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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)5902号・昭56年(ワ)1808号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

三表見代理の主張について

被告伸子が権利証を羽田野に交付したこと、被告らが羽田野に各実印と印鑑証明書交付カードを交付したことは被告らの自認するところであり、<証拠>を総合すると、被告らは喫茶店開設資金として港信用金庫から二四〇〇万円を借入れていたが、被告伸子は昭和五三年暮ころ羽田野から釣餌ゴカイの輸入会社のために資金を出してほしいと要請され、七〇〇万円を交付したこと、その後輸入会社の設立は延びそうなので右七〇〇万円を訴外会社の原車購入資金にまわすことを承諾し、更に羽田野の依頼で昭和五四年二月初めころまでの間に合計二八〇〇万円を訴外会社に融資し、同年八月ころ同社の資材購入のため五〇〇万円を融資したが、訴外会社から全く返済はなかつたこと、被告伸子は羽田野に同年一一月ころ「せめて被告らが港信用金庫から借入れている借入金の利息でも支払つてほしい」と要請したところ、羽田野は、「七十七銀行から六〇〇〇万円の融資を受け、その中から四五〇〇万円を元利金として返済する。被告伸子はこれで港信用金庫に対する借入金を返済する。本件建物を訴外会社の七十七銀行に対する借入金の担保に提供する。」旨の計画を示したこと、被告伸子はこの提案に乗気になつたこと、羽田野は被告伸子に七十七銀行に本件建物の権利証をみせる必要があるから貸してくれと申入れ、被告伸子は本件建物の権利証を羽田野に交付したこと、羽田野は友人を通じて原告の吉村専務と知合い、昭和五四年五月一日原告は訴外会社に金一二〇万円を貸付け、その後数回にわたり貸付、返済がなされたこと、羽田野は同年一二月三日原告に金一〇〇〇万円の貸付を申込み、不動産担保の提供を求められ、被告らから預つていた本件建物の権利証を原告に持参したこと、同月四日は被告らの亡父の命日で多忙であつたが、その日に羽田野が被告方を訪ね被告伸子に「訴外会社が輸出用の自動車整備の認可手続を緊急にする必要がある。」といつて被告らの実印と印鑑証明書の交付を求めたので、被告伸子は被告らの実印と印鑑証明書交付用カードを羽田野に預けたこと、羽田野は右実印及び交付カードで印鑑証明書の交付を受け、白紙委任状を作成し、これを原告に持参したこと、羽田野は訴外会社が本件建物を担保に七十七銀行から大口融資を受ける準備をすすめているから登記をつけないでほしいと申入れたこと、原告の吉村専務は、登記はつけないが万一のために書類だけは作成させてくれというので、羽田野は原告の用意した借用証、根抵当権設定契約書、白紙委任状等に被告らの氏名を書き実印を押して原告に交付し、原告から九〇〇万円弱の現金を受け取つたこと、昭和五五年二月二二日当時原告の訴外会社に対する貸付金が二二〇〇万円になつたので、原告は同月二九日本件建物に根抵当権設定及び停止条件付賃借権設定の各仮登記をしたこと、原告が本件建物の権利証、印鑑証明書及び白紙委任状を預つた時点においても、また本件建物に根抵当権設定及び停止条件付賃借権設定の各仮登記をした時点においても原告は羽田野の言を信じて被告らの真意を確認する何らの手続もしなかつたこと、以上の事実が認められ、これに反する証人井上一朗、同吉村吉男の各供述の一部はにわかに採用できず、他にこれを動かすに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、羽田野が本件建物の権利証、印鑑証明書及び白紙委任状を持参していたからといつて、直ちに、被告らが本件建物について根抵当権設定契約及び停止条件付賃借権設定契約、同各仮登記について羽田野に代理権授与の表示をしたものということはできず、また、七十七銀行からの融資について羽田野に代理権を授与したものといえず。原告がかく信じたことに正当な理由があるともいえない。原告が主として金融を業とする会社であることは当事者間に争いがなく、原告と被告らが当時全く面識がなかつたことは弁論の全趣旨から明らかであり、原告から被告らに対し意思確認の何らの措置もとられていないこと、白紙委任状の被告らの住所氏名が同一筆跡であること(乙第一号証の一によれば、羽田野が借用証の連帯保証人欄に自己及び被告らの住所氏名を書き、根抵当権設定契約書に被告らの氏名を書いたというのであるから、これと白紙委任状の被告らの住所氏名が同一であることは一見して明らかである。)にてらせば、原告には過失があるというべく、羽田野に代理権があると信じたことに正当な理由があるとはとうていいえないものである。したがつて、民法一〇九条、一一〇条の表見代理の主張はいずれも採用できない。

(村重慶一)

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