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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)6172号

原告

鈴木明朶

右訴訟代理人弁護士

渡辺脩

田中富雄

被告

株式会社信用交換所東京本社

右代表者代表取締役

武田亀太郎

右訴訟代理人弁護士

籾山幸一

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  原告と被告との間で、原告が被告の従業員としての地位を有することを確認する。

2  被告は、原告に対し、昭和五七年五月二五日以降、毎月二五日ごとに金二四万二四〇〇円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び第二項について仮執行の宣言を求める。

二  被告

主文と同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、法人及び個人の信用調査等を目的とする会社である。原告は、昭和四八年二月五日、被告会社の従業員となり、被告会社の調査部に所属し、調査員として主に東京都二三区内の企業の信用調査の業務に従事してきた。

2  原告の昭和五七年四月当時の給与の月額は、合計二四万二四〇〇円(内訳は、基本給一〇万四六〇〇円、物価手当、調整給、職能手当及び調査手当計八万七八〇〇円、外交員報酬五万円)であり、毎月二五日に支払を受けていた。

3  被告は、昭和五七年四月二一日、原告に対し、口頭で懲戒解雇の意思表示をした。

4  しかし、右解雇は無効である。

5  よって、原告は、被告に対し、従業員の地位を有することの確認及び昭和五七年五月分以降の賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

第一項の事実は認める。

第二項の事実は否認する。原告の昭和五七年四月当時の給与の月額は合計二一万四八五〇円であった。

第三項の事実は認める。

第四項の事実は否認する。

三  被告の抗弁

1  解雇理由に該当する具体的事実

(一) 原告は、昭和五六年六月二九日調査レポート(以下「レポート」という。)を提出した調査先マルニ織物株式会社の調査に当たり、同社社長の仕事上の都合を顧慮することなく、面会する時間を待たせたといって文句をつけ、同社長を怒らせて口論し、その結果調査に基づかない、ほとんど憶測に基づくでたらめなレポートを作成し被告会社に提出した。

(二) 昭和五六年一〇月二五日被告会社の調査員が調査先株式会社ダジュールに赴き、同社社長に面会し、いわゆる「旧調」(調査員のレポートに基づき作成された依頼主に対する調査報告書の写しであって、その後の同一調査先の調査の際に資料として使用するため被告会社が保管する記録である。)に基づき確認調査をしたところ、同社長が激怒し、被告会社を散々非難したうえ、被告会社をたたきつぶしてやるとまでいわれ、原告の直属上司である小山内英三が駆けつけ同社長に陳謝し、漸く許しを得た。トラブルの原因は原告のレポートに基づき作成された旧調に調査先会社の社会的信用を失なわせるような独断的な憶測による記述があったことによるものである。

(三) 原告が昭和五七年三月二日被告会社に提出した調査先株式会社スクープのレポートにつき、審査係が同社の商業登記簿謄本と突き合わせをしたところ、役員の記載に誤りの多いことを発見し、念のために調査先会社に直接電話を入れ原告のレポートに基づき補充調査をしたところ、原告は調査先社長に面接調査をした旨報告しながら調査先に出向かず、いい加減なレポートを作成していたことが判明し、立腹した調査先の専務から厳重な抗議と謝罪要求が出された。

(四) 原告は、調査先に足を運んで面接調査をする労をいとい、電話で調査を済ませることが多いため、レポートも他の調査員のレポートと比較し旧調の引用(調査項目に「旧調」とのみ書く。)が目立ち、調査時点の客観的事実と食い違うことが少なくない。また、原告のレポート記載の文字は判読困難な程の乱暴な書きなぐりであって、文章は表現力がなく意味がわかりにくい。そのためレポートの原稿を回付される審査係では余計な確認、補充などの調査照合をせざるを得ず、浄書係では浄書のミスが度々発生していた。

(五) 原告が昭和五七年三月一二日調査指令を受け同月一七日に被告会社に提出した調査先株式会社龍工房のレポートは、旧調引用があまりにも多かったため上司である調査部第一チームのチーム長立花丕顕が再調査のうえ、書き直すことを命じたところ原告は相当な日数を経てもレポートを提出せず握りつぶしてしまった。右調査依頼はいわゆる「超特急」(調査報告期間として三日間を予定するもの)であった。

(六) 原告が昭和五七年三月一日に調査指令を受け、同月二九日被告会社に提出した調査先株式会社ムサシのレポート(調査依頼は超特急)を前記立花丕顕及び調査部長池田一英が目を通したところ、所定外の用紙を使ったベタ書きであり、その内容も疑問が多かったので同年四月一日その書き直しを命じた。ところが、原告はこれを拒絶したばかりか、書き直しについての上司の説明に耳を傾けようともせず、上司に対して「原稿を書いてくれればそのとおり書き直す」などといって反抗した。(この件はやむなく上司が原告に代り調査し、レポートを作成した。)

(七) そこで、右同日、前記立花丕顕及び池田一英は原告の行動、態度から見てこのままでは原告にまともな調査を期待するのは困難と判断し、原告の調査状況、原告に対する調査のさせ方等を検討するため、既に原告に調査指令の際に渡してあったニコク株式会社、有限会社東京縫製、株式会社花都麗屋、もとじ、ヤマダ服飾株式会社、山友繊研株式会社の旧調の返還を求めるとともに、原告が昭和五七年三月一九日被告会社に提出しながら、同月二五日審査係から無断で持ち出した株式会社駒井(調査指令は同月二日)、株式会社東京マツシマ(調査指令は同月一二日)についてのレポート及び旧調の返還を求めた。しかるに、原告は、これらの資料及びレポートについて「家にある。」とか「紛失した。」などと矛盾することを平気でいって返還に応じないばかりか、同日重ねて即時返還を求められると「私の家にあるから取りにきてくれ」と非常識な言葉を吐いたうえ、そのまま同月六日まで無断欠勤を続けて返還に応じず、同日から同月一五日までに少しづつ返還するなどして被告会社の業務の運営を阻害した。

2  就業規則の解雇事由該当性

被告会社の就業規則四二条は、「従業員で次の各号の一に該当する行為をしたときは懲戒処分とする。」と定め、その二号は、「越権行為または正当な理由なく、業務上の指示命令に従わず社内の秩序を乱したとき」と、三号は「業務振り不熱心、業務成績不良で職務怠慢の点あるとき」と、七号は「社名または職務を利用し利益を計り、その他不正不義の行為をし会社に信用上、物質上の損害を及ぼし、または社員としての体面を汚したとき」と、一四号は、「会社の設備、資材または文書などの破損、窃取、破棄、隠匿および偽造を行ない、業務の運営を阻害した場合」と定めている。また、同規則四三条は、懲戒の種類として、譴責、減給、降格及び解雇の四種類を定めている。

原告の前記1の(一)から(三)までの行為は就業規則四二条七号に、同(四)の行為は同条三号に、同(五)及び(六)の行為は同条二号に、同(七)の行為は同条一四号にそれぞれ該当する。

3  被告会社の中島総務部長は、池田調査部長から本件解雇事由に該当する具体的事実の報告を受け、三、四回にわたり原告と面談して、原告自身から事情聴取をしようとしたが、原告はこれに応ぜず、反省の態度もうかがわれなかった。そこで、中島総務部長は、解雇以外に方法はないものと判断したが、原告の将来を考えて退職願を出すよう原告に勧めたけれども、原告は応じないのでやむを得ず懲戒解雇の意思表示をしたものである。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁第一項について

(一) (一)のうち原告がマルニ織物の調査を依頼され、日時は判然としないが同社を訪問したことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告は、訪問前、先方の女性事務員に対し電話連絡し、訪問時間の約束をして出かけた。ところが、訪問してみると社長が不在で、男性事務員から「突然訪問されても困る、調査したければお宅が勝手にやればよい。」と断られた。したがって、原告が不在の社長と口論などできるはずもない。原告は右の経過があったので同社の社長に対する直接調査はあきらめ、側面調査の結果のみを報告書の原稿に記載した。

(二) (二)のうち、被告主張の日時より相当以前、原告が株式会社ダジュールについて調査報告したことがあることを認めるが、その後、右報告書(旧調)をめぐり、被告会社と同株式会社の間にどのような問題やトラブルが生じたかは不知。

(三) (三)のうち原告が株式会社スクープを調査し、レポートを提出したことを認め、その余は否認する。

原告が同社へ調査に出向いたが、応対に出た男性従業員から、「責任をもって調査に返答できる係員などいない。」といわれた。その際、原告は、後日改めて調査のため訪問しても、逆に調査を全面拒否されてしまうと直感したので、右男性に対し、取材先は一切秘密にし、迷惑を掛けない旨を説明し、その場でかなりの取材に成功した。原告は、この取材によって、訴外株式会社ニコルの専務取締役といわれる甲賀氏が、実はスクープの社長で、経営全般を掌握していたことをつきとめた。原告は、その後甲賀氏に面談してスクープの情報や同氏の経歴などについて取材し、レポートを作成した。原告のレポートは、このような取材・聞き取りによるものであった。したがって、これが商業登記簿などの客観的資料とくい違うことは、ままありうることである。むしろ原告のレポートを最終的に裏付け確認して、できるだけ正確な報告書を最終的に完成させる責任は被告会社が負うべきものである。

(四) (四)はすべて否認ないし争う。

原告の字は、決してきれいな方とはいえないが、逆に被告会社の調査員や従業員のなかには、原告よりもっと乱雑な字を書き連ねる者もいる。しかし、これらの者も日常大過なく業務を処理している。原告についてのみ解雇の理由にされるのは心外である。

また、原告が、一旦担当調査先に出向き調査に着手した直後に、調査先側から被告会社の他の調査員に「詳細な話をしたい」との申入れがあり、そこで原告が旧調引用レポートをその調査員に資料として手わたして、調査を途中で交代し、引継いでもらったことが何度もあった。これが未だ未完成の調査で不正確であることは大いにありうる。

(五) (五)のうち、原告が株式会社龍工房の調査を担当して、レポートを提出し、右レポートに対し上司から書き直しを指示されたことがあることを認め、その余は否認ないし争う。

原告は、立花から「字が汚い、内容がでたらめ、私の目の悪いことを考慮していない。」等といわれ、レポートを返却されたことがある。しかし、原告は、その直後に「日本繊維商社銘鑑」や、被告会社備置きの「不動産表」などを参照して側面調査を補充・追加する作業を誠実に行い、間もなくそのレポートを提出した。

(六) (六)のうち、原告が株式会社ムサシの調査を担当し、レポートをベた書きで提出したことは認めるが、その余は否認ないし争う。

この調査は、長年の業績ある旧株式会社ムサシの解散清算後新発足した株式会社ムサシに対するものであった。しかし、かつて旧株式会社ムサシの信用調査が被告会社の「信用情報」に掲載されたことから、関係者が被告会社の調査を快く思っていなかったため、新株式会社ムサシの関係者から調査を一切拒否するとの方針が出され、原告の調査作業が著しく難渋した。そこで原告は、側面調査を中心にしてレポートの原稿を書かざるを得なかった。そのうち特に調査先の従業員数など全く不明なところも多々あったので、やむをえずベタ書きのままで原稿を提出した。

このように諸般の事情から当該担当者の調査が著しく困難とみられたとき、通常被告会社では、調査員を交替して作業を続行する。しかし、原告は、着手した調査について、出来るだけ自分の責任で報告したいという性格から、この件についてもひとまず原告自身が出来るかぎりの調査を行い、作成した原稿をそのまま被告会社に提出した。そしてこの調査については不十分と思われたので、原告の仕事量に加えなくてもよい旨を被告会社に伝えた。

(七) (七)は、否認ないし争う。

原告は、昭和五七年四月一日、上司の立花から「君は仕事にむかないから手持の資料を一切返せ。」と突然いわれた。原告は、その理由を再三問いただしたが、十分納得のいく説明はされなかった。そこで、原告は、会社から正式に命じられた仕事の資料を、理由もなく返還できないと判断し、立花に「会社としてそのような指示を正式に出すというのであれば、後日のため文書で理由を明記して出してほしい。」と要望した。しかし立花はこれに一切応じなかった。

その後、原告は未了の調査先につき必要な調査作業を続け、最終的には資料をすべて被告会社へ平穏に返還し、被告会社はこれを受領した。

2  抗弁第二項について

被告会社の就業規則四二条、四三条に被告主張の内容の定めがあることは認めるが、原告の行為が懲戒解雇理由に該当するとの主張は争う。

3  抗弁第三項について

被告会社の主張事実を否認する。

被告会社は、原告に対し何ら納得のいく理由も示さず、懲戒解雇の通知をした。原告がその理由を問いただしたところ、中島総務部長は「懲戒規定のすべてにあてはまるからそれが理由だ。」と答えた。

五  原告の再抗弁

1  被告会社の就業規則三八条は、「次の各号の一に該当するときは解雇する。」と定め、その二号は「第四二条に該当する行為を行ない懲戒解雇に処することが適当と認めた場合。」と規定している。これによれば、従業員が同規則四二条に該当する行為を行っても当然懲戒解雇処分を受けるわけではなく、懲戒解雇処分をすることが適当と認めた場合にのみ解雇されることとなっている。仮りに原告の行為の中に同条に該当する部分が存在するとしても、その違法性は軽微であるから、これをもって懲戒解雇を「適当と認める」と判断することは懲戒権の濫用である。

2  被告会社における懲戒解雇の手続は、就業規則四三条四号所定の手続(三〇日前に予告するか、そうでないときは行政官庁の認可を受けたのち、即時解雇する。)によってされるべきである。しかし、原告に対する本件解雇はこの手続を欠いているから、無効である。

六  再抗弁に対する答弁

再抗弁1及び2の主張をいずれも争う。

第三証拠

証拠関係は、記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  被告が法人及び個人の信用調査等を目的とする会社であること、原告が昭和四八年二月五日被告会社の従業員となり、被告会社の調査部に所属する調査員として主に東京都二三区内の企業の信用調査の業務に従事してきたこと、被告が昭和五七年四月二一日原告に対し口頭で懲戒解雇の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。また、被告会社の就業規則四二条は、「従業員で次の各号の一に該当する行為をしたときは懲戒処分とする。」と定め、その二号は、「越権行為または正当な理由なく、業務上の指示命令に従わず社内の秩序を乱したとき」と、三号は「業務振り不熱心、業務成績不良で職務怠慢の点あるとき」と、七号は「社名または職務を利用し利益を計り、その他不正不義の行為をし会社に信用上、物質上の損害を及ぼし、または社員としての体面を汚したとき」と、一四号は「会社の設備、資材または文書などの破損、窃取、破棄、隠匿および偽造を行ない、業務の運営を阻害した場合」と定め、また同規則四三条は懲戒の種類として譴責、減給、降格及び解雇を定めていることは、当事者間に争いがない。

二  そこで、被告の主張する解雇理由について検討する。

1  マルニ織物株式会社の調査に関する件(抗弁1の(一))について

(証拠略)によれば、原告は昭和五六年六月二五日マルニ織物株式会社についての調査指令を受けて、同月二九日被告会社にその調査のレポートを提出したこと、右レポートには原告は調査に際しマルニ織物株式会社の代表者に面接することができなかった旨記載されていることが認められる。被告は、原告が右調査の際に同社の社長を怒らせて口論し、でたらめなレポートを作成したと主張し、(人証略)はこれに沿う証言をするけれども、その証言の内容は同証人が直接体験した事実というものではなく、同証人の前任者の小山内から聞いたというにすぎないものであって、にわかに信用することができず、他に被告主張事実を認定するに足りる証拠はない。

また、仮りに被告主張のような事実があったとしても、本件解雇の一〇か月近く前の出来事であって、これが直ちに解雇の理由となるものとはいえない。

2  株式会社ダジュールの調査に関する件(抗弁1の(二))について

(証拠略)によれば、原告は昭和五六年一月ころに株式会社ダジュールの調査指令を受けてそのころ同社についてのレポートを提出したことが認められる。被告は、その後同社の調査を担当した被告会社の調査員が右レポートに基づき確認調査をしたところ右レポートに独断的な記述があったため同社の社長が激怒したと主張するけれども、レポートの記述内容を確認するとしてもその方法には種々の工夫を要することは当然であって、レポートの内容をそのまま調査先に示して確認することは、その記載内容いかんによっては調査先と無用のトラブルを起こすことになりかねず、調査の方法として著しく妥当性を欠く取扱いといわなければならないから、仮に右レポートの内容が同社にとって不愉快なものであるとしても、それにより生じた責任は原則としてそのレポートの内容を調査先に示した調査員が負うべきであり、レポートを作成した調査員にその責任を問うことはできないものといわなければならない。

3  株式会社スクープの調査に関する件(抗弁1の(三))について

(証拠略)によれば、原告は昭和五七年二月二六日に株式会社スクープの調査指令を受け、同年三月二日にレポートを提出したこと、原告の提出したレポートには同社社長の甲賀正治と面接した旨記載されていたこと、被告会社の審査係が右レポートと株式会社スクープの商業登記簿の記載とを対照したところ、資本金の額と役員の氏名とが相違していたので商業登記簿の記載に従ってレポートを訂正したことが認められる。しかし、被告の主張するように原告が同社社長と面接しなかったのに面接したかのように虚偽の記載をしたとの点についての(人証略)の証言は、原告本人尋問の結果及び成立に争いのない(証拠略)に照らしてにわかに信用することができず、他に被告主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

4  原告のレポートの内容について「旧調」の引用が多く、文字が乱暴で、文章がわかりにくいとの点(抗弁1の(四))について

被告は、原告の作成するレポートについて、他の調査員と比較して旧調の引用が多く、文字が乱暴で判読困難であり、文章は表現力がなく意味がわかりにくいと主張し、その証拠として、原告の作成提出したレポートである(証拠略)を提出し、(人証略)は、被告の主張に沿う供述をしている。しかし、被告の主張するレポートの内容及び文字の点は他のレポートとの相対的な比較の問題であって、比較の対照となる他のレポートが十分に提出されていない以上的確な判断をすることはできない。また、被告の提出した前記各書証及び原告の作成したレポートの写しと認められる(証拠略)を調べてみても、その文字はなるほど丁寧でわかり易いとはいえないとしても、判読できないほど乱雑なものとはいえず、その記載内容から被告会社の他の調査員の作成したレポートの写しであると認められる(証拠略)の文字の方が原告のレポートの文字より読み易いとはいえないことは明らかである。そして、(人証略)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和四八年二月に被告会社に入社して以来昭和五七年三月まで約九年間一貫して調査員として調査レポートの作成の業務に携わってきたが、その間レポートの内容や文字についてはとりたてて問題とされたことがなかったことが認められるから、この事実に照らしても被告の主張は失当といわなければならない。

5  株式会社龍工房のレポートの書直し問題(抗弁1の(五))について

(証拠略)を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果の一部は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、昭和五七年三月一二日株式会社龍工房の調査を命じられた。この調査は、いわゆる超特急という最も急速を要する速度区分がされ、調査指令の日から休日を除いて三日以内の期限内にレポートを提出すべきものとされ、その場合には六〇〇円の手当が支給されることとなっていた。原告は、所要の調査をしたうえ三月一七日にレポートを作成して上司の立花丕顕チーム長に提出した。立花は原告に対し、「文字がきたない。いわゆる旧調(同一調査先についての過去に作成されたレポートで、その後の調査の参考資料とするもの)の引用が多すぎる。取引銀行の支店名が間違っている」などとして再調査のうえレポートを書き直すことを命じた。これに対し、原告は自己のレポートの内容に誤りはない旨主張して立花と議論をしたが、結局再調査をすることとした。その後原告が同社につき再びレポートを提出したのは同年四月一二日又はその数日前であった。このように再提出が遅れたのは、原告は既に同年三月末日ころまでには再調査を完了していたが、原告が同社の不動産の状況を調査した不動産表(被告会社の担当者が調査先の不動産の状況につき登記簿を調査した結果をとりまとめた資料)を入手するのが同年四月一日になったからであるが、不動産表はレポート提出に不可欠のものではなく急を要する場合には不動産表を見なくともとりあえずレポートを提出し、後に審査係において不動産表との照合の結果更に調査が必要ならば再調査が命じられるのが通常の取扱いであった。

以上認定の事実によれば、原告の再調査命令を受けた後の対応にはレポート提出を不当に遅延させるという不適切な点が見受けられるのみならず、後で認定するように同年四月一日に持っている資料はすべて返還するように命じられたのであるから、原告の行為は右返還命令にも違反することとなる。

6  株式会社ムサシのレポートの書直し命令(抗弁一の(六))について

(証拠略)によれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、昭和五七年三月二日株式会社ムサシの調査指令を受け、調査に着手したが、調査に対する同社の協力が得られないため、銀行や同社の取引先についてのいわゆる側面調査のみを行って、同月二九日レポートを提出した。このレポートは所定の様式に従ったものでなく、調査した事項を書き流したいわゆるベタ書きのものであった。原告の上司の立花チーム長は、同年四月一日、原告に対して、レポートがベタ書きとなったことについてどのような手段方法で調査をしたか質問をし、更にベタ書きのレポートを所定の様式のものに書き直すよう命令したが、原告は、これに対して反抗的な態度をとり、右の質問には回答を拒否し、レポートの書直し命令に応じることも拒否した。そこで、立花は、やむをえず、株式会社ムサシの調査を自ら行い、レポートを作成した。

以上の事実によれば、原告は正当の理由なく、上司の業務上の指示に従わなかったものといわなければならない。

7  旧調及びレポートの返還命令拒否(抗弁1の(七))について

(証拠略)によれば、次の事実を認定することができ、この認定に反する原告本人尋問の結果の一部は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告と立花とは、昭和五七年四月一日、株式会社ムサシのレポートの書き直しについて前記6で認定したように口論をした。そして、右の件が一応決着を見た後、原告が前に立花からレポートの記載内容が誤りだと指摘されていた株式会社東京マツシマ及び株式会社駒井の各レポートについて、原告のレポートの内容の方が正確である旨立花に議論をしかけた。東京マツシマについては原告が三月一二日に調査を命じられて同月一九日にレポートを被告会社に提出したものであり、駒井については原告が同月二日に調査命令を受けて同月一九日にレポートを被告会社に提出したものであるが、提出の際、原告と立花との間に右両会社の取扱業種をめぐって口論があったものの、一応原告のレポートが受け入れられ、審査係へ回されていたものであるところ、原告は右両レポート提出の際に立花との口論があったことから、立花がその後右レポートを訂正しているかどうかを調べるため、同月二五日審査係から右レポートを立花に無断で持ち出して保管していたという事情があった。そこで、立花は、右レポートは既に調査が終って浄書をするばかりになっていたのに原告が無断で持ち出したことや前記の株式会社ムサシのレポート書直し命令に対する原告の反抗的な態度からみて、原告の調査の方法や原告に対する調査のさせ方等を検討するため、原告に対する調査指令の際に原告に配布してあった旧調等の資料を一たん全部返還すること並びに株式会社駒井及び株式会社東京マツシマのレポートを直ちに返還することを命じた。これに対し、原告は素直に応じることなく、代表取締役名の返還命令書を持ってこいといったため、立花はやむなく「未調査その他配付済みのものはすべて返却されたし」との立花名義の書面を作成して原告に交付した。原告は、この命令に対し、当時持っていた駒井及び東京マツシマのレポート、ヤマダ服飾、東京縫製、花都麗屋、山友繊研、ニコク、もとじ及び龍工房の調査資料を即日返還することなく、四月二日及び五日には欠勤し(三日及び四日は休日)、池田調査部長に電話をかけて調査資料を紛失したと偽りの報告をするなどし、同部長から重ねて返還方を命じられ、同月六日以降数回にわけて二、三件ずつ調査資料を返還した。

以上の事実によれば、原告は上司の業務上の指示命令に従わずに社内秩序を乱したばかりでなく、会社の文書を隠匿し、業務の運営を阻害したものということができる。

三  次に、原告に対する解雇の意思表示に至る経過について検討する。

(人証略)及び原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する原告本人尋問の結果の一部は信用できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

池田調査部長は、原告が資料の返還命令にも素直に従わなかったことや原告がレポートの書直し命令にも従わなかったこと等から原告をこのまま放置しておくことはできないと考え、昭和五七年四月一〇日ころ、人事関係を担当している中島総務部長に対し、原告がレポートの書直し命令を拒否したこと、資料の返還命令に素直に従わなかったこと、審査係から無断でレポートを持出したこと、これまでにも調査先と問題を起していること等の事実を報告して、しかるべき処置を求めた。中島部長は、立花から事情を聴取するとともに、原告からも数回事実関係についての弁明を求めたけれども、原告は、「上司の指示でも聞けることと聞けないことがある、話合いの段階はもう過ぎた」等と述べるのみで、事実関係について具体的な弁明をすることなく、反省の態度はうかがわれなかった。そこで、中島部長は、原告を解雇することもやむをえないと考え、ただ、原告が退職願を出すのであれば任意退職の取扱いとするのが相当として、原告に退職願を出すよう求めたが原告はこれも拒否したので、同月二一日、原告に対し懲戒解雇の意思表示をし、同時に三〇日分の解雇予告手当の提供をしたが、原告が受領を拒絶したので、弁済供託した。

四  本件解雇の効力

1  就業規則所定の懲戒理由の存否について

さきに二で認定したところによれば、被告が抗弁1の(一)から(七)までで主張する解雇理由のうち、(一)から(四)までは、その理由の存在を認めるに足りる証拠がないか、解雇理由とすることができないものということになる。そうすると、残るのは抗弁一の(五)から(七)までの事実である。まず、抗弁一の(五)の龍工房のレポートの再提出については、既に昭和五七年三月末日ころまでには再調査を完了していたにもかかわらず、レポートの提出に不可欠のものでもない不動産表が入手できないという理由でレポートの提出を遅らせ、しかも不動産表を入手した同年四月一日にもレポートの提出をせず、後になって漸く提出をしたことは、就業規則四二条二号の正当な理由なく業務上の指示命令に従わず社内の秩序を乱したときに該当するものと解することができる。

次に、抗弁1の(六)のムサシのレポートの書直し命令拒否については、原告は所定様式外のベタ書きでレポートを提出し、その理由を尋ねる立花の質問に対する回答を拒否し、レポートの書直し命令も拒否したことは、同じく就業規則四二条二号の正当な理由なく、業務上の指示命令に従わず社内の秩序を乱したときに該当するものと解することができる。

更に、抗弁1の(七)の旧調及びレポートの返還命令に従わなかったことについては、原告は既に報告が終り浄書を待つばかりとなっていた駒井及び東京マツシマのレポートを審査係から無断で持ち出し、このことも理由となって保管しているレポート及び旧調等の調査資料をすべて返還するよう命じられたにもかかわらず、その提出、返還を故意に遅らせ、紛失したと虚偽の報告までしたものであって、就業規則四二条二号の正当な理由なく業務上の指示命令に従わず社内の秩序を乱したときに該当するとともに、同条一四号の会社の文書を隠匿し、業務の運営を阻害したときにも該当するものといわなければならない。

2  懲戒解雇の相当性について

以上のように原告の行為は懲戒理由を定めた就業規則四二条に該当するのであるが、(証拠略)によれば、被告の就業規則の定める懲戒処分は、譴責、減給、降格及び解雇(就業規則上は「解職」と表現されている。)の四種類であること、就業規則三八条二号は、「第四二条に該当する行為を行い懲戒解職に処することが適当と認めた場合」に解雇する旨を定めていることが認められるから、懲戒処分の理由が存在するとしても直ちに解雇をすることが正当とされるものではなく、懲戒理由該当事実の内容、悪性の程度、被告会社に与えた影響、本人の反省の程度その他諸般の事情を考慮したうえ、真にやむを得ない場合に限り、解雇が正当とされるものと解するのが相当である。

以上の見地から原告の行為について検討すると、原告は調査の方法についての上司の質問に対して回答を拒否したり、既にレポートが提出され、審査係で浄書をまつばかりとなっていたレポートを上司に無断で持ち出したり、資料の返還命令について代表取締役名の命令書を要求するなど上司に反抗的な態度が顕著であり、更に全資料の返還命令に対してもこれを直ちに返還することなく、紛失したと虚偽の報告をしたり、二、三件ずつ数回にわけて返還するなど組織の一員としての心構えに欠けるところが著しいといわなければならない。また、中島総務部長の事情聴取に対して誠実に回答することなく、反省の態度がまったく見受けられないことも指摘しなければならない。これに加えて、原告の従事していた調査員の業務は主として被告会社の事務所の外で一人で外部のものと接触して行うものであって、上司の直接の監督が及びにくい性質のものであること(原告本人尋問の結果により認められる。)を考えると、以上のような上司に対する反抗的態度をとり、組織の一員としての心構えに欠けるところが著しい者が調査の業務に従事することは、被告会社の対外的信用を傷つけるおそれが大きいものといわなければならない。以上のような事情を考え合わせると、原告を解雇することもやむを得ないということができるものと解され、同時に本件解雇が解雇権の濫用であるとすることもできない。

3  懲戒解雇の手続について

原告は、本件懲戒解雇は、被告会社の就業規則四三条四号の手続を欠いているから無効であると主張する。(証拠略)によれば、就業規則四三条四号は、懲戒解雇は三〇日前に予告するか、もしくは行政官庁の認可を受けたのち、予告期間を設けないで即時解雇する旨定めていることが認められるところ、前記三で認定したところによれば、本件解雇は、予告期間を設けないで解雇予告手当を提供のうえ即時解雇をしたものであるが、行政官庁の認可を得ていないことが明らかであって、形式上就業規則四三条四号の手続を履践していないかのように思われる。しかし、一方、(証拠略)によれば、右就業規則三九条は、「前条二、三、四、五号の事由に基づいて解雇する場合は三〇日前に解雇するか、または平均賃金の三〇日分を支給して即時解雇する。ただし天災地変、その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となった場合、または本人の責に帰する事由により解雇する場合は行政官庁の認定を受けて解雇する。この場合、予告手当は支給しない。」と規定しており、同規則三八条二号は懲戒解雇について規定していることが認められ、これらの規定の内容をも合わせ考えると、就業規則四三条四号の規定の趣旨は、懲戒解雇の手続について、労働基準法二〇条の定めに従って、行政官庁の認定を受けて即時解雇するか、又は、行政官庁の認定を受けないで解雇予告をして解雇するかの二つの方法を定めたものであるが、後者の場合に解雇予告をする代りに平均賃金三〇日分の予告手当を支給して解雇することを排斥したものと解するのは相当でなく、予告手当を支給したうえ予告期間をおくことなく解雇することを許容した趣旨と解するのが相当である。

したがって、この点に関する原告の主張は失当である。

4  よって、本件解雇は有効であるといわなければならない。

五  むすび

よって、本件解雇の無効を前提とする原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 今井功)

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