東京地方裁判所 昭和55年(特わ)2398号 判決 1981年2月23日
裁判所書記官
山田恒夫
本店所在地
東京都豊島区南長崎三丁目二九番五号
株式会社丸正タケダ
(右代表者代表取締役武田克男)
本籍
東京都文京区小日向二丁目二九番地
住居
同都新宿区中落合三丁目二九番一三号
会社役員
武田克男
昭和一三年一二月四日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺西輝泰出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社丸正タケダを罰金一二〇〇万円に、被告人武田克男を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人武田克男に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社丸正タケダ(以下「被告会社」という。)は、東京都豊島区南長崎三丁目二九番五号に本店を置き、食肉卸販売、食料品販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円(昭和五四年一〇月三〇日以前は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人武田克男は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人武田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の仕入を計上して簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五一年九月一日から昭和五二年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が四四〇八万八四〇一円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五二年一〇月三一日、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二五九万七三九六円でこれに対する法人税額が四一二万二九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五五年押第二〇二四号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一六七〇万一五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一二五七万八六〇〇円を免れ
第二 昭和五二年九月一日から昭和五三年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が三七八八万五一八三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五三年一〇月三一日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七五一万八〇七〇円でこれに対する法人税額が二一六万七二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一四三一万四〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一二一四万六八〇〇円を免れ
第三 昭和五三年九月一日から昭和五四年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七六〇二万九七〇五円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年一〇月三一日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一八九万一二〇二円でこれに対する法人税額が三五三万四一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の4)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二九〇九万円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額二五五五万五九〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一 被告人武田克男の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書(二通)
一 磯部吉雄(三通)及び国井光男の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成のその他所得、仕入、賞与、雑給、租税公課、受取利息、価格変動準備金、役員賞与(益金加算額)、交際費限度超過額及び51・8期分利益金額に関する各調査書各一通
一 検察官作成の事業税及び未納事業税に関する各捜査報告書各一通
一 豊島税務署長作成の証明書
一 東京都豊島都税事務所長作成の「法人事業税の納付状況照会に対する回答」と題する書面
一 東京法務局板橋出張所登記官作成の登記簿謄本
一 押収してある法人税確定申告書三綴(昭和五五年押第二〇二四号の2ないし4)
(法令の適用)
被告人武田克男の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。さらに、被告人武田克男の判示各所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一二〇〇万円に処することとする。
(量刑の事情)
被告人武田は、中学校卒業後精肉職人として働き、その後自ら被告会社を設立して精肉卸業やスーパーマーケット等を営んできたものであるところ、本件は、被告人武田において被告会社の業務に関し三事業年度にわたり合計五〇〇〇万円余りの法人税を免れたというものであるが、脱税額も少なくなく、また、ほ脱率も七五ないし八七パーセントと決して低いとはいえない。ところで、被告人武田は本件犯行に及んだ動機の一つとして、幼少のころに父を亡くして苦労したことから恵まれない子供たちのために施設を建設しようと考えた旨供述しているところ、こうした心情も、その生い立ちに照らし理解できないではないが、右目的は脱税に及ばなければ達成できないというものでもなく、また、税金は福祉事業等にも使われているのであって、右動機のゆえに本件脱税行為が正当化されるものとは言えない。以上の点にかんがみると被告会社及び被告人武田の刑責は軽視することができない。
しかしながら、被告会社は、本件の脱税分について修正申告を行ったうえその相当部分をすでに納付し、残余についても納税のための努力をしていること、被告人武田には前科・前歴がなく本件犯行後深く反省し二度と脱税はしない旨誓っていることなどの有利な事情も認められ、その他諸般の事情を考慮して主文のとおり量刑する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保真人 裁判官 川口政明)
別紙(一)
修正損益計算書
(株)丸正タケダ
自 昭和51年9月1日
至 昭和52年8月31日
<省略>
<省略>
別紙(二)
修正損益計算書
自 昭和52年9月1日
至 昭和53年8月31日
<省略>
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
自 昭和53年9月1日
至 昭和54年8月31日
<省略>
<省略>
別紙(四)
税額計算書
<省略>