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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)7735号 判決 1983年6月27日

原告

プロクターアンドギャンブルサンホーム株式会社

ほか一名

被告

足立鹿雄

主文

一  原告らと被告との間で、別紙記載の損害賠償債務につき、金六六〇万四〇〇七円を超える債務が存在しないことを確認する。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告らと被告との間で、別紙記載の損害賠償債務につき、金五〇六万七二六〇円を超える債務が存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  原告らと被告との間で、別紙記載の損害賠償債務が金七三八八万七二五〇円であることを確認する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

昭和五一年八月二四日午後四時三〇分ころ、東京都調布市布田二丁目一号先路上において、原告吉村健吾(以下、原告吉村という。)運転の自動車(練馬四四ぬ九三六六)が信号待ちのため停車していた被告運転の自動車(多摩そ二五八八)に追突した(以下、本件事故という。)。

2  責任原因

(一) 本件事故は原告吉村の過失により生じたものであるから、原告吉村は民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

(二) 原告吉村は原告プロクターアンドギヤンブルサンホーム株式会社(以下、原告会社という。)に勤務しており、本件事故当時その事業の執行中であつたから、原告会社は民法七一五条により損害賠償責任を負う。

3  傷害

被告は、本件事故により外傷性頸部症候群の傷害を負い、東京医科大学病院等に通院して治療を受けたが治ゆせず、昭和五二年一一月三〇日ころ症状固定と診断され、右固定後の後遺症は、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)施行令所定の一二級と認定された。

4  損害

被告は、本件事故により、以下のとおり損害を被つた。

(一) 治療関係費 金九三万九一三〇円

(二) 休業損害

(1) 給与分

被告は、有限会社安藤商店に勤務し、事故前三か月間に平均金一五万八二五〇円の月収を得ており、本件事故のため、昭和五一年八月二五日から症状固定日の昭和五二年一一月三〇日までの一五月と七日間給与の支給を受けることができなかつたので、その間の損害を算定すると、次のとおり合計金二四一万〇一六〇円となる(一〇円未満切捨)。

158,250×15+158,250×12×7/365=2,410,160

(2) 賞与分

被告は、有限会社安藤商店から毎年六月及び一二月に各金三一万円の賞与を得ていたところ、昭和五一年一二月は金一〇万円の支給を受けただけであり、昭和五二年六月及び一二月は全く支給を受けることができなかつたので、その間の損害を算定すると、次のとおり合計金七七万八三三〇円となる(一〇円未満切捨)。なお、昭和五二年一二月分については、症状固定日までの期間を対象期間により按分計算した。

(310,000-100,000)+310,000+310,000×5/6=778,330

(三) 治療中の慰藉料 金七九万円

(四) 後遺症による慰藉料 金一三〇万円

(五) 後遺症による逸失利益

被告は、前記後遺症により、症状固定後六年間にわたり得べかりし収入の一四パーセントを喪失したとみられるので、逸失利益の現価は、次のとおり金一七八万九九七〇円となる(一〇円未満切上)。

(158,250×12+310,000×2)×0.14×5.0756=1,789,970

(六) 損害のてん補

原告らは被告に対し、本件事故による損害賠償の一部として金二九四万〇三三〇円を支払つた。

(七) 合計

前記(一)ないし(五)の合計額から(六)の金額を控除すると、金五〇六万七二六〇円となる。

5  被告は、右損害額を争つている。

6  よつて、原告らは、被告との間で、別紙記載の損害賠償債務につき、金五〇六万七二六〇円を超える債務が存在しないことの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は後遺症の等級を除いて認める。後遺症の等級が自賠法施行令所定の一二級であることは否認する。

4(一)  同4の原告ら主張の損害額は争う。

(二)  被告の被つた苦痛に対する慰藉料及び後遺症による逸失利益の合計は金七三八八万七二五〇円である。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求の原因1(事故の発生)及び2(責任原因)の事実は当事者間に争いがない。

よつて、原告らは、被告に生じた後記損害を賠償する責任を負う。

二  被告が本件事故により外傷性頸部症候群の傷害を負い、東京医科大学病院等に通院して治療を受けたが治ゆせず、昭和五二年一一月三〇日ころ症状固定と診断されたことは当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第三号証の二、三、第四号証の二、第八号証、証人大塚冨士男の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、第四号証の一及び被告本人尋問の結果によれば、本件事故による後遺症として、頭部、頸部、肩甲部等に痛みがあり、疲労を感じ易い等の症状が残つたこと、右の症状につき、東京医科大学病院脳神経外科及び同病院整形外科の各医師が作成した後遺障害診断書に対する東京調査事務所長の事前認定は一二級一二号であつたこと、昭和五七年一〇月二五日付の同病院脳神経外科医師が作成した意見書によれば、昭和五五年三月から同五七年二月ころまでの間の被告の症状は、神経学的所見には特記すべき異常がなく、専ら自覚症状主体であり、他覚的所見としては項頸部筋緊張亢進と後頭神経部圧痛などがあるが、脳波検査、血液検査の所見は正常であつたと判断されていること、がそれぞれ認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  そこで、損害について判断する。

1  治療関係費

成立に争いのない甲第二号証の一ないし九及び証人大塚冨士男の証言によれば、被告の本件事故による治療費として、合計金九三万九一三〇円を要し、原告会社が加入している日新火災海上保険株式会社がこれを支払つたことが認められ、また、被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一号証及び同尋問結果によれば、被告が支払い、原告らから未だ受取つていない医療費及び電車賃が金一万二九九〇円あることがそれぞれ認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

よつて、被告の要した治療関係費は合計金九五万二一二〇円となる。

2  休業損害

(一)  成立に争いのない甲第五号証の四、証人大塚冨士男の証言及び被告本人尋問の結果によれば、被告は、有限会社安藤商店に勤務し、本件事故前三か月間に平均金一五万八二五〇円の月収を得ていたこと、同年九月からは金五〇〇〇円昇給する予定であつたこと、被告は、本件事故後は就労することができず(ただし、同年八月分の給与及び九月の三日分金一万八二五〇円の収入を得たことを除く)、昭和五二年一月二〇日ころ右会社を退職し、その後も就労することができず、症状固定日の同年一一月三〇日までの間収入が得られなかつたことが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

そこで、右期間の給与の損害を算定すると、次のとおり合計金二四三万〇五〇〇円となる。

(158,250+5,000)×15-18,250=2,430,500

(二)  成立に争いのない甲第五号証の二、三及び証人大塚冨士男の証言によれば、被告は、有限会社安藤商店から得べかりし賞与につき、昭和五一年一二月は本来金三一万円を得られたところ金一〇万円しか支給されず、昭和五二年六月及び一二月は勤務を継続しておれば本来金三二万円を得られたところ全く支給を受けることができなかつたことが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

そこで、右期間の賞与の損害を算定すると、次のとおり合計金八五万円となる。

(310,000-100,000)+320,000×2=850,000

3  慰藉料

前記事故態様、傷害及び後遺症の内容・程度、治療期間等諸般の事情を考慮すると、被告に対する慰藉料は金二五〇万円と認めるのが相当である。

4  後遺症による逸失利益

前記第二項認定の後遺症の内容・程度を勘案し、前記第三2項認定の被告の収入を基礎とし、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると、次のとおり金二八〇万九六一七円(円未満切捨)となる。

{(158,250+5,000)×12+320,000×2}×0.14×7.7217=2,809,617

5  損害のてん補

成立に争いのない甲第一号証の一、第一号証の三ないし八、証人大塚冨士男の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証の二、前掲甲第二号証の一ないし九及び同証言によれば、原告らは被告に対し、本件事故による損害賠償の一部として金二九三万八二三〇円を支払つたことが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない(なお、甲第一号証の七のうち通院費金二一〇〇円については、被告本人尋問の結果に照らし、甲第一号証の二の金額と重複しているものと認める)。

6  合計

前記1ないし4の合計額から5の金額を控除すると、金六六〇万四〇〇七円となる(なお、原告らが被告に賠償すべき金額は、右金額及びこれに対する事故の翌日から完済まで年五分の割合による遅延損害金となる)。

被告は、右金額を超える損害額を主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

四  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、原告らが被告との間で、別紙記載の損害賠償債務につき、金六六〇万四〇〇七円を超える債務が存在しないことの確認を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文)

別紙

昭和五一年八月二四日午後四時三〇分ころ、東京都調布市布田二丁目一号先路上で原告吉村健吾運転の自動車が被告運転の自動車に追突した交通事故により原告らが被告に対し連帯して負担する損害賠償債務。

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