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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)6704号 判決 1981年10月26日

原告

渋谷電話不動産有限会社

右代表者

田代浩之

被告

甲野太郎

被告

乙野二郎

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自、五〇万円およびこれに対する昭和五六年六月二三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  被告ら(いずれも弁護士)は、本訴の原告を原告とする東京地方裁判所民事第二五部係属昭和五六年(ワ)第四〇〇一号報酬等請求事件(以下、別件という。この事件の訴状の主たる内容は、別紙第一のとおりである)の被告二名の訴訟代理人として別紙第二の内容の答弁書を提出し、右答弁書は、昭和五六年五月二九日午前一〇時の第一回口頭弁論期日において陳述の取扱いを受けた。

(二)  右答弁書中には、次の各記載がある。

(1) 第二、請求原因に対する答弁の一(5)に、原告が商談の開始を要求したのは「催促というよりもむしろ強要に近い」との記載

(2) 第三、被告らの主張の一に、「原告は街の不動産屋であり」との記載

(3) 第三、被告らの主張の二に、原告が報酬を請求するなどというのは「非常識きわまりない」および「原告の行為(訴提起行為を含めて)は宅地建物取引業の免許の取消事由(例えば、宅地建物取引業法六六条九号)ないしは業務停止事由(例えば、同法六五条二項一号同法四七条二号等)に該当するおそれすらある」との各記載

2  被告らの右陳述は、訴訟代理人としての弁護活動の範囲を趣えた違法な行為である。

3  原告は、被告らの故意に裁判官の心証形成を悪くし原告に不利益な結果をもたらすことを意図した前記陳述により、公開の法廷で名誉を毀損され、多大なる精神的打撃苦痛を蒙つた。

4  よつて、原告は、被告ら各自に対し、不法行為に基づく損害賠償として、精神的打撃苦痛に対する慰藉料五〇万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五六年六月二三日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告ら)

1  請求原因1はすべて認める。

2  請求原因2は争う。

3  請求原因3は否認する。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因事実1は、当事者に争いがない。

二そこで、被告らが別件の答弁書において、請求原因事実1(二)の答弁や主張をなしたことが訴訟代理人としての弁護活動の範囲を越えるものというべきか否判旨かについて検討するに、右の答弁や主張の部分のみを他から切り離して判断するのは相当ではない。右の答弁や主張を別件答弁書全体との関連の中で判断すれば、被告らにおいて右の答弁や主張をなしたことが、別件の被告らの訴訟代理人としての弁護活動の範囲を越え、違法性を帯びるものということができない。

三以上によれば、その余について判断をするまでもなく本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(山﨑宏)

<別紙第一>

訴状

原告甲 渋谷電話不動産有限会社

右代表者 田代浩之

被告乙 グランドキャニオン株式会社

右代表者 大橋中一郎

被告丙 野崎義男

〔請求の趣旨〕

被告らは原告に対し金九九三万七千二百円及び本訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を連帯して支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

〔請求の原因〕

一 原告甲は東京都知事より知事免許(1)第三八五〇四号の営業免許を取得し、宅地建物取引業を営んでいる会社である。

原告甲は昭和五六年一月三〇日被告乙会社に於て借地権者である被告乙及び被告会社製造部長である土地所有者、被告丙より左記表示物件の売買契約締結の仲介に関する業務を一件書類とともに専属委任を受け仲介営業活動を開始した。

イ 所在  東京都渋谷区猿楽町

地番  一九番

地目  宅地

地積  三九六m2六九

ロ 所在  東京都渋谷区猿楽町

地番  二〇番一

地目  宅地

地積  三七一m2六〇

ハ 東京都渋谷区猿楽町一九、二〇番地上の建物四棟

そこで原告甲は同年同月三一日より該物件の行政法規上及び権利関係上の物件調査を開始し、調査結果を被告らに報告するとともに、当社員一同、社の総力を結集し、社運をかけて、被告らの信頼に応えるべく多額の費用と労力を傾注し、売却仲介活動を開始した。

他面において原告甲は被告乙と親密な信頼関係が成立しているので、被告乙の工場を、事務所及びマンションに建変える設計図面に対する、助言、近隣の賃貸マンションの入居状況、収益面、維持管理、賃借人の募集広告、契約等の相談にのり、面倒をみてきた。

心血を注ぐ営業活動の結果、同業他社、富国土地建物社代表者及川実郎及び建商株式会社、社員明石誠四郎の紹介による訴外、住所東京都豊島区巣鴨四丁目六番四号、西海建設株式会社、代表取締役、福田辰夫、昭和五六年三月一〇日付、買付証明書の作成交付を受けその副本を被告らに送付し、すみやかに商談の開始を催促した。

二 ところが売買契約締結の商談の寸前というところで突然被告らの心変りがあり、該物件処分はしばらくの間中止となつてしまつた。

原告甲の売買契約締結仲介の専属受任が、意外な被告らの突然の心変りという、原告の責に帰すべからざる事由に因り、契約締結仲介の成立寸前のところで専属受任自体が終了してしまつた。その結果原告甲は前記同業者及びその他の同業他社の買主に対し大なる信用を失つた。

その後も原告甲は同業他社から電話による問い合わせがある度びに、謝罪をくり返しているのが現状である。

原告甲は被告らに対し、右専属受任解消に伴う円満な清算を申し入れているが一こうに応じようとしないばかりか、安田信託銀行渋谷支店に対して重ねて仲介依頼をするという背信的行為を行なつている。

三 原告甲は被告らに対し、本物件の売買契約締結を仲介することによつて得べかりし仲介手数料債権を、原告の責に帰すべからざる被告らの突然の心変りで委任事務処理中途解消により失つたのみならず、委任事務を処理するために、多額の費用出費の損害を蒙つたものである。

失つた得べかりし仲介手数料債権は昭和四五年一〇月二三日付、建設省告示第一五五二号宅地建物取引業法第四六条第一項の規定による計算方法にしたがつて、該物件処分予定価額金三億壱千九百弐拾五万円に対する報酬の額は金九六三万七千二百円也となる。及び原告の責に帰すべからざる被告らの突然の心変りで、委任事務処理中途解消による原告甲の受けた精神的打撃苦痛による損害は金三〇万円也が相当である。

不動産売却仲介の委任(準委任)について

委任の内容たる労務は労務そのものではなく、売買契約締結媒介という統一された労務である(雇傭との差)とはいえ、請負のように売買契約締結媒介という結果を完了することではないから、委任された事務が完了しなくとも給付された労務に対しては報酬を支払うことを至当とするものである。

商法第五一二条は商人の場合には、当然報酬請求権を生ずる旨を定めている。商事委任の性質からいえば委任事務処理そのものに対する報酬であり、従つて売買契約締結媒介が成功(即ち売買契約締結という停止条件が成就)したときは、別に昭和四五年一〇月二三日建設省告示第一五五二号で定める報酬の支払を請求できる場合でも、事務を処理する労務自体に対しては、成功すると否とに拘らず一定の報酬を支払うのは当然である。

現代自由主義経済社会において、被告らは自己みずから該物件の処分活動を行なわず、宅地建物営業免許を有し営業活動をしている商人である原告甲に該物件の売却処分を専属委任したものであり、被告らは自己の一方的都合で、身勝手に専属委任自体を終了させたのであるから、被告らは原告甲に与えた経済的損失及び精神的打撃苦痛により蒙つた慰藉料を連帯して償うのが当然であり、償わなければならないものである。

被告らは、現代自由経済取引社会において、立派な会社であり社会人であるのだから、取引会社に営業活動ないしは生活する者の責任として、原告甲に与えた損害及び報酬の支払は当然の義務であり、その責任である。

四 よつて被告らは原告甲に対し、商法第五一二条、民法第六四八条第三項、民法第六五〇条第一項同第三項の定めにしたがつて、右金員の合計金として訴状記載請求の趣旨の金員金九九三万七千二百円也を連帯して支払わなければならない。

<別紙第二>

答弁書

第一 請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二 請求の原因に対する答弁

一(1) 請求原因第一項第一段記載の事実中、原告が宅地建物取引業を営む会社であることは認めるがその余は不知。

(2) 同第二段記載の事実中、被告野崎が(ロ)の土地の所有権者であり、被告グランドキャニオン株式会社(以下被告会社という)の製造部長であること、被告会社が(イ)、(ロ)の土地の借地権者であること、被告会社が(ハ)、(ニ)の建物の、被告野崎が(ロ)の土地の売買契約について昭和五六年一月三〇日、原告との間で仲介契約を締結したこと、その際後述の書類を交付した事実は認め、その余は争う。

(イ)の土地は、原告第一準備書面第一項記載のとおり国(大蔵省)が所有するものである。

(3) 同第三段記載の事実中、原告から被告らに対し後述のとおりの報告があつた事実は認め、その余は不知。

(4) 同第四段の事実中、信頼関係の成立は不知、原告から被告会社の賃貸マンション建設計画について、若干の助言をうけた事実は認める。

(5) 同第五段の事実中、原告から昭和五六年三月一一日ころ西海建設株式会社名義の買付証明書の副本を配達証明付で送付を受けた事実、及び原告が被告らに売買契約の締結を要求した事実(但し、催促というよりもむしろ強要に近い)は認め、その余は不知。

二 請求原因第二項中昭和五六年三月五日、本件仲介契約が終了した事実は認め、原告が被告らに対し仲介契約の終了に伴い円満な清算を申し入れた事実は否認し、その余の事実は不知。

三 請求原因第三、四項は争う。

第三 被告らの主張

一 本件仲介契約の経緯

被告らはかねて、本件不動産の売却を計画し、被告会社の主要取引銀行である安田信託銀行に本件不動産の仲介を依頼したところ、これを聞きつけた原告代表者田代浩之(原告は個人会社であるから以下に、原告という)は、本件土地の隣接地の所有者である野村不動産株式会社ないしは福島交通株式会社であれば、土地利用の効率が良いから、被告らの希望価格(3.3平方メートル当り一一〇万円以上)で売れるし、原告は野村不動産の副会長とは友人同志であるから契約をまとめる自信がある旨を申し出たので、被告らは原告の言を信じ、昭和五六年一月三〇日原告に仲介を依頼した。その際、原告は街の不動産屋であり野村不動産等の大会社に対する信用上でどうしても委任状が必要であるとの原告の強い求めに応じ、被告らはそれぞれ原告が用意した委任状の用紙に記入の上原告に「不動産売却委任状」を交付(同一のものを二通宛)した。右委任状には「売却予定金額 百拾万円也(坪)」の記載の他、委託期間として昭和五六年一月三〇日より同年四月三〇日迄との定めがあり、「右の期間中他より交渉ある場合必ず貴殿(原告を指す)を仲介者として経由せしめる」との不動文字が印刷されている。その後、被告らは原告から野村不動産との交渉は成功しなかつたこと、福島交通では坪当り八〇万円程度なら買う意思がある等の報告を受けたが、いずれも被告らの希望価格とは大いなる隔りがあるため、昭和五六年三月五日、被告らは、原告方において仲介契約は終了したので前記委任状を返還するよう求めたが、原告はこれを拒んだ。

原告は、本件仲介契約が終了したのもかかわらず、三月一〇日、請求の趣旨第一項第五段記載の買付証明書(買付価格3.3平米当り九二万円)を被告会社総務部長牧文一に示したが、牧が西海建設には売る意思がない旨を告げると、翌一一日に右文書は被告会社宛に配達証明付で送付された。(ちなみに、原告方は被告会社より徒歩一分の位置にある)

原告は、その後再三に渡り、被告らに対し、前記西海建設との売買契約の締結をしつこく要求し、被告らに対し内容証明郵便を送達するだけでなく被告会社の主要取引銀行である安田信託銀行の他近隣の不動産業者に対し、本件土地に対する専属委任の受任者は原告である旨の内容証明郵便を送達して被告会社の対外的信用を失墜せしめ、四月一三日には原告の法律の顧問と称する矢野三知男なる人物と共に被告会社を訪れ、委任状を交付した以上は、売買契約を締結する義務がある等と申し向け、被告らを困惑させる行為を継続した。

二 本件仲介契約の効力

本件のような不動産売買の仲介契約は、商法上の仲立契約であり、仲立契約の性質上、「仲立人がその尽力により媒介した当事者間に契約が成立しない限り報酬を請求し得ない」のであり、「商法五五〇条一項、第五四六条の規定に徴してもこれを窺うことができる」とするのが確立した判例(東京高判昭三九・五・一九東京高民時報一五巻五号一〇二頁)であり、不動産業界の商慣習上も売買契約が成立していないのに、報酬を請求する等というものは非常識きわまりないことであつて、原告の行為(訴提起行為を含めて)は宅地建物取引業の免許の取消事由(例えば、宅地建物取引業法六六条九号)ないしは業務停止事由(例えば、同法六五条二項一号同法四七条二号等)に該当するおそれすらあるのである。

いずれにしても商法五一二条等を根拠とする原告の報酬請求は、法令の解釈を著しく誤つたものであり、主張自体失当であるからただちに本件請求は棄却さるべきものと思料する。

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