大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和57年(ワ)2084号

原告

福原眞

原告

飯塚昌子

右両名訴訟代理人弁護士

小林良明

被告

福原ふみ

右訴訟代理人弁護士

下奥和孝

主文

1  被告は原告福原眞に対し金六六六万六六六六円、原告飯塚昌子に対し金六六六万六六六六円及びこれに対する昭和五六年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文同旨

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

原告福原眞(昭和七年二月八日生)は亡福原五郎(明治三四年三月二一日生、昭和五五年五月二六日死亡)と亡福原テル(昭和八年一〇月二七日死亡)との間の長男であり、原告飯塚昌子(昭和一七年一一月三日生)は亡五郎と亡福原義子(昭和二八年二月二日死亡)との間の二女であり、被告福原ふみは亡五郎と昭和三〇年三月二四日婚姻した妻であり、いずれも亡五郎の相続人である。原告ら及び被告は、亡五郎の遺産につき遺産分割の調停申立事件(東京家裁昭和五六年(家イ)第一五九号事件)において係争中である。

2  (亡五郎による財団法人厚生会創立とその経緯)

(1) 亡五郎は昭和六年以降その自宅において福原写真館を営むかたわら、昭和二五年ころ「葛飾第一診療所」を開設し、昭和三四年一月X線技師養成を目的とする「中央診療エックス線技師養成所」を設立し、右養成所長として自らX線技師の養成を行うに至った。

(2) その後、亡五郎は昭和四二年二月、同人の全額出資によって結核、成人病等の予防事業などを目的とする財団法人厚生会を設立し、その理事長に就任するとともに、「中央診療エックス線技師養成所」を右財団法人の経営に移管した。右「中央診療エックス線技師養成所」はその後、「中央診療放射線技師養成所」、「中央医療技術学院」、「中央医療技術専門学校」と改称され、財団法人厚生会におけるほとんど唯一の事業となっている。

3  (財団法人厚生会からの死亡退職金の支給)

(1) 財団法人厚生会は、創設者であり現職の理事長であった亡五郎の死亡退職金として、昭和五五年一一月一五日までに金二〇〇〇万円を支給する旨決定し、遅くとも昭和五六年三月三一日までに、亡五郎の相続人の一人である被告に対し、遺族の代表として右死亡退職金二〇〇〇万円を支払った。

(2) ところで、財団法人厚生会では、昭和四二年二月の創立以来退職金支給規程あるいは死亡退職功労金支給規程は存在せず、また理事などの役員に対する退職金支給の先例も皆無であったところ、亡五郎の死亡退職につき、同人が全額出資によって設立しかつ理事長として同法人の発展に尽してきた功労に報いるため金二〇〇〇万円の死亡退職金を支給するに至ったのである。

(3) 従って、財団法人厚生会からの右死亡退職金二〇〇〇万円は、亡五郎の遺族たる原告両名及び被告ら三名の固有の共有財産とみるべきであり、共有者間において平等に分割されるべきである。このことは、昭和五六年一月三〇日、財団法人厚生会から原告両名に交付された「退職所得の源泉徴収票(昭和五五年分)」によれば、支払を受ける者として「理事長福原五郎相続人福原ふみ他二名」と記載され、同法人が亡五郎の遺族たる原被告ら三名に対し共有財産として一括支払ったことが明らかである。

(4) しかるに、被告は財団法人厚生会から右金二〇〇〇万円の死亡退職金を遺族代表として受領しながら、原告らの分割請求にもかかわらず、その分割による支払をしない。

4  (むすび)

よって、原告両名は被告に対し、亡五郎の死亡退職金として被告が遺族代表として受領保管中の金二〇〇〇万円につき、各六六六万六六六六円及びこれに対する被告が受領した日の後である昭和五六年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(1)のうち、葛飾第一診療所の「開設者」が亡五郎であることは否認し、その余の事実は認める。

同2の(2)のうち、財団法人厚生会が亡五郎の「全額出資によって」設立されたこと及び中央医療技術専門学校が同厚生会の「唯一の事業となっている」ことは争い、その余の事実は認める。

3  同3の(1)のうち財団法人厚生会が亡五郎の死亡退職金として金二〇〇〇万円を被告に支払ったことは認めるが、それを「遺族の代表として」被告に支払ったことは否認し、その余は争う。

同3の(2)のうち、亡五郎の死亡時に財団法人厚生会には退職金支給規程あるいは死亡退職功労金支給規程が存在しなかったこと及び金二〇〇〇万円が亡五郎の財団法人厚生会に尽した功労に対する報償の性質を一部兼有するものであることは認めるが、その余は争う。

同3の(3)及び(4)の事実はいずれも否認する。

4  財団法人厚生会は、昭和五五年一二月六日、創立者・理事長であった亡五郎の死亡にともなう退職金、功労金及び特別弔慰金等として金二〇〇〇万円を被告に支給する旨決定し、昭和五六年三月一六日これを被告に支払った。当時死亡退職、功労金及び特別弔慰金等支給規定を有しなかったので、調査、検討の結果、公務員及び企業体の役員、従業員等に関する当該規定はいずれも法定の相続順位とは異なる受給権者の順位を定めており、かつ第一順位者は妻とされていること、死亡退職金は生活保障的性格を有し、亡五郎と生計を共にしていた妻である被告に支給することが実質的にも妥当であり、また功労金・特別弔慰金についても同様の措置が妥当であること及び亡五郎と原告らは長期間にわたって絶縁状態にあったこと等の諸事情を考慮して以上のとおり支給を決定したものである。従って、右死亡退職、功労金及び特別弔慰金二〇〇〇万円は被告が財団法人厚生会から支給された被告固有の財産である。

かりにそうでないとすれば、右金員は亡五郎の遺産に準ずるものとして遺産分割手続により同人の遺産と包括的にその帰属を決すべきものであり、被告は亡五郎の遺産の形成、維持に対し特別の寄与をなした事実が存在し当該寄与は右死亡退職、功労金にも存在する。従って、右死亡退職・功労金等は遺産分割における一般的原則のほか右特別寄与の評価に服すべきものであり、特別寄与分は亡五郎の遺産及び右死亡退職・功労金等の二分の一以上に相当するものである。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1(当事者)の事実、同2(亡五郎による財団法人厚生会創立とその経緯)の(1)(葛飾第一診療所の「開設者」が亡五郎であることを除く)、(2)(財団法人厚生会が亡五郎の「全額出資」によって設立されたこと及び中央医療技術専門学校が同厚生会の「唯一の事業となっている」ことを除く)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  財団法人厚生会が亡五郎の死亡退職金として金二〇〇〇万円を被告に支払ったこと、亡五郎の死亡時に財団法人厚生会には退職金支給規程あるいは死亡退職功労金及び特別弔慰金等支給規定が存在しなかったことは当事者間に争いがない。

(1)  原告は財団法人厚生会の支給決定のなされた日が昭和五五年一一月一五日までと主張し、被告は同年一二月六日であると主張するが、証人佐藤毅の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証(理事会議事録)によれば昭和五五年一二月六日の理事会において支給決定されたものと認められる。もっとも右乙第一号証の記載によれば昭和五五年一〇月四日開催の理事会において既に審議されていたこと、(証拠略)及び証人本図専蔵の証言によれば昭和五五年一一月八日ころ既に死亡退職金として金二〇〇〇万円の支給が内定していたことが認められる。

(2)  原告は退職金の支給された日が遅くとも昭和五六年三月三一日までと主張し、被告は昭和五六年三月一六日と主張するが、(証拠略)によれば昭和五六年三月一六日であることが認められる。

(3)  本件の基本的な争点は誰に支給されたかという点である。被告は前記乙第一号証を根拠に東京都職員退職手当に関する条例、同施行規則等にならい、亡五郎の配偶者である被告に支給されたものと主張し、これに副う乙第一号証及び証人佐藤毅の証言がある。これに対し原告らは亡五郎の功労に対する報償としてその相続人の一人である被告に対し遺族の代表として支給されたものと主張し、これに副う(証拠略)(退職所得の源泉徴収票特別徴収票)、(証拠略)(相続税の申告書)、(証拠略)によれば、右退職金は「福原ふみ相続口」に振込まれ、(証拠略)によれば被告が「保管中」であることが認められる。

以上のように当事者間に争いのない事実及び認定事実によれば、法人の役員が死亡時に退職金支給規程あるいは死亡退職、功労金及び特別弔慰金等支給規程が存在しない場合に法人の理事会において配偶者に死亡退職金を支給する旨の決定をしたとしても、、功労に対する報償の性質を兼有する(一部兼有することは当事者間に争いがない。)死亡退職金について相続税の申告において各相続人が相続分に応じて分割して退職金を取得した旨申告し、相当期間が経過しても修正申告していない(弁論の全趣旨によれば本件においては弁論終結時までに修正申告のなされた形跡はない。)場合には、遺族の代表として相続人の一人である被告が死亡退職金を支給されたものと解するのが相当である。そのように解しないと相続税の負担の面においては優遇措置を受けながら(相続税法一二条一項六号により金二〇〇万円まで非課税とされている)死亡退職金は一人で取得するという不合理な結果を招来することになるからである。

(4)  被告は予備的に特別寄与分の主張をするが、死亡退職金は遺産(相続遺産)ではなく、相続人の固有財産であるのみならず、寄与分の判断は家庭裁判所の専権である(民法九〇四条の二、家事審判法九条参照)から当裁判所において判断すべき限りではない。

三  以上によれば、被告は遺族代表として保管中の退職金二〇〇〇万円を原告らの共有持分に応じて分割すべく、原告らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村重慶一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!