大判例

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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)8214号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二そこで本件賃貸借契約の解除の効力につき判断する。ところで賃貸借においては、売買等におけるより債務不履行を理由とする解除権の発生は制限され、単に債務不履行があれば直ちに解除が認められるものではなく、賃貸借の存続が賃貸人にとつて酷であるような債務不履行、すなわち賃貸人、賃借人間の信頼関係を破壊する重大な背信行為がなければ解除はできない。

三そこで本件における被告の賃料等の不払いが当事者間の信頼関係を破壊するような賃料不払であるか否かにつき検討する。被告の賃料等の不払程度をみるに、賃料として四か月分(一か月二〇万円、計八〇万円)、管理費として四か月分(一か月金三万九〇〇〇円、計一五万六〇〇〇円)、電気料、水道料各四か月分(計七七万七八七三円)がそれぞれ不払であつたことは当事者間に争いがない。被告が賃料を不払するに至つた事情は、被告本人尋問の結果によると、被告が新宿で経営していたサンバクラブ「アンジョス」が営業不振となり、資金繰りに困り原告から合計七〇〇万円を借り受け、右借金の返済に追われ賃料等の支払まで余裕がなかつたことによることが認められる。この点に関し被告は原告から右金員を借り受けた際、被告が一時的に賃料等の支払を遅滞せざるをえないことを原告が予知し、被告に対し賃料等の支払を明示的又は黙示的に承諾していた旨主張する。<証拠>によれば、昭和五四年六月以降、原告が本件建物を直接に管理することになつたが、その後も原告の委任に基づき事実上本件建物を管理していた訴外協愛不動産株式会社(以下「協愛不動産」という。)の代表取締役であつた訴外松本奉文(以下「松本」という。)は、電話で被告に対し、早く延滞賃料を支払うよう何度も催促したが、それに対し被告はすぐ支払うとの返答があつたのみで支払が遅延していたこと、松本が再度催促すると被告の方から「もう少し待つてほしい」と言われたが、原告から本件建物の管理を委かされた協愛不動産としては、被告に対し支払を猶予する権限もないところから、被告の申し出を承諾する返答をしなかつたこと、被告は協愛不動産の再三の催促により昭和五四年一二月分を同五五年二月に賃料を支払つたこと、原告としては被告が賃料の支払を従来から遅滞したこともなく、前記のように金員を貸し付けた際も、被告から賃料の支払を猶予してもらいたいとの申し出も受けなかつたことから賃料については当然に支払期日にきちんと履行されているものと考えていたこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によれば原告が被告に金員を貸し付けた際、原告が被告に対し賃料の支払を猶予したものであるとの被告の主張事実は認め難い。もつとも被告本人尋問の結果中には賃料の支払の猶予を原告の社員である訴外青木栄三郎(以下「青木」という。)に対し昭和五五年二月頃申し入れたところ、青木から「なるべく早くお願いします」との協力的返事をもらつた旨の供述があるが、仮に右事実が認められるとしても右事実のみから直ちに原告が被告に対し賃料等の支払を猶予したとまでは認められない。他に原告が弁済の猶予をしたという被告の主張事実はこれを認めるに足りる証拠はない。

四次に原告から賃貸借契約解除の意思表示がなされた後の支払状況についてみるに、<証拠>によれば、被告は昭和五五年四月一五日、原告代表者の金原東圭(以下「金原」という。)に会つた際、金原から賃貸借の件は弁護士に一任し、被告あてに内容証明郵便を出してあると言われ、その後原告による契約解除の意思表示が昭和五五年四月二四日付書面でなされ、右書面は同月二五日、被告に到達しており、被告は昭和五四年四月二五日、本件建物の賃貸借契約の継続を認めない原告の態度を知つたにもかかわらず、昭和五五年六月一三日まで多少のペナルティを支払えば賃貸借契約の継続を認めてもらえるのではなかろうかという楽観的な態度で賃料等の供託を全然しなかつたこと、昭和五五年六月一三日に昭和五五年一月分から同年五月分までの賃料を、同年六月分から同五六年一一月分までの賃料については毎月二五日にそれぞれ供託したこと、管理費については支払額が定まつているにもかかわらず、契約解除の意思表示後一年余も経過した昭和五六年五月二六日になつて昭和五五年一月分から同五六年五月分を、同五六年一一月二七日に同五六年六月から同年一一月分をそれぞれ供託したこと、光熱費についても原告の方から使用料の額について一応の呈示がなされており、被告の方で争いがあるのであれば適当と考える額を供託することができたにもかかわらず、昭和五六年五月二六日に同五四年一二月分から同五六年五月分を、同五六年一一月二七日に、同五六年六月分から同年一一月分をそれぞれ供託したこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

五以上の事実により認められる被告の賃料、管理費及び光熱費の不払回数、金額、不払に至つた理由、契約解除の意思表示がなされた後の供託状況等に照らすと、被告の債務不履行は重大であり、背信性を欠くものとは言い難く、原、被告間には賃貸借関係における当事者間の信頼関係は被告の行為によりすでに破壊されているものとみるのが相当である。他に原告の本件賃貸借契約の解除が権利の濫用であると認めるに足りる証拠も存しない。従つて原告の契約解除の意思表示は有効である。 (日野忠和)

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