東京地方裁判所 昭和57年(ワ)10944号 判決 1983年5月23日
原告
本田幸雄
被告
柏尾運輸株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告に対し、金七三万七八〇〇円及び内金六六万七八〇〇円に対する昭和五七年一月七日から、内金七万円に対する同年九月一一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは連帯して原告に対し、金一二六万九六〇〇円及び内金一一六万九六〇〇円に対する昭和五七年一月七日から、内金一〇万円に対する同年九月一一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生
昭和五七年一月六日午後五時五〇分ころ、千葉県鎌ケ谷市佐津間一五五番地の二〇先路上において、原告運転の普通貨物自動車(習志野四四も一六一六、以下、原告車という)が停車していたところ、訴外東村勝利(以下、訴外東村という)運転の普通貨物自動車(足立一一う三一九六、以下、被告車という)が追突し、原告車が破損し、原告が負傷した(以下、本件事故という)。
2 責任原因
(一) 被告柏尾運輸株式会社(以下、被告会社という)
被告会社は、被告車の運行供用者であり、本件事故は、被告会社の従業員である訴外東村が被告会社の事業の執行につき、過失によりひき起こしたものであるから、被告会社は、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という)三条及び民法七一五条一項により損害賠償責任を負う。
(二) 被告斉藤章(以下、被告斉藤という)
被告斉藤は、被告会社の代表取締役であり、被告会社に代つて事業を監督する者であるから、民法七一五条二項により損害賠償責任を負う。
3 損害
原告は、本件事故により少なくとも次の損害を受けた。
(一) 得べかりし利益の喪失 金六三万九四〇〇円
原告は、本件事故のため、昭和五七年一月七日から同月二九日まで二三日間休業を余儀なくされたが、この間一日あたり金二万七八〇〇円相当の日当を喪失したので、二三日分合計金六三万九四〇〇円の得べかりし利益を喪失した。
(二) 非財産的損害 金二〇万円
原告は、本件事故により、入院七日間、通院一三日間の治療を行い、非財産的損害を受けたが、右損害は金二〇万円と金銭評価するのが相当である。
(三) 入通院交通費 金一万六七〇〇円
(四) 物的損害
(1) 原告車の修理費 金二四万四五八〇円
(2) 原告車のレツカー料等 金二万五〇〇〇円
内訳はレツカー料金一万五〇〇〇円、保管料金四〇〇〇円、けん引料金六〇〇〇円である。
(3) 代車料 金四万四〇〇〇円
原告は、大工仕事の為原告車を使用していたものであるが、本件事故後二二日間にわたり代車を借り、一日あたり金二〇〇〇円、二二日分合計金四万四〇〇〇円の代車料を要した。
(五) 弁護士費用 金一〇万円
(六) 合計 金一二六万九六八〇円
4 よつて、原告は被告らに対し、連帯して右のうち金一二六万九六〇〇円及び弁護士費用を除く内金一一六万九六〇〇円に対する事故の翌日である昭和五七年一月七日から、弁護士費用金一〇万円に対する訴状送達の日の翌日である同年九月一一日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2(一)の事実は認める。
同2(二)のうち、被告斉藤が代理監督者責任を負うことは争う。
3 同3はすべて争う。
なお、原告車は、既に耐用年数も尽きた廃車寸前の古車であり、時価は零に近いから、原告主張のような修理費損害があるものではない。
三 抗弁
原告は、本件事故後の昭和五七年一月二〇日ころ、被告会社に対し、原告車の修理を被告会社が行えば物損関係はそれで解決し、原告の傷害による損害は自動車損害賠償責任保険の範囲でまかなえるから、それで解決する旨約束した。
しかるに、被告会社が原告に原告車修理のためその引渡を求めた際、原告はこれを拒否した。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は否認する。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1(事故の発生)及び2(責任原因)(一)の事実は当事者間に争いがない。
よつて、被告会社は、自賠法三条及び民法七一五条一項により、原告に生じた後記損害を賠償する責任がある。
二 被告会社代表者兼被告斉藤本人(以下、被告斉藤本人という)尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は従業員が一六名の小規模な運輸会社であり、被告斉藤は、被告会社の代表取締役であり、被告会社の経理や人事の責任者として被告会社に代つて事業を監督していることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
よつて、被告斉藤は、民法七一五条二項により、原告に生じた後記損害を賠償する責任がある。
三 そこで、損害について判断する。
1 休業損害
原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証、第八号証、同尋問結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、大工として一日あたり少なくとも金一万五〇〇〇円の日当を得ていたこと、本件事故により顔面及び左手指を負傷し、常盤平中央病院に昭和五七年一月七日から同月一五日まで入院し、退院後同月二九日まで通院して治療を受けたこと、右入通院期間である二三日間は大工の仕事を休業せざるを得なかつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
そうすると、右期間中の休業損害は合計金三四万五〇〇〇円となる。
2 慰藉料
原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記のとおり、本件事故により受傷し、入通院治療を受け、精神的苦痛を受けたことが認められるところ、これに対する慰藉料は金一五万円と認めるのが相当である。
3 入通院交通費
前掲甲第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、入通院に必要な交通費として、昭和五七年一月七日の診療のための往復に金一八二〇円、同日の入院時に金九一〇円、同月一五日の退院時に金一〇七〇円、以上合計金三八〇〇円を要したことが認められる。
なお、甲第五号証中には交通費として金一万六七四〇円を要した旨の記載があるが、右認定の金三八〇〇円を超える部分については、その必要性、相当性を認めるに足りる証拠はないというべきである。
4 物的損害
(一) 車両損害
成立に争いのない乙第一号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証、原告及び被告斉藤の各本人尋問の結果によれば、本件事故により破損された原告車は、初年度登録昭和四七年ころのダツトサン六二〇型で、法定の耐用年数は経過していること、東京地区における市場販売価格に販売地域差・特別仕様等による価格差の幅を加えた自動車保険車両標準価格表によれば、昭和五七年度後期における昭和五二年登録のダツトサン六二〇型の価格は金二〇万円ないし金四〇万円であり、右価格表に掲載されていない昭和五一年以前に登録された同種車両の価格は、経過年数一年につき、前年に比して一〇パーセント程度低下することが認められるので、昭和四七年登録の原告車の本件事故当時の時価は、金一〇万円を下らないものと認めることができる。
ところで、被告斉藤本人尋問の結果によれば、被告会社は原告に対し、本件事故後の昭和五七年一月一九日ころ、原告車に似たような車として昭和四八年式で時価が金七万円程度の車両を原告車の代りに提供しようとしたことが認められるけれども、このことをもつて原告車の時価が金七万円程度しかないということはできない。
また、前掲甲第四号証によれば、有限会社五香自動車鈑金塗装が本件事故後に原告車の修理費の見積をしたところ、金二四万四五八〇円となつたことが認められるが、被告斉藤本人尋問の結果によれば、右会社の代表者から被告会社に対し、「原告車は古い車で、修理をすると費用がかかつて大変だから、似たような車両を探してはどうか」という話があつたことが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
そして、前記認定の原告車の時価額をも考えあわせると、右修理費見積額をもつて原告車の損害とすることはできない。
以上によれば、原告車の車両損害は金一〇万円とするのが相当である。
(二) 原告車のレツカー料等
原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、第七号証及び同尋問結果によれば、原告は、本件事故により原告車を破損され、原告車のレツカー料及び保管料として金一万九〇〇〇円、けん引料として金六〇〇〇円を要したことが認められ、他にこれに反する証拠はない。
そうすると、合計金二万五〇〇〇円が損害となる。
(三) 代車料
前掲甲第八号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第九号証及び同尋問結果によれば、原告は、本件事故前、昭和五六年九月二一日から東急柏ビレツジにおける大工工事に従事していたものであるが、仕事の必要上、原告車を使用して自宅と工事現場を往復していたこと、原告は、本件事故後、昭和五七年二月一日ころから仕事を再開したが、工事現場への往復のため、訴外本田末吉からトヨタカローラを同年二月三日から同月末日までの間借り受け、同人に対し、一日あたり金二〇〇〇円、二二日分合計金四万四〇〇〇円の代車料を支払つたことが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
そうすると、右金四万四〇〇〇円が損害となる。
5 弁護士費用
原告は、前記1ないし4の合計金六六万七八〇〇円の損害賠償請求権を有するところ、本件事案の内容、性質、審理の経過、請求額及び認容額等を考慮すると、原告が本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は金七万円と認めることができる。
以上を合計すると、原告の損害額は金七三万七八〇〇円となる。
四 被告会社らは、原告が昭和五七年一月二〇日ころ、被告会社に対し、原告車の修理を被告会社が行えば物損関係はそれで解決し、原告の傷害による損害は自動車損害賠償責任保険の範囲でまかなえるから、それで解決する旨約束したと主張し、被告斉藤本人の供述中にはこれに沿う部分がないでもないが、原告本人尋問の結果と対比して検討すると、被告斉藤が右のような提案をしたことは認められても、原告との間で主張のような合意が成立したものと認めるに足りる証拠はないから、前記被告らの主張は理由がない。
五 以上の次第で、原告の被告らに対する請求は、各自金七三万七八〇〇円及び弁護士費用を除く内金六六万七八〇〇円に対する事故の翌日である昭和五七年一月七日から、弁護士費用金七万円に対する訴状送達の日の翌日であることが訴訟手続上明らかな同年九月一一日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、正当として認容することとし、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 芝田俊文)