東京地方裁判所 昭和57年(ワ)12776号 判決
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【判旨】
一そこで、原告の本件登記の回復登記請求につき考える。
1 原告の請求原因1および2記載の事実は当事者間に争いがなく、同4記載の事実につき考えるに、<証拠>によれば、昭和五六年一〇月中頃、当時被告会社代表取締役茅野恭弘が、その意思がないのに、原告会社代表取締役青山一郎に対し、原告主張のように、被告が原告に対して負担する残債務全額を一括弁済するから本件土地建物に対する本件登記を抹消してほしい旨偽りの申入をし、原告代表者青山一郎は、被告に一括弁済の意思があるものと信じて、本件登記の抹消登記手続に必要な一切の書類を右茅野に対し交付したことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠は存しない。
2 そこで、抗弁記載の事実について考えるに、<証拠>によれば、原告の請求原因1(三)記載の本件土地建物に対する譲渡担保権設定条項の合意については、被告会社代表取締役茅野恭弘が、右譲渡担保による被担保債権一五〇〇万円のうち、その殆どである金一二六五万円が無担保の旧債務であるところから、右条項を加えることに消極的態度を示したこと、これに対し、当時の原告会社代表取締役山本義雄が、被告主張のように「原告の取引銀行に対する融資に関しての弁解のため示す必要があるので、仮装でよいから、同条項を残し、右登記に必要な関係書類を預らせてもらいたい」旨申入れ、さらに、その際、右山本が「右条項に基づく所有権移転登記は決してしない。原告は被告より受取つた同登記手続に必要な一切の書類を銀行に対して示し、用済み次第被告に返還する」ことを確約し、乙第一号証の念書を入れたので、被告会社代表取締役茅野は已むなく、これを承諾し、右書類を原告代表者山本に交付したこと、ところが、原告代表者山本は被告に無断で右書類を使用して本件登記をしたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠は他に存しない。
3 以上の事実によれば、本件登記の抹消登記は、登記義務者である原告の錯誤による瑕疵ある意思に基づきなされたもので、登記手続上瑕疵のあることは明らかであるが、しかし、そもそも本件登記自体が、民法九四条一項によりその登記原因を欠き、その瑕疵の故に無効なものであることも、これまた明らかである。
このような場合に、原告主張のように、本件登記の抹消登記の回復登記請求ができるとすると、後に、被告が原告に対し、再度本件登記の抹消登記を求めることになり、現在の実体的権利関係を正確に公示することを目的とする登記制度の趣旨からいつても、右のような迂速な方法をとる実益は認められない。
したがつて、本件登記の抹消登記は有効であり、本件登記の回復登記は認められないといわざるをえない。
(山口和男)