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東京地方裁判所 昭和57年(借チ)2067号 決定 1983年3月25日

甲事件申立人、乙事件相手方(以下「申立人」という。) 佐藤正恒

右代理人弁護士 青木勝治

甲事件相手方、乙事件申立人(以下「相手方」という。) 安藤鼎一

右代理人弁護士 荒木和男

同 小川秀史郎

同 栗栖康年

同 近藤良紹

主文

一  申立人から相手方に対し、別紙(一)の三記載の各建物及び同二記載の借地権を代金三億一六〇〇万円で売渡すことを命ずる。

二  申立人は相手方に対し、相手方から前項の金員の支払いを受けるのと引換えに、前項の各建物につき引渡し及び所有権移転登記手続をせよ。

三  相手方は申立人に対し、申立人から右各建物の引渡し及び所有権移転登記手続を受けるのと引換えに、金三億一六〇〇万円の支払いをせよ。

理由

一  申立人の申立てにかかる建物の構造に関する借地条件変更及び土地賃借権譲渡許可申立事件(甲事件)において、相手方から建物及び借地権を自ら譲り受けるべき旨の申立て(乙事件)がなされ、右各申立てはいずれも適法の申立てと認められるので、借地法第九条の二第三項の規定に従い、建物及び借地権の対価を定めて相手方への譲渡を命ずべきである。

二  本件資料によると次の事実が認められる。

1  申立人(賃借人)と相手方(賃貸人)との間には、相手方所有の別紙(一)の一記載の土地(以下「本件土地」という。)につき次の内容の賃貸借契約が存在する。

契約締結日 昭和四六年一二月一一日

目的 普通木造建物所有

期間 昭和六六年八月末日まで

沿革 大正一〇年九月一日相手方先代安藤重五郎、申立人先代佐藤耐子間に、期間三〇年、コンクリート土蔵及び木造住宅所有目的の賃貸借契約が締結され、昭和二六年に更新、第二回目の更新時期に更新料として一〇〇万円を支払い、前記のように契約した。大正一〇年の賃借権設定時及び昭和二六年の更新時に権利金等金銭の授受があったことを証する資料はない。

現行地代 地代の増額をめぐり、昭和五五年五月分以降一か月八万八〇〇〇円を供託中

2  申立人は、本件土地上に別紙(一)の三記載の三棟の建物を所有しているが、各建物の現在の使用状況は以下のとおりである。

(一)  1の建物

従前は申立人が居宅として使用していたが、昭和五七年八月七日岩波建設株式会社(甲事件における借地権譲渡の譲受予定者以下「岩波建設」という。)との間に次の内容の賃貸借契約を締結し、昭和五八年二月四日同社にその引渡しを了した。

期間 昭和六七年八月六日まで

賃料 一か月一〇万円

敷金 一〇〇〇万円

(二)  2の建物(一棟二戸)

相当以前から田川みつ及び原節子に賃貸しているものであり(ただし、契約書が現存せず、契約内容の詳細は不明)、同人らにおいて次のとおり居住使用中である。

(田川みつ関係)

一階約一九・八三m2、二階約九・九二m2

現在の賃料 一か月二万八〇〇〇円

(原節子関係)

一階約一四・八七m2、二階約七・四四m2

現在、賃料として一か月一万五〇〇〇円が供託されている。

(三)  3の建物(貸室一七室 通称第一富士見荘)

一階八室(一号室~一〇号室)、二階九室(一一号室~二一号室)の賃貸アパートであり、各室別の入居者及び契約内容は別紙(二)記載のとおりである。

すなわち、現在、五、八、一〇、一一、一八号室を岩波建設が賃借し、占有しており、この関係の敷金は合計二〇〇万円である。また、一、二、三、六、七、一二、一五、一六、一七、二〇、二一号室はそれぞれ別紙(二)記載の各入居者が賃借し、居住しており、この関係の敷金は合計一九万七〇〇〇円である。一三号室は空室となっている。

3  ところで、岩波建設は前記のとおり甲事件における本件土地賃借権の譲受予定者であるが、同社は、相手方が本件土地の賃借権(以下「本件借地権」という。)及び地上各建物(以下「本件建物」と総称する。)を買い取った場合にも現在の借家関係を継続する旨の意思を表明している。

三  鑑定委員会は、本件土地の更地価格を一m2当たり一〇〇万円と評価し、本件借地権の一般価格は右更地価格の七〇%に相当する五億三七三四万八〇〇〇円であり、これを第三者に譲渡する場合に賃貸人に給付すべき金額(いわゆる名義書換料)は五四〇〇万円(右借地権価額の約一〇%)が相当であるとし、本件建物の現在価額については、前記1の建物一二三万円(一m2当たり現価一万五六〇〇円)、前記2の建物六二万円(同一万一八三〇円)、前記3の建物六三五万円(同二万六四〇〇円)と評価する旨の意見書を提出している。

四  以上の事実関係及び鑑定委員会の意見を参酌の上、当裁判所は次のとおり本件建物及び借地権の対価を定める。

本件建物は、前記のとおりいずれも第三者に賃貸中の物件であり、本件建物を相手方に譲渡する場合には、相手方が右の借家関係を承継すべきであるから、本件建物及び借地権の対価を定めるに当たっては右の事情を考慮しなければならない。けだし、本件建物及び借地権は前記借家人居着きのまま相手方に譲渡を命ずることになるところ、取引物件に借家法によって保護される借家人の権利が附着している事情は、市場性において相当な価格減殺要因となるからである。

ところで、右の点に関する参考として、相続税財産評価に関する基本通達二八及び九三項によると、貸家の目的に供されている借地権(通達にいう「貸家建付借地権」)及び借家権の目的となっている家屋の価額は、借地権及びその家屋の価額から各価額にその貸家に係る「借家権割合」を乗じて計算した価額を控除した価額によって評価するものとされ、東京国税局の昭和五七年分相続税財産評価基準評価倍率表によれば、右の「借家権割合」は一〇〇分の三〇としている。

そこで、本件建物及び借地権の対価の決定に当たり、右評価基準に準じて前記のような借家人居着きの事情を価格に反映させることとする(なお、当裁判所は、借家権の附着している建物及びその敷地賃借権についてこのような減価をするからといって、直ちに借家人が貸家及びその敷地に対して右減価に即応する財産権的権利を有していると考えているわけではない。)。

借地権 五億三七三四万八〇〇〇円×(一-〇・三)=三億七六一四万三六〇〇円

建物 (一二三万円+六二万円+六三五万円)×(一-〇・三)=五七四万円

合計 三億八一八八万三六〇〇円

右は、本件借地関係の従前の経緯、残存期間など、本件借地契約当事者間の個別的な事情を反映していない価額であり、賃貸人である相手方が買い受ける場合には、更に、借地権の交換価値の実現に当たり公平の見地から地主に配分を相当とする分の減価を考慮すべきである。そして、鑑定委員会の意見は、本件の場合五四〇〇万円(前記名義書換料相当額)を控除すべきものとしており、右意見は妥当なものと考えられるので、これを採用する。

三億八一八八万三六〇〇円-五四〇〇万円=三億二七八八万三六〇〇円

次に、本件建物譲渡により、各借家人に対する敷金返還債務が相手方に承継されることになるので、前記敷金合計一二一九万七〇〇〇円を控除する。

三億二七八八万三六〇〇円-一二一九万七〇〇〇円=三億一五六八万六六〇〇円

そこで、三億一六〇〇万円を本件における対価と定める。

五  なお、前記のとおり、前記1、2の建物については前記の各借家人がそれぞれ直接占有をしているものと認められ、前記3の建物のうち一三号室を除くその余の貸室部分は前記の各借家人がそれぞれ直接占有をしているものと認められるから、現実の引渡しのできない右の各建物及び貸室部分については、その引渡しはいわゆる指図による占有移転の方法によって履行すべきである。

六  よって、借地法第九条の二第三項の規定により、主文のとおり決定する。

(裁判官 石川善則)

<以下省略>

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