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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)2739号

原告

浦野仁一

右訴訟代理人弁護士

水石一郎

中村治郎

米澤幸子

被告

日産自動車株式会社

右代表者代表取締役

石原俊

右訴訟代理人弁護士

小倉隆志

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、自動車の製造及び販売等を目的とする会社である。

2  原告は、昭和四五年四月一日、被告に雇用された。

3  被告は、昭和五六年三月一七日に原告を解雇したと主張して、原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを争っている。

4  よって、原告は、原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

すべて認める。

三  抗弁

1  被告は、原告に対し、昭和五六年三月一七日、原告を懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件懲戒解雇」という。)をした。

2  本件懲戒解雇の理由は、次のとおりである。

(一) 原告は、昭和五二年六月から被告の輸出業務部総括課に所属しているが、昭和五五年一〇月二四日、同課課長の本望春夫(以下「本望課長」という。)に対し、右手拳で顔面を殴打する暴行を加え、よって同人に対し全治約一〇日間を要する左眼瞼挫傷等の傷害を負わせたことを理由に、同年一一月七日、被告から出勤停止一〇日間の懲戒処分を受けたのにもかかわらず、改悛の情を示さず、出勤停止期間満了日の翌日である同月一八日から本件懲戒解雇の日である昭和五六年三月一七日までの間に、別紙「原告の勤務状況」に記載のとおり、回数にして六〇回、累計時間にして六六三〇分(一一〇時間三〇分)に及ぶ遅刻を繰り返した。

(二) 原告は、昭和五五年一一月一八日から昭和五六年三月一七日までの間、次のとおり、本望課長又は同課長の後任者である内山茂課長(以下「内山課長」という。)からの業務命令をすべて拒否して仕事を全くしないという態度をとり続けた。

(1) 本望課長は、原告に対し、昭和五五年一一月一八日、欧米との通商問題対策、情報管理並びに社員紹介制度(販売部内以外の社員が自動車を購入しようという顧客を被告に紹介する制度)及び提案制度(社員が自らの事務能率向上のための施策の提案をする制度)の各事務局の業務を担当するよう指示したが、原告はこれを拒否した。

本望課長は、原告に対し、昭和五五年一一月二五日、右の欧米との通商問題対策業務の一つとして、アメリカ合衆国国際貿易委員会の自動車問題に関する審決について報告するよう指示したが、原告はこれを拒否した。

本望課長は、原告に対し、昭和五五年一二月三日と二二日に、仕事をするよう説得したが、原告はこれにも応じなかった。

(2) 内山課長は、原告に対し、昭和五六年一月初旬から二月初旬までの間、数回にわたり、仕事をするよう説得したが、原告は、本望課長が過去に原告に対して仕事上の差別をしたので、被告においてそれを認めない限り仕事はしないといって、内山課長の説得にも応じなかった。

(三) (一)、(二)の各事実は、被告の従業員の懲戒解雇事由を定める就業規則八五条五、一〇、一一号に該当するので、被告は、原告を懲戒解雇した(就業規則の各条項の内容は、別紙記載のとおりである。)。

四  抗弁に対する認否

1  1は認める。

2(一)  2の(一)のうち、原告が昭和五二年六月から被告の輸出業務部総括課に所属していたこと、原告が本望課長に対し、昭和五五年一〇月二四日、右手拳で顔面を殴打する暴行を加えたこと、同年一一月七日に出勤停止一〇日間の懲戒処分を受けたこと及び同月一八日から昭和五六年三月一七日までの間に遅刻をしたことがあることは認め、その余は否認する。

(二)  2の(二)の(1)は否認し、同(2)のうち、内山課長と原告とが被告主張の期間に数回にわたり話合いをしたことは認め、その余は否認する。

(三)  2の(三)のうち、就業規則の各条項の内容は認め、その余は争う。

(四)  原告は、本望課長から、昭和五四年六月ころ、原告を業務から外すといわれ、それ以後全く仕事を与えられない状態が続いていたため、精神的に疲労していた原告が昭和五五年一〇月二四日に本望課長を殴打するに至ったのは、右の事情と当日同課長から挑発的な態度をとられたこととによるが、原告は、暴力行為自体については反省していた。しかし、原告は、被告において、原告が暴力を振るうに至った背景について、原告から事情聴取をする等の調査を全くせずに出勤停止の懲戒処分をしたことに不満を持っていた。本望課長又は内山課長は、原告に対し、出勤停止期間満了日の翌日以降本件懲戒解雇の日までの間、全く仕事に関する指示をしなかったのであり、原告は、仕事をしようにもできない状況に追い込まれていたのであって、原告が全く仕事をしなかったとの被告の主張は失当である。

五  再抗弁

四の2の(四)記載のとおり、原告は、本望課長又は内山課長によって、仕事をしようにもできない状況に追い込まれたのであるから、本件懲戒解雇は、解雇権の濫用に当たり、無効である。

六  再抗弁に対する認否

原告が本望課長又は内山課長によって仕事をしようにもできない状況に追い込まれたことは否認し、その余は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、それらをここに引用する。

理由

一  請求の原因事実及び抗弁1の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁2(本件懲戒解雇理由の存否)について検討する。

1  (証拠略)及び原告本人尋問(第一、二回)の結果(ただし、2記載のとおり採用しない部分を除く。)によれば、次の各事実を認めることができ、2記載のとおりこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告は、昭和四五年四月一日、被告に入社し、昭和五二年六月、輸出業務部総括課に配属された(この事実は当事者間に争いがない。)。原告は、同年一二月まで、同課において海外市場動向調査等の業務を割り当てられていたが、業務遂行の過程で先輩課員との折合いが次第に悪くなり、昭和五三年一〇月に被告に提出した「自己申告書」と題する人事調査表(<証拠略>)において、右の先輩課員について「口ではもっともなことを言いつつ、自分の私心だけによる顕示欲を確保せんがため、情報の私物化と仕事の丸がかえによる、仕事の割振り、フィードバック時の混乱によって、業務の円滑な遂行が多大に阻害された。(中略)上に言うことと下に言うことが全く違い、二心ある操作的人間による迷惑は図り知れない。(中略)彼には中近東かナイジェリアの大学で世界経済、日本経済の講義をおこなってもらうのが一番よいと感じる。」などと非難の言葉を書き連ねた。

原告は、同年六月から一二月までの間に、合計二一回にわたる遅刻をしたが、同僚課員と比較して極めて多かった。

(二)  本望課長は、昭和五三年一月、輸出業務部総括課長として着任し、課員の業務分担を定めたが、原告に対しては、同部の新所管事項となった長期計画の仕事(欧米の自動車製造業者との競争に勝ち抜くための長期的な対応策を検討するという業務)を割り当てた。原告は、本望課長に対し、同月一七日、長期計画の仕事に加えて、他の課員が担当している仕事のうち一部を原告において担当したい旨希望したが、本望課長は、業務分担の変更は認められないとして、原告の右の希望を容れなかった。また、原告は、本望課長に対し、女性課員の補助者を自分につけて欲しい旨及び資料整理用の原告専用キャビネットを机の横に設置して欲しい旨を要求したので、本望課長は、原告に対し、同年四月、暫定的に庶務担当の女性課員を原告の補助者として必要に応じ使用することを許し、更に、同年九月、専属の女性課員を配置したが、専用キャビネットについては原告の要求を容れなかった。原告は、これらの本望課長との間のやりとりから、本望課長が自分を仕事の上で差別しているものと考え、総括課の中で疎外されているとの根強い感情を抱くに至った。

なお、原告は、同年一月、訴外コスモシステム株式会社の採用面接を受け、同社から同月二三日付けで採用内定の通知を受けた。

(三)  原告は、被告に対し、昭和五三年六月二三日、同年七月三一日をもって退職したい旨の退職願を(<証拠略>)を提出したが、退職理由として「人生の大半を過ごす場所で、これ以上周りに迷惑はかけたくないし、自分も不愉快な思いはしたくない。現在の業務(輸出の長期計画)には興味を持っており、直属の上司も熱心に指導してくれている。ただ、客観的な情況からみて、不公正な業務分担、人員配置という、特定の集団のためにある人間に負担のかかる状態の意図的な放置には納得できない。」と記載した。原告は、本望課長及び直属の上司である福原薫部付の慰留を受けて、同年八月、退職願を撤回した。

また、原告は、前記(一)の自己申告書において、同年一月以降の業務分担及び人員配置が不公平であるとの不満を述べ、現在の仕事の質は高すぎる、仕事の量は多すぎると記入した。

(四)  昭和五四年一月の組織変更により、輸出計画部が新設され、長期計画の仕事が輸出計画部の所管事項とされたため、同年二月、本望課長は、原告に対し、毎月発行する輸出部門月間業務報告書(以下単に「月報」という。)作成の仕事を女性課員一名と共に担当するよう命じた。原告は、本望課長から、従来の月報の様式を改訂して簡潔にするようにと指示されて、この様式改訂作業には熱心に取り組んだものの、その後序々に月報作成作業に熱心さを失い、共同担当者である女性課員に任せきりになり、同年五月及び六月には、女性課員が月報作成のために残業することを余儀なくされているにもかかわらず、原告がそれに協力しないという状態となった。そこで、本望課長が原告に対し、同年六月半ばころ、右の点について注意したところ、原告は、激高して、月報の仕事はしないといって、月報作成のための資料等を本望課長の机の上に投げ出して、月報作成作業をすることを拒み、以後一切の仕事をせず、被告に出社はするものの自分の机に向かって小説本等を読むという行動を開始した。

(五)  本望課長は、昭和五四年六月半ば以降同年暮までは、原告が反省して自発的に仕事を始めることを期待して、特に仕事の指示をすることはしなかったが、同年一二月二一日に行われた総括課の研修旅行会において、課員から一致して同課の問題点として原告が仕事を全くしないことが取り上げられたことを考慮し、昭和五五年一月、原告に対し、社員紹介制度(販売部門以外の社員が自動車を購入しようという顧客を被告に紹介する制度)及び提案制度(社員が自らの事務能率向上のための施策の提案をする制度)の各事務局の業務並びに経済・産業動向調査の業務を分担とする旨告知した。しかし、原告は、本望課長に対し、原告が仕事をしなくなるに至った原因は本望課長の側にあるので、その非を認めない限り、仕事の話には応じられないと答え、仕事をしようとしなかった。

(六)  原告は、昭和五五年四月四日に勝手に自分の机を他の課員から離れた位置に移動させたため、身近に電話機がなかったが、同年一〇月二四日、他の課員の机の上の電話機を自己の机の上に移動させたことから、他の課員と口論となり、その後席に戻った本望課長から、他の課員に迷惑をかけることはしないよう注意を受けるや、憤激して、本望課長に対し、右手拳で顔面を殴打する暴行を加え(原告が本望課長に対し、昭和五五年一〇月二四日、右手拳で顔面を殴打する暴行を加えたことは、当事者間に争いがない。)、よって同人に対し全治約一〇日間を要する左眼瞼挫傷等の傷害を負わせた。

原告は、被告から、同年一一月七日、右の傷害事件を理由に、出勤停止一〇日間の懲戒処分を受けた(原告が被告から、同年一一月七日、出勤停止一〇日間の懲戒処分を受けたことは、当事者間に争いがない。)が、被告において本望課長に対しては何らの処分をしなかったことに強い不満を持った。

(七)  本望課長が原告に対し、出勤停止期間満了日の翌日である昭和五五年一一月一八日、欧米との通商問題対策、情報管理並びに社員紹介制度及び提案制度の各事務局の業務を担当するよう指示したところ、原告は、昭和五三年以来原告に対して行われたことを文書にして欲しい、それがない限り仕事の話には応じられないと答えた。更に、原告は、本望課長に対し、昭和五五年一一月二一日、「もし、あなた方に問題を円満に解決しようとする気が本当にあるのであれば、下記に従って、事柄(事実関係動機、理由、説明等)を具体的に明記(個条書きにでも)してからにして下さい。そうすれば、話し合いも進み、解決策も捜せるでしょう。1 現状の確認 何が起っているのですか、2 問題の明確化 起っている事柄は本当に問題なのですか、3 目標の設定 どう変えたいのですか、4 原因分析と診断 どうしてそうなったのですか、何をして来たんですか、5 解決策の立案 上記から解決の方法を具体的に作成し実行する」などと記載したメモ(<証拠略>)を提出し、同月二五日、本望課長から、欧米の通商問題対策業務の一つとして、アメリカ合衆国国際貿易委員会の自動車問題に関する審決について報告するよう指示されたが、本望課長において右のメモに対する書面による回答をすることが先決問題であるといって、右の業務命令を拒否した。

本望課長は、原告に対し、同月二八日、同年一二月一日、三日、一一日、一八日及び二二日に、仕事をするよう説得を試みたが、原告は、右と同様の主張に終始した。

(八)  昭和五六年一月に輸出業務部総括課長となった内山課長は、同月初旬から二月初旬までの間、数回にわたり、原告に対し、心機一転して仕事をするよう説得したが、原告は、昭和五三年一月以来本望課長が仕事上の差別をしてきたので、被告においてそれを認めない限り仕事はしないといって、内山課長の説得にも応じなかった。

(九)  原告は、出勤停止期間満了日の翌日である昭和五五年一一月一八日から本件懲戒解雇の日である昭和五六年三月一七日までの間に、別紙「原告の勤務状況」に記載のとおり、回数にして六〇回、累計時間にして六六三〇分(一一〇時間三〇分)に及ぶ遅刻を繰り返した。原告は、本望課長から、遅刻について注意を受けても、仕事をしようという気持になれば、自然と遅刻はなくなるものであるなどと答えるのみで、自ら勤務態度を変えようとはしなかった。

2  原告は、抗弁に対する認否2の(四)記載のとおり主張するところ、(証拠略)及び原告本人尋問の結果中には右の主張に沿う部分はあるが、これらはいずれも明確な根拠に基づかずに原告の立場からする憶測を記載したもの又は供述したものというべきものであって、採用することができず、他に右の原告の主張を認めるに足りる証拠はなく、結局、1の(一)ないし(九)記載の認定を左右するに足りる証拠はない。

3  1の(一)ないし(九)に判示の事実を総合すれば、被告が抗弁2の(一)及び(二)において主張する各事実を認めることができ、この各事実は、被告の従業員の懲戒解雇事由を定める就業規則八五条五、一〇、一一号(この就業規則の各条項の内容が別紙記載のとおりであることにつき当事者間に争いがない。)に該当するものと認めるのが相当である。

三  原告主張の再抗弁を認めるに足りる証拠がないことは、二の2において判示したとおりであるから、本件懲戒解雇は、解雇権の濫用に当たるということはできない。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中豊)

(別紙) 就業規則(抄)

八四条 譴責、減給及び出勤停止

従業員が、次の各号の一に該当するときは、譴責、減給又は出勤停止に処する。ただし、譴責は、本条の定めによる他の制裁と併科することを妨げない。

(1) 勤務が怠慢であると認めたとき

(2) 正当な事由がなく無断欠勤したとき

(3) 勤務に関する諸手続を怠り、又は不正をしたとき

(4) 許可なく、会社の物品を持ち出し、又は持ち出そうとしたとき

(5) 会社施設及びその敷地内において、みだりに火気又は危険物を粗略又は不注意に取扱ったとき

(6) 故意又は重大な過失により、会社に損害を与えたとき

(7) 会社の資材、設備等を利用して、私物を修理若しくは作製し、又は修理若しくは作製させたとき

(8) 会社施設及びその敷地内において、喧嘩、闘争をしたとき、又は風紀、秩序を乱し、若しくは乱そうとしたとき

(9) 飲酒運転等無謀運転をしたとき、又は過失により人身事故を起したとき

(10) 会社の信用を傷つけ若しくは傷つけようとしたとき、又は会社の名誉を汚し若しくは汚そうとしたとき

(11) 故意又は重大な過失により、他人の就業を妨害したとき

(12) 会社の規則、命令に違反したとき

(13) その他各号に準ずる行為があったとき

八五条 諭旨退職及び懲戒解雇

従業員が、次の各号の一に該当するときは、諭旨退職又は懲戒解雇に処する。ただし、情状を酌量し、制裁を軽減することがある。

(5) 出勤状況が不良であって、数回にわたり注意を受けても改めないとき

(10) 業務上の指示、命令に違反し、又は職場の風紀、秩序を乱したとき

(11) 前条各号の情状が特に重いもの、又は前条各号の事由により、懲戒に処せられたにもかかわらず、なお改悛の情が認められず、再度にわたり前条各号に該当する行為を行ったとき

別紙 原告の勤務状況

<省略>

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