東京地方裁判所 昭和56年(ワ)14910号 判決 1982年5月14日
東京都新宿区築地町一六番地ライオンズ・マンション
神楽坂第三の四〇三号
原告
阿部数利
同都千代田区富士見二丁目一四番三号九段議員宿舎内
被告
渡辺美智雄
同都新宿区百人町三丁目二七番一四号
被告
渡部周治
右両名訴訟代理人弁護士
島村芳見
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「被告らは、原告に対し各自金五〇万円及びこれに対する昭和五七年一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。仮執行宣言。」との裁判を求め、その請求原因として、「原告は、訴外阿部徳男(以下(訴外阿部」という。の依頼により税理士として関与する者であり、被告渡辺美智雄(以下被告渡辺という)及び同渡部周治(以下被告渡部という)は、以下の本件請願、異議申立てがなされた当時、それぞれ大蔵大臣、国税庁長官であつた。ところで、大宮税務署長は、訴外阿部に対して、昭和五五年度の所得について、同五六年八月一七日付で更正処分を行つた。原告は、右更正処分は租税特別措置法三七条の解釈を誤つたことによるものであるとして、被告渡辺及び同渡部に対して、それぞれ昭和五六年一〇月一三日付、同年九月三日付で、その傘下の職員たる大宮税務署長の本件処分を是正指導すべき旨、その他税務行政についての請願をなした。しかし、被告らは、右更正処分の取消の指導をせず、また、その他の意見も取り入れず、非常に不誠実な対応をなした。そこで、被告渡辺及び同渡部に対し、それぞれ前記請願に対する不作為についての異議申立(行政不服審査法七条)をなしたが、いずれに対しても却下処分がなされており、何らの誠意も示していない。よつて、原告は被告らの右不誠実な行為により請願者としての権利を不法に侵害されたから、民法七〇九条の不法行為責任もしくは国家賠償法に基づき、被告両名に対し、慰籍料として、各自金五〇万円及びこれに対する弁済期の後である昭和五七年一月二二日(訴状送達の翌日)から完済まで年五分の割合による金員の支払を求める。」と述べた。
被告らは、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。仮執行免脱宣言。」との裁判を求め、請求原因については、「原告が前記請願及び異議申立てをなしたことは認めるが、そのいずれに対しても不誠実な対応をしたとの点は否認する。公務員がその職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を与えた場合には、国又は公共団体がその被害者に対し賠償の責に任ずるのであつて、職務の遂行に当つた公務員が行政機関として又は個人として被害者に対しその責任を負うことはない。
のみならず、原告主張の請願及び異議申立については、逆に、誠実に処理されている。」と述べた。
理由
原告が税理士を職業とするものであること、原告主張の請願及び異議申立がされたことは当事者間に争いがないところ、これにつき被告らが誠実な対応をしたか否かはともかくとして、国家賠償法による損害賠償の責任は、当該公務員の属する国又は公共団体にあり、公務員は行政機関としても、また、公務員個人としても被害者に対してその責任を負うものではない(最高裁昭和三〇年四月一九日第三小法廷判決民集九巻五号五三四頁参照。)。
従つて、被告らに対し損害賠償を求める本訴請求は、その余の点について触れるまでもなく失当であることが明らかである。
よつて、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 牧山市治)