東京地方裁判所 昭和56年(ワ)1812号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
一被告らの本案前の抗弁につき判断する。
本件請負契約及び本件追加請負契約が約款に依拠して締結されたことは当事者間に争いがなく、また<証拠>によれば、本件請負契約及び本件追加請負契約の各契約書には約款が添付されており、右約款の第三〇条には、
(1) この契約について紛争が生じたときは、当事者の双方または一方から、相手方の承認する第三者を選んでこれに紛争の解決を依頼するか、または契約書に定める建設工事紛争審査会のあつせんまたは調停に付する。
(2) 当事者は、その双方または一方が前項によるあつせんまたは調停により紛争を解決する見込がないと認めたときは、前項の規定にかかわらず契約書に定める建設工事紛争審査会の仲裁に付する。
との規定が存することが認められる。
しかし、一般に仲裁契約は不起訴の合意をも含むものであつて、その成立が認められるときには訴えの利益が阻却されるのであるから、その認定のためには当事者間に明確な仲裁付託の意思が存することが必要であるというべきである。ことに昭和五〇年三月の改正においては、仲裁条項の重大性に鑑み、約款第三〇条は、「契約書の定める」建設工事紛争審査会のあつせん、調停、または仲裁に付する、とされたのであるから、右改正後にあつては、契約締結の際に、あつせん、調停または仲裁に付する建設工事紛争審査会を定めた場合にはじめて仲裁付託の意思が認められるのであり、それ以外の場合には契約書に約款が添付されていたとしても、直ちに仲裁契約の存在を認めることはできず、第三〇条の適用はこれを排除するのが当事者の意思である、とするのが相当である。
しかるに、本件においては、契約の際に右審査会を定めたことを認めるに足りる証拠はないのであるから、仲裁契約は成立していないと解するのが相当である。
してみると、本訴には仲裁契約の存在という訴訟障害は存在しないのであるから、被告らの本案前の主張はこれを採用することができない。
二<省略>
三抗弁について
1 昭和五六年八月四日当時本件建物に被告ら主張の瑕疵が存したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、現在においても、バルコニー及びブリッジ手摺の取付不良が補修されている点を除き、右瑕疵は残存している事実を認めることができる
2 しかし、<証拠>によれば、被告ら主張の瑕疵のうち、バルコニー及びブリッジ手摺の取付不良、垂れ屋根の一部の異常及び壁面の亀裂については、原告の施工不良のみならず、被告ファミリー・インズでなした設計及び管理の不良もその一因であると推察されるばかりでなく、右各証拠によれば、被告ら主張の瑕疵はいずれも軽微なものであり、その修補に要する費用は最大限に見積もつても三八五万円程度であることを認めることができるのであるから、このような軽微な瑕疵の存在を理由として、金七億円以上にものぼる本件請負契約及び本件追加請負契約の残代金の支払を拒絶することは著しく信義則に反すると言わなければならず、瑕疵の修補完了まで代金支払を拒む旨の被告らの抗弁は採用することができない。
四請求原因8記載の計算は計数上正確を欠くが、金七億三九五〇万円に対する昭和五三年三月一日から完済に至るまで年一〇パーセントの割合による金員と金三一一一万七八一六円との合計額と金七億一七七五万円に対する昭和五三年三月一日から、金二一七五万円に対する同五五年一二月一日から各完済に至るまでそれぞれ年一〇パーセントの割合による金員の合計とを比較すれば、前者の方が大きいので、本件請求は全部理由があることになる。
(南新吾 野﨑薫子 藤本久俊)