和四六年三月ごろ、訴外常磐塗装の被告日商部品に対して負担する債務が増えたため、被告日商部品と被告芳郎との間において、本件土地・建物につき、被告日商部品が訴外常磐塗装に対して有する債権を担保する根抵当権を設定する旨の合意が成立した。同月二九日、極度額一五〇〇万円の根抵当権設定登記が経由された。
(四) 昭和五二年に入って、被告日商部品と訴外常磐塗装との間では、次のとおりの取引が生じた。その結果、被告日商部品は、訴外常磐塗装に対して、合計二七三〇万七四七九円の貸金元本債権を有することになった。
(1) 昭和五二年三月二四日ごろ、被告日商部品は、訴外常磐塗装に対し、五五五万九四七〇円を貸し渡した。
被告日商部品は、訴外常磐塗装から、同社振出しの額面二六八万五二九二円、支払期日昭和五二年七月二六日の約束手形と額面二八七万四一七八円、支払期日同月三一日の約束手形を受け取った。
しかし、訴外常磐塗装が右手形金を支払うことができないため、被告日商部品は、昭和五二年七月二五日、訴外常磐塗装に対し、右手形の決済資金五五五万九四七〇円を貸し渡し(ただし、銀行振り込みは、被告東京ホンダ名義でなされた。)、右手形を決済した。
(2) 昭和五二年四月二五日ごろ、被告日商部品は、訴外常磐塗装に対し、五三九万三二二二円を貸し渡し、同社振出しの額面二八九万六二九五円、支払期日同年八月二六日の約束手形と額面二四九万六九二七円、支払期日同日の約束手形を受け取った。
ところが、右手形を決済することができないため、被告日商部品は、昭和五二年八月二四日、訴外常磐塗装に対し、手形決済資金五三九万三二二二円を貸し渡し(ただし、銀行振り込みは、被告東京ホンダ名義を使用した。)、右手形を決済した。
(3) 昭和五二年五月二五日ごろ、被告日商部品は、訴外常磐塗装に対し、六九二万三〇八七円を貸し渡し、同社振出しの額面二七八万二四九〇円、支払期日同年九月二六日の約束手形と額面四一四万〇五九七円、支払期日同日の約束手形を受け取った。
ところが、右手形を決済することができないため、被告日商部品は、昭和五二年九月二六日、訴外常磐塗装に対し、六九二万三〇八七円を貸し渡し(ただし、銀行振り込みは、被告東京ホンダ名義を利用した。)、右手形を決済した。
(4) 被告日商部品は、訴外常磐塗装に対し、昭和五二年六月二〇日ごろに二八〇万七二三八円を、同月二四日ごろに六六二万四四六二円を貸し渡し、同社振出しの額面二四三万一七〇〇円、支払期日同年一〇月二〇日の約束手形、額面三七一万八九五九円、支払期日同月二六日の約束手形及び額面三二八万一〇四一円、支払期日同月三一日の約束手形を受け取った。
ところが、右手形を決済できないため、被告日商部品は、訴外常磐塗装に対し、昭和五二年一〇月一九日に二四三万一七〇〇円を、同月二五日に七〇〇万円をそれぞれ貸し渡し(ただし、銀行振り込みの名義は被告東京ホンダ。)、前記約束手形を決済した。
(五) 昭和五二年七月二一日ごろ、被告日商部品と被告芳郎との間において、前記(三)の根抵当権を解約し、前記(四)の取引で生じた債権を担保するため、あらたに根抵当権を設定する話し合いがなされ、本件土地・建物につき、極度額三〇〇〇万円、債権の範囲金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権、債務者常磐塗装とする根抵当権を設定する旨の合意が成立した。昭和五二年七月二二日、その旨の根抵当権設定登記を経由し、前記(三)の根抵当権設定登記は抹消された。
なお、このとき、訴外敏郎は、本件土地・建物の権利書と、被告芳郎の自宅とその敷地である別紙物件目録(二)記載の土地・建物の権利書を預かった。
(被告東京ホンダと訴外常磐塗装との間の取引)
(六) 被告日商部品の訴外常磐塗装に対する資金援助が限度に近づいたため、被告東京ホンダが、被告日商部品に代わって、昭和四六年五月ごろから訴外常磐塗装に対し、資金援助を始めた。右資金援助は、昭和五三年一一月ごろまで続いた。
(七) 具体的には、訴外常磐塗装の取得したいわゆる商業手形ないし小切手を被告東京ホンダが割り引いたり、訴外常磐塗装の振出した手形を受け取って金員を貸し付けたりした。前者の取引は、一〇万円程度のものからせいぜい一〇〇万円以内のものが多かったが、後者の取引は、一〇〇万円を超えるものが多かった。
訴外常磐塗装の負担する債務は次第に累積していき、昭和五四年四月現在、三四四七万一〇〇九円に及んだ。
(八) 被告東京ホンダは、昭和四六年以降、訴外常磐塗装に対する債権を仮払金と計上して確定申告した。訴外常磐塗装に対する債権が増えたので、昭和四八年以降は、利息も計上して申告した(利息の金額は、顧問税理士の方で、訴外常磐塗装に対する債権の月々の残高を出し、これを一年平均したうえ、年三分の割合で計算したものである。)。
(九) 昭和五二年七月二一日ごろ、被告東京ホンダと被告芳郎との間において、訴外常磐塗装に対する債権を担保するため、本件土地・建物につき、根抵当権を設定する旨合意し、同月二二日、極度額四〇〇〇万円、債権の範囲金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権、債務者常磐塗装とする根抵当権設定登記が経由された。
(代物弁済に至る経緯)
(一〇) 昭和五四年四月になって、訴外敏郎は、被告芳郎に対し、被告両会社の訴外常磐塗装に対する資金援助は限界であり、以後援助はできない旨申し渡し、本件土地・建物を代物弁済して債務を清算するよう求めた。
なお、このとき、被告芳郎は、他の金融機関等と取引を始める必要があるため、別紙物件目録(二)記載の土地・建物の権利書を返還してもらっている。
(一一) 昭和五四年一二月はじめ、被告芳郎は、高利の金等を整理するため二〇〇〇万円の資金を必要としたので、訴外敏郎に会って、二〇〇〇万円の借金を申し入れた。しかし、訴外敏郎は、これを拒否し、被告両社の債務の履行に代え本件土地・建物を代物弁済するよう要求した。
(一二) 被告芳郎は、代物弁済に応じるのもやむを得ないと判断し、借入金合計二七三〇万七四七九円及び借入金については商事法定利息年六分の支払義務があることを承認する旨記載した被告日商部品にあてた訴外常磐塗装名義の債務確認書と、昭和五四年四月二〇日現在の債務三四四七万一〇〇九円及び利息は年三分の割合の計算で昭和五四年九月三〇日現在九一九万八五六〇円となる旨記載した訴外常磐塗装名義の債務確認書とを、妻をして作成させ、訴外芳郎に手渡した。また、代物弁済による登記移転に必要な書類も持参させた。
(一三) 昭和五四年一二月一九日、本件土地・建物につき、請求原因2記載の所有権移転登記が経由された。
(一四) なお、訴外常磐塗装は、昭和五四年一二月二〇日、額面六三万四〇〇〇円の小切手を、資金不足を理由に不渡りにしている。
(本件土地・建物の価額)
(一五) 本件土地は、昭和五四年一二月ごろ、坪五〇万円程度、高く見積もっても坪六〇万円と評価されている。本件建物は、昭和三九年ごろ建てられた工場で、その価値はほとんどない。
甲第二号証には、訴外常磐塗装が被告両社に対して債務を負担する旨の記載はない。しかし、《証拠省略》に照せば、甲第二号証の記載は右認定を妨げるものではない。他に右認定を覆するに足る証拠はない。
2 ところで、債権者取消権は、債権者の共同担保を保全するため、債務者の一般財産減少行為を取り消し、これを返還させることを目的とするものであるから、担保物権者に対する担保物件をもってする代物弁済は、被担保債権額の範囲内にあるかぎり、他の債権者を害するものではなく、詐害行為にならないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、(一)被告日商部品は、本件土地・建物につき、極度額三〇〇〇万円の根抵当権を有し、その旨の登記を経由している、(二)右根抵当権の被担保債権元本額は、二七三〇万七四七九円である、(三)被告東京ホンダは、本件土地・建物につき、極度額四〇〇〇万円の根抵当権を有し、その旨の登記を経由している、(四)右根抵当権の被担保債権元本額は、三四四七万一〇〇九円である、(五)本件土地・建物の評価額は、代物弁済当時五〇〇〇万円前後であり、高く見積もっても六〇〇〇万円を超えることはない、と認められる。
してみると、被告日商部品及び被告東京ホンダが担保物件である本件土地・建物を取得した本件代物弁済は、被担保債権の範囲内にあるから、詐害行為にならないと解せられる。
したがって、詐害行為取消権の行使を前提とする原告の被告両会社に対する請求は、理由がない。
四 以上検討したところによれば、原告の被告中田芳郎に対する請求は理由があるからこれを認容し、原告の被告日商部品及び被告東京ホンダに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林正明)
<以下省略>