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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)4401号 判決 1983年3月22日

本店所在地

東京都千代田区三崎町三丁目三番一五号

新光帽子株式会社

(右代表者代表取締役的場勝重)

本籍

山梨県塩山市牛奥二六五四番地

住居

東京都新宿区矢来町四三番地

会社役員

的場勝重

大正一一年九月八日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官神宮壽雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人新光帽子株式会社を罰金二二〇〇万円に、

被告人的場勝重を懲役一年二月に

それぞれ処する。

被告人的場勝重に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人新光帽子株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都千代田区三崎町三丁目三番一五号に本店を置き、帽子の製造卸及び小売、旅館の経営等を目的とする資本金四九〇〇万円の株式会社であり、被告人的場勝重は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人的場勝重は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ。

第一  昭和五四年一月一日から昭和五四年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四九五三万七四九九円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年二月二九日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四〇二五万五四五九円でこれに対する法人税額が一四六七万一〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第二六一号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五八三七万一三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額四三七〇万〇三〇〇円を免れ

第二  昭和五五年度一月一日から昭和五五年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四二三三万六四一五円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五六年二月二八日、前記神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六〇七七万三九二三円でこれに対する法人税額が二二八四万七三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五五四六万六〇〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額三二六一万八七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人的場勝重の当公判廷における供述

一  被告人的場勝重の検察官に対する供述調書

一  的場治夫の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の飯島多み子、的場恵子及び的場治夫に対する各質問てれ末書

一  収税官吏作成のホテル売上、帽子売上、支払手数料、給料、修繕費、消耗品費、旅費交通費、交際費、外注費、受取利息、利息割引料、価格変動準備金戻入、価格変動準備金繰入及び交際費損金不算入額に関する各調査書各一通

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

一  神田税務署長作成の証明書

一  東京法務局登記官作成の登記薄謄本

一  押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五八年押第二六一号の1及び2)

(法令の適用)

被告人的場勝重の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人的場勝重の判示各行為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法第一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金二二〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、帽子の製造販売等をするほか、山梨県東八代郡石和町にえいて「ホテル新光」を経営する被告会社の代表取締役である被告人的場勝重(以下「被告人」という。)において、主として「ホテル新光」の売上げを除外する方法により、昭和五四年一月から昭和五五年一二月までの間に、合計一億九〇〇〇万円余の所得を秘匿し、合計七六〇〇万円余の法人税を免れた事案であって、昭和五四年一二月期においては実際の所得の約二六パーセント、昭和五五年一二月期においては約四二パーセントを申告したもので、申告率はいずれも低率であって芳しくない。本件犯行の動機について、被告人は、ホテル経営においては、火災、食中毒などの突発的な事故が起った場合に対処するための資金を必要とすることもあり得るし、また、将来観光事業そのものが不振になるかもしれないので、そのために資金を蓄積しておく必要があるが、正しく申告してその通り税金を納めていたのでは思うようにお金を貯めることはできないので脱税を行った旨述べている。こうした不慮の場合に備えて資金を蓄積すること自体はなんら責められるべきことではないけれども、蓄積しておかねばならないという資金を、少額とはいえ個人的に費消していることからして、その動機が真実不慮の場合に備えるためのみであったかは疑わしい点もあるばかりでなく、こうした不慮の場合に備えて決算ないし税務申告もそれなりの対応措置が認められているのであるから、これとは別に脱税をして資金を蓄積してよいという理由はなく、右の動機を格別斟酌することはできない。さらに本件犯行の手段、方法についても、被告人は、被告会社の常務取締役で、「ホテル新光」の責任者である被告人の二男の的場治夫(以下「治夫」という。)に対し、「宿泊客の数を減らしたり、売店の売上げを減らしたり、クラブの売上げを減らしたりして裏金を作って渡すようにしろ。」などと売上除外による脱税を指示するなどし、治夫をして、売上除外をさせるほか、売上日計表、公給領収証等を廃棄させ、内容虚偽の売上日計表や宿泊客の部屋割等を虚偽記入したテイーター表を作成させるなどした。そのほか治夫は、昭和五五年八月に行われた料理飲食等消費税に関する中部県税事務所の調査により本件犯行が発覚することを恐れ、その対応策として印刷業者に依頼して公給領収証の用紙を印刷させたうえ、治夫はみずからその用紙にドリルで穴をあけ検印を作出して公給領収証を偽造した。この治夫の行為は、被告人が直接指示したものではないとはいえ、被告人の納税に対する態度が影響したものといえないでもない。そして被告人も、後にその偽造に供したブリキ板を自宅の庭に埋めて隠している。また、被告人は秘匿した所得を一部個人的に費消していること、仮名預金としていることなど看過できない点も認められる。以上の諸点を考慮すると、被告人及び被告会社の刑責を軽視することはできない。

しかしながら、被告人は本件犯行を反省して捜査にも協力し、各年分につき修正申告のうえ重加算税の一部を除き本税等を納付していて、未納付分の納入も間違いないとみられること、被告会社の経理システムを改善するなどして二度と脱税を行わない旨誓約していること、脱税額も判示金額に止まったこと、被告人らには前科、前歴がないこと、その他被告人の年齢、健康状態、経歴等諸般の事情を考慮して主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

別紙(一)

修正損益計算書

新光帽子株式会社

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

<省略>

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

新光帽子株式会社

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

<省略>

別紙(三)

税額計算書

<省略>

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