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東京地方裁判所 昭和55年(特わ)562号 判決 1980年5月28日

本店所在地

東京都台東区上野六丁目四番七号

株式会社マルセ

(右代表者代表取締役穴田巴)

本籍

東京都台東区台東四丁目二五番地

住居

同都同区台東四丁目八番二号

会社役員

穴田哲

大正一三年一月三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺西輝泰、飯田英男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社マルセを罰金一五〇〇万円に

被告人穴田哲を懲役一年に

それぞれ処する。

被告人穴田哲に対し、未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社マルセ(以下「被告会社」という。)は、東京都台東区上野六丁目四番七号に本店を置き、時計、喫煙具及び洋品雑貨の販売を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人穴田哲は、被告会社の取締役で実質的に同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人穴田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五一年二月一〇日から同五二年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五一七四万七一〇八円(別紙1修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五二年三月三〇日、東京都台東区東上野五丁目五番一五号所在の所轄下谷税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が九三万一五八六円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五五年押第六〇三号の一)を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一九八四万三六〇〇円(別紙4税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五二年二月一日から同五三年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四九七五万六六四〇円(別紙2修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五三年三月二九日、前記下谷税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が一万〇七七五円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の二)を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一九〇三万九七〇〇円(別紙4税額計算書参照)を免れ、

第三  昭和五三年二月一日から同五四年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三一七四万七六一九円(別紙3修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五四年三月三一日、前記下谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の三)を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一一八四万〇八〇〇円(別紙4税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人穴田哲の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書(四通)

一  穴田巴の検察官に対する供述調書(三通)

一  鈴木七郎の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の鈴木七郎に対する質問てん末書(二通)

一  検察官、被告会社及び被告人穴田哲両名の弁護人並びに被告人穴田哲作成の合意書面

一  東京法務局登記官作成の被告会社登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書等三袋(昭和五五年押第六〇三号の一ないし三)

(法令の適用)

被告人穴田哲の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。さらに、被告人穴田哲の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示各事実につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金一五〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、都内国鉄御徒町駅周辺の通称アメ横商店街で時計・喫煙具等の販売を業とする被告会社において、その業務全般を統括していた被告人穴田が、被告会社の売上の一部を除外して多額の簿外預金を設定したうえ、毎年三〇〇〇ないし五〇〇〇万円の所得があったにもかかわらず、各年度とも欠損または零申告を行ない、三年間にわたり被告会社の法人税額合計約五〇〇〇万円を免れたというものであって、犯行の動機に格別酌むべき点は見当らないばかりか、各年度とも逋脱率一〇〇パーセントで免れた税額も決して少ないとはいえない。

ところで、同被告人は、右の事業を昭和四〇年ころから個人で営み、同五一年二月一〇日に法人成りして被告会社を設立したものであるが、昭和四五、四六年にわたり本件同様の不正行為により所得税を免れたことによって、昭和四九年七月一〇日に所得税法違反罪により懲役四月(二年間執行猶予)及び罰金五〇〇万円に処せられたばかりか、その際遡って五年分の修正申告を余儀なくさせられていながら、昭和五〇年にも下谷税務署の調査を受けて三年度分の修正申告をしていて、特段に自戒すべき身であったにもかかわらず、右懲役刑の執行猶予期間中に重ねて本件の不正行為を開始したものであり、さらに、昭和五四年六月に本件の査察が行なわれた際、約二億円の銀行預金証書等が発見されなかったことをよいことに、右証書等を貸金庫から他人に預け直して隠匿し、逮捕されて初めてこれを明らかにするなど、同被告人には、一貫して納税制度に対する挑戦的ともいえる態度が認められるのであって、その責任は極めて重大であり、同被告人は、今回二ヵ月以上の身柄拘束を受けて反省の機会を与えられたこと、被告会社は、本件に関して修正申告に応じたうえ、昭和五五年五月二二日に本税、重加算税等合計七七七二万円余りを納付していることなどの有利な事情のほか、同被告人には、二三歳の長女を頭に一男二女がおり、こうした家庭や被告会社の事業について、同被告人が服役することによって蒙る影響などを最大限に考慮しても、同被告人に対しては実刑をもって臨むのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙1

修正貸借対照表

株式会社 マルセ

昭和52年1月31日

<省略>

別紙2

修正貸借対照表

株式会社 マルセ

昭和53年1月31日

<省略>

別紙3

修正貸借対照表

株式会社 マルセ

昭和54年1月31日

<省略>

別紙4の(1)

税額計算書

株式会社 マルセ

昭和52年1月期

<省略>

別紙4の(2)

税額計算書

株式会社 マルセ

昭和53年1月期

<省略>

別紙4の(3)

税額計算書

株式会社 マルセ

昭和54年1月期

<省略>

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