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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)11873号 判決 1991年4月18日

原告

ニューピス・ホンコン・リミテッド

(紐比時香港有限公司)

右代表者代表取締役

ワン・ツァン・シャン

(王増祥)

右訴訟代理人弁護士

水田耕一

右訴訟復代理人弁護士

長谷則彦

被告

亡船津眞一訴訟承継人

船津しげ

船津正雄

船津秀夫

船津邦雄

船津芳夫

右被告ら法定代理人相続財産管理人

船津正雄

右訴訟代理人弁護士

本林譲

青木武男

千葉睿一

菊地裕太郎

佐々木一郎

被告

柳澤晴夫

右訴訟代理人弁護士

本林譲

青木武男

千葉睿一

菊地裕太郎

右訴訟復代理人弁護士

佐々木一郎

主文

一  被告船津しげは金七五五〇万二四七二円及びこれに対する昭和五六年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を、被告船津正雄、同船津秀夫、同船津邦雄及び同船津芳夫は各金一八八七万五六一八円及びこれに対する前同日から支払済みまで各年五分の割合による金員を、それぞれ被告柳澤晴夫と連帯して、その相続財産の限度で、片倉工業株式会社に対して支払え。

二  被告柳澤晴夫は、被告船津しげ、船津正雄、同船津秀夫、同船津邦雄及び同船津芳夫と連帯して、片倉工業株式会社に対し、金一億五一〇〇万四九四五円及びこれに対する昭和五六年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告船津しげ(以下「被告しげ」という。)は金三億六五〇〇万円及びこれに対する昭和四八年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を、被告船津正雄(以下「被告正雄」という。)、同船津秀夫(以下「被告秀夫」という。)、同船津邦雄(以下「被告邦雄」という。)及び同船津芳夫(以下「被告芳夫」という。)は各金九一二五万円及びこれに対する前同日から支払済みまで各年五分の割合による金員を、それぞれ被告柳澤晴夫(以下「被告柳澤」という。)と連帯して、片倉工業株式会社(以下「片倉工業」という。)に対し支払え。

2  被告柳澤は、被告しげ、同正雄、同秀夫、同邦雄及び同芳夫と連帯して、片倉工業に対し、金七億三〇〇〇万円及びこれに対する昭和四八年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (原告の地位)

原告は、後記6の訴え提起の請求の六か月前から引き続き、片倉工業(本店・東京都中央区京橋三丁目一番二号)の株式一〇〇〇株を有する株主である。

2  (違法行為)

(一) 片倉工業は、昭和四八年三月八日、中外炉工業株式会社(以下「中外炉工業」という。)及び日本橋興業株式会社(以下「日本橋興業」という。)から、片倉工業の株式各二〇〇万株、合計四〇〇万株(以下「本件株式」という。)を、代金各一一億八四〇〇万円、合計二三億六八〇〇万円で買い受けた。

(二) 本件株式取得の当時、亡船津眞一(以下「亡船津」という。)は片倉工業の代表取締役社長であり、被告柳澤は同社の常務取締役であったが、両名は意思を通じて本件株式の取得を実行した。

(三) 本件株式の取得は、商法二一〇条各号に定められた除外事由がないのにされた自己株式の取得であるから、同条に違反する違法なものである。

3  (損害)

片倉工業は、前記2記載の本件株式の取得によって次のように損害を被った。

(一) 片倉工業は、本件株式の取得により、次のとおり、本件株式の取得代金相当額及び借入金利息相当額の合計二三億七三〇二万七九四五円の損害を被ったものである。

(1) 片倉工業は、前記2(一)記載のとおり、本件株式の取得代金として、中外炉工業及び日本橋興業に対し、各一一億八四〇〇万円を支払った。

(2) 片倉工業は、昭和四八年三月八日、右本件株式の取得代金にあてるため、日本橋興業及び三井物産株式会社(以下「三井物産」という。)から、各一一億八四〇〇万円を借り入れ、その後、これに対する各利息を合計五〇二万七九四五円支払った。

(二) 仮に右(一)の取得代金の支払自体による損害が認められないとしても、次のとおり、片倉工業は、暁星エンタープライズ株式会社(以下「暁星エンタープライズ」という。)による本件株式の売却等によって、合計七億三八七一万二五四〇円の損害を被ったものである(前記(一)(二)の借入金利息にかかる損害を含め、総損害額は七億四三七四万〇四八五円)。

(1)① 片倉工業は、昭和四八年三月一九日、全額出資(三〇〇〇万円)の子会社である暁星エンタープライズ(昭和四八年三月一四日設立)に対して、本件株式を代金二三億六八〇〇万円で売り渡し、暁星エンタープライズは、同代金の支払に代えて、右(一)(2)記載の片倉工業の日本橋興業及び三井物産に対する各借入金債務を引き受けた。

② その後、暁星エンタープライズは、右引き受けた各借入金債務に対する利息を、三井物産に対して一一三万五三四二円、日本橋興業に対して一八九七万六四三八円、それぞれ支払った。

③ 暁星エンタープライズは、本件株式を、昭和四八年三月二六日から同年一二月二六日までの間に、七回にわたり、沖電気工業株式会社外六社に対して、一株当たり三八〇円ないし五三〇円、合計一六億五四三四万円で全株売却し、これに対する合計四九四万〇七六〇円の取引税を支払った。その結果、暁星エンタープライズにおける本件株式の売却損は、取引税の負担を含めて、七億一八六〇万〇七六〇円となった。

(2) 暁星エンタープライズは、片倉工業から本件株式を譲り受け、これを第三者に売却処分することを目的として設立されたもので、暁星エンタープライズによる本件株式の保有及び売却はすべて片倉工業が指示して行わせたものであり、しかもそれによって生じる損失が片倉工業に帰属するように仕組まれていたものであるから、暁星エンタープライズによる本件株式の保有及び売却は、片倉工業の機関として、ないしは片倉工業の計算においてなされたものというべきであるのみならず、そもそも、暁星エンタープライズは、片倉工業の取締役が、片倉工業の本件株式取得による損害を隠蔽し、自己株式取得の責任追及を免れることを目的としてその法人格を濫用したものであり、実際にも、暁星エンタープライズは、本件株式の保有及び売却とこれにより見込まれる損失を補填するために片倉工業から譲り受けた土地等の資産の売却のみを行っただけで、他に何らの事業も行っておらず、そのための組織・人員も有していないのであって、その法人格は、全くの形骸に過ぎず否認されるべきである。

したがって、暁星エンタープライズの右②③の損失は、本件株式の取得によって片倉工業が被った損害というべきである。

(三) 仮に、右(二)のように暁星エンタープライズの損失がそのまま片倉工業の損害といえないとしても、次のとおり、片倉工業は、その有する暁星エンタープライズの株式に評価損が生じたことによって、一億四五九七万七〇〇〇円の損害を被ったものである(前記(一)(2)の借入金利息にかかる損害を含め、総損害額は一億五一〇〇万四九四五円)。

(1) 暁星エンタープライズが片倉工業から本件株式を譲り受けてこれを売却処分したこと(前記(二)(1)②記載の借入金利息の支払を含む。)によって片倉工業が有する暁星エンタープライズの株式につき、合計一億四五九七万七〇〇〇円の評価損が発生した。

(2) 片倉工業は、本件株式の取得にあたり、当初から、短期間のうちに、暁星エンタープライズに譲渡し同社において売却処分することを予定していたなどの事情からすれば、片倉工業が本件株式を取得したことと、暁星エンタープライズの株式に右のような評価損が生じたこととの間には相当因果関係があり、右評価額は、片倉工業が本件株式を取得したことによって被った損害ということができる。

4  (取締役の責任)

亡船津及び被告柳澤は、片倉工業の取締役として、前記2記載の法令違反行為を行い、同社に前記3記載の損害を与えたものであるから、同人らは、片倉工業に対し、商法二六六条一項五号の規定に基づく責任を負う。

5  (相続関係)

亡船津は、昭和六〇年一〇月二四日に死亡し、同人の相続人は、被告しげ、同正雄、同秀夫、同邦雄及び同芳夫であって、被告しげは二分の一の、その余の者は各八分の一の相続分を有する。

6  (訴え提起の請求)

原告は、昭和五六年九月九日、片倉工業に対し、書面をもって、前記2記載の違法行為による亡船津及び被告柳澤の責任を追及する訴えの提起を請求したが、同社は、同日から三〇日内に右訴えを提起しなかった。

7  よって、原告は、商法二六七条に基づき、片倉工業が同法二六六条一項五号に基づいて亡船津及び被告柳澤に対して有する損害賠償請求権を行使し、前記損害の内金として金七億三〇〇〇万円及びこれに対する違法行為の後である昭和四八年三月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、被告ら(ただし、被告しげ、同正雄、同秀夫、同邦雄及び同芳夫はそれぞれその相続分に応じて)が連帯して片倉工業に支払うことを求める。

二  本案前の抗弁

(権利濫用)

原告は、以下に掲げる諸事情から明らかなように、その有する片倉工業の株式を同社に高値で買い取らせる意図の下に、本件訴訟の提起によって、専ら同社の取締役らを困惑させるなどして右意図を実現しようとの目的に出たものであるから、原告の本件訴訟の提起は、株主権の正当な行使の域を超え、権利の濫用に当たるというべきである。

1(一) 原告は、香港在住の投資家グループとともに、昭和五三年中から片倉工業の株式を買い始め、その後大量に買い増して、原告ら香港投資家グループの持株数は昭和五四年一二月末日には同社の発行済株式総数の22.5パーセントに達していたところ、片倉工業の株価は、昭和五五年に入ると漸次下落して、その後も低迷し、昭和五八年二月頃までは、その保有する片倉工業株式を投資損が生じない価額で売却することが困難な状況であった。

(二) したがって、原告は、片倉工業に対して、その有する同社の株式を高値で買い取らせる必要があった。

2(一) 原告は、昭和五五年から同五九年までの間に、片倉工業、同社の取締役、日本の証券会社の香港法人等を相手方として、日本及び香港の裁判所に、本件訴訟を含めて合計八件に及ぶ訴訟等を提起し、二回にわたり片倉工業の代表取締役を証券取引法違反で検察庁に告発した。

(二) これは、これらの訴訟等の提起及び告発によって、片倉工業の取締役らに圧力をかけ、同人らを困惑させて株式の高値肩代わりの意図を実現させようとしたものにほかならない。

3(一) 原告ら香港投資家グループは、昭和五〇年から同五三年までの間に、株式会社花王石鹸、味の素株式会社、明治乳業株式会社及び王子製紙株式会社の各株式を買い集めたうえ、この買い集めた株式を、いずれも証券会社を介していわゆるクロス取引の方法によって売却したことがある。

(二) これらは、右原告らが各発行会社に対して株式の肩代わりを要求し、これに応じて各社が自社で買い取り又は買い取り先の斡旋を行ったものである。

4 原告は、次のとおり、片倉工業に対し、原告の有する片倉工業株式を肩代わりするよう暗に要求した。

(一) 大和証券株式会社の専務取締役細井幸夫は、昭和五五年八月二〇日、片倉工業に対し、「適当なところで幕を引きたい。」との原告代表者からの伝言を伝えた。原告は、これに先立ち、右細井に対して、原告の有する片倉工業株式の買い取り申入れについて伝言を依頼していたものである。

(二) 評論家邱永漢は、昭和五五年八月一四日、片倉工業に架電し、同社と原告との間の紛争解決のため仲裁の役割を果たす用意がある旨打診した。原告は、これに先立ち、邱永漢に対して、片倉工業との間の仲裁を依頼していたものである。

(三) 原告代表者の息子である王徳義は、昭和五九三月二日及び四月一〇日の二度にわたって片倉工業を訪れ、同社の秋山常務取締役と会談し、同取締役に対し、相互間の紛争を平和的に解決することについて協力してほしい旨申し入れた。

5(一) 原告は、昭和五六年五月以降、政財界及び証券業界の有力者らに対し、前記2記載の訴訟等及び告発に関する訴状及び告発状等とともに、片倉工業に対する批判等を記載した書簡を送付した。

(二) これは、右有力者らに対し、原告との紛争を解決するよう片倉工業に圧力をかけることを暗に要請したものである。

6 原告は、昭和六〇年以降、片倉工業の株価が上昇すると、その有する片倉工業の株式を一〇〇〇株だけ残して売却し、以後、自己の面子を保ち意地を通す目的のみで本件訴訟を継続しているものである。

三  本案前の抗弁に対する認否

本案前の抗弁の前文の主張は争う。

1  同1の(一)の事実は認めるが、(二)は否認ないし争う。

2  同2の(一)の事実は認めるが、(二)は否認ないし争う。

原告は、片倉工業の株主として当然の権利を行使するなど、いずれも正当な権利主張を行ったものである。

3  同3の(一)の事実は認めるが、(二)は否認する。

株式会社花王石鹸、味の素株式会社及び明治乳業株式会社の各株式の売却は、各発行会社の関与しない通常の株式取引であり、王子製紙株式会社の株式の売却は、同社側から買い取りが申し入れられ、原告としては利益のないままに同株式を王子製紙株式会社側に売却せざるを得ない状況のもとでなされた取引である。

4  同4の前文、(一)及び(二)は否認し、同4(三)の事実のうち原告代表者の息子である王徳義が被告ら主張の日に二度にわたって片倉工業を訪れたことは認め、その余は否認する。

5  同5の(一)の事実は認めるが、(二)は否認ないし争う。

6  同6のうち、原告が、その有する片倉工業の株式を一〇〇〇株だけ残して売却したことは認め、その余は否認する。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)の事実は認める。

(二)  同2(二)の事実のうち、亡船津及び被告柳澤がそれぞれ片倉工業の代表取締役社長及び常務取締役であったこと、並びに亡船津が本件株式の取得を実行したことは認め、被告柳澤が亡船津と意思を通じて本件株式の取得を実行したとの事実は否認する。本件株式の取得は、亡船津が単独で意思決定し契約したものである。

(三)  同2(三)のうち、本件株式の取得が商法二一〇条各号に定められた除外事由のある場合に当たらないことは認め、本件株式の取得が同条に違反する違法なものであるとの主張は争う。

3(一)  請求原因3(一)のうち、(1)及び(2)の各事実は認めるが、その余は争う。

仮に、片倉工業による本件株式の取得が無効であるならば、片倉工業は中外炉工業及び日本橋興業に対し右取得代金の返還請求権を有するのであるから、損害を被っていないはずである。

(二)  同3(二)のうち、(1)の①ないし③の各事実は認めるが、その余の事実及び主張はすべて否認ないし争う。

片倉工業が暁星エンタープライズを設立した目的は、片倉工業が多角経営の一環として不動産開発事業に進出するために、先駆的・実験的に事業を行わせることにあったものであり、暁星エンタープライズに譲渡した不動産等の資産の譲渡価格を時価ではなく簿価としたのは、子会社設立に伴う資産譲渡に関する法人税法五一条の適用を受けるためであって、これは会社分割の際通常行われている方法であり、本件株式の売却により暁星エンタープライズに生じると見込まれる損失を補填するためになされたものではない。暁星エンタープライズは組織・人員において独立の事業体としての実質を備え、独自の事業を行っていたものである。

なお、暁星エンタープライズは、本件株式を、それぞれ、その処分時の時価で売却処分したものであるところ(ただし、このうちには、売却価額が各処分時の時価より低廉なものもあるが、これは市場での大量売却の場合の値下がりを勘案して、売却価額を低くしたものであるから、相当な価額である。)、片倉工業が本件株式を取得した後の同社株式の価額の値下がりは、景気の動向及び業界の不況等の市場における株価形成要因に基づくものであるから、右売却処分によって暁星エンタープライズに生じた売却損と、片倉工業による本件株式の取得との間には相当因果関係がない。

(三)  同3(三)のうち、(1)の事実は認めるが、その余の事実及び主張は否認ないし争う。

右3(二)記載のとおり、暁星エンタープライズに生じた本件株式の売却損と、片倉工業による本件株式取得との間には相当因果関係がないから、右売却損が発生原因となっている暁星エンタープライズの株式の評価損と、片倉工業の本件株式取得との間には相当因果関係がないというべきである。

4  請求原因4の主張は争う。

5  請求原因5の事実は認める。

6  請求原因6の事実は認める。

五  抗弁

1  (違法性の阻却)

本件株式の取得は、以下に述べるとおり、当時、いわゆる仕手筋が片倉工業の株式を買い占め、同社に対して買占め株式の高値買い取りを求め、これに応じなければ、その経営を支配して不動産の安易な売却等によって一時的な株価の高騰を図って利益を上げることなどをもくろみ、そのまま放置すれば片倉工業のみならず、一般の株主、会社債権者、従業員、取引先等の会社関係者に多大の損害を与える危険性が高く、しかも、それが差し迫っている状況下で、これらの損害を回避するために、緊急避難的措置としてなされたものであるから、たとえ本件株式の取得が外形的に自己株式の取得に当たるとしても、これをもって商法二一〇条の法意に反するということはできない。

(一) 辰巳旭をリーダーとする山林業者グループは吉野ダラーと称せられ、投機目的で大量の株式を売買するいわゆる仕手筋であり、中外炉工業は、工業炉を製造する企業であるが、仕手筋でもあった。

(二) 片倉工業は、約一〇〇年前の創業以来蚕糸業を事業の中心とし、昭和四七年においても、全国の養蚕農家に対する繭代金の支払等によって農村経済を支え、我が国の農業政策の一翼を担っていたものであるが、同年頃には、蚕糸業の構造的変化に対応するため、多角的・総合的な企業への体質転換を開始し、資金的にも技術的にも重要な時期に差し掛かっており、株主、会社債権者、関係企業等との安定した良好な関係が必要不可欠となっていた。

(三) 片倉工業は、昭和四七年一一月頃、吉野ダラーグループと中外炉工業が片倉工業の株式を買い集め、その保有株式がそれぞれ約八〇〇万株と約五〇〇万株に及び、合計すると片倉工業の発行済株式総数の三七パーセントに当たるものであるとの情報を得た。そこで、亡船津は、片倉工業の大株主及び大口債権者の意見を徴したうえで、中外炉工業に対し、その持株数に相応する経営への参加を要請したが、同社はこれを拒否して持株の一括肩代わりを要求し、片倉工業がこの要求を受け入れなければ、その持株を吉野ダラーグループに譲渡すると言明した。

(四) 片倉工業の株主のうちには株主総会において株主の権利を行使しない者が相当数いるため、吉野ダラーグループが片倉工業の発行済株式の三七パーセントを保有して筆頭株主となった場合には、同グループが片倉工業の経営権を取得する可能性があり、そうなった場合には、吉野ダラーグループは企業の社会的責任や長期的利益の確保を考慮するとは考えられず、安易な不動産売却等による一時的な株価の高騰をもくろむことが容易に想像でき、片倉工業を支援している債権者、関係企業等の協力は得られなくなり、前記企業体質の転換は頓挫し、片倉工業の信用不安をも招くおそれがあった。また、そのような事情を背景に吉野ダラーグループが持株の高値肩代わりを強要してくることも予想された。

そこで、亡船津は、中外炉工業が保有する片倉工業の株式を、片倉工業が斡旋して同社の既存株主等で買い受けることによって中外炉工業の肩代わり要求に応じ、それによって、中外炉工業の保有する片倉工業株式が吉野ダラーグループへ移転するのを防ぎ、あわせて株主の安定化を図って、吉野ダラーグループにそのもくろみを断念させる以外に危機的状況を回避する方法はないと判断した。

(五) 片倉工業は、昭和四七年一二月下旬、中外炉工業との間で、中外炉工業が更に買い増して保有する片倉工業の株式八〇〇万株を一株当たりの代金五九二円で片倉工業が斡旋して同社の既存株主等に買い受けさせる旨合意し、そのうち四〇〇万株は斡旋に成功したが、残りの四〇〇万株は斡旋の努力を続けたにもかかわらず結局これを買い受ける者がなく、やむなく一時的に片倉工業が自己株式として取得せざるをえなくなったものである。

(六) 片倉工業が取得した本件株式四〇〇万株は、同社の発行済株式総数の約一一パーセントに当たり、その割合も少なく、一時的な取得でもあり、また、仮に片倉工業に損害が生じたとみる余地があるとしても、これは昭和四八年当時売上高年間約四〇〇億円の会社の規模から見て大きいものではなく、さらに、片倉工業は本件株式の取得によって安定株主が増して経営の多角化に成功し、株価も上昇したものであり、その後の株式買占めにも対抗することができるようになったのであるから、前記取得に至った事情を考慮すれば、本件株式の取得は許容されるべきものである。

2  (損害の補填等)

仮に、請求原因3(一)のように本件株式の取得代金の支払自体が損害に当たると解することができたとしても、

(一) 片倉工業は、本件株式の取得代金の支払と引き換えに同価値を有する有価証券たる本件株式を取得しているから、損益相殺の法理により、結局、損害はないというべきである。

(二) 片倉工業は、請求原因3(二)(1)①のとおり、暁星エンタープライズに対し、本件株式を取得代金と同額で売り渡し、暁星エンタープライズはその代金の支払に代えて、同額の片倉工業の借入金債務を引き受けたから、損害は填補されたというべきである。

3  (責任解除)

(一) 本件株式の取得にかかる一連の行為は片倉工業の昭和四七年一月一日から同年一二月三〇日までの営業年度と昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの営業年度とになされたものであるところ、昭和四八年二月二八日及び昭和四九年二月二八日にそれぞれ開催された片倉工業の定時株主総会において、右各営業年度の計算書類の承認決議がなされ、その後、別段の決議なくそれぞれ二年が経過した。

(二) したがって、昭和五六年法律第七四号による削除前の商法二八四条(以下「削除前の商法二八四条」という。)に基づき、亡船津及び被告柳澤の本件株式の取得についての責任は解除されたものである。

(なお、「抗弁に対する認否」3記載の本件株式の取得が削除前の商法二八四条但書にいう不正行為に当たる旨の原告の主張は争う。

すなわち、同条にいう不正行為とは、単なる違法行為ではなく、自己又は第三者の利益を図るなど、会社に対する背信行為を指すものと解すべきであるところ、本件株式の取得は、前記抗弁1記載のとおり、片倉工業及び一般の株主、従業員等の会社関係者の利益を守るために、緊急避難的措置としてなされた一時的なものであるから、ここにいう不正行為には当たらないものである。)

4  (限定承認)

被告しげ、同正雄、同秀夫、同邦雄及び同芳夫は、亡船津の相続について有効に限定承認した。

六  抗弁に対する認否

1  抗弁1の前文の主張は争う。

(一) 同(一)ないし(三)の各事実は知らない。

(二) 同1(四)の事実は否認する。吉野ダラーグループないし中外炉工業が片倉工業の経営権を取得する可能性はなく、片倉工業は被告ら主張のような危機的状況にはなかったものである。

(三) 同1(五)の事実は知らない。仮に、当初の中外炉工業との合意を履行するために片倉工業が自己株式を取得せざるをえなくなったとしても、それによって自己株式取得の違法性が阻却されるものではない。

(四) 同1(六)の主張は争う。

2  抗弁2の主張はすべて争う。

なお、仮に、取得代金から本件株式の価値相当額を控除すべきであるとしても、右取得時点における同株式の価値は大量の自己株式を早急に処分しなければならない状況の下での処分可能価額である合計一六億五四三四万円に過ぎず、この処分には取引税合計四九四万〇七六〇円が必要であるから、取得代金から控除しうるのは一六億四九三九万九二四〇円に過ぎない。

3(一)  抗弁3(一)の事実は認める。

(二)  同3(二)の主張は争う。

本件株式の取得は、亡船津及び被告柳澤が専ら経営者としての地位の保持を図る目的をもって、商法二一〇条に違反する自己株式の取得を行ったものであるから、削除前の商法二八四条但書の不正行為に当たり、同条本文による責任解除は認められない。

4  抗弁4の事実は認める。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1(原告の地位)及び6(訴え提起の請求)の各事実は、当事者間に争いがない。

二被告らは、原告の本件訴訟の提起は、株主権の正当な行使の域を超え、権利の濫用に当たると主張するので、まず、この点について検討する。

1  本案前の抗弁1ないし3の各(一)及び同5の(一)の各事実、同4の事実のうち、原告代表者の息子である王徳義が昭和五九年三月二日及び四月一〇日の二度にわたって片倉工業を訪れたこと、同6の事実のうち、原告がその有する片倉工業の株式を一〇〇〇株だけ残して売却したことは、いずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、山一証券株式会社の香港法人から同社の作成した片倉工業の「含み益の試算表」を示されて勧誘されるなど、日本の証券会社の香港法人数社から片倉工業の株式の購入の勧誘を受けたことから、香港在住の投資家グループとともに、昭和五三年九月頃から片倉工業の株式を買い始め、昭和五四年一二月末には、原告ら香港投資家グループ全員で合計七八八万八〇〇〇株、発行済株式総数の22.5パーセントに当たる株式を取得し、その後も更に買い増して、同五六年一二月末には、右原告らの持株数は発行済株式総数の23.6パーセントに達した。原告らの右株式取得は、すべて現物取引で、取得価額は一株当たり平均約六〇〇円であった。

(二)  片倉工業の株価は、昭和五四年中には最高九五五円に達していたが、昭和五五年に入ると漸次下落して六〇〇円台となりその後も低迷し、昭和五九年末頃までは、右原告らは、その保有する片倉工業株式を投資損が生じない価額で売却することが困難な状況にあった。この間、原告は、昭和五五年七月に、大和証券株式会社及び新日本証券株式会社の各香港法人を通じて、片倉工業の株式三五〇万株を一株当たり六三〇円の指値で売却しようとしたが、その価額による大量の売買は成立せず、原告は同株式を売却することができなかった。

(三)  ところで、原告ら香港投資家グループは、昭和五〇年中に株式会社花王石、昭和五一年中には味の素株式会社、明治乳業株式会社、昭和五二年中に王子製紙株式会社の各社について、その株式を各約一〇〇〇万ないし三七〇〇万株買い集めたうえ、それぞれその取得の時から約一年半以内に、各社の株式の全部ないし大部分を大和証券等の証券会社を介していわゆるクロス取引(同一の証券会社が売り手となると同時に買い手となって株式の売買を成立させる取引)によって売却し、前三社の株式の取引では相当額の利益を得た。クロス取引で大量の株式を売却しようという場合、大量の株式の買い手を捜すことは、発行会社の実質的な関与がなくてはできないのが通常であり、右各社の株式のクロス取引についても各発行会社が関与したことは推認できる(しかし、原告側から各発行会社に対して株式の買い取り又は買い取り先の斡旋を要求したことを認めるに足りる証拠はない。)。

(四)  片倉工業は、昭和五四年当時、大宮市に広大な工場跡地を所有しており、その利用方法について、建物を建築してこれを第三者に賃貸することを含む全体利用計画の大綱が立てられていたところ、原告は、同土地の利用方法については、マンションの建設、分譲により多額の収入を得、これを借入金の返済に充てることにより片倉工業の財務体質を改善すべきであるとの見解に立って、香港在住の建築家や事業家をして同土地を検分させるなどしつつ、昭和五五年初めから数回にわたって、片倉工業に対し原告なりの提案を行った。これに対し、片倉工業では、すでに右計画が進行しており、原告の提案には多額の税負担を考慮に入れていない点及び片倉工業の長期的な事業の多角化に逆行する点などがあって、受け入れることはできないと考えたが、原告の提案はその保有する片倉工業株式の買い取り等を求める意図に基づく嫌がらせの手段に過ぎないととらえて、その問題点を指摘することもなく、同提案に全く応答しなかった。

そこで、原告は、片倉工業の株主に対して、右提案等に関する意見書を送付したほか、さらに、原告代表者王増祥は、同年七月頃、山一証券株式会社の香港法人の代表者に対して、原告の右提案に関し片倉工業の意向をききたい、片倉工業の対案が納得できるものであれば予定している訴訟等で争うことを止めてもよい旨片倉工業に伝えてほしいと申し入れ、山一証券法人本部副部長榊原義雄は、同月四日、片倉工業の被告柳澤にこれを伝え、王に返答すべきことがあれば伝達する旨申し入れたが、片倉工業は、王への伝言は何も無い旨応答した。

その後、原告は、昭和五五年七月二五日、大宮市の土地の利用方法に関する片倉工業取締役の行為が違法であるとして、片倉工業取締役を相手方として、東京地方裁判所に違法行為の差止請求訴訟を提起し(後に訴えの取下により終了。)、さらに、昭和五六年四月三〇日、東京地方裁判所に同旨の違法行為差止仮処分申請をした(却下決定により終了。)。

(五)  原告代表者王増祥は、昭和五五年八月七日、香港を訪れた大和証券株式会社の専務取締役細井幸夫に対して、原告が片倉工業の株式を取得したのは同社が含み資産の多い会社であるとの勧誘を受け投資目的に出たものであり、大宮市の土地の開発についての原告の提案に対する会社側の応答を求めたく、また、この紛争に早く結末をつけたい旨片倉工業、大蔵省及び富士銀行に伝えてほしい旨申し入れ、細井は、同月二〇日、片倉工業の被告柳澤及び総務部長新島英三郎にこれを伝えたが、同人らは、この伝言は原告が片倉工業に対してその保有する片倉工業株式の買い取り又はその斡旋を求めているものと解釈し、裁判中でもあり、静観したい旨答えるにとどまった。

(六)  原告は、昭和五五年八月、片倉工業が浮動株の減少により第二部上場銘柄に指定替えになることを避けようとして虚偽の浮動株作りをしたこと、片倉工業の代表取締役が有価証券報告書に虚偽の浮動株数を記載して大蔵省に提出したことが、いずれも証券取引法に違反するとして、東京地方検察庁に告発し(右告発事実については一部は罪とならずとして不起訴、一部は起訴猶予の処分となり、これに対する審査申立も棄却された。)、その後、昭和五七年七月にも、再び証券取引法違反を理由に東京地方検察庁に告発した(右告発事実については起訴猶予の処分となった。)。片倉工業は、原告の告発に対応して、指摘された有価証券報告書の記載につき有価証券報告書の訂正報告書を提出した。

(七)  邱永漢は、原告代表者王増祥の意向を受けて、昭和五五年八月一四日、片倉工業の常務取締役に対し、王と片倉工業との間の紛争を解決するために仲裁に入ることを申し出たが、片倉工業は、この問題は暫く静観したいとして、これを拒絶した。

(八)  原告は、昭和五五年一一月、片倉工業の株価の下落によって被った損害について、山一証券株式会社の香港法人を相手方とする損害賠償請求訴訟を、さらに昭和五九年七月、日本の証券会社及びその香港法人合計六社並びに片倉工業を相手方とする同様の損害賠償請求訴訟を、それぞれ香港高等法院に提起し(片倉工業に対しては却下判決により終了。)、また昭和五六年二月には、片倉工業が外国為替及び外国貿易管理法等に基づき非居住者による株式取得を審査の対象とすべき会社として指定されたことにつき、大蔵大臣、通商産業大臣らを相手方として、東京地方裁判所に処分取消請求訴訟を提起した(却下判決により終了。)ほか、昭和五六年五月以降、日本の政財界及び証券業界の有力者らに対し、原告が片倉工業の株式を取得した経緯、特に山一証券株式会社から騙されてこれを取得したこと、片倉工業の大宮市の土地の利用方法が不当であって株主を軽視するものであること、日本の証券会社や大蔵省の外国人株主に対する態度が不当であること等を主張し、関係者に公平な処置をとることを要求する旨を記載した書簡及び片倉工業に関する前記訴訟等の訴状及び告発状等を送付した。

(九)  ところで、原告は、片倉工業の株式を取得後、同社の取締役会議事録を調査する過程で、同社がその子会社である暁星エンタープライズに対し本件株式を譲渡する旨の決議が存在することを発見し、片倉工業が自己株式を取得していたのではないかと考え、昭和五六年五月二六日、この点に関する事実関係究明のために、東京地方裁判所に片倉工業の業務検査役の選任を申請した。右申請事件の審理手続において、片倉工業は、本件株式を取得した事実があることを認め、右株式取得と暁星エンタープライズへの売却及びその後処分の経緯並びにこれに関連した資金関係等に関する伝票、帳簿その他の証憑類を提出した。これによって、原告は、片倉工業において本件自己株式の取得がされたことについて相当確実に事実関係を把握することができ、これに基づいて、昭和五六年一〇月一二日(本件記録上明らかである。)本件訴訟を提起した。なお、原告は、翌五七年四月、本件訴訟の損害賠償請求権を被保全権利として片倉工業の取締役を相手方とし東京地方裁判所に不動産仮差押申請をして、その決定を得た。

(一〇)  本件訴訟の係属中である昭和五九年三月二日及び四月一〇日の二度にわたって、原告代表者王増祥の息子である王徳義が、片倉工業を訪れ、同社の秋山常務取締役と会談し、同取締役に対し、原告と片倉工業との間の紛争を平和的に解決するよう考えてほしい旨申し入れたが、秋山は、訴訟等もあり難しい旨答えるにとどまった。

その後、昭和六〇年頃から、我が国経済界の好況を反映して株式市場が活況を呈するに伴い、片倉工業の株価も漸次上昇するに至り、原告は、昭和六二年三月までに、本件訴訟を継続するために一〇〇〇株だけを残して、その余の保有していた片倉工業株式をすべて売却した。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2(一) ところで、本訴のような代表訴訟の提起も、それが株主たる地位に藉口して不当な個人的利益を追及するなど、株主たる地位を濫用してなされるときは、株主権の濫用として許されないというべきである。しかし、代表訴訟は、それが実体的な理由を有するときは、会社の取締役等に対する権利を実現させることによって会社の被った損害を回復しその財産的基礎をより確実にすることになるのみならず、取締役等の違法又は不当な行為を抑制させる機能をも営むものであって、それ自体は、訴訟を提起する株主に直接の利益をもたらす性質のものでないことからすれば、株主が会社の権利の実現と並んでそれ以外の何らかの個人的動機ないし意図を有しているとしても、それだけの理由で直ちにこれを権利の濫用に当たるというべきではない。しかして、代表訴訟の提起が株主権の濫用にわたるとの認定は、右のような点を考慮して慎重に行われなければならないのであって、当該訴訟の提起が、専ら株主たる地位と離れた不当な個人的利益を獲得する目的に基づくとか、専ら会社ないし取締役に対する嫌がらせのために出たものであるなどのように、代表訴訟制度を利用して専ら他の不当な目的を達成しようとする場合に限って、株主権の濫用としてこれを排斥するのが相当である。

(二) これを本件についてみるに、①原告は、大量の片倉工業株式を取得したものの、本件訴訟提起当時は、株価が下落して、市場では相当の損失を覚悟しないと処分できない状態にあったこと、②原告には、従前、買い集めた株式をその発行会社の関与のもとに処分し、利益を得た経験があること、③原告は、本件訴訟提起の前後を通じて、片倉工業及びその関係者等に対し、告発を行ったり、多数の訴訟を提起したり、また再三にわたって紛争を解決したい旨等の申入れを行っていることは、前記認定のとおりであり、これらの点のみに着目すると、原告が、本件訴訟提起当時において、その有する片倉工業の株式を同社に高値で買い取らせる意図を有し、暗にこれを要求していたのではないかとの疑いも無いわけではないが、しかし、他方、①原告の片倉工業株式の取得は、もともと片倉工業の含み資産に着目した証券会社の勧誘がきっかけであり、また、②原告が、従前、買い集めた株式をその発行会社の関与のもとに処分したことがあるとはいっても、そのとき、原告が発行会社に対し買い取りを要求していたとまで認めることはできず、さらに、③原告による多数の訴訟提起等や再三の申し入れの中には、大宮市の土地の利用方法に関する原告の提案を片倉工業に採用させようとの意図、あるいは片倉工業が証券取引法違反の疑いのある状態にあるのを是正しようとの意図に出たと理解しうるものがあるのであって、これらの点と、④原告は、業務検査役選任の申請事件を通じて、本件の自己株式取得から子会社への売却及び子会社による処分に至る経緯並びにこれに関連した資金関係等についての確実な証憑類等を得たうえで、本件訴訟を提起したものであることなどの事情を併せ考えれば、結局、原告が、被告らの主張するように、その有する片倉工業の株式を同社に高値で買い取らせようとして、専ら片倉工業の取締役らを困惑させる目的のみで、本件訴訟を提起したものと認めることはできないというべきである。したがって、本件訴訟の提起が権利濫用に当たるということはできず、(なお、被告らが主張するように、仮に、原告が現在では単に自己の面子を保ち意地を通す目的で本件訴訟を追行しているとしても、だからといって本件訴訟の追行が権利の濫用に当たるということもできない。)、被告らの権利濫用の主張は採用することができない。

三そこで、次に、請求原因2(違法行為)について検討する。

1  請求原因2(一)の事実、同2(二)のうち、亡船津及び被告柳澤がそれぞれ片倉工業の代表取締役社長及び常務取締役であったこと、亡船津が右本件株式の取得を実行したことの各事実は、当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によれば、被告柳澤は、亡船津が片倉工業株式の大量買い集めに対処して本件株式を取得するに至る間、亡船津から随時相談を受けており、また、被告柳澤においても、亡船津に対して、片倉工業で取得することとなった本件株式の処分方法についての提案等を行ったり、本件株式の取得のための金員の借入れにつき片倉工業の経理部長に指示したりしていたなどの事実が認められるのであって、右事実からすれば、被告柳澤は、亡船津と意思を通じて本件株式の取得を実行したものと認めるのが相当である。

2  次に、請求原因2(三)のうち、本件株式の取得に商法二一〇条各号に定められた除外事由がないとの事実は当事者間に争いがないところ被告らは、抗弁1(違法性の阻却)において、本件株式の取得は、いわゆる仕手筋が片倉工業の株式を買い占め、そのまま放置すれば、片倉工業及び一般の株主、従業員等の会社関係者に多大の損害を与える危険性が高く、しかも、それが差し迫っている状況下で、これらの損害を回避するために緊急避難的措置としてされたものであるから、これをもって商法二一〇条の法意に反するということはできない旨主張するので、この点について検討する。

ところで、株式会社が、株券の発行により既に流通している株式を取得することは、それが自己株式であっても、理論上は不可能ではないが、しかし、これを自由に認めると、株主に出資を払い戻したのと実質的に同様の結果を生じ会社の財産的基礎を危うくするほか、会社が株価の操作等を行って株主・投資家の利益を害したり、経営者が自己の会社支配を維持する手段に利用して会社支配の公正を害したり、あるいは、一部特定の株主から株式を買い取ることによって株主平等の原則に違反する結果となる等の種々の弊害の生じることが考えられることから、商法二一〇条は、右のような弊害の生じるおそれのない四つの例外的な場合を除き、一般予防的見地から、自己株式の取得を一律に禁止することとしたものである。したがって、自己株式の取得が適法として許容されるのは、同条が明文によって規定する例外的な場合のほかは、会社が自己株式を無償で取得する場合や会社が他人の計算によって自己株式を取得する場合等、右のような弊害の生じないことが類型的に明らかな場合に限られ、それ以外の場合には、仮に個別的に判断して会社や会社関係者の重大な損害の回避のためにやむをえない事情があると認められるような場合であっても、自己株式の取得は許容されないと解するのが相当である。けだし、会社や会社関係者の重大な損害の回避のためには自己株式の取得も許容されるとして、その判断を会社の当事者に委ねることは、いきおいその濫用や誤判断による弊害を招来するおそれがあり、一般予防的見地から自己株式の取得を一律に禁止した法の趣旨を没却することになりかねないからである。

したがって、仮に、亡船津及び被告柳澤による本件株式の取得が、被告らの主張するとおりの事情のもとで、片倉工業及びその株主、債権者等の会社関係者の重大な損害を回避するためになされたものであったとしても、その取得が商法二一〇条の法意に反するものであることは明らかであるから、被告らの右主張は、その主張自体において失当であって、採用することができない。

四そこで、請求原因3(損害)について検討する。

1  まず、本件株式の取得及びその後の経緯についてみるに、<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  亡船津は、昭和四七年一二月末頃、中外炉工業との間で、同社の有する片倉工業株式八〇〇万株を東京証券取引所における最終取引日の安値(五九二円)を代金額として関係会社で買い受けるように片倉工業が斡旋する旨合意し、同月中に六〇〇万株を三井物産、安田信託銀行株式会社等に斡旋したが、三井物産は、昭和四八年一月、社内の事情により買い受けた株式のうち二〇〇万株を保有できなくなり、亡船津は、この二〇〇万株を日本橋興業に依頼して暫定的に買い受けてもらった。その後、昭和四八年二月に入ると、中外炉工業から残り二〇〇万株を斡旋するよう再三の要求があり、また、日本橋興業が暫定的に保有する二〇〇万株についても他に斡旋する必要があったため、これらの株式を関係会社に斡旋すべく鋭意交渉が行われたが、前記合意の価額で買い受ける会社は存在せず、結局、同株式を片倉工業自身で買い受けざるをえないこととなった。

(二)  ところで、当時、片倉工業では、全額出資の子会社である暁星エンタープライズの設立手続が進められていたことから、亡船津及び被告柳澤は、本件株式の取得による自己株式保有の状態を早期に解消する方法として、取得後は株式全部を右暁星エンタープライズに譲渡し、同社において昭和四八年中(片倉工業の一会計年度中)にこれを第三者に売却して処理することを決め、この期限内に処分するためには売却代金が取得代金を下回ってもやむをえないと考えていた。なお、右暁星エンタープライズは、片倉工業が経営多角化の一環として昭和四七年一二月末頃までに不動産業務等を営むためその設立を計画していた子会社で、片倉工業の全額出資(三〇〇〇万円)により所定の設立手続を経て昭和四八年三月一四日設立された(同社が片倉工業の全額出資により同日設立されたことは、当事者間に争いがない。)。

(三)  かくして、片倉工業は、昭和四八年三月八日、本件株式を代金合計二三億六八〇〇万円で買い受け、次いで同月一九日、予定どおり暁星エンタープライズに対し、本件株式を代金二三億六八〇〇万円で売り渡し、暁星エンタープライズは、同代金の支払いに代えて、前記片倉工業の日本橋興業及び三井物産に対する合計二三億六八〇〇万円の借入金債務を引き受けた(以上の事実は、当事者に争いがない。)。また、片倉工業は、同日、暁星エンタープライズに対し、右本件株式の譲渡と併せて、関市所在の土地及び建物等並びに三菱銀行株式会社等の株式も各帳簿価額で譲渡し、片倉工業においては、右不動産等の譲渡は全額出資の子会社に対する事後設立の方法によるものとして、法人税法上認められる圧縮記帳を行い、時価が帳簿価額を大幅に上回ることから生じうる譲渡益を計上しないで処理された。

(四)  その後、暁星エンタープライズは、右引き受けた各借入金債務に対する利息を、三井物産に対して一一三万五三四二円、日本橋興業に対して一八九七万六四三八円、それぞれ支払った(この事実は、当事者間に争いがない。)。

そして、暁星エンタープライズは、昭和四八年三月二四日、片倉工業から一一億八四〇〇万円を借り入れて、右三井物産に対する借入金債務を返済し、その後、片倉工業に対する右借入金債務を順次分割返済し、後記合併後の中越株式会社も引き続いて分割返済して、昭和五〇年三月にその返済を完了し、また、右日本橋興業に対する借入金債務についても順次分割返済し、中越株式会社も引き続いて分割返済して、昭和五四年四月にその返済を完了した。

(五)  暁星エンタープライズは、本件株式を、昭和四八年三月二六日から同年一二月二六日までの間に、七回にわたり、沖電気工業株式会社外六社に対して、一株当たり三八〇円ないし五三〇円、合計一六億五四三四万円で全株売却し、これに対する合計四九四万〇七六〇円の取引税を支払い、その結果、暁星エンタープライズにおける本件株式の売却損は、右取引税の負担を含めて七億一八六〇万〇七六〇円となった(以上の事実は、当事者間に争いがない。)。

暁星エンタープライズによる本件株式の売却処分については、本件株式を片倉工業から譲り受けた当初から、被告柳澤が、暁星エンタープライズの役員に対し、昭和四八年中に全株を第三者に売却処分すべく努力するよう指示し、なるべく売却損を出さないことが望ましいが、期限内に処分することの方が重要であって売却代金が安くても期限内に売却する必要がある旨説明していたものであり(ただし、売却の時期、価額等の具体的な方法については、暁星エンタープライズの自主的判断に任されていた。)、右実際の売却代金額は、各売却時の時価相当額ないし市場での大量売却の場合の値下がりを勘案した時価を若干下回る価額であった(なお、吉野ダラーグループ及び中外炉工業の片倉工業株式の買い集め状況のもとで形成された同株式の株価は、昭和四七年末の片倉工業と中外炉工業との前記合意成立以降、下降していたこと、また、昭和四八年二ないし三月には、右合意の価額では買い取り先が見つからない状態であったことに照らすと、本件株式を取得した当時、亡船津及び被告柳澤は、その後の右売却予定期間における同株式の市場価額の低下も当然覚悟していたものといえる。)。

(六)  暁星エンタープライズは、本店を片倉工業の本店と同じ所に置き、片倉工業の本社ビルの四階に事務室を設けて、片倉工業から出向した取締役らによって業務が執行され、関市にも数名の片倉工業からの出向従業員をおいて執務させ、経理関係も片倉工業とは独立して処理されていたが、設立後行った事業としては、本件株式の前記売却処分のほか、関市所在の土地の開発準備、その売却を行い、さらには、その残りの土地につき宅地造成にかかり、第一期工事として二七区画を完成してこれを販売し、また、太平住宅株式会社と共同して分譲住宅九戸を建設するなどした。なお、暁星エンタープライズは、昭和四九年五月までに、関市所在の土地の一部を訴外ユニー株式会社及び関市等に売却して、合計約七億四五五六万円の粗利益を計上した。

(七)  暁星エンタープライズは、前記のように、本件株式を取得価額以下で売却処分したこと及び片倉工業から引き受けた借入金債務の利息を支払ったことによって損失を被ったが、他方、関市所在の土地をその帳簿価額を上回る価額で売却したことによって生じた利益を右損失によって減ずることができたから、右損失の発生がなければ右利益に対して課税されたはずの税負担を免れた。しかし、暁星エンタープライズの株式には、同社が片倉工業から本件株式を譲り受けてこれを売却処分したこと及び右借入金債務の利息を支払ったことによって、全株式合わせて一億四五九七万七〇〇〇円の評価損が発生した(この事実は、当事者間に争いがない。)。

(八)  その後、暁星エンタープライズは、昭和四九年一二月一日、片倉工業がその発行済株式の全部を有する中越ニット株式会社(その後、中越株式会社に商号を変更した。)に吸収合併された。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2 右認定した事実関係の下において、本件株式の取得により片倉工業が被った損害の有無及びその額について検討する。

(一) まず、片倉工業が本件株式の取得代金の支払のために借り入れた借入金の利息として合計五〇二万七九四五円を支払ったことは前示のとおりであり、同利息の支払は、本件株式の取得によって負担した余計な支出であるから、右支払利息相当額は、片倉工業が本件株式の取得によって被った損害ということができる。

次に、片倉工業における本件株式の取得代金の支払自体が片倉工業の損害である旨の原告の主張について検討するに、その主張のように、右取得代金の支払自体をもって本件株式の取得による損害と解するとしても、本件においては、片倉工業は取得した本件株式を暁星エンタープライズに譲渡し、暁星エンタープライズは、その対価として、片倉工業が本件株式取得のために借り入れた取得代金額と同額の借入金債務を引き受け、これを全額弁済したことは、前示のとおりであるから、片倉工業が本件株式の取得代金を支払ったこと自体を同社の損害ととらえる限り、この損害は暁星エンタープライズによる右債務引受及びその債務の弁済完了によって既に補填されたというべきである。この点に関する被告らの主張は理由があり、したがって、本件株式の取得代金の支払自体による損害はこれを認めることができない。

(二) また、原告は、暁星エンタープライズによる本件株式の保有及び売却は、片倉工業の機関として、ないしは片倉工業の計算において行われたか、あるいは暁星エンタープライズは法人格を濫用したものであるから、その法人格を否認すべきであるとして、暁星エンタープライズによる借入金利息の支払相当額及び本件株式の売却損相当額がそのまま片倉工業の損害となる旨主張する。

しかしながら、前示認定したところからすれば、暁星エンタープライズは、片倉工業の経営多角化の一環としての不動産業務の遂行等という独自の目的をもって設立され、片倉工業とは別個の役員及び従業員を有し、本件株式の売却処分のほか、関市所在の土地の売却、宅地造成、分譲住宅建設等の事業を行っていたもので、形式的にも実質的にも、片倉工業とは別個独立の法人格を有する会社であり、また、本件株式の売却は、暁星エンタープライズの自主的な判断に基づいて行われたもので、その損益も同社自身に帰属するというべきであるから、同社による本件株式の保有及び売却が、片倉工業の機関として、又はその計算で行われたとみることはできず、また、その法人格を否認すべき事情があるということもできない(なお、亡船津及び被告柳澤は、暁星エンタープライズ設立の際、同社の所有不動産の売却時に発生が予想される譲渡益に対する課税を、本件株式の早期売却の際に発生する可能性のある売却損を利用して免れようとの税負担軽減の意図を有していたことが窺われるが、このことは、暁星エンタープライズの法人格及びその損益の帰属についての右判断を左右するものではない。)。

したがって、暁星エンタープライズに発生した本件株式の売却損等をそのまま片倉工業の損害と同視すべきである旨の原告の前記主張は失当である。

(三) 次に暁星エンタープライズの株式評価損が片倉工業の損害である旨の原告の主張について検討する。

前示のとおり、暁星エンタープライズが片倉工業から本件株式を譲り受けてこれを売却処分したこと(借入金利息の支払を含む。)によって、片倉工業が有する暁星エンタープライズの全株式につき、合計一億四五九七万七〇〇〇円の評価損が発生したことについては当事者間に争いがないところ、右子会社株式について生じた評価損は、取りも直さず、親会社たる片倉工業の資産の減少を来すものであって、これにより片倉工業は右評価損相当額の損害を被ったことになるといわなければならない。そこで、右片倉工業の損害が本件株式の取得により生じた損害といえるかどうかについてみるに、亡船津及び被告柳澤は、片倉工業が本件株式を取得する時点で、取得後はこれを暁星エンタープライズに譲渡し、暁星エンタープライズにおいて昭和四八年中(片倉工業の一会計年度中)に本件株式全部を第三者に売却し処理することを予定し、現実にそのとおり実行されたことなど、前記認定の本件株式の取得及びその後の経緯等からすれば、片倉工業による本件株式の取得から暁星エンタープライズによる第三者への売却処分までの行為は、全体としてみれば、一個の計画に基づく一連の行為としてとらえることができるから、本件においては、片倉工業による本件株式の取得と右評価損による片倉工業の損害との間には相当因果関係があるというべきである(なお、前記認定のように、亡船津及び被告柳澤は、片倉工業による本件株式取得の当初から、暁星エンタープライズにおいて昭和四八年中に本件株式全部を第三者に売却処分し終えるためには、その売却価額が取得価額を下回ってもやむをえないと考え、その旨暁星エンタープライズにも指示していたのであるから、本件株式の各売却処分時における時価が、仮に被告ら主張のように、市場における株価形成要因に基づいて値下がりしたものであったとしても、そのことは右相当因果関係の存在を妨げる事由とはならないと考えられる。)。

(四) そうすると、結局、本件の自己株式取得によって片倉工業が被った損害は、片倉工業自身が支出した前記借入金利息五〇二万七九四五円と右暁星エンタープライズの株式の評価損による損害一億四五九七万七〇〇〇円の合計一億五一〇〇万四九四五円となる。

五次に、請求原因4(取締役の責任)について検討する。

1  すでにみたとおり、片倉工業による本件株式の取得は、商法二一〇条の規定に違反するものであり、亡船津及び被告柳澤は、本件株式が自己株式に当たることを十分認識しながらその取得を実行したものであって、右両名は、取締役として故意に法令違反の行為を行ったものであるから、商法二六六条一項五号の規定に基づき、これによって片倉工業が被った前記損害を連帯して賠償すべき義務があるといわなければならない(なお、商法二六六条一項五号の規定に基づく取締役の責任は債務不履行責任の一種であるから、右損害賠償債務は請求の日の翌日から遅滞に陥ると解するのが相当である。)。

2  被告らは、抗弁2(責任解除)において、亡船津及び被告柳澤の本件株式取得にかかる責任は、定時株主総会において計算書類の承認決議がなされた後二年が経過したことにより、削除前の商法二八四条に基づき解除された旨主張するところ、原告は、本件株式の取得は同条但書の不正行為に当たるとしてこれを争うので、まず、この点について判断する。

ところで、削除前の商法二八四条によれば、取締役に「不正ノ行為」があるときはその責任の解除はできないこととされているが、右にいう「不正ノ行為」とは、悪意の加害行為、換言すれば、取締役が自己又は第三者の利益を図り、又は会社を害することを知りながら、会社に損害を与える行為をいうと解されるところ、すでに認定、説示したところから明らかなように、亡船津及び被告柳澤による本件株式の取得は商法二一〇条の規定に違反する違法な行為であり、同人らは、本件株式が自己株式に当たることを熟知していたことはもとより、本件株式の取得によって片倉工業が損害を被るかもしれないことを認識しながら、敢えてこれを行ったものであるから、同人らの行為は、右にいう「不正ノ行為」に当たると解するのが相当である。

そうすると、本件株式の取得に関しては、削除前の商法二八四条による責任解除が認められる余地がないことになり、被告らの前記主張は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。

六請求原告5(相続関係)について検討する。

前示のように、亡船津及び被告柳澤は、連帯して、片倉工業に対し、同社の被った損害である一億五一〇〇万四九四五円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五六年一〇月二四日(この点は当裁判所に顕著である。)から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があると認められるところ、請求原因5の事実(亡船津の死亡と相続人たる被告らの相続分)及び抗弁4の事実(相続人らが有効に限定承認したこと)は当事者間に争いがなく、したがって、亡船津の右債務は、それぞれの相続分に応じて、被告しげ、同正雄、同秀夫、同邦雄及び同芳夫に承継され(被告しげは、七五五〇万二四七二円、同正雄、同秀夫、同邦雄及び同芳夫は、各一八八七万五六一八円ずつ。ただし、円未満切り捨て)、同被告らは各相続財産の限度でその責任を負うものである。

七以上のしだいで、本訴請求は、被告らに対し、連帯して、片倉工業に対する損害賠償金一億五一〇〇万四九四五円(ただし、被告しげ、同正雄、同秀夫、同邦雄及び同芳夫については、それぞれ相続分に応じて分割された前記金員)及びこれに対する昭和五六年一〇月二四日から年五分の割合による遅延損害金の支払(ただし、被告しげ、同正雄、同秀夫、同邦雄及び同芳夫は、その相続財産の限度で)を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。なお、仮執行の宣言の申立てについては、相当ではないから、これを付さない。

(裁判長裁判官佐藤久夫 裁判官白井幸夫、同垣内正は差し支えにより署名捺印することができない。裁判長裁判官佐藤久夫)

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