東京地方裁判所 昭和56年(ワ)8921号 判決 1984年8月21日
原告 住友重機械工業株式会社
右代表者代表取締役 西村恒三郎
右訴訟代理人弁護士 山田弘之助
同 山田隆子
同 山田摂子
被告 大永紙通商株式会社
右代表者代表取締役 安森永一
右訴訟代理人弁護士 上野久徳
同 河野玄逸
同 山森一郎
同 高村隆司
右上野久徳訴訟復代理人弁護士 小林信明
主文
一、被告は、原告に対し、金一億五二〇〇万円及びこれに対する昭和五六年四月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
三、この判決は仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
主文第一、二項と同旨の判決と仮執行の宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
1. 原告の請求を棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、請求原因
1. 原告は、製紙機械など一般産業用機械、船舶、海洋構造物、減変速機などの製造販売を目的とする株式会社であり、被告は、紙、板紙、パルプ、包装資材、紙関連機械などの販売を目的とする株式会社である。
2. 原告は、昭和五四年七月一七日、被告との間で、原告が別紙物件目録記載のバルチラ住友ツインワインダー一式(以下「本件物件」という。)を製作し、左記約定で被告に売る旨の合意をした。
(一) 納期 昭和五五年三月一五日
(二) 納入場所、方法 大竹紙業株式会社(以下「訴外会社」という。)本社工場据付調整渡し
(三) 代金額 一億五二〇〇万円
(四) 右代金の弁済期 本件物件据付完了後直ちに試運転を行い、機械的に異常がないときに受渡完了として検収し、右検収の月の翌月末日を起算日として一二〇日後
3. 原告は、昭和五四年一〇月九日、被告から納入先の訴外会社の建物建築工事がまだ認可申請の段階であって完成が三か月くらい遅れる見通しなので納期を三か月遅らせてほしい旨の依頼を受け、やむなくこれを了承したが、同年一二月半ばには右建物の完成が更に一か月ないし二か月遅れる見通しとなった。
4. その後、昭和五五年六月一〇日に本件物件納入場所においてその搬入時期についての話合いが行われることになり、このことは被告にも連絡されたが、被告は右話合いには出席せず、結局、同日、原告と訴外会社とで右の話合いをし、原告は、これに基づいて同月二五日から本件物件の搬入を始めたが、訴外会社の工場建築工事がいまだ完成途上であって、その工程との間で種々の調整を要し、特に使用動力等を専用しえないことから時日を要したため、本件物件の据付工事は同年九月一三日にようやく完了し、以後付帯設備工事のかたわらコート紙等の巻き取り機械である本件物件の試運転、調整を繰り返し、同年一〇月一二日から負荷テスト、特に同月二三日から二五日まではコート原紙の負荷テストを行って異常なきに至り、もって本件物件の受渡を完了し、これによって被告は本件物件について検収した。
5. 原告は、昭和五五年一〇月二七日ころ、被告に対し、本件物件の納入を完了した旨通知するとともに、昭和五六年三月末日限り前記代金を支払うよう催告した。
よって、原告は、被告に対し、右2の売買契約に基づき、一億五二〇〇万円の売買代金及びこれに対する弁済期後である昭和五六年四月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。
二、請求原因に対する認否
1. 請求原因1の事実は認める。
2. 同2の事実は認定する。本件物件の取引の実質上の当事者は、原告と訴外会社であって、被告は、右両者の要請によっていわゆる商社金融という態様での金融上の協力をすべく、これに形式上関与したにすぎない。すなわち、本件物件の取引は、被告が関与する以前から、原告と訴外会社との間で、取引の内容、本件物件の納期、価額、性能等についての話合いがすすめられており、被告は、終始、本件機械の性能、仕様、構造はもちろん、試運転のやり方、据付けの方法も知らされていなかったことからも明らかなように結局、被告は、昭和五五年七月末までに原告と訴外会社との間で本件物件の検収が終了することを条件に、検収翌月末起算一二〇日後の期日の約束手形を振出すことによりいわゆる商社金融を実行することを約したにすぎないものであり、その趣旨で原告を売主、訴外会社を買主とする本件物件の売買取引に中間の買主として介在したにすぎないものであるから、原告、被告間の本件物件についての前記取引は売買契約ではなく、いわゆるファイナンス・リース契約類似の無名契約というべきである。そして、原告、被告間の右契約においては、原告と訴外会社間で本件物件についての検収が終了し、訴外会社から被告宛その旨の報告があってはじめて被告の支払債務が生じるものであるというべきところ、本件物件は、日立造船製造の新型機械の後工程付属機械であり、これらが一体となって機能を発揮するものであるが、これらを一体とした試運転はいまだ行われていないから、本件物件の検収はいまだ終了していないというべきであり、かつ訴外会社から被告への検収終了の報告もなされていない。
3. 同3の事実は否認する。
4. 同4の事実については、原告が昭和五五年一〇月二五日ころ本件物件を訴外会社本社工場に納入したことは認めるが、これが同2の契約に基づく引渡であることは否認する。右納入は、右契約における約定の納期から大幅に遅れ、しかも被告には事前に何の連絡もなく、原告と訴外会社との何らかの合意に基づいてなされたものである。また、本件物件は、訴外日立造船株式会社製造の塗工機械と一体となって紙の裁断仕上げをするものであるから、右機械と一体としての試運転を行い、注文どおりの性能の有無及び要求どおりの製品ができるか否かを点検、確認してはじめて検収が終了したといえるものというべきところ、本件物件については右の意味での検収はいまだ終了していない。
5. 同5の事実のうち、原告が昭和五五年一〇月二七日ころ、被告に対し、前記代金の支払を催告したことは認める。
三、抗弁
1. (期限の未到来)
請求原因2の契約においては、本件物件の代金の支払は、原告と訴外会社とが責任において昭和五五年三月一五日まで又は少くとも同年七月末までに本件物件についての検収を終了させ、検収翌月末から起算して一二〇日後になされることになっていたところ、本件物件は、訴外日立造船株式会社製造の塗工機械と一体となって紙の裁断仕上げをするものであるから、右機械と一体としての試運転を行い、注文どおりの性能の有無及び要求どおりの製品ができるか否かを点検、確認してはじめて検収が終了したといえるものというべきところ、本件物件については、右の意味での検収はいまだ終了していない。
2. (信義則違背)
請求原因2の本件物件の取引は、被告が、原告からの依頼に基づき、原告から訴外会社への本件物件の売買につきいわゆる商社金融という形態で金融を行なう目的で中間の買主として介在するためになされたものであるところ、被告がこれを承諾した理由の一つには、被告には従来から訴外会社との間に取引があり、訴外会社に対し右取引による債務を負っており、本件物件の代金の回収は右債務との相殺によることが可能であったことがあり、当時原告もそのことを十分承知していたし、このことは請求原因2の取引における原告と被告との暗黙の了解事項となっていた。そして、被告の訴外会社に対する右取引による債務は、昭和五五年八月時点で約六億円、同年一〇月時点で約三・五億円存した。しかるに、原告は、約定の納期である同年三月一五日又はその後変更された納期である同年七月までに訴外会社に本件物件を納入せず、被告に無断で約定の納期に大幅に遅れて訴外会社が倒産状態になる直前に訴外会社に本件物件を置いてきたにすぎず、訴外会社はその直後に倒産し、結局、被告は、右の相殺処理の機会を逸してしまったものであり、しかも、訴外会社更生法の適用を受け、更生管財人の管轄下におかれたため、被告の訴外会社からの本件物件の代金回収は遠い将来のこととなってしまった。そうすると、右取引における当初の暗黙の了解ともいえる被告の訴外会社に対する債務と本件物件の代金との相殺ができなかった以上原告のごとき大会社が本訴請求をすることは信義誠実の原則に反するというべきであり、原告としては、信義誠実の原則に則り、訴外会社の更生管財人による検収が終り、被告への支払債務及びその方法が確定するまでは本件物件の代金請求をすべきではない。
3. (引換給付)
原告、被告間の請求原因2の取引は、原告と訴外会社との本件物件の取引につき、被告がいわゆる商社金融という形態で金融を行うため原告と訴外会社との右取引に中間の買主として介在するためになされたものであるところ、原告は、本件物件を約定の納期に大幅に遅れ、かつ被告に無断で、当時倒産必至の状態にあった訴外会社に置いてきたにすぎないものであるが、これでは債務の本旨に従った履行とはいえないから、被告は、原告から本件物件の有効な引渡を受けるまで、本件物件の代金の支払を拒絶する。
4. (相殺)
(一) 原告が本件物件を当初の納期のころである昭和五五年三月中に又はその後変更された納期のころである同年七月中に訴外会社に納入し、その検収を終了させていたならば、被告は、同年八月末現在で訴外会社に対し合計七億〇八八八万七六〇三円の支払債務を負っていたから、これと本件物件の代金とを相殺処理することによって容易に右代金の回収をはかることができたのに、原告は、右の各納期のころまでに本件物件の検収を終了しなかったし、訴外会社の経営不安のうわさが流れていた同年一〇月二五日に急拠訴外会社に本件物件を搬入したものであり、しかも、原告は、本件物件を単に搬入したのみで、本件物件の検収は未了であり、訴外会社からの検収報告もなく、そのため、右時点においては、訴外会社はいまだ本件物件の代金債務を負担するに至っておらず、結局、被告は、右の相殺処理をすることができなかったところ、原告が本件物件の取引につき被告にいわゆる商社金融を依頼したのは、被告と訴外会社との間に取引があり、右のごとき相殺処理が可能であったからであり、このことは請求原因2の取引における原告と被告との了解事項であったにもかかわらず、原告は、自らの債務不履行によって被告の右相殺処理の機会を失わしめ、もって被告に対し、本件物件についての被告の訴外会社に対する売買代金額相当の損害を与えた。
(二) 被告は、本件第一八回口頭弁論期日において、右損害賠償請求債権と本訴請求債権とをその対当額において相殺する旨の意思表示をした。
四、抗弁に対する認否
1. 抗弁1の事実は否認する。
2. 抗弁2の事実については、原告が被告にいわゆる商社金融を依頼したこと、原告が被告に無断で約定の納期に大幅に遅れて訴外会社が倒産状態になる直前に訴外会社に本件物件を置いてきたにすぎないこと、原告、被告間の本件物件取引の当初において被告が訴外会社に対する債務と本件物件の代金とを相殺する旨の暗黙の了解があったことは否認し、被告と訴外会社との債権、債務関係は知らず、原告が納期である昭和五五年三月一五日又はその後に変更された納期である同年七月までに訴外会社に本件物件を納入しなかったことは認める。しかし、右納期に本件物件を納入しなかったのは訴外会社の本件物件の受け入れ態勢が整っていなかったためであって、原告の責に帰すべき事由によるものではない。
本訴請求が信義誠実の原則に反する旨の被告の主張も否認する。
3. 抗弁3の事実については、原告が被告に無断で本件物件を、当時倒産必至の状態にあった訴外会社に置いてきたにすぎないものであることを否認し、原告の本件物件の訴外会社への納入が債務の本旨に従った履行とはいえないことは争う。
4. 抗弁4(一)の事実については、被告が昭和五五年八月末現在で訴外会社に対し、合計七億〇八八八万七六〇三円の支払債務を負っていたことは知らず、その余はすべて否認する。
第三、証拠<省略>
理由
一、請求原因について
1. 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
2. そこで、請求原因2の事実について判断するに、<証拠>によれば、原告と被告との間で、昭和五四年七月一七日、請求原因2記載の契約が締結されたとの事実を認めることができる。
ところで、被告は、本件物件の取引の実質上の当事者は、原告と訴外会社であって、被告は、右両者の要請によっていわゆる商社金融という態様での金融上の協力をすべく、これに形式上関与したにすぎない、すなわち、本件物件の取引においては、被告が関与する以前からすでに原告と訴外会社との間で、取引の内容、本件物件の納期、価額、性能等についての話合いがすすめられており、被告には終始本件物件の性能、仕様、構造は勿論、試運転のやり方、据付けの方法さえも知らされていないのであり、結局、原告、被告間の本件物件の取引は、被告が昭和五五年七月末までに原告、訴外会社間で本件物件の検収が終了することを条件として、検収翌月末起算一二〇日後の期日の約束手形を振出すことによっていわゆる商社金融を実行することを約し、その趣旨で原告を売主、訴外会社を買主とする本件物件の取引に中間の買主として介在したにすぎないものであるから、原告、被告間の本件物件についての右取引は売買契約ではなく、いわゆるファイナンス・リース契約類似の無名契約というべきである旨主張し、<証拠>を総合すると、本件物件の取引においては、被告がこれに関与する以前からすでに原告、訴外会社間で取引の内容、本件物件の納期、価額、性能等についての話合いがすすめられていたが、原告は、このような取引をする際には、本来の購入者との間で直接売買契約を締結せず、商社を中間の買主として当該取引に介在させることを建前としていたことから、本件物件の取引に介在させる商社として被告を選定し、被告に対し、本件物件の取引に右の趣旨で中間の買主として関与するよう依頼したところ、被告がこれを承諾し、これに基づき、原告、被告間で原告を売主、被告を買主とする本件物件の売買契約書(甲第一号証)が取り交わされ、次いで被告、訴外会社間で被告を売主、訴外会社を買主とする本件物件の売買契約書(乙第一号証)が取り交わされたとの事実が認められ、右事実によれば、原告、被告間の請求原因2の契約は、被告が原告、訴外会社間の本件物件の取引についていわゆる商社金融を実行する目的で締結されたものということができる。しかしながら、たとえその目的が商社金融であり、被告が右目的のために中間の買主として原告、訴外会社間の本件物件の取引に介在したにすぎないものであるとしても、それだけの理由から直ちに原告、被告間の右契約を売買契約とみるのが相当でなくいわゆるファイナンス・リース契約類似の無名契約と解すべきである、ということはできないものというべく、またそのように解さねばならぬ必要性も存しないというべきである。
よって、被告の右主張は理由がない。
3. <証拠>を総合すると、請求原因3、4の事実を認めることができ、証人泉洋の証言中右認定と抵触する部分は右の各証拠と対比してたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
被告は、本件物件は、訴外日立造船株式会社製造の塗工機械と一体となって紙の断裁仕上げをするものであるから、右機械と一体としての試運転を行い、注文どおりの性能の有無及び要求どおりの製品ができるか否かを点検、確認してはじめて検収が終了したといえるものである旨主張し、証人泉洋は右主張に沿う供述をするが、<証拠>によれば、原告が訴外会社に宛てた本件物件についての製作仕様書(甲第四号証)及び被告に宛てた本件物件についての見積仕様書(甲第一一号証)には、右の点について、「据付完了後直ちに試運転を行い、機械的に異常なき場合、受渡完了とし検収していただくものとします。」との条項があり、請求原因2の契約はこれに基づいて締結されているものと認められるから、同契約においては必ずしも被告の主張するような試運転や点検、確認をしなければ本件物件についての検収が終了したといえないものではなく、原告において、本件物件の据付を完了した時点での訴外会社の受け入れ態勢に応じた試運転を行い、これについて点検、確認が行われることによって、本件物件の受渡は完了し、これによって被告側での本件物件についての検収も終了するものであるというべきところ、証人前田敢、同泉洋の各証言によれば、原告が前記試運転を実施した当時には、本件物件の前工程の機械がいまだ試運転中であったために本件物件によって巻き取る予定になっていたコート紙を本件物件まで流すことができず、そのためにコート紙による本件物件の負荷運転はできない状態にあり、原告は、その関係でコート原紙を用いての負荷試運転をしたものであるとの事実が認められ、右事実によれば、前記認定の原告の実施した試運転は、当時の訴外会社の受け入れ態勢の下では十分なものというべきである。
したがって、被告の右主張も理由がない。
4. 請求原因5の事実のうち、原告が昭和五五年一〇月二七日ころ、被告に対し、前記代金の支払を催告したことは当事者間に争いがなく、この事実と弁論の全趣旨を総合すると、請求原因5のその余の事実を認めることができる。
二、抗弁について
1. 抗弁1(期限の未到来)について判断するに、本件物件の検収が終了したといいうるためには訴外日立造船株式会社製造の塗工機械と一体としての試運転を行い、注文どおりの性能の有無、要求どおりの製品ができるか否かを点検、確認する必要はなく、原告において本件物件の据付を完了した時点での訴外会社の受け入れ態勢に応じた試運転を行い、これについて点検、確認が行われることによって本件物件の受渡は完了し、これにより被告の本件物件についての検収は終了したものというべきであり、原告が本件物件につき右の趣旨での試運転を行い、これについて点検、確認が行われたことは前叙のとおりであるから、抗弁1で被告が主張するような試運転、点検、確認が行われたか否かを検討するまでもなく、抗弁1は失当というべきである。
2. 次に、抗弁2(信義則違背)について判断するに、請求原因2の本件物件の取引が、被告が、原告からの依頼に基づいて、原告から訴外会社への本件物件の売買につきいわゆる商社金融という形態で金融を行う手段として原告と訴外会社との間の本件物件の取引に中間の買主として介在するためになされたものであることは前叙のとおりであり、証人大井和雄の証言によれば、被告が右取引に関与することを承諾した理由の一つには、被告と訴外会社との間に従来から取引があり、被告がこれに基づいて訴外会社に対して債務を負っていたため、本件物件の代金を右債務との相殺によって回収することが可能であるということがあったとの事実が認められるが、本件全証拠によっても、原告が請求原因2の契約締結当時、右の相殺の可能性の存在が被告において本件物件の取引に関与することを承諾した理由の一つであったことを認識していたことや、被告が訴外会社に対する債務と本件物件の代金とを相殺することが原告と被告との暗黙の了解事項となっていたことを認めることはできず、また、本件物件の納入遅延が専ら訴外会社側の事情に基づくものであったことは前叙のとおりであるところ、いわゆる商社金融の特殊性を考慮しても、右の訴外会社の受け入れ態勢の遅延に基づく納入の遅延の責任を原告に負わせることはできないものというべく、結局、抗弁2もその余の点について判断するまでもなく失当というべきである。
3. 次に、抗弁3(引換給付)について判断するに、原告が本件物件を約定の納期に大幅に遅れて納入したことについての責任を原告に負わせることができないことは既述のとおりであり、右納入当時に訴外会社が倒産必至の状態であったか否かは、それ自体としては本件物件の納入が債務の本旨に従ったものであるといえるか否かとは無関係の事柄であるというべきであり、しかも、本件全証拠によっても本件物件納入当時原告が訴外会社が倒産必至の状態であったことを認識していたことを認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、抗弁3も失当である。
4. 最後に、抗弁4(相殺)について判断するに、原告が本件物件を当初の納期又はその後変更された納期に納入せず、これから大幅に遅れて納入したことにつき原告に責任を負わせることができないこと、本件全証拠によっても原告が請求原因2の契約締結の当時被告の本件物件の代金回収は訴外会社に対する被告の債務との相殺処理が可能であったことが本件物件の取引に被告が関与した理由の一つであったことを原告が認識していたことや右の相殺処理が右契約締結の際の原告と被告との間の暗黙の了解事項となっていたことが認められないことは前叙のとおりであるから、仮に被告が本件物件の代金回収について右の相殺処理の機会を失ったとしても、これが被告主張のように原告の債務不履行によるものであるということはできないというべきであり、この結論は、本件取引がいわゆる商社金融の目的でなされたことを考慮に入れても変わらないというべきである。したがって、その余の点について判断するまでもなく、抗弁4も失当である。
三、結論
以上によれば、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 窪田正彦)
<以下省略>