東京地方裁判所 昭和56年(ワ)13196号 判決 1985年9月25日
原告
大京商事株式会社
右代表者代表取締役
石橋榮子
右訴訟代理人弁護士
百瀬和男
被告
萩原得司
後藤悦男
右訴訟代理人弁護士
雨笠宏雄
小川裕之
飛田政雄
被告
神崎輝雄
右訴訟代理人弁護士
中村正樹
主文
一 被告萩原得司及び被告神崎輝雄は、各自、原告に対し、金三八〇〇万円及びこれに対する被告萩原得司については昭和五六年一一月二五日から、被告神崎輝雄については同月一九日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告後藤悦男に対する請求並びに被告萩原得司及び被告神崎輝雄に対するその余の請求は、いずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告萩原得司及び被告神崎輝雄の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告に対し、金四〇〇〇万円及びこれに対する昭和五三年一一月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 本件売買契約をめぐる紛争の概要
(一) 株式会社風土社(以下「風土社」という。)は、昭和五三年一一月一七日、吉田伊三郎(以下「吉田」という。)の代理人と称する石渡孝之(以下「石渡」という。)との間で、風土社が吉田から同人所有の別紙物件目録記載の土地及び建物(以下右土地を「本件土地」、右建物を「本件建物」といい、本件土地と本件建物とを合わせて「本件不動産」という。)を買戻期限を昭和五四年一月二一日限りとする買戻特約付、代金三〇〇〇万円の約定で買い受ける旨の売買契約(以下「本件先行売買契約」という。)を締結した。
(二) そして、原告は、昭和五三年一一月二二日、風土社との間で、原告が風土社から本件不動産を買戻期限を昭和五四年五月二一日限りとする買戻特約付、代金四〇〇〇万円、風土社は昭和五四年一月二一日までに本件建物に居住している黒木貞夫及び黒木八千代夫妻(以下「黒木夫妻」という。)との間で黒木夫妻が右同日までに本件建物から立ち退く旨の内容の即決和解を成立させるとの約定による売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、風土社に対し、右代金全額を支払い、昭和五三年一一月三〇日、風土社から、本件不動産につき所有権移転登記を受けた。
(三) ところが、本件先行売買契約は、吉田の娘である黒木八千代が、吉田に無断で吉田の実印及び本件不動産の登記済権利証を持ち出し、石渡がこれらを利用して吉田に無断でしたものであり、本件建物に居住していた黒木夫妻も、本件建物の明渡しに同意してはいなかつた。このため、風土社は、その後、被告後藤悦男(以下「被告後藤」という。)を代理人として、大森簡易裁判所に、黒木夫妻を相手方として、本件建物の明渡しを求める即決和解の申立てをしたが、黒木夫妻が同裁判所に出頭せず、右即決和解を成立させることができず、また、原告は、吉田から、原告が本件不動産について有する前記所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴え(東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第一五四六号事件)を提起され、裁判所の勧告により、昭和五六年四月一五日、原告は黒木夫妻から五〇〇万円の支払を受けるのと引換えに吉田に対し右抹消登記手続をする旨の訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)をし、同年五月一八日、右和解に従つて、本件不動産につき右抹消登記手続をし、結局、本件不動産を取得することができなかつた。
2 被告らの責任
(一) 被告萩原得司(以下「被告萩原」という。)について
被告萩原は、風土社の代表取締役であるが、風土社は、本件売買契約において、原告に対し、本件不動産を売り渡すこと及び黒木夫妻との間で本件建物からの立退きに関する即決和解を成立させることを約した。したがつて、被告萩原は、風土社の代表取締役として、風土社が原告に対して確実に本件不動産の所有権を取得させることができるよう、吉田との本件先行売買契約につき吉田に真に風土社に対して本件不動産を売却する意思があるか否か及び吉田の代理人と称する石渡に真に代理権があるか否かを確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、また、風土社が黒木夫妻との間に本件建物からの立退きに関する即決和解を確実に成立させることができるよう、本件売買契約の締結に先立つて、黒木夫妻に真に本件建物から立ち退く意思があるか否かを確認すべき注意義務があるのにこれも怠り、漫然と原告との間に本件売買契約を締結した。したがつて、被告萩原は、悪意又は重大な過失により風土社の代表取締役として尽すべき義務を怠つたものというべく、商法二六六条ノ三により、原告が本件売買契約によつて被つた損害を賠償すべき責任がある。
(二) 被告後藤について
被告後藤は、弁護士であり、昭和五三年一〇月ころ、風土社から、吉田と風土社との間の本件先行売買契約の締結及び風土社と原告との間の本件売買契約の締結に立ち会うこと並びに風土社と黒木夫妻との間に本件建物からの立退きについて即決和解を成立させることを依頼され、同年一一月一七日吉田と風土社との間の本件先行売買契約の締結に立ち会い、同月二二日には本件売買契約の締結に立ち会つたが、本件売買契約締結の際、原告に対し、風土社と黒木夫妻との間に本件建物からの立退きについて即決和解を成立させることを約するとともに、売買契約書を作成し、原告から、契約立会い及び即決和解の費用として一〇万円を受領した。ところで、一般人が法律の専門家である弁護士に対して売買契約への立会いを依頼するのは、その専門の知識経験を利用して瑕疵のない完全な契約を成立させることを期待するからである。そして、契約の締結が本人によるものか代理人によるものか、代理人によるものである場合には真実代理権を有するか否か等を直接本人に確認することは最少限の注意義務である。ところが、本件先行売買契約は石渡が吉田の代理人として締結したものであるが、石渡の代理行為の態様は、石渡が被告後藤の面前で契約書上に直接本人である吉田の氏名を記載して押印するといういわゆる署名代行の方法によるものであり、また、石渡の代理権限を証するものとして一応委任状らしきもの(甲第六号証。以下「本件委任状」という。)は存するが、被告後藤は本件委任状が吉田の書いたものでないことを認識しており、かつ、その文言も「宅地ならびに建物のいつさいのけんげんを御任致します」というもので、宅地建物の表示がないばかりか、具体的に何を委任するかも明らかでなく、外見上も正常な委任状とは認められないものであつたのであるから、被告後藤としては、石渡が真に代理権を有するか否かを吉田に確認すべき注意義務があつたものというべく、被告がもし右確認をしていれば吉田に本件不動産を売却する意思のないことが判明したはずであるのに、これを怠つた。しかも、被告後藤は、風土社から黒木夫妻との間に本件建物からの立退きについて即決和解を成立させることを依頼され、また、原告に対してはこれを約していたのであるが、即決和解は両当事者の事前の合意なくして有効な成立はありえないのであるから、被告後藤としては、相手方である黒木夫妻と事前に会い、右即決和解を成立させることにつきその意思を確認すべき注意義務があり、被告後藤がもし右確認をしていれば黒木夫妻が本件建物から立ち退く意思も本件建物からの立退きを内容とする即決和解を成立させる意思もないことが判明したはずであるのに、これを怠つた。したがつて、被告後藤は、過失により本件売買契約の立会人として尽すべき注意義務を怠つたものというべく、民法七〇九条により、原告が本件売買契約によつて被つた損害を賠償すべき責任がある。
(三) 被告神崎輝雄(以下「被告神崎」という。)について
原告は、被告神崎が昭和五三年一一月一〇日ころ原告に対して「良い物件があるから買わないか。弁護士がついて売買するから間違いのない取引である。」旨述べて本件不動産の売買の仲介を申し入れてきたので、そのころ、被告神崎との間に、本件不動産売買についての仲介契約(以下「本件仲介契約」という。)を締結し、被告神崎の仲介により、同年一一月二二日、風土社との間に、本件売買契約を締結した。ところで、不動産の取引を仲介する者は、信義則に従い、善管注意義務を負う(民法六四四条)ところ、被告神崎は、石渡が吉田の代理人として吉田と風土社との間の本件先行売買契約を締結したことを知つていたのであるから、石渡の代理権の有無について本人である吉田に確認すべき注意義務があつたのに、これを怠つた。したがつて、被告神崎は、本件仲介契約上要求される善管注意義務を尽さなかつたものというべく、原告が本件売買契約によつて被つた損害を賠償すべき責任がある。
3 損害
(一) 原告は、前記のとおり、昭和五三年一一月二二日、本件売買契約を締結し、風土社に対して本件不動産の売買代金として四〇〇〇万円を支払つたが、その後吉田から本件不動産につき所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起され、昭和五六年四月一五日本件和解をし、これに基づきそのころ黒木夫妻から五〇〇万円の和解金を受領するのと引換えに吉田に対し本件不動産の所有権移転登記の抹消登記手続をすることを余儀なくされ、本件不動産を取得することができなかつた。以上のとおりであるので、原告は、既に支払つた売買代金四〇〇〇万円から右和解金五〇〇万円を控除した三五〇〇万円の損害を被つた。
(二) 原告は、被告らを信頼して本件売買契約を締結したのに、本件不動産を取得することができず、かえつて、前記財産上の損害を被つたもので、これにより原告の受けた精神的苦痛は図り知れず、これを金銭で慰藉するには二〇〇万円を下ることはない。
(三) 原告は、被告に対して右各損害の賠償を求めるため、原告訴訟代理人に委任して本件訴訟を提起するに至つたものであり、右委任に際し、原告訴訟代理人に対し、報酬として三〇〇万円を支払う旨を約束した。
4 よつて、原告は、被告萩原に対しては商法二六六条ノ三に基づき、被告後藤に対しては民法七〇九条に基づき、被告神崎に対しては本件仲介契約の債務不履行に基づき、各自、前記3(一)ないし(三)の損害合計四〇〇〇万円及びこれに対する本件売買契約締結の日の翌日である昭和五三年一一月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 被告萩原
(一) 請求原因1の事実は認める(ただし、本件先行売買契約が締結されたのは、昭和五三年一一月二二日である。)。
(二) 同2(一)のうち、被告萩原が風土社の代表取締役であつたこと、本件売買契約において風土社が原告に対して本件不動産を売り渡すこと及び黒木夫妻との間で本件建物からの立退きに関する即決和解を成立させることを約したことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
(三) 同3は、(一)の事実のうち、原告が三五〇〇万円の損害を被つたとの点は争い、その余は認め、(二)、(三)はすべて争う。
2 被告後藤
(一) 請求原因1の事実は認める(ただし、本件先行売買契約が締結されたのは、昭和五三年一一月二二日である。)。
(二) 同2(二)のうち、被告後藤が弁護士であること、被告後藤が被告萩原から吉田と風土社との間の本件先行売買契約の締結及び風土社と原告との間の本件売買契約の締結に立ち会うこと並びに風土社と黒木夫妻との間の本件建物の明渡しに関する即決和解の申請手続を行うことを依頼されたこと(その時期は同年一一月上旬である。)、被告後藤が同月二二日本件先行売買契約及び本件売買契約の各締結に立ち会つたこと、被告後藤が本件売買契約締結の際売買契約書を作成し、原告から一〇万円を受領したこと、石渡の代理行為の態様が原告主張のようないわゆる署名代行の方法によるものであつたこと並びに石渡の代理権を証するものとして本件委任状が存在することは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
(三) 同3は、(一)の事実のうち、原告が三五〇〇万円の損害を被つたとの点は争い、その余は認め、(二)、(三)はすべて争う。
3 被告神崎
(一) 請求原因1の事実のうち、本件先行売買契約における売買代金が三〇〇〇万円であつたことは知らないが、その余は認める(ただし、本件先行売買契約が締結されたのは、昭和五三年一一月二二日である。)。
(二) 同2(三)のうち、被告神崎が昭和五三年一一月ころ本件不動産を原告に紹介したこと及び被告神崎が石渡が吉田の代理人として吉田と風土社との間の本件先行売買契約を締結したことを知つていたことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
(三) 同3は、(一)の事実のうち、原告が三五〇〇万円の損害を被つたとの点は争い、その余は認め、(二)、(三)はすべて争う。
三 被告らの主張
1 被告萩原
風土社は、藤田稔(以下「藤田」という。)及び中村信雄(以下「中村」という。)から頼まれて、本件先行売買契約及び本件売買契約において風土社の名義を貸したにすぎない。そして、原告は、不動産業者として豊かな経験を有し、本件不動産についても現地調査をして確認しており、更に、風土社は単に名義を貸していたにすぎないこと及び石渡が吉田の代理人として行動していたことを認識していたのであるから、被告萩原は、原告主張のような責任を負うものではない。
2 被告後藤
不動産取引において立会人をおくのは、契約の成立や内容について契約当事者間等で後日紛争が生じたときに証拠を確保するためであり、立会人は、契約締結の場に居合わせ、その状況を目撃するなどして契約の成立及び内容を証明しうるようにすれば足りるのであつて、このことは、弁護士が立会人になるからといつて、特に責任が加重されるわけではなく、ただ、一般人が立会人になる場合に比べて、証拠としての価値が増大するというにすぎない。また、即決和解についても、被告後藤は、風土社から、既に風土社と黒木夫妻との間で確定ずみの合意について訴訟法上の手続をとるように依頼されたにすぎず、被告後藤において黒木夫妻との間に即決和解の内容について折衝することをまで依頼されていたのではない。契約書の作成についても、被告後藤は、既に原告と風土社との間で確定されていた契約内容を市販の用紙に書き込んだにすぎない。被告後藤が受領した一〇万円も、契約の立会い及び契約書作成の費用として原告と風土社が協議して決めた金額である。吉田から石渡への本件委任状には、本件不動産を特定するに足りる表示がされている。代理行為の態様としてのいわゆる署名代行も、わが国の慣行上まま見られることであり、法律上の効果も一般の代理行為と変わるところはない。かえつて、被告後藤は、本件先行売買契約締結の際、石渡に対し、本件委任状及び吉田の印鑑証明書の呈示を求めたうえ、石渡から本件委任状が吉田が書いたものであるとの返答を得て、本件委任状が吉田の真意に基づくものか否か確認しており、また、原告も、石渡が吉田の代理人として契約に関与していることを承知し、同人と事前交渉すらしていたのである。更に、被告後藤は、本件売買契約締結の際には、原告に対し、被告後藤が吉田や黒木夫妻には会つていないことを伝えたり、「明渡しも即決和解もできていない段階で売買代金全額を支払つて大丈夫ですか。」と念を押したりしているのである。したがつて、被告後藤は、原告主張のような責任を負うものではない。
3 被告神崎
被告神崎は、本件売買契約の仲介人ではなく、原告に対する本件不動産の紹介者にすぎず、現に、原告は、本件売買契約締結の際、被告神崎に対し、謝礼として二〇万円を支払つたにすぎない。そして、原告は、再三にわたり被告萩原と交渉し、自らも調査して十分納得したうえで、本件売買契約に踏み切つたものである。また、仮に被告神崎が原告主張のとおり本件売買契約の仲介人であつたとしても、被告神崎は、即決和解をすることを提案するなど取引の万全を期しての助言をしている。したがつて、被告神崎は、原告主張のような責任を負うものではない。
四 被告らの主張に対する認否
1 三1(被告萩原の主張)の事実は否認し、主張は争う。
2 三2(被告後藤の主張)の事実はすべて否認し、主張は争う。
3 三3(被告神崎の主張)のうち、原告が本件売買契約締結の際に被告神崎に対して金員を支払つたこと(ただし、これは仲介手数料として被告神崎の求めに応じて支払つたものであり、金額は三〇万円であつた。)及び原告が本件売買契約締結までに被告萩原と三回、被告後藤と二回会い、本件不動産の取引に関して話をしたことは認めるが、被告神崎が即決和解の提案をしたことは知らず、その余の事実は否認し、主張は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1の事実は、本件先行売買契約締結の年月日及びその代金額の点を除き、すべて当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、本件先行売買契約は、昭和五三年一一月二二日に締結されたことを認めることができる。この点につき、その記載内容から本件先行売買契約の契約書と認められる甲第一号証及び乙第四号証並びにその記載内容から本件先行売買契約における買戻期限の猶予について作成された念書と認められる甲第一三号証には、いずれもその作成の日付として「昭和五三年一一月一七日」の記載があり、また、別件被告後藤供述中には、本件先行売買契約締結の日と本件売買契約締結の日は違つていたと思うとの部分もあるが、別件被告後藤供述は、本件被告後藤供述により、右両契約はいずれも同年一一月二二日に締結されたものであるとして訂正されており、また、被告萩原及び同後藤各供述によれば、被告萩原、被告後藤及び石渡は、本件先行売買契約の契約書の日付を本件売買契約締結の日より先行させたほうがよいとして実際の契約締結日より意識して遡らせたことが認められるので、前掲各証拠中本件先行売買契約の締結日が昭和五三年一一月一七日である旨の原告の主張にそう部分は直ちにこれを信用することができず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
また、本件先行売買契約の代金額については、原告と被告萩原及び同後藤との間では三〇〇〇万円であることに争いがなく、原告と被告神崎との間では、被告萩原供述及び本件被告後藤供述により真正に成立したものと認められる乙第四号証並びに被告萩原及び同後藤各供述により、これを三〇〇〇万円と認めることができる。
二被告らの責任
1 本件売買契約締結に至る経緯
右一の事実と、<証拠>を総合すると、以下の事実を認めることができ、<証拠>中右認定に反する部分は信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 被告萩原は、昭和五三年一〇月当時、東京都中央区京橋所在の風土社の代表取締役であると同時に、同都港区麻布に事務所を有する早稲田村建設実行委員会の委員長であつた。早稲田村建設実行委員会は、早稲田大学出身者のため宮城県内に一種の文化センターを建設する計画の準備等に当つていた法人格なき社団であつたが、当時は全く収入のない団体であつた。
(二) ところで、早稲田村建設実行委員会の委員であつた藤田及び中村は、昭和五三年一〇月ころ、望月某から、買戻特約付で本件不動産を買い取つてくれる買主を探していると聞かされ、早稲田村建設実行委員会の名前で本件不動産を買い受け、これを他に転売し、転売利益を得ようと考えた。
そして、藤田は、そのころ、かねてからの知合いの不動産取引の仲介を業としていた被告神崎に対し、早稲田村建設実行委員会で本件不動産を買い取つて他に転売したいので、買戻特約付で四〇〇〇万円で買つてくれる者を探してほしい旨本件不動産取引の仲介を依頼した。被告神崎は、その際、藤田から、本件不動産の持主は病気で入院しており、娘がすべてを任されている、本件建物には持主の娘夫婦が住んでいると知らされ、その後、更に、本件不動産の取引には弁護士が立ち会うことになつていると告げられた。
また、中村は、同年一〇月下旬ころ、かねてより面識のある弁護士である被告後藤に対し、早稲田村建設実行委員会が本件不動産を買い受けて他に転売するについて法律相談を依頼し、契約内容について法律専門家としての意見を求めた。
藤田及び中村は、当初は、前記のとおり、早稲田村建設実行委員会の名前で本件不動産の取引をする考えであつたが、その後、右委員会には法人格がないところから、被告萩原が代表者をしている風土社の名義を借りて風土社の名義で本件不動産の取引をしようと考え、同年一一月初めころ、被告萩原に対し、本件不動産の取引をするについて風土社の名義を貸してほしい旨求め、その承諾を得た。
(三) 被告後藤は、前記のように、中村から本件不動産取引について法律相談を受けてこれに応じ、本件建物居住者の本件建物からの立退きを確実なものにするため居住者との間で即決和解を成立させておいた方がよい旨助言したりしているうちに、中村から、本件不動産売買契約締結への立会いと右即決和解の申請手続をとることをも依頼され、これを引き受けたが、その後の昭和五三年一一月上旬ころ、被告萩原から、早稲田村建設実行委員会に代わつて風土社が間に入り、風土社が本件不動産を買い受けて他に転売することになつたとして、改めて、風土社のする本件不動産の買受け及び転売の各契約締結への立会いと本件建物居住者との本件建物明渡しに関する即決和解の申請手続をとることを依頼され、これを承諾した。
そして、被告後藤は、同年一一月中旬ころまでの間に、中村あるいは被告萩原から、本件不動産の所有者である吉田は病気で動けないこと、そのため石渡が吉田の代理人を務めること及び本件建物には吉田の娘夫婦である黒木夫妻が居住していることを聞かされた。そこで、被告後藤は、そのころ、被告萩原に対し、吉田に会つて本件不動産売却の意思の有無及び石渡に対する代理権授与の有無を、また、黒木夫妻に会つて前記趣旨の即決和解に応ずる意思の有無をそれぞれ確認するよう指示し、その後間もなく、被告萩原から、吉田は病気で入院していて動けないので会えなかつたが、黒木八千代及び石渡に会つた結果、吉田は娘の黒木八千代にすべてを任せてあり、黒木八千代は石渡にすべてを任せてあるということであつたとの報告を受けた。しかし、被告後藤は、それ以上に、自ら前記事項の確認をすることはしなかつた。
(四) 被告神崎は、前記のように藤田から本件不動産取引の仲介を依頼され、昭和五三年一一月上旬ころ、同郷の友人である原告の代表者石橋栄夫(以下「石橋」という。)に対し、本件不動産を紹介してこれを買い受けることを勧め、契約の締結には弁護士が立ち会うことになつていると説明した。
そして、被告神崎は、石橋が原告において本件不動産を買い受ける意向を示したところから、本件不動産の登記簿謄本を取り寄せてその権利関係を確認したり、石橋とともに二、三度現地に行つて本件不動産を外から見たりしたが、その際、居住者に会つて権利関係や居住関係を調査することはしなかつた。
また、被告神崎は、石橋とともに、同年一一月中旬ころ、早稲田村建設実行委員会の事務所において、藤田から、黒木八千代を本件不動産の所有者である吉田の娘であり吉田からすべてを任されている者であるとして、石渡を黒木八千代からすべてを任されている者であるとしてそれぞれ紹介された。しかし、被告神崎は、自ら吉田に会つて本件不動産売却の意思の有無や石渡に対する代理権授与の有無を確認することはしなかつた。
(五) 被告萩原は、前記のように、被告後藤から、吉田に会つて本件不動産売却の意思の有無及び石渡に対する代理権授与の有無を、また、黒木夫妻に会つて即決和解応諾の意思の有無をそれぞれ確認するよう指示されたところから、昭和五三年一一月中旬ころ、藤田及び中村の紹介により、早稲田村建設実行委員会の事務所において、黒木八千代及び石渡に会つたが、黒木八千代が、吉田は入院していて動けない、自分が吉田からすべてを任されているが、自分も子どもと病人を抱えて大変なので、石渡にすべてを任せてあると説明し、被告萩原の面前において、石渡に対し、石渡の指示によりあらかじめ吉田名義で作成しておいた、本件不動産の一切の権限を石渡に委任する旨記載された本件委任状(甲第六号証)及び吉田の実印を交付したので、黒木八千代の右の説明を信用し、それ以上吉田に直接会つて前記事項を確認することをしようとせず、また、黒木八千代に対して具体的に前記趣旨の即決和解に応ずる意思があるか否かを確認することもしないで、被告後藤に対し、前記のような報告をした。
また、被告萩原及び中村は、同年一一月中旬ころ、石橋に対し、被告後藤を本件不動産売買契約の立会いを依頼している弁護士であるとして紹介した。
(六) 吉田と風土社との間の本件不動産売買の契約内容についての交渉は石渡と藤田、中村らとの間で行われ、風土社と原告との間の本件不動産売買の契約内容についての交渉は藤田、中村らと石橋との間で行われたが、その過程で、石橋は、本件不動産は風土社が吉田から買い受けて原告に対して転売するものであること及び石渡が吉田の代理人であることを知り、石渡と直接話し合うこともあつた。これに対し、被告萩原は、藤田、中村らから右交渉の経過及び内容について報告は受けていたが、自ら右交渉に当つたことはなく、また、被告後藤及び被告神崎が右交渉に加わつたこともなかつた。
そして、右交渉の結果、吉田から風土社に対しては売買代金三〇〇〇万円で、風土社から原告に対しては売買代金四〇〇〇万円で、いずれも買戻特約付、本件建物居住者である黒木夫妻との間に本件建物の明渡しについて即決和解を成立させること、本件不動産にされている石渡を債務者とし、東都建設工業株式会社(以下「東都建設」という。)を根抵当権者とする極度額一五〇〇万円の根抵当権設定登記を抹消すること等を条件として本件不動産を売買することが合意され、昭和五三年一一月中旬に二、三度契約締結日が予定されたが、原告側で売買代金の準備が間に合わなかつたりして延期され、最終的に同年一一月二二日に右各売買契約が締結されることになつた。
(七) そこで、被告萩原、被告神崎、石橋及び石渡は、まず、昭和五三年一一月二二日午前中に、東都建設に行き、石橋が持参した、原告が風土社に対して支払うべき本件不動産の売買代金の一部約一五〇〇万円をもつて石渡の東都建設に対する債務を弁済し、東都建設から、前記根抵当権設定登記の抹消登記手続に必要な書類を受領し、早稲田村建設実行委員会の事務所に戻つて来た。
そして、石渡と被告萩原とは、右事務所において、被告後藤の立会いのもとに、吉田と風土社との間の本件先行売買契約を締結し、その契約書(甲第一号証、乙第四号証)を作成した。右契約書は、契約当事者間で契約書を用意していなかつたため、被告後藤が急拠市販の契約書用紙に必要事項を記載して作成したものであり、石渡は、右契約書上に直接吉田の氏名を記載する、いわゆる署名代行の形式で代理行為を行つた。石渡は、その際、代理権を証する書類として本件委任状を提示したので、被告後藤は、石渡に対し、本件委任状が吉田の意思に基づくものかどうか及びだれが書いたものであるかを問いただしたところ、石渡は、吉田は娘の黒木八千代にすべてを任せており、本件委任状は黒木八千代が書いたものであると説明した。また、被告後藤は、被告萩原及び石渡に対し、だれを相手方として前記即決和解の手続を進めればよいのか再確認を求め、黒木夫妻が相手方であることを確認した。
次いで、被告萩原と石橋とは、右事務所において、被告後藤の立会いのもとに、風土社と原告との間の本件売買契約を締結し、その契約書(甲第二号証)を作成した。右契約書も、契約当事者間で契約書を用意していなかつたため、被告後藤が急拠市販の契約書用紙に必要事項を記載して作成したものであつた。被告後藤は、その際、石橋らに対し、自分は直接吉田に会つていないがこれでよいですかと確認し、また、風土社から黒木夫妻との間で前記即決和解の手続をとることを依頼されていると述べた。
被告神崎は、右両売買契約締結の場に同席していたが、本件売買契約の契約書に立会人あるいは仲介業者として署名することはしなかつた。
その後、直ちに、被告萩原、被告後藤、被告神崎、石橋、石渡らは、司法書士事務所に行き、本件不動産につき吉田から風土社へ及び風土社から原告への各所有権移転登記手続並びに東都建設の前記根抵当権設定登記の抹消登記手続をそれぞれ依頼するとともに、本件先行売買契約及び本件売買契約の各売買代金の授受を行つた。被告後藤は、右売買代金の授受の際、石橋に対し、即決和解がまだできていないのに売買代金全額を支払つてしまつてよいのかと注意したが、石橋は、大丈夫であるとして、右売買代金の授受を了した。そして、石橋は、右席上、被告後藤に対し、契約立会い及び契約書作成の報酬として一〇万円を支払つた。
また、石橋は、被告神崎から本件不動産の紹介を受けた当初は、同被告に対し、正規の仲介手数料を支払うことを約していて、これによれば、被告神崎は原告から約一二〇万円の仲介手数料の支払を受けられるはずであつたが、石橋は、本件売買契約成立後、被告神崎に対し、金がないので、原告が本件不動産を転売する際には同被告に仲介を任せてもうけさせてやるから今回の仲介手数料は二〇万円でがまんしてほしい旨申し入れ、被告神崎も、石橋とは友人関係にあつたところから、右申入れをやむをえないものとして了承し、結局、原告から、仲介手数料として二〇万円の支払を受けた。
2 被告萩原の責任について
前記のとおり、本件売買契約においては、風土社が原告に対して本件不動産の所有権を移転することのほか、昭和五四年一月二一日までに黒木夫妻との間で本件建物の明渡しに関する即決和解を成立させ、原告に利用権の負担のない本件不動産を取得させることが契約の目的とされていた。したがつて、風土社の代表取締役である被告萩原としては、吉田と風土社との本件先行売買契約を瑕疵なく有効に成立させて原告に確実に本件不動産の所有権を取得させることができるようにするため、吉田に真に本件不動産の売却意思があるのか及び石渡に真に吉田を代理する権限があるのかを、また、黒木夫妻との間に本件建物の明渡しに関する即決和解を成立させて原告に確実に利用権の負担のない本件不動産を取得させることができるようにするため、黒木夫妻に真に本件建物からの立退きに応じ即決和解を成立させる意思があるのかを確認すべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、被告萩原は、吉田に会つて本件不動産売却の意思及び石渡の代理権の有無を確認することをせず、また、黒木八千代には一度会いはしたものの、その際に同人の本件建物立退きの意思を確認することをしてはおらず、他に右注意義務にそつた見るべき措置をとつたことは何ら認められない。また、前記認定のとおり、原告の代表者である石橋は、本件不動産は風土社が原告から買い受けて原告に転売するものであること及び石渡が吉田の代理人として行動していたことを認識しており、かつ、自ら本件不動産の現地調査をしたり、石渡と話し合つたりしているが、右事実は、被告萩原の前記注意義務を軽減するものとはいえない。そうすると、被告萩原には、風土社の代表取締役としてその職務を行うにつき重大な過失があつたものというべきである。
3 被告後藤について
前記認定の事実によれば、被告後藤は弁護士であり、本件売買契約締結に立会人として立ち会い、原告から右立会い等の報酬として一〇万円の支払を受けているのであるが、一般に、契約締結の立会人とは、後日契約締結の事実を証明するための証拠とする目的で契約締結の場に立ち会わせる者をいい、右立会人が弁護士であつても、法律専門家である弁護士であるということに伴つて、付随的に契約内容につき法律上の観点から適切な指導、助言をすることが期待されることがあるとしても、立会人としての本質に変わりはなく、契約当事者の代理人あるいは仲介人とは異なり、契約の相手方当事者と自ら交渉したり、契約の目的である権利関係の帰属、内容あるいは契約当事者の権限の有無等を自ら調査したりする義務はないものというべきである。そして、本件についてみると、前記認定のとおり、被告後藤は、本件売買契約の締結のみではなく本件先行売買契約の締結にも立ち会うことを依頼され、本件先行売買契約において石渡が吉田の代理人として行動していることを知つていたのであるが、風土社の代表者である被告萩原に対して吉田に会つて本件不動産売却の意思の有無及び石渡に対する代理権授与の有無を確認するよう指示し、本件先行売買契約締結の際には石渡がその代理権を証するものとして提示した本件委任状につきその作成が本人の意思に基づくものであるかどうか説明を求め、また、本件売買契約締結の際には原告の代表者である石橋らに対して自分は真接吉田に会つていない旨をわざわざ述べ、更に、その後の司法書士事務所における右各売買契約の売買代金授受の際にも石橋に対して本件売買契約において契約条件の一つとされていた黒木夫妻との即決和解がいまだ成立しないうちに売買代金全額を支払つてしまつてよいのかと注意しているのであるから、被告後藤は、本件売買契約につき立会人として期待される指導、助言を一応尽しているものと認めるのが相当である。原告は、石渡の代理行為の態様がいわゆる署名代行の方法によるものであること、被告後藤は石渡の代理権限を証する本件委任状が本人である吉田の書いたものではないことを認識していたこと及び本件委任状の文言に不備があることをもつて、被告後藤は吉田に石渡の代理権の有無を確認すべきであつたと主張するが、立会人にすぎない被告後藤は、前示したとおり、右のような義務を負うものではないものというべきである。
また、原告は、被告後藤は、風土社から黒木夫妻との間に本件建物からの立退きについての即決和解を成立させることを依頼され、原告に対しては、右即決和解を成立させることを約していたから、黒木夫妻と事前に会い、右即決和解応諾の意思を確認すべき注意義務があつたと主張する。しかしながら、被告後藤が原告に対し右即決和解を成立させることを約したとの点は、これを認めるに足りる証拠はない。また、右即決和解を成立させることが本件先行売買契約及び本件売買契約において契約条件の一つとされていたこと、被告後藤が風土社から右即決和解の申請手続を依頼されていたこと並びに被告後藤が本件売買契約締結の際原告の代表者である石橋に対し風土社から右即決和解の申請手続をとることを依頼されていると述べたことは、前示のとおりであるが、これらの事実が存在することを考慮しても、被告後藤は、原告に対する関係では立会人にすぎないのであるから、原告に対し、事前に黒木夫妻との間に右即決和解応諾の意思の有無を確認すべき注意義務を負う理由はないものというべきである。
したがつて、被告後藤には本件売買契約締結の立会人として尽すべき注意義務に格別の懈怠があるものということはできないから、原告の被告後藤に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
4 被告神崎について
前記のとおり、被告神崎は、かねてから不動産取引の仲介を業としているものであり、原告に対して本件不動産を紹介してその買受けを勧め、石橋を同道して本件不動産を現地に見分したり、本件売買契約締結の際に同席し、かつ、原告から仲介手数料として金額を大幅に減額されたとはいえ二〇万円を受領しているのであり、右事実によれば、被告神崎と原告とは本件不動産取引につき仲介契約を締結していたものと認めるのが相当である。
そうすると、被告神崎は、委託を受けて本件不動産取引を仲介する者として、原告に対し、善良な管理者としての注意義務を負うものというべきところ、被告神崎は、原告に対して本件不動産を紹介した当初から、本件不動産は風土社が吉田から買い受けて直ちに原告に転売するものであることを知つていたのであるから、被告神崎は、原告に対する関係においても、吉田と風土社との間の本件先行売買契約が有効にされたか否か、すなわち、吉田に真に本件不動産を売却する意思があるのかどうか、あるいは石渡に真に代理権があるのかどうかを確認すべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、被告神崎が右の点について見るべき確認をした事実は、何ら認められない。なるほど、石橋は、自ら藤田、中村らと交渉し、本件不動産を現地で見分したうえで本件売買契約を締結しており、また、本件不動産は風土社が吉田から買い受けて原告に転売するものであること及び石渡が吉田の代理人として行動していることを知つており、自ら石渡と会つて話し合うこともしているのであるが、右事実により直ちに被告神崎の注意義務が左右されるものではない。また、被告神崎は、自己が即決和解の作成を提案したと主張するが、仮に右事実が存するとしても、これをもつて被告神崎が前記注意義務を尽したということはできない。以上のとおりであるから、被告神崎は、仲介契約上負う注意義務を怠つたものと認めざるをえない。
三損害
1 財産上の損害
請求原因3(一)の事実は、原告が三五〇〇万円の損害を被つたとの点を除き、当事者間に争いがない。そして、右争いのない事実によれば、原告が三五〇〇万円の損害を被つたことは明らかである。
2 慰藉料
原告は、被告らを信頼して本件売買契約を締結したのに、被告らの注意義務の懈怠により本件不動産を取得することができなかつたばかりか、かえつて、前記財産上の損害を被り、これにより原告の受けた精神的苦痛は図り知れず、これを金銭で慰藉するには二〇〇万円を下らない、と主張する。しかしながら、原告は、法人であるから、そもそも精神的損害ということは考えられないのみならず、この点はしばらくおくとしても、前記認定の事実、特に、本件売買契約締結の経緯、被告萩原及び被告神崎の注意義務懈怠の態様並びに原告の被つた前記財産上の損害の内容にかんがみれば、原告にその主張のような精神的損害が生ずるものとも認めがたい。したがつて、原告の慰藉料請求は理由がない。
3 弁護士費用
原告が本件訴訟の遂行を弁護士である原告訴訟代理人に委任していることは記録上明らかであるところ、本件訴訟の内容、経過、訴訟の難易、認容額その他諸般の事情を勘案すれば、原告が損害として被告萩原及び被告神崎に対して請求しうべき弁護士費用は、三〇〇万円をもつて相当と認める。
四結論
以上のとおりであるから、原告の被告後藤に対する請求は失当として棄却し、原告の被告萩原及び被告神崎に対する請求は、右両被告に対し、各自前記財産上の損害三五〇〇万円と弁護士費用三〇〇万円との合計三八〇〇万円及びこれに対する被告萩原については本件訴状が同被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五六年一一月二五日から、被告神崎については本件訴状が同被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな同月一九日からいずれも各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官石井健吾 裁判官寺尾 洋 裁判官八木一洋)