東京地方裁判所 昭和57年(ワ)7577号 判決 1987年10月19日
原告
北千住放送こと
木村聡
原告
千代田ミュージックこと
小畔明子
原告
中島不動産有限会社
右代表者代表取締役
中島康允
原告
高田馬場放送こと
本田芳夫次
原告
神楽坂放送こと
本間章
原告
阿佐ケ谷ミュージックこと
三井五六
原告
日本橋問屋街放送こと
森正雄
右七名訴訟代理人弁護士
土橋頼光
被告
東京電力株式会社
右代表者代表取締役
那須翔
右訴訟代理人弁護士
柏崎正一
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、被告が原告らとの間において電線施設共架契約を締結している別紙契約電柱一覧表1ないし7記載の各電柱につき、当該契約締結に係る原告以外の有線放送業者の音楽放送線を共架させてはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者の地位
原告らは、東京音楽放送協同組合の組合員であつて、東京都内において、有線の方法をもつて、各種店舗、道路通行者等に対して音楽放送、広告宣伝放送等を供給する有線放送業者であり、被告は、関東一円における電力の供給等を業とする株式会社である。
2 本件共架契約の締結
原告らは、被告との間で、昭和五八年頃までに、次のとおりの電線施設共架契約を締結した(以下「本件共架契約」という。)。
(一) 被告は、被告の所有する後記配電線路用電柱(以下「電柱」という。)に原告らが有線音楽放送用電線(以下「音放線」という。)を共架することを承諾し、原告らは、被告に対し、一柱につき年間二二八〇円の共架料を支払う。
(二) 原告らが音放線を共架する被告所有の電柱は、次のとおりとする。
(1) 原告北千住放送こと木村聡(以下「原告木村」という。)は、別紙契約電柱一覧表(以下「別表」という。)1記載の各電柱
(2) 原告千代田ミュージックこと小畔明子(以下「原告小畔」という。)は、同表2記載の各電柱
(3) 原告中島不動産有限会社(以下「原告中島不動産」という。)は、同表3記載の各電柱
(4) 原告高田馬場放送こと本田芳夫次(以下「原告本田」という。)は、同表4記載の各電柱
(5) 原告神楽坂放送こと本間章(以下「原告本間」という。)は、同表5記載の各電柱
(6) 原告阿佐ケ谷ミュージックこと三井五六(以下「原告三井」という。)は、同表6記載の各電柱
(7) 原告日本橋問屋街放送こと森正雄(以下「原告森」という。)は、同表7記載の各電柱
3 一柱一条一業者の原則の約定
(一) 被告は、本件共架契約上の債務として、原告らに対し、一柱の電柱について、既に共架契約を締結した一業者の一条の音放線以外は共架させない業務を負う。これは、原告ら有線音楽放送業者(以下「音放業者」という。)及び被告の間において、「一柱一条一業者の原則」あるいは略して「一柱一条の原則」と呼称されてきた原則である。
(二) 右原則が本件共架契約の内容をなすものであることは、以下の各根拠から明らかである。
(1) 電線施設共架技術基準(以下「共架技術基準」という。)の第10項は、「共架する通信線は一条とし、二条以上を必要とする場合は原・被告双方で協議する」旨、明確に右原則を規定している。
(2) また、被告所有の電柱の標準高は、別紙電柱標準装柱図記載のとおり11.6メートルであるところ、右電柱について、共架技術基準の第4項(被告所有電柱における原告ら及び被告の設備の取付間隔)、同第5項(被告の電気工作物と原告らの電線の離隔)及び同第6項(原告らの電線の地表上の高さ)の各条項を遵守しようとすれば、音放線の共架は当然一条に限定される。
(3) さらに、有線音楽放送線共架業務基準(以下「共架業務基準」という。)Ⅱ基本方針の第1項は、共架の条件として、被告所有の電柱に共架できる音放線は原則として一柱につき一条であること((7)項)、音放線の権利、義務等を明確にするため、二条以上の音放業者の共同(共有)の設備でないこと((8)項)をそれぞれ規定し、明確に一柱一条一業者の原則をとることを明らかにしている。
4 一柱一条一業者の原則の事実たる慣習
仮に、3が認められないとしても、被告と原告らを始めとする音放業者との間においては、一柱一条一業者の原則が事実たる慣習として存在する。
5 有線電気通信設備令上の制限による複数共架の禁止
仮に3、4がいずれも認められないとしても、
(一) 別紙電柱標準装柱図記載のとおり、被告所有の電柱の第三者設備共架可能スペースは、通常1.2メートルであり、そのうち0.6メートル(地上高5.5メートルないし6.1メートルの間)は、被告と日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)との間の協定によりNTTの通信用ケーブルを優先的に共架させることになつている。したがつて、右NTT通信用ケーブル以外の共架線のために残されたスペースは0.6メートルが限度であるところ、有線電気通信設備令(昭和二八年七月三一日政令第一三一号)は、その九条において、「架空電線は、他人の設置した架空線との離隔距離は三〇センチメートル以下となるように設置してはならない。ただし、その他人の承諾を得たときはこの限りではない。」旨離隔距離について規制している。
(二) したがつて、有線電気通信設備令九条の規制がある以上、被告は、右0.6メートルのスペースに二条以上の音放線を共架することは許されない。
6 不正音放業者の違法共架及び被告の一柱一条一業者の原則違反
(一) 昭和四五年頃から、音放業者の大手である大阪有線放送株式会社(以下「大阪有線放送」という。)及び株式会社日本音楽放送(以下「日本音楽放送」という。)並びに両社の子会社が、全国各地において、被告との間で共架契約を締結せず、また、法令上要請される手続を履践することなく、被告所有の電柱に無断・違法に共架し、しかも、原告らが既に共架契約に基づいて共架した音放線を切断して原告らが顧客の店舗内に設置しているスピーカー等をそのまま無断使用するなどして、不正に有線音楽放送業を営んでいる。これに関し、被告は、過去数度にわたつて、右業者らに対して共架線撤去の催告をしたり、無断架線の撤去の仮処分決定を得てこれを執行したりしてきたが、事態を打開するに至らなかつた。
(二) ところが、被告は、ついに不正業者の無断共架攻勢に屈したか、一柱一条一業者の原則の約定若しくは事実たる慣習又は有線電気通信設備令の制限に反して、今後は一柱について複数条複数業者の共架を是認する意向を明らかにした。
(三) 右方針が変更されれば、(一)記載の違法音放業者の跳梁を許すことになるのみならず、その違法架線により各種事故が発生することは必至であり、また、長年にわたり関係法規を遵守し共架契約を締結してきた原告らが、既得の商圏を違法音放業者に奪取されてしまう結果になる。
7 よつて、被告は、原告に対し、主位的には共架契約に基づき、予備的には事実たる慣習あるいは有線電気通信設備令上の制限に基づき、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実中、原告らが東京都内において、有線の方法をもつて、音楽放送等を行つている有線放送業者であること、被告が関東一円における電力の供給等を業とする株式会社であることは認め、その余は知らない。
2 同2(一)の事実は認める。
同2(二)(1)は認める。同(2)のうち、No.18ないし23記載の各電柱についてはいずれも否認し、それ以外の記載誤りについては別紙「原告提出の『契約電柱一覧表』についての正誤一覧表」(以下「正誤一覧表」という。)記載のとおりであり、その余については認める。同(3)、(4)、(6)については、記載誤りは正誤一覧表記載のとおりであり、その余は認める。同(5)については、No.8の番号3について否認し、その余は認める。同(7)のうち、No.1ないしNo.8については、No.1の番号2、4、8、9、No.2の番号19、20、No.3の番号1、12、15、16は認めるが、その余は否認し、No.9ないしNo.16については、記載誤りは正誤一覧表のとおりであり、その余は認める。
3 同3(一)の事実は否認する。
原告ら主張のような「一柱一条一業者」という原則ないし用語は存しない。被告において「一柱一条」という用語を用いることはあるが、これも、原告ら主張のような内容の被告の契約上の義務をさすものではなく、被告が音放線共架業務を処理するにあたつて採用してきた、一本の電柱に共架させる音放線は原則として一本とするという業務方針ないし社内的取扱基準を「一柱一条」と呼称しているにすぎない。
同3(二)(1)のうち、共架技術基準の第10項に原告ら主張の内容の規定のあることは認めるが、それが一柱一条一業者の原則を規定したものであることは否認する。共架技術基準は、本件共架契約と一体をなすものではあるが、原告ら音放業者の行う共架工事を規律する基準であつて、被告に義務を課するものではない。また、共架技術基準の第10項の規定は、当該共架契約を締結する音放業者が共架する音放線は原則として一条とするという意味であつて、他の音放業者の音放線の共架を禁ずる趣旨ではない。同(2)は争う。同(3)のうち共架業務基準Ⅱ基本方針第1項に原告ら主張の内容の規定のあることは認めるが、それが一柱一条一業者の原則を定めたものであることは否認する。共架業務基準は、音放線共架業務に関する被告の社内的取扱基準を定めたものにすぎない。
4 同4の事実は否認する。
5 同5(一)は認めるが、(二)は争う。(一)によれば、NTTの通信用ケーブル以外の共架物の利用できるポイントは二箇所である。もつとも、被告は、交通信号線、火災報知機用電線、街路灯その他公共性の高い共架要請から優先して共架に応じているので、音放線については、共架を認めるとしても原則として一条とならざるを得ないということはできる。しかし、有線電気通信設備令九条ただし書によれば、架空電線相互間の離隔距離三〇センチメートルは絶対的なものではなく、相手方が承諾すれば、三〇センチメートル以下に近接して設置することができるものとされているから、この方法によつて、二条以上の音放線の共架を認めることも可能である。
6 同6(一)の事実は認める。
同6(二)の事実中、被告が原告らに対し、今後は一柱について複数条、複数業者の共架を認める弾力的な運用方針をとることを明らかにしたことは認め、その余は否認する。
被告が一柱一条の取扱を変更しようとしたのは、都市型CATV等の共架要請を応じるためには一柱に二条以上の電線を共架させる取扱をすることが必要となつたためであり、また、一柱一条の取扱は音放業者の無断共架及び音放業者間の無秩序な競争を防止することができず、むしろ、後発業者の無断共架を誘発すると判断したためである。
同6(三)は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因一(当事者の地位)のうち、原告らが東京都内において、有線の方法をもつて、音楽放送等を供給する有線放送業者であること及び被告が関東一円における電力の供給等を業とする株式会社であることは当事者間に争いがなく、原告本田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは東京音楽放送協同組合の組合員であることが認められる。
二原告らが被告との間で、昭和五八年頃までに、被告所有の電柱について、原告らが音放線を共架することを被告において承諾し、原告らはその対価として被告に対し、一柱につき年間二二八〇円の共架料を支払う旨の本件共架契約を締結したことは、当事者間に争いがなく(ただし、契約対象となつた電柱の範囲については一部争いがある。)、<証拠>によれば、北千住放送こと原告木村は昭和五一年一一月一八日、千代田ミュージックこと同小畔は昭和四七年一二月二三日、同中島不動産は昭和四八年一月二五日、高田馬場放送こと同本田は昭和四五年三月二六日、神楽坂放送こと同本間は昭和四五年三月三日、阿佐ケ谷ミュージックこと同三井は昭和四六年一二月一日、日本橋問屋街放送こと同森は昭和四八年四月一日、それぞれ、被告との間で、前示のとおり共架料を年間二二八〇円とする約定のもとに共架契約を締結し、以後、昭和五八年頃まで随時、被告との間で順次、共架契約ないしその追加契約を締結してきたものであること、昭和五九年一〇月頃、右契約に係る共架料は、一柱につき年間九〇〇円に減額改定されたことが認められる。
三次に、<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
1 原告らは、昭和三〇年代以降、いわゆる音放業者として街頭、商店等にスピーカー等を設置し、これを放送所の放送設備と音放線で接続して、有線の方法で広告宣伝、音楽等を放送してきたものであるが、右営業上必要な音放線の配線は、主として、電力会社や日本電信電話公社(現NTT)との間でその所有電柱について共架契約を締結し、これに共架して行つてきた。
2 被告は、原告らが被告と共架契約を締結するようになつた当初から、共架の業務を行うにあたり、電柱に共架する音放線は、原則として一柱につき一条とし、既に先行の業者が音放線を共架した電柱については、後行の業者の共架契約申込みには応じないという取扱をしており(昭和四八年一月一八日制定の共架業務基準に明文化)、被告はこれを一柱一条の原則と呼称し、原告ら音放業者らに対しても常にこの取扱に沿つて指導していた。被告が一柱一条の取扱をしてきたのは、被告としては第三者の共架架線の少ない方がその所有電柱の保守管理が容易であること、有線電気通信設備令等の各種法令や関係官庁の指導等の制約のために、第三者に共架させることのできるスペースが物理的に制限されていることなどの理由によるものであつたが、同時に、音放業者間に相互に営業地域を調整させて業者間の無秩序な競合による紛争及び無断共架を避けるという政策的配慮も含まれていた。
3 ところが、昭和四五年頃から、大手の音放業者の一つである大阪有線及び系列業者(日本有線放送連盟を組織。略して以下「連盟系各業者」という。)が東京地区に進出するようになり、被告が一柱一条の取扱を厳重に運用していたこともあつて、先行の地元音放業者と後行の連盟系各業者の間で、あるいは、連盟系各業者と対立する大手の音放業者である日本音放送及び系列業者(社団法人全国有線音楽放送協会を組織。略して「協会系各業者」という。なお、原告らはもと右協会に属していたが、昭和四九年に脱退した。)との間で、熾烈な営業地域及び顧客の獲得競争が起こるようになり、音放業者ら、特に連盟系の各業者は、被告との共架契約を締結せず、もちろん共架するについて道路占用許可の申請等法律上要請される手続も履践せずに、多数の電柱に無断で共架をして営業を拡大するようになつた。
4 右無断共架を排除すべく、被告は、右業者らに対して共架線撤去の催告をしたり、さらに、昭和五二年から昭和五四年までの間に、東京都、千葉県、埼玉県等において、無断共架の音放線の撤去の仮処分命令を得てその執行をするなどの措置をとつたが、右業者らはこれに対抗して直ちに無断共架を繰り返すなどしたため、右措置も殆ど効を奏さなかつた。この間、右連盟系及び協会系の各業者は、共架契約を締結していた電柱についても、共架料等の支払いを滞納するようになつたため、被告は、昭和五三年一一月以降、これら業者との既存の共架契約についても契約を解除した。その結果、いずれの業者も被告との間で一切の共架契約を締結しないままで被告所有の電柱に無断共架するようになり、また、共架契約を締結している原告らのような音放業者においても、他の業者との競争のため、契約外で多数の電柱に無断共架をするようになつて、結局、一柱の電柱に複数の音放業者の複数の音放線が無断共架される事態となつた。この頃、同様の音放業者間の無秩序な競争及び無断共架が全国各地で問題となり、その対策として、昭和五八年六月一日、「有線ラジオ放送業務の運用の規制に関する法律」の一部が改正されて、無断共架業者の取締が強化された(同法三条の二、八条、一二条)。
5 このような動向の中で、被告は、従来硬直的に一柱一条の取扱をしてきたことが、かえつて音放業者間の競争を無秩序で熾烈なものにしたと判断し、また、折から都市型CATV用ケーブルの電柱への共架に対する需要が高くなつていたこともあつて、もはや一柱一条の取扱に固執することは適当ではないと結論するに至り、昭和五八年一一月、連盟系及び協会系の無断共架各業者に対し、今後は一柱一条について弾力的に運用していく方針である意向を伝え、さらに昭和五九年一月には、原告らの照会に対して、今後被告としては一柱につき複数の音放業者の音放線の共架を認める場合もある旨回答した。
四そこで、以下において、被告が、原告に対し、一柱の電柱について共架契約を締結した一業者の一条の音放線以外は共架させない義務(原告らの主張によれば、「一柱一条一業者の原則」)を負うか否かについて判断する。
1 前記三1ないし4認定の事実に<証拠>を総合すれば、被告は、原告らが被告所有の電柱に共架を開始した当初から、一柱一条の原則に沿つて共架の業務を行い、また、そのように原告ら音放業者を指導してきたこと、原告らは少なくとも当初は被告の指導に従つて各種の法定の手続を踏み、共架料を支払つてきたものであり、また、一部の原告は、既に他の業者が共架契約を締結した電柱について被告から一柱一条の原則を理由に共架契約締結を断られたこともあつたこと、そして、被告が従来このように一柱一条の原則を厳格に運用してきたことから、原告らは、共架契約を締結しさえすれば、後発の音放業者が同じ電柱に共架してその地域に進出しようとしても、右は被告が共架契約の締結を拒否することにより斥けられるものとの期待を持つようになつたこと、連盟系の業者らの無断共架によつて音放業者間の競争が激しくなつてからも、被告は無断共架の撤去の仮処分決定を得てこれを執行するなど右業者らに対抗したが、これについても、原告らは被告が一柱一条の原則を守るために後発の業者を排除しているものと考えたことの各事実が認められる。
2 しかし他方、前記三に認定の事実に<証拠>を総合すれば、一柱一条の原則は原被告間で締結された共架契約書には何らの約定もなく、ただ被告の社内的業者取扱基準である共架業務基準中に、被告が共架業者をなすについての基準としてのみ明記されていることが認められる。
原告らは、共架技術基準及び共架業務基準はいずれも共架契約の内容であり、共架技術基準第10項及び第4ないし第6項並びに共架業務基準Ⅱ基本方針第1項の各条項は右原則を共架契約上の被告の債務として定めたものである旨主張する。
しかし、まず、共架技術基準についてみるに、<証拠>によれば、右基準は、その文言及び規定内容からすれば、共架契約に基づき音放線を共架する音放業者の側が共架工事をなすにあたつて守るべき基準を定めているものであつて、被告が負うべき債務を定めているものではないことが明らかであるから、これを被告の債務の根拠とする原告らの主張は採ることができない。しかも、原告らの主張する各条項について検討してみても、共架技術基準第10項の(2)には、「共架する通信線は一条とし、二条以上を必要とする場合は甲(音放業者)乙(被告)双方で協議する。」旨定められているけれども、右は第10項冒頭の「共架柱における甲(音放業者)の通信線および支持線の取付方法は次のとおりとする。」という文言と合わせ読めば、当該共架契約を締結する一の音放業者が共架する音放線は原則として一条とするという意味であつて、他の音放業者の音放線の共架の可否については何ら触れていないものというべきであるし、また、共架技術基準第4項ないし第6項には、被告所有電柱における原告ら及び被告の設備の取付間隔、被告の電気工作物と原告らの電線の離隔並びに原告らの電線の地表上の高さの定めがあるけれども、右各条項によつては、当然に音放線の共架が一条に限定されるものと解することはできないといわざるを得ない。
また、共架業務基準については、そこに一柱一条の原則の定めが明記されていることは前記認定のとおりであるが、<証拠>によれば、共架業務基準は、被告が音放線の共架業務をなすにあたつてよるべき業務の基本方針、事務処理の方法、既契約業者に対する指導等の取扱の基準を定めた社内的規範であつて、共架契約の内容をなすものではないというほかはないから、これが被告が共架契約の締結に係る業者の一条の音放線のみを共架する義務を負うべきことを定め、ないしは、当該業者に排他的な共架の権利を与えているものと解することはできず、この点についても原告らの主張は採ることができない。
3 したがつて、結局、1に認定の事実のみでは、未だ、被告が一柱の電柱には一業者の一条の音放線以外は共架しない契約上の義務を負うとの原告らの主張事実の存在を推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
五原告らは、さらに、被告と原告らを初めとする音放業者との間では、一柱一条一業者の原則が事実たる慣習として存在すると主張し、被告が一柱につき一条しか共架させないという業務基準をもうけ、これに則つて音放業者らを指導しようとしていたことは前記三に認定したとおりであるが、右業務基準があくまで被告の業務の方針にすぎないことは前記四に認定したとおりであり、かつ、前記三に認定した経緯によつては右原則が地域の音放業者らに広く規範として受け入れられていたということはできないから、右原則が事実たる慣習として存在していたものということはできず、他に右慣習の存在を認めるに足りる証拠はない。
六また、原告らは、有線電気通信設備令九条本文は「架空電線は、他人の設置した架空電線との離隔距離が三〇センチメートル以下となるように設置してはならない。」と定めているから、被告は一柱の電柱について一条の音放線しか共架することはできないと主張するが、そもそも、右規制は、公法上の規制であつて、被告が原告ら音放業者に対しこれを遵守する義務を負うものではないから、この点で既に原告らの右主張は失当である。
しかも、同条ただし書によれば、既に共架した者の承諾を得れば三〇センチメートル以下の離隔距離によつて設置することができるというのであり、<証拠>によれば、被告は、右承諾を得て三〇センチメートル以下で設置する方法(被告はこれを近接設置と称している。)を採用する方針をとるに至つたものであることが認められるのであるから、被告の一柱一条の取扱の変更も、なんら有線電気通信設備令九条に違反するものということはできない。
なお、原告らの上記各主張の背後には、これら主張が認容されないとすれば不正業者の無断共架攻勢に屈することになり、社会主義に反するとする問題意識のあることがうかがわれるが、一柱一業者に限定する意味での一柱一条の原則が本件共架契約の内容となつているものでないことは前認定のとおりであつて、右契約が原告らに共架につき排他的な独占的権利を与えているものでない以上、本件訴訟により原告らの右問題意識とするところが解決され得ないとしても、致し方ないものというべきである。
七以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの主張はいずれも理由がないことが明らかである。
よつて、原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法九三条一項本文、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官山田博 裁判官大橋弘 裁判官杉原麗)
別紙別表1〜3契約電柱一覧表<省略>
別紙電柱標準装柱図(1例)<省略>