東京地方裁判所 昭和56年(ワ)2886号 判決
一 請求の原因1ないし4の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、本件考案と被告製品とを対比することとし、まず、被告製品が本件考案の構成要件C、すなわち、送り装置と玉打装置との間を打玉待機路11としたとの要件を充足するか否かにつき検討する。
1 成立に争いのない甲第一号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、本件考案の目的につき、「この考案は一定時間に所定数の打玉を自動的に玉打位置へ供給するパチンコ遊技機において、玉を打つのを休むと供給玉は一時待機し、再び打つと連続的に急速に供給される装置で」(本件公報一欄一八行目から二一行目まで)との記載及び「遊技取締規則によれば、パチンコ遊技機は一分間に一〇〇個迄の速さで玉を打つことができる構造に作つてよいものである。そこで、上記の速さで打玉を玉打位置へ自動的に供給すれば、客はその速さで玉打杆のハンドルを操作して玉を打てばよく、早打ちができるから客は喜び、また、店は能率よく客が回転するから営業上有利である。しかし、単に上記の速さで玉を供給するだけでは、玉を打つのを休んでいる間は玉の供給は行われず、再び上記の速さで打ち始めても、休んでいた時間を通算すれば、一分間一〇〇個以下しか打たなかつたことになる。この考案は上記不合理を解消したもので」(同一欄二七行目から二欄一行目まで)との記載が、また、本件考案の作用効果につき、「この考案は打玉を玉打位置へ、制限範囲内の一定の速さで供給する装置を設けたパチンコ遊技機において、供給装置と玉打位置との間へ打玉待機路を設けたから、玉を打つのを休んでいる間に玉が待機路に送られて溜り、再び玉を打ち始めたときは、待機路にある玉が連続的に供給されるため制限以上の速さで打てるから早打ちを楽しむことができ、かつ、休んだ時間を取りかえすことができるものである。なお、休んだ時間を通算するならば、一定時間に対する制限個数以上を打つことはできないから、規則に反することもないものである。」(同三欄二行目から一三行目まで)との記載があることが認められる。
2 次に、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、第二号証、第五号証、成立に争いのない乙第三号証によれば、本件考案の出願の過程において、特許庁審査官から、実公昭三八―二八八六六号公報等を引用例として、いわゆる進歩性欠如の理由による拒絶理由通知が発せられたのに対し、当時の出願人であつた原告大成鴻業は、意見書を提出したうえ、本件考案と右実用新案公報記載の考案の作用効果上の差異につき、「引例装置は打球補給装置が所定の速さ、すなわち一分間に一〇〇個の割合で球を補給するから、休まずに打ち続けるならば、一分間に一〇〇個の球を打つことができるが、もし、ちよつとでも休んでいると、通路2に補給された球は、片はしから排出されてしまい、再び打ち始めても、一分間に一〇〇個の速さでしか打つことはできず、結局遊技通算時間のうち、実際に打つていた時間に対する規定数の球しか打てない。すなわち、連続して打ち続けているならば、一分間毎に一〇〇個を打つことができるが、もし一五秒間休めば残る四五秒間で七五個しか打てず、二〇秒休めば六六個しか打てず、三〇秒休めば五〇個しか打てないのである。ところが、この考案装置は打つことを止めている間は、送り装置から送られた玉は待機路で待つており、再び打ち始めると、玉打杆個所に連続的に供給されるから、ハンドルをはやく操作することにより、玉を一分間に一〇〇個以上の速さで打つことができる。従つて、三分間では確実に三〇〇個を、また一〇分間では確実に一〇〇〇個を打つことができる。」旨主張したことが認められる。
3 右に認定した本件明細書の開示内容、特に本件考案の作用効果に関する記載と本件考案の出願の経過に関する事情とを合わせ考えれば、本件考案は、定速玉送り装置と玉打装置との間を打玉待機路とする構成を採用することによつて、玉を打つのを休んでいる間も、引き続き玉送り装置が作動して、玉が待機路に送り込まれて溜り、再び玉を打ち始めたときは、待機路にある玉が連続的に玉打位置へ供給されるため、遊技取締規則所定の制限以上の速さで玉を打つことができ、早打ちを楽しむことができるとともに休んだ時間を取り返すこともできるという作用効果を奏するものでなければならず、したがつて、本件考案にいう打玉待機路11は、早打ちを楽しむことができ、かつ、休んだ時間を取り返すことができる程度に相当多数の玉が滞溜しうる構成のものに限られると認めるのが相当である。
4、ところで、被告製品の構造を示す別紙目録の記載によれば、被告製品においては、固定貯溜部(11)及び揺動樋(3)´の前端部(下流側)上に各一個、合わせて二個の玉が並んで滞溜しうるようになつていることが明らかである。そして、原告らは、被告製品における右二個の玉の滞溜しうる部位が本件考案にいう打玉待機路11に該当する旨主張する。
しかしながら、被告製品において、滞溜しているわずか二個の玉を早打ちしたからと早打ちを楽しむことができるとは到底考え難いし、また、二個の玉を早打ちすることによつて取り返すことが可能なのは、二個の玉の供給に要する時間以下であるところ、玉二個の供給に要する時間は極めて短いものにすぎないから(別紙目録の記載によれば、被告製品においては、玉が揺動樋(3)´上を通過するのに約一〇〇分の一分を要するから、玉二個の供給に要する時間は約一・二秒となる。)、二個の玉を早打ちすることによつて休んだ時間を取り返すことができると評価するのも甚だ困難というほかはない。したがつて、被告製品における前記二個の玉の滞溜しうる部位が本件考案にいう打玉待機路11に該当するとみることはできず、被告製品は本件考案の構成要件Cを充足しないというべきである。原告らの前記主張は採用することができない。
5 そうすると、被告製品は、本件考案のその余の構成要件と対比するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないこととなる。
三 以上の次第であつて、原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないこととなるから、いずれもこれを棄却する。
〔編註〕本件における実用新案権、実用新案登録請求の範囲、考案の構成要件は左のとおりである。
1 原告大成鴻業株式会社(以下「原告大成鴻業」という。)は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)の出願公告日である昭和五二年一月二〇日当時の出願人であつて、以後その登録日の後である同五三年五月二二日まで本件実用新案権(登録日前は出願公告中の権利)を有していた。その後、本件実用新案権は、昭和五三年五月二三日原告大成鴻業から訴外高島一郎に、次いで、同年七月二〇日右高島から原告ニユー羽黒精機株式会社(以下「原告ニユー羽黒精機」という。)に順次移転され、更に、同五六年一一月二五日訴外李揆学への移転、同五七年三月二四日訴外長谷川初子への一部移転を経て、同五八年七月二二日右李及び長谷川からその各持分全部が原告大成鴻業に移転され、以後同原告が本件実用新案権の全部を有していたものである。
考案の名称 「パチンコ遊技機における打玉待機装置」
出願 昭和四四年四月一八日
公告 同五二年一月二〇日
登録 同五三年二月一〇日
登録番号 第一二一三六三七号
2 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「パチンコ遊技機の玉受皿2に連結した誘導路3の途中へ定速玉送り装置を設けたパチンコ遊技機1において、誘導路3の終端を玉打杆4の直前、すなわち玉打位置に導き、送り装置と玉打装置との間を打玉待機路11としたパチンコ遊技機における打玉待機装置。」
3 本件考案は次の構成要件に分説することができる。
A パチンコ遊技機の玉受皿2に連結した誘導路3の途中へ定速玉送り装置を設けたパチンコ遊技機であること。
B 誘導路3の終端を玉打杆4の直前、すなわち玉打位置に導いていること。
C 送り装置と玉打装置との間を打玉待機路11としたこと。
D パチンコ遊技機における打玉待機装置であること。