東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)106号 判決 1985年1月28日
原告
山口雅也
右訴訟代理人
木村和俊
山口那津男
被告麹町税務署長
内藤利文
右指定代理人
窪田守雄
外三名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対して、昭和五六年二月二八日付けでした原告の昭和五二年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定並びに同昭和五四年分所得税の更正及び重加算税賦課決定(ただし、昭和五四年分については昭和五七年五月一二日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 本件課税経緯
原告の昭和五二年分及び昭和五四年分の各所得税の課税経緯は別表一、二記載のとおりである。
2 しかしながら、原告の昭和五二年分及び昭和五四年分の各課税所得は別表一、二各番号1記載の確定申告どおりであるから、これを超えて被告がした別表一番号2記載の更正(以下「昭和五二年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「昭和五二年分賦課決定」という。)並びに別表二番号2記載の更正及び重加算税賦課決定(ただし、別表二番号6記載の審査裁決により一部取り消された後のもの。以下同更正を「昭和五四年分更正」と、同重加算税賦課決定を「昭和五四年分賦課決定」という。)の取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否
請求原因1の事実は認める。
三 抗弁
1 昭和五二年分更正の適法性
(一) 昭和五二年分総所得(給与所得)金額
原告の右所得金額は、四四四万九〇〇〇円であり、確定申告と同額である。
(二) 昭和五二年分分離短期譲渡所得金額
原告には右所得として、次の(1)の収入金額から(2)の取得費及び(3)の譲渡費用を引いた一四〇一万九九九二円がある。
(1) 収入金額 二九五〇万円
原告は昭和五二年一〇月一五日、その所有の別紙物件目録一記載の土地(以下「甲土地」という。)及び同目録二記載の建物(以下「甲建物」という。)を繁野昌弘(以下「繁野」という。)に代金二九五〇万円で売り渡した。
(2) 取得費 一五三九万九三〇八円
ア 甲土地取得費 九一五万七七〇一円
原告は昭和四四年一一月一五日、前所有者中嶋晴から別紙物件目録一、三及び五記載の土地(以下一括して「本件土地」という。)を代金一六二一万八〇〇〇円で買い受け、右売買の仲介人玉川不動産に仲介手数料三〇万円を支払つた。右合計額一六五一万八〇〇〇円(以下「本件土地取得費」という。)のうち、甲土地の取得費は別表三〔Ⅰ〕のとおり按分算出された金額である。
イ 甲建物取得費 六二四万一六〇七円
原告は、昭和四七年九月、一部取壊し前の甲建物(以下「旧建物」という。一階床面積約七七・一八平方メートル、他は甲建物の表示と同じ。)を建築費七二五万三四六七円を支出して建築した。
よつて、譲渡所得から控除すべき取得費は、別紙計算書の算式に基づき経年減価分を控除(所得税法三八条二項)した六二四万一六〇七円である。
ウ 原告が甲建物取得費として主張する後記四2(三)(1)ないし(6)の各費用の支出は認められないが、仮に同費用のうち若干について原告の出捐が認められるとしても、それは特別な事情に基づくものであるから、いわゆる特別な経費として原告に立証責任がある。
仮に、右費用中、甲建物取得費の算定のうえで取得価額に加えられるべきものがあつたとしても、それによる甲建物取得費の増加額は後記(三)の分離短期譲渡所得金額と別表一番号2の同所得金額との差額を超えない。
(3) 譲渡費用 八万〇七〇〇円
原告は、甲土地の譲渡に際し、本件土地から甲土地を分筆するため、澤山測量設計株式会社(以下「澤山測量」という。)に測量費として八万〇七〇〇円を支払つた。
(三) 以上のとおり、原告の昭和五二年分総所得(給与所得)金額は、四四四万九〇〇〇円、同分離短期譲渡所得金額は、一四〇一万九九九二円であるから、右金額の範囲内である昭和五二年分更正は適法である。
2 昭和五二年分賦課決定の適法性
原告が昭和五二年分更正に基づき国税通則法三五条二項の規定により納付すべき税額は、同更正により増加する納付税額四五四万八六〇〇円(同法二八条二項三号イ)と同更正により減少する還付金の額に相当する税額四一万四五四〇円(同号ロ)とを合計した四九六万三一〇〇円(端数処理につき同法一一九条一項)である。
したがつて、同法六五条一項に基づき原告に課すべき過少申告加算税額は、四九六万三〇〇〇円(端数処理につき同法一一八条三項)に一〇〇分の五の割合を乗じた二四万八一〇〇円(端数処理につき同法一一九条四項)である。
よつて、これと同額の昭和五二年分賦課決定は適法である。
3 昭和五四年分更正の適法性
(一) 昭和五四年分総所得(給与所得)金額
原告の昭和五四年分の総所得(給与所得)金額は、五七三万六〇〇〇円であり、確定申告と同額である。
(二) 昭和五四年分分離短期譲渡所得金額
原告には右所得として、次の(1)の収入金額から(2)の取得費及び(3)の譲渡費用を引いた一四〇七万四七〇一円がある。
(1) 収入金額 四六〇〇万円
原告は、昭和五四年四月二日、その所有の別紙物件目録三記載の土地(以下「乙土地」という。)及び同目録四記載の建物(以下「乙建物」という。)を大波良亘(以下「大波」という。)に、代金二三五〇万円で、また、同年五月一六日、原告所有の同目録五記載の土地(以下「丙土地」という。)及び同目録六記載の建物(以下「丙建物」という。)を仮谷桂及び仮谷道則(以下「仮谷ら」という。)に代金二二五〇万円で、それぞれ売り渡した。
(2) 取得費 三〇四二万五二九九円
ア 乙、丙土地取得費 七三六万〇二九九円
抗弁1(二)(2)アの本件土地取得費一六五一万八〇〇〇円から甲土地取得費九一五万七七〇一円を引いた残額である。
イ 乙、丙建物取得費 二三〇六万五〇〇〇円
原告は、右両建物の譲渡に先立つて、有伸興業株式会社(以下「有伸興業」という。)に乙、丙建物の建築を請け負わせ、同建築費として二三〇六万五〇〇〇円を支払つた。
(3) 譲渡費用 一五〇万円
原告は、前記(1)の各売買を仲介した有限会社平楽商事(以下「平楽商事」という。)に手数料として一五〇万円を支払つた。
(三) 以上のとおり、原告の昭和五四年分総所得(給与所得)金額は、五七三万六〇〇〇円、同分離短期譲渡所得金額は、一四〇七万四七〇一円であるから、右金額と同額である昭和五四年分更正は適法である。
4 昭和五四年分賦課決定の適法性
原告は、前記3(二)(1)のとおり、昭和五四年中に大波及び仮谷らに対して乙土地建物及び丙土地建物をそれぞれ譲渡したにもかかわらず、あたかも昭和五二年中に、大川健一郎(以下「大川」という。)に乙土地を、また高橋勇吉(以下「高橋」という。)に丙土地をそれぞれ売却したかのように装い、さらに、大川から大波に乙土地建物が、高橋から仮谷らに丙土地建物がそれぞれ売却されたもののように装つた売買契約書を作成し、さらに大川及び高橋名義の預金口座を設定し、右両名の代金の受領を仮装するなどしていたものである。
右事実は、国税通則法六八条一項に規定する事実を隠ぺい又は仮装したものに該当するので、原告が納付すべき重加算税額は、昭和五四年分更正に基づき納付すべきこととなつた税額(ただし、別表二番号6の審査裁決後の税額)から同番号1の納付すべき税額を控除した増差額のうち六〇一万八〇〇〇円(端数処理につき同法一一八条三項)に一〇〇分の三〇の割合を乗じた一八〇万五四〇〇円となる。
よつて、これと同額の昭和五四年分賦課決定は適法である。
四 抗弁に対する認否及び反論
1 抗弁1(一)の事実は認める。
2(一) 同1(二)の冒頭の事実は認し、同1(二)(1)の事実は否認める。
(二) 同1(二)(2)アの事実は認める。
(三) 同1(二)(2)イの事実のうち、原告が七二五万三四六七円を支出して昭和四七年九月旧建物を建築したこと及び旧建物の減価を計算する方式が別紙計算書の算式となることは認めるが、同算式を適用すべき取得価額が右建築費のみであることは否認する。
甲建物取得費として、被告主張の費用のほかに次の各費用も甲建物取得費の算定に加えられるべきである。
(1) 衛生工事費 九〇万円
原告は、旧建物の水道工事、衛生工事等を千歳水道に発注し、うち衛生工事費として二回にわけて合計九〇万円を同店に支払つた。
(2) 公道部分の水道引込費六八万六七二〇円
原告は、東急不動産の分譲地から旧建物まで水道を分岐するための給水管埋設工事を千歳水道に発注し、同店に代金六八万六七二〇円を支払つた。
(3) 水道分岐使用受益分担金七万七〇〇〇円
原告は、右(2)の水道の分岐にあたり、東急不動産に対し分担金として七万七〇〇〇円を支払つた。
(4) 造園及びフェンス工事費七〇万円
原告は、本件土地の造園工事を地元の植木屋に依頼し、右費用として五〇万円を支払つた。また、原告は、旧建物敷地の周囲にフェンスを廻らす工事を佐藤徳一郎(以下「佐藤」という。)に依頼し、右費用として二〇万円を支払つた。
(5) アンテナ及び室内照明器具代 六〇万円
原告は、旧建物に取り付けるアンテナ及び室内照明器具を山田照明から六〇万円で購入し、右代金を支払つた。
(6) 設計料 一〇万円
原告は、旧建物の設計を株式会社進建築事務所に依頼し、右設計料として一〇万円を支払つた。
(四) 同1(二)(3)の事実のうち、原告が本件土地から甲土地を分筆するために澤山測量に測量費として八万〇七〇〇円支払つたことは認めるが、譲渡費用が八万〇七〇〇円を超えないことは否認する。
原告は、昭和五二年四月から七月ころまでの間に、本件土地を甲、乙、丙の三筆に分けて宅地造成工事をしたが、同工事費用として、被告主張の測量費のほかに一五〇万円を支払つた。
3 同1(三)は争う。
4 同2は争う。
5 同3(一)の事実は認める。
6 同3(二)の冒頭の事実は否認し、同3(二)(1)の事実は否認する。もつとも、大波及び仮谷らがそれぞれ右3(二)(1)と同日、同代金額で乙、丙各土地、建物を買い受けた事実はあるが、その売主はそれぞれ大川及び高橋である。
すなわち、原告は、昭和五二年一〇月一五日、乙土地を大川に代金一〇五〇万円で、丙土地を高橋に代金一〇七〇万円でそれぞれ売り渡した。その後、大川は、乙土地上に乙建物を自己の費用で建築し、昭和五四年二月一七日、乙土地建物を代金二三五〇万円で大波に売り渡し、高橋は、丙土地上に丙建物を自己の費用で建築し、同年三月九日、丙土地建物を代金二二五〇万円で仮谷らに売り渡した。この経過が示すとおり、原告の乙、丙土地の譲渡年度は昭和五二年度であり、その後原告は、大川及び高橋から依頼を受けて同人らの機関として昭和五四年中の右各売買の事務を処理したものにすぎない。
7 同3(二)(2)のうち、アの事実は認め、イの事実は取得費の帰属者を否認し、その余は認める。
8 同3(二)(3)の事実は否認する。もつとも、乙、丙各土地、建物の大波及び仮谷らに対する売買の仲介手数料として平楽商事が同日、一五〇万円を受取つたことはあるが、右は、大川及び高橋が支払つたものである。
9 同3(三)は争う。
10 同4前段の各売買契約及び預金口座振込による代金受領が仮装、隠ぺいの行為であることは否認する。右6のとおり、各売買契約は真実のものである。
五 再抗弁(居住用財産の譲渡所得の特別控除)
1 原告は、昭和四七年九月ころから旧建物(昭和五二年七月ころ旧建物の一部取壊しにより甲建物となる。)に居住し、昭和五二年七、八月ころ甲土地、建物を譲渡するために甲建物を退去した。したがつて、甲建物は租税特別措置法(昭和五三年法律第一一号による改正前のもの、以下「措置法」と略す。)三五条一項、同法施行令二三条一項に定める「居住の用に供している家屋」であり、甲土地は同法同条同項に定める「その敷地の用に供されている土地」である。
2 原告は別表一番号1の確定申告に際し、措置法三五条一項の適用を受ける旨を同申告書に記載し、所定の書類を添付した。
3 もつとも、原告の妻は、昭和四九年三月ころ子を連れて、原告が東洋建設株式会社(以下「東洋建設」という。)から賃借した千代田区紀尾井町三番二九号所在の紀尾井ロイヤルハイツ三階F号室(以下「本件マンション」という。)に転居した。しかし、右転居は、妻が子の教育問題に悩み、そううつ症状が発現し、原告との夫婦仲も悪化したためであり、原告は、妻と別居した後も前記の期間、旧建物に起居していた。
六 再抗弁に対する認否及び反論
1 再抗弁1の事実のうち、原告の旧建物居住が昭和四七年九月ころ開始したこと、旧建物が一部取壊しによつて甲建物となつたこと及び甲土地が甲建物の敷地であることは認め、その余の事実は否認する。
2 同3の事実のうち、原告の妻が昭和四九年三月ころ、子を連れて原告が東洋建設から賃借した本件マンションに転居したことは認め、原告が妻と別居後も、昭和五二年七、八月ころまで旧建物に起居していたことは否認し、その余の事実は不知。
3(一) 原告は、昭和五一年三月一五日、昭和五〇年分所得税確定申告書に原告の住所地として肩書住所地を記載し、同地を管轄する被告に対し確定申告をした。また、原告は昭和五一年一〇月四日及び昭和五二年三月五日それぞれ原告の妻が病院に入院した際の入院同意書にも原告の住所地として肩書住所地を記載している。
(二) 他方、原告の旧建物(一部取壊し後の甲建物)における電力使用量、水道使用量及び電話使用料金の減少は別表四ないし六のとおりである。とりわけ、生活上不可欠な水道は、昭和四九年六月から昭和五〇年五月まで及び昭和五一年八月から昭和五二年三月まで使用量が皆無であり、また電話料金は、昭和五一年一月から昭和五二年四月までの間(昭和五一年二月分は除く。)通話料金が零円である。旧建物の近隣居住者も昭和五〇年ころから旧建物に原告が居住していないと判断している。
(三) 以上の事実からみても、原告が昭和五二年一〇月一五日(甲土地、建物の譲渡時)の一年以上前から甲建物を原告の生活の拠点として居住の用に供していなかつたことは明らかである。原告は昭和四九年三月から妻とともに本件マンションに居住しているものである。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1(本件課税経緯)の事実は当事者間に争いがない。
二昭和五二年分更正の適法性について
1 抗弁1(一)(昭和五二年分総所得(給与所得)金額)の事実は当事者間に争いがない。
2 昭和五二年分分離短期譲渡所得金額について
(一) 抗弁1(二)(1)(収入金額)及び同(2)ア(甲土地取得費)の各事実は当事者間に争いがない。
(二) 甲建物取得費(抗弁1(二)(2)イ)について
(1) 原告が昭和四七年九月七二五万三四六七円を支出して旧建物(一階の一部約二六・六五平方メートルを取壊した後の甲建物である。)を建築したことは当事者間に争いがない。
ところで、建物は、時の経過により減価する資産であるから、右譲渡所得金額の算出に当たつて控除すべき取得費の算定に当たつては、譲渡時に存在した当該建物の取得価額から譲渡時におけるその残存価額及び経年減価の額を法定の方法によつて控除すべき(所得税法三八条二項)ところ、前述のとおり、甲建物は旧建物の一部取壊し後の残存部分にほかならない(取壊しは、甲土地上の建物として譲渡するために行われたものであることは後記四2(一)(1)(2)認定のとおりであるから、甲以外の土地譲渡の便益の面もあるけれども、右取壊し部分の未償却額は、全体として、甲土地、建物の譲渡費用として収入から控除されるべき性質のものである。所得税基本通達三三―八参照)。
したがつて、甲建物の取得費は、旧建物の取得価格のうち右取壊し部分に相当する価格を按分控除した残額を基礎として、別表三〔Ⅱ〕の算式(なお、後記(2)カのとおり設計料加算、この算式に関しては当事者間に争いがない。)に従い計算すべきものであり、その額は、四八七万四六八六円となる。
なお、旧建物取得費のうち譲渡費用となるべき部分は別表三〔Ⅱ〕4のとおり一四五万二九七三円となる。
(2) 原告が、右金額のほかに建物取得費として、抗弁に対する認否及び反論2(三)(1)ないし(6)で指摘する各費用について検討する。
<証拠>によれば、被告の原告に対する昭和四八年一月二四日付けの旧建物の建築費等に係る照会に対し、原告は高橋工務店に支払つた工事代金を記載するだけで、原告が主張する右(1)ないし(6)の各費用に相当するものの記載は全くなされていないことが認められる。
しかし、<証拠>によれば、旧建物の衛生工事費六四万七〇〇〇円(約定価格)は高橋工務店の右工事内容から、後日、除外されたこと、また、公道部分の水道引込費並びにアンテナ及び照明器具代は別途工事、別途資材として当初から右工事内容に含まれていないことが認められ、これに反する証拠はない。
そこで、以下、個別に各費用についてさらに検討する。
ア 衛生工事費等
前記のとおり、右費用については高橋工務店の建築工事内容から除外されたものであるが、人が居住する建物に右工事は通常必要なものであるから、原告が旧建物建築の際、これに要する費用を出捐したことは容易に推認できる。被告は右工事費を特別事情による出捐と主張するが、採用できない。また被告は、右衛生工事は有伸興業の費用で施工されたものであるというが、そのような事実したがつて原告が右費用を出捐しなかつた事実を認めるに足りる証拠はない。
右の額については、前記認定の原告と高橋工務店との間の衛生工事の約定価格が六四万七〇〇〇円であつた事実に鑑みれば、本件衛生工事の費用も同額と認めるのが妥当である。<証拠判断略>。
そうすると、本件衛生工事による設備に係る取得費は、右費用額を取得原価として、法定の方法により算定すべきものであり、その額は別表三〔Ⅲ〕のとおり計算される。
イ 公道部分の水道引込費
前述のとおり、公道部分の水道引込費は高橋工務店の建築工事内容に当初から含まれていなかつたものであるが、右引込工事も、人が居住する建物には通常必要なものである。
被告は、右引込工事は有伸興業の費用で施工され、原告の出捐はないと主張し、乙第二七号証中には、右水道から分岐配管した小西清がその分岐配管の許諾の対価二三万円を送金した名宛人は有伸興業である旨の記載がある。しかし、右記載は、小西清が同記載事実を「山口雅也に対する支払」と認識したうえで、請求書が有伸興業名義であることを引用してなしたものであることは、同号証自体から明らかである。これに後記四2(一)(4)の認定のとおり、原告は有伸興業の常務取締役である事実を参酌すれば、右の記載が事実であつたとしても、それだけでは、未だ原告に本件引込工事費用の出捐がなかつたことを認めるには至らず、他に被告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
右費用の額については、これを具体的に確定できる証拠はないが、多くとも甲第三五号証の一、二、第四〇号証に基づいて原告が主張する六八万六七二〇円を超えないと認められる。したがつて、右金額を本件水道引込設備の取得原価として、その取得費を算出すべきである。被告は、右工事も特別な経費として原告に立証責任があると主張するが、採用できない。
そうすると、本件公道部分の水道引込設備に係る取得費は、右取得原価から法定の減価償却をして算定すべきものであり、その額は別表三〔Ⅳ〕のとおり計算される。
ウ 水道分岐使用受益分担金
右費用は、居住用建物の建築に通常必要なものではないから、旧建物の建築に当たつて右出捐が必要であつた特段の事情の存在を窺わせるだけの証拠(反証)がないかぎり、不存在の事実上の推定が働いているものである。この点について原告は、右出捐があつたことの立証(反証)として、甲第三六号証、第四〇号証を挙げるが、いずれも原告が一方的に記述したものであり、にわかに信用できず、他に右費用の支払を窺わせる証拠はない。
よつて、本件分担金が建物取得費算定のための取得原価を構成する旨の原告の反論は未だ採用できない。
エ 造園及びフェンス工事費
一般に造園及び囲障の設置工事はその様式、規模、内容等が千差万別であり、その要否をも含めて、個人的趣味及び資力に左右される余地の大きいものであるから、右費用は、居住用建物の建築あるいは本件土地の取得に通常必要なものではない。したがつて、旧建物の建築にあたつて原告主張の規模、内容の造園工事及び囲障としてのフェンス工事がなされたことを窺わせるだけの証拠(反証)がないかぎり、不存在の事実上の推定は覆えらないところ、原告が右出捐の証拠とする甲第四〇号証によつては、その工事の規模、内容(甲、乙、丙土地ごとの特定を含む。)は明らかにされず、造園を依頼した相手方すら定かでない。しかも右証拠は原告の一方的記述にすぎないから、これに反証としての価値を認めることはできないところ、他に原告主張のような造園及びフェンス(囲障)工事の事実を窺うに足りる証拠はない。
よつて、右造園及びフェンス工事費が建物取得費算定上、その取得原価を構成する旨の原告の反論は採用できない。
オ アンテナ及び室内照明器具代
右各器具は、その種類、規模・数量、品質・性能などの点で多種多様であり、設置者の趣味及び資力に左右される余地が極めて大きいものである。しかしながら、人が居住する建物に必要最少限度の範囲では通常必要なものということができ、この限度を超える種類、規模、品質等のために要した費用については、これを特別な事情に基づく出捐というべきである。
そして、旧建物の場合、その規模、構造等に鑑みると、右に述べた最少限度必要な範囲は、当時の金額で、多くとも、一五万円を超えないと認めるのが相当である。
原告は、右各器具の購入費として六〇万円の出捐があつたことの立証(反証)として、甲第四〇号証を挙げるが、その具体的な内訳は不明であり、しかも右証拠は原告の一方的記述にすぎず、にわかに信用できないところ、他に、必要最少限度である一五万円を超える費用の支払を窺わせる証拠はない。
よつて、右各器具代については、必要費の限度である一五万円をもつてその取得原価として、法定の方法により減価償却をして建物取得費に算入すべきであり、その額は、別表三〔Ⅴ〕のとおり計算される。
カ 設計料
旧建物のような規模、構造の居住用家屋の建築に際しては、必ずしも建築設計を専門家に委任し、設計報酬を支払うのが通常とはいえないから、原告主張の設計料は甲建物の取得費を算定するに当たつては、特別な事情に基づく費用として、原告がその出捐を窺わせる事実を立証(反証)する必要がある。
そして、<証拠>によれば、原告が旧建物の建築設計を株式会社進建築事務所に依頼した事実を認めることができる。したがつて、特段の事情もない本件では、原告が右設計に対し、報酬を支払つたであろうことは容易に推認でき、前述の旧建物の建築費の額に鑑みれば、右報酬として一〇万円を支払つた旨の前掲甲第四〇号証の記述は措信できる。
よつて、本件設計料一〇万円は旧建物の取得価格に包含させて、甲建物の取得費を算定すべきである。
(3) したがつて、右(2)で認定した甲建物の取得費は別表三〔Ⅵ〕1のとおり合計五七八万一一〇五円であり、譲渡費用となるべき額は同〔Ⅵ〕2のとおり合計一七二万三一四三円である。
(三) 譲渡費用(抗弁1(二)(3))について
(1) 原告が甲土地を本件土地から分筆するため、澤山測量に測量費として八万〇七〇〇円支払つたことは当事者間に争いがない。
(2) 原告は、右金額のほかに譲渡費用として、宅地造成工事に要した費用一五〇万円も考慮すべきである旨主張するので検討する。
<証拠>によれば、原告は、有伸興業に対し乙、丙建物の建築を発注し、請負代金として二三〇六万五〇〇〇円を支払つた(右支払の点は当事者間に争いがない。)こと、有伸興業は右二棟の建物の建築を藤設計株式会社(代表取締役佐藤)に請負代金一六三四万四五〇〇円で発注し、右請負代金を支払うとともに、別に藤設計株式会社がなした本件土地の土止め工事費として一五〇万円を支払つたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定のとおり、原告が主張する宅地造成工事費用一五〇万円は有伸興業の支出にかかるものであり、これが原告の譲渡費用となることを認めるに足りる証拠はない。
(四) したがつて、昭和五二年分の分離短期譲渡所得金額は、収入金額(二九五〇万円)から別表三〔Ⅶ〕1の甲土地、建物の取得費(一四九三万八八〇六円)及び同〔Ⅶ〕2の譲渡費用(一八〇万三八四三円)を差し引いた一二七五万七三五一円である。
3 居住用財産の譲渡所得の特別控除(再抗弁)について
原告は昭和四七年九月ころから旧建物に居住を始めたこと、原告の妻は昭和四九年三月ころ子を連れて原告が東洋建設から賃借した本件マンションに転居したことは当事者間に争いがない。原告本人尋問の結果中には、原告の妻が子供の進学問題でそううつ症状を示すようになつたため、妻が子を連れて転居したもので、原告は引き続き旧建物で昭和五二年五月ころまで起居していたとの供述がある。
しかしながら、<証拠>によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告の妻は、旧建物で生活を始めるうち、昭和四八年春ころから翌年小学校に入学する長女を自分の母校である都内の私立小学校に入学させたいと強く希望するようになり、原告と衝突することもあつた。このため、原告の妻は、精神的に安定を欠くことはあつたが、当時は医者の治療を必要とする程の状態ではなく、家事、育児もこなしていた。
(二) 原告は、昭和四八年一〇月一五日、妻の希望に応じて東洋建設から旧建物の広さにほぼ匹敵し、勤務先にも近い本件マンションを期間一〇年、保証金五二二三万二〇〇〇円の約定で賃借した(賃借の事実は争いがない。)。
(三) 原告は、右保証金の一部にあてるため、原告の父武夫から四二二三万二〇〇〇円を借り受けたが、昭和四九年三月二九日、父との間で、右借入金は原告所有の本件土地及び旧建物を可及的すみやかに売却して弁済すること、父の家族が本件マンションで原告家族と同居することを承諾することを見返りに右借入金を無利息とすること等を内容とした金銭消費貸借契約を締結した。
(四) 原告の妻らが、長女の就学にあわせて昭和四九年三月ころ本件マンションに転居した(転居の事実は争いがない。)後の旧建物における電気、水道の各使用料及び電話の使用料金は別表四ないし六のとおりであり、旧建物の近隣者は、たまに原告や使用人が庭の手入れに訪れているのを見ただけで、原告が旧建物に起居している姿をみかけておらず、旧建物は空家同然と認識していた。原告は、少なくとも昭和五〇年以降は旧建物所在地の町内会費を支払つておらず、昭和五二年五月当時の町内会名簿にはその名前が掲載されていない。また、原告は、旧建物用の僅かな電話料金や川崎市の地方税等の支払期限を徒過してしまうことが一再ならずあつた。
(五) 他方、本件マンションの管理者である加藤和幸は、原告の家族だけでなく原告自身も昭和四九年三月ころ本件マンションに入居し、妻子と一緒に生活していると認識していた。原告も、昭和五一年三月一五日付けの昭和五〇年分の確定申告書に原告の住所地として、本件マンションの住所地を記載して、被告に対し確定申告をし、また、昭和五一年一〇月四日及び翌五二年三月五日に原告の妻が亀井クリニック神経内科診療所に入院した際の保護義務者としての同意書にも、原告の住所地として本件マンション住所地を自ら記載していた。
右認定事実によれば、旧建物から本件マンションへ原告の妻子が転居した後も旧建物に原告が恒常的に起居していたとみるには疑問が多く、原告の前記供述部分はたやすく信用できない。
なお、<証拠>によれば、原告は、昭和五一年一〇月二二日に東京都千代田区一番町二〇番地一〇から旧建物所在地に転入した旨の届出を同月二六日に川崎市高津区役所に対し提出していることが認められ、右認定に反する証拠はないが、前記認定事実に鑑みると、右事実をもつてしても原告が当時旧建物に居住していたことを推認することはできず、かえつて、妻子も居住せず、父との間で売却処分を約束している旧建物に、それまでは千代田区内にあつた住民登録を、わざわざこの時期になつて移したことは不自然でさえある。
市税督促状である甲第九号証の三、四、市県民税の納期前納付案内である甲第九号証の一、二はいずれも右住民登録があつた後のものであり、これら文書によつて右再抗弁事実を推認するには至らない。甲第一〇号証の一、二も右再抗弁事実を認めるには足りず、他に、原告が昭和五一年一〇月一五日以降甲土地、建物売却の日までの一年間において旧建物に居住していたことを認めるに足りる証拠はない。
もし、原告が、甲土地建物の譲渡の時又は少なくとも昭和五一年一〇月一五日以降まで旧建物を「居住の用」に供していたとすれば、原告は甲土地、建物の譲渡所得の算定につき措置法三五条一項に定める控除が特別な措置として認められることになる。そうであれば、措置法の右条項所定の法律上の利益(効果)を享受しようと欲する原告に、その要件事実の存在についての訴訟上の立証責任があると解すべきであり、この解釈は、右条項の規定の仕方及び立証の負担の公平の見地からも妥当と考えられる。
そして、右に判断したとおり、原告の立証及び本件全証拠によつても、右の要件事実の存在については証明がないことに帰するから、再抗弁は理由がない。
4 以上のとおり、原告の昭和五二年分総所得金額は四四四万九〇〇〇円、同分離短期譲渡所得金額は一二七五万七三五一円であるから、右各金額の範囲内である昭和五二年分更正は適法である。
なお、仮に、抗弁に対する認否及び反論2(三)(3)で原告が主張する水道使用受益分担金の支出があつたものとして、その取得費として控除すべき額を計上したとしても、昭和五二年分所得の額は右更正を超えることは計算上明らかであるから、右の反論は、それだけでは昭和五二年分更正を左右しない。
三昭和五二年分賦課決定の適法性について
昭和五二年分更正に基づき国税通則法三五条二項の規定により原告が納付すべき所得税額(同法六五条一項参照)は、同法二八条二項三号イに該当する四五四万八六〇〇円(別表一番号2の納付すべき税額)と同号ロに該当する四一万四五四〇円(別表一番号1の納付(還付)すべき税額)とを合計した四九六万三一〇〇円(端数処理につき同法一一九条一項適用)である。したがつて、右増差税額のうち四九六万三〇〇〇円(端数処理につき同法一一八条三項適用)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した過少申告加算税額は二四万八一〇〇円(端数処理につき同法一一九条四項適用)である。
よつて、右と同額の昭和五二年分賦課決定は適法である。
四昭和五四年分更正の適法性について
1 抗弁3(一)(昭和五四年分総所得(給与所得)金額)の事実は当事者間に争いがない。
2 昭和五四年分分離短期譲渡所得金額について
(一) 収入金額(抗弁3(二)(1))について
<証拠>によると、次の事実が認められる。
(1) 原告は、以前から建築関係で取引のあつた佐藤徳一郎に対し、昭和五一年の終わりころから、本件土地及び旧建物の売却について相談をもちかけていた。当初、原告は、本件土地及び旧建物の一括売却を希望していたが、一括では高価になるため、佐藤の勧めに従い、旧建物の一部を取り壊し、縮少(ママ)して甲建物としたうえ、本件土地も甲、乙、丙土地の三つに分筆してそれぞれ売却することにした。
(2) 原告は、本件土地の分筆によつて生じた甲土地及び旧建物の残存部分である甲建物については、繁野との間で昭和五二年一〇月一五日に売買契約を締結することができた(同契約締結については当事者間に争いがない。)。残る乙、丙土地についても、当時の措置法三五条一項の下で居住用資産の譲渡の特別控除を申告するためには、右売買と同時ころに乙、丙土地をも売却する必要があつたが、この時点では、両土地の買手は定まつていなかつた。
そこで、原告は佐藤から紹介された高橋及び大川に対し、税務対策上同人らとの間で乙、丙土地の売買契約書を作成することについて了解を求めた。高橋及び大川は、右土地を購入する意思はなかつたが、それぞれ佐藤に対する縁故から、右の要請を了承した。
(3) 右了承を得て間もなく、原告は、右(2)の甲土地、建物の売買契約と同一の日に作成されたもののように表示して、大川との間で乙土地を代金一〇五〇万円で売買する旨の売買契約書(甲第二一号証)及び高橋との間で丙土地を代金一〇七〇万円で売買する旨の売買契約書(甲第二二号証。ただし、年のみは「昭和五三年」と誤記した。)をそれぞれ作成した。
しかし、前記(2)のようないきさつのため、右各売買契約書の内容について原告が大川及び高橋との間で折衝して取り決めたことはなく、また、大川及び高橋は当該契約書がいつ作成されたかも知らなかつた。
(4) 大川及び高橋から前記(2)の了承を得るのと前後して、原告は、本件土地から分筆した乙、丙土地にそれぞれ乙、丙建物を建築して各土地とともに売却することを企図し、大川及び高橋の名義で各建築確認をとり、有伸興業に右二棟の建物の建築を発注した。有伸興業は、これを藤設計株式会社に下請させて、乙土地上に大川を名義上の建築主とする乙建物を、丙土地上に高橋を名義上の建築主とする丙建物をそれぞれ建築させた。なお、原告は当時、有伸興業の常務取締役であり、佐藤は藤設計株式会社の代表取締役であつた。
(5) ついで、原告は、昭和五四年二月一七日、大波との間で、代金二三五〇万円で乙土地、建物の売買契約を締結し、同年四月二日までに、大波は右売買代金を原告に完済し、各引渡しを受けた。もつとも、右売買契約の際原告は、売主を大川、買主を大波とする売買契約書を大波との間で作成したが、乙土地の所有権移転登記は原告から大波へ昭和五四年四月二日売買を登記原因と表示してなした。
右売買についても、大川は原告から説明や了解を求められたことはなく、大波との間の右契約書を見せられたこともなかつた。
同じく、原告は、昭和五四年三月九日、仮谷らとの間で代金二二五〇万円で丙土地、建物の売買契約を締結し、同年五月一二日までに、仮谷らは右売買代金を原告に完済し、各引渡しを受けた。もつとも、右売買契約の際、原告は、売主を高橋、買主を仮谷らとする売買契約書を仮谷らとの間で作成したが、丙土地の所有権移転登記は原告から仮谷らへ昭和五四年五月一二日売買を登記原因と表示してなされた。
右売買についても、高橋は原告から説明や了解を求められたことはなく、仮谷らとの間の右契約書を見せられたこともなかつた。
また、原告は、大波及び仮谷らが右各売買代金を完済するのと前後して、右各売買の仲介にあたつた平楽商事に乙土地、建物分として七六万五〇〇〇円、丙土地、建物分として七三万五〇〇〇円の仲介料を支払つた。
(6) 原告は、大波及び仮谷らから右(5)の各売買代金を受領する手段として、大川及び高橋名義の各預金口座を開設し、同預金口座に各代金を一旦入金させた後これを引き出し、有伸興業に対する前記(4)の請負代金の支払にあてた(右口座開設及び代金受入については原告も明らかに争つていない。)。
以上の認定事実から明らかなとおり、原告は、昭和五四年二月一七日に乙土地、建物を大波に、同年三月九日に丙土地、建物を仮谷らにそれぞれ売却し、同年中に確定的に右譲渡による収入を得ており、その合計は四六〇〇万円である。
原告本人は、右各売買は乙土地、建物については大川が、丙土地、建物については高橋がその売主となつたものであり、原告は各売主から委任を受けてその売却の事務を代行処理したにすぎないと供述し、証人佐藤徳一郎の証言中にも、これに副う供述がある。しかし、前掲乙第一七号証及び証人高橋勇吉の証言に照らせば、丙土地、建物に関する右各供述は事実に反し、甲第二二号証も前記(3)認定の経過により、甲第二七号証の一も前記(5)認定の経過により、高橋勇吉作成名義の部分については原告が一方的に作成したものであることがそれぞれ認められるから、いずれも前記の認定を動かすものではない。
乙土地、建物に関する証人大川健一郎の証言のうち乙土地、建物の買受による手付金一〇〇万円を原告に差入れた旨の供述は、その手付金の調達及び返戻に関する点になると甚しくあいまいになり、信用性に乏しく、乙第一二号証の一のうち右証言と同旨の部分とともに、いずれも採用できない。また、甲第二一号証は大川の土地購入の意思に基づいて作成されたとする証人大川健一郎、同佐藤徳一郎の各証言及び原告本人尋問の結果は、前掲乙第一六号証に照らしてにわかに信用できず、また証人大川健一郎、同佐藤徳一郎の各証言及び原告本人尋問の結果中、前記認定に反する部分も採用できない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 抗弁3(二)(2)ア(乙、丙土地取得費)の事実は当事者間に争いがない。
同イ(乙、丙建物取得費)の事実は、取得費が原告に帰属するものか、乙建物については大川に、丙建物については高橋にそれぞれ帰属するものかの点を除き、客観的に取得費となるべき額すなわち建築費は争いがない。そして、右取得費の帰属者は乙、丙建物を取得して大波及び仮谷らに売却した者であるところ、前記(一)で認定したとおり、右各建物の売主は原告であるから、右イの取得費二三〇六万五〇〇〇円は原告の取得費であり、原告の前記2(一)認定の昭和五四年分収入金額から控除されるべきものである。
(三) 抗弁3(二)(3)(譲渡費用)の事実は前記(一)(5)認定のとおりであるから、前記(一)の譲渡収入に係る譲渡費用(仲介手数料)として一五〇万円が認められる。
(四) したがつて、原告の昭和五四年分分離短期譲渡所得金額は、収入金額(四六〇〇万円)から取得費(三〇四二万五二九九円)及び譲渡費用(一五〇万円)を差し引いた一四〇七万四七〇一円である。
3 以上のとおり、原告の昭和五四年分総所得金額は五七三万六〇〇〇円、同分離短期譲渡所得金額は一四〇七万四七〇一円であるから、右金額と同額である昭和五四年分更正は適法である。
五昭和五四年分賦課決定の適法性について
前記四2(一)のとおり、原告は、昭和五四年四月二日、大波に原告所有の乙土地、建物を、同年五月一六日、仮谷らに原告所有の丙土地、建物をそれぞれ売却したにもかかわらず、右各土地、建物の売買は大川と大波との間及び高橋と仮谷らとの間にそれぞれなされたように仮装するため、これにそう各売買契約書(甲第二一、第二二号証)を作成し、大川及び高橋名義の預金口座を開設し、大波及び仮谷らから支払を受けた代金をそれぞれ右口座に一旦入金するなどしていたものである。
右事実は、昭和五四年分所得税の課税標準の計算の基礎となる事実の仮装、隠ぺいに該当する(国税通則法六八条一項)から、昭和五四年分更正に基づき同法三五条二項の規定により納付すべき増差税額六〇一万八〇〇〇円(端数処理につき同法一一八条三項適用)に一〇〇分の三〇の割合を乗じた一八〇万五四〇〇円を重加算税として賦課決定した昭和五四年分賦課決定は適法である。
六結論
よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(山本和敏 杉山正己 滝澤雄次)
別表一
(昭和五二年分)
(単位円)
番号
区分
年月日
総所得金額
分離短期譲渡
所得金額
納付すべき税額
過少申告
加算税額
1
確定申告
53.3.15
四、四四九、〇〇〇
〇
(還付)
四一四、五四〇
2
更正
賦課決定
56.2.28
四、四四九、〇〇〇
一二、四〇八、二七四
四、五四八、六〇〇
二四八、一〇〇
3
異議申立て
56.4.27
四、四四九、〇〇〇
〇
(還付)
四一四、五四〇
〇
4
同決定
56.9.30
棄却
5
審査請求
56.10.27
四、四四九、〇〇〇
〇
(還付)
四一四、五四〇
〇
6
同裁決
57.5.12
棄却
別表二
(昭和五四年分)
(単位円)
番号
区分
年月日
総所得金額
分離短期譲渡
所得金額
納付すべき税額
重加算税額
1
確定申告
55.3.15
五、七三六、〇〇〇
〇
一二一、四〇〇
2
更正
賦課決定
56.2.28
五、七三六、〇〇〇
一四、八七〇、六六五
六、五七七、四〇〇
一、九三六、八〇〇
3
異議申立て
56.4.27
五、七三六、〇〇〇
〇
一二一、四〇〇
〇
4
同決定
56.9.30
棄却
5
審査請求
56.10.27
五、七三六、〇〇〇
〇
一二一、四〇〇
〇
6
同裁決
57.5.12
五、七三六、〇〇〇
一四、〇七四、七〇一
六、一三九、六〇〇
一、八〇五、四〇〇
別表三
〔Ⅰ〕 甲土地取得費の計算
(本件土地取得費)(本件土地に占める甲土地実測面積)(甲土地取得費)
〔Ⅱ〕 甲建物取得費等の計算
1 旧建物全体(50.53m2+38.88m2+26.65m2=116.06m2)の取得費の計算
(建築費) (設計料) (残存価格控除) (償却率) (経過年数) (減価額)
(7,253,467円+100,000円)×(1−0.1)×0.031×5=1,025,808円(円未満切捨て)
(〃+〃)−1,025,808円=6,327,659円
2 甲建物(116.06m2−26.65m2=89.41m2)の取得費の計算
(旧建物に占める甲建物延面積)
3 上記の説明
(一) 残存価格控除 残存割合0.1は減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「耐用年数省令」という。)5条1項、同令別表第二のうち同令別表第一に関る残存割合である。
(二) 旧建物の耐用年数 耐用年数省令別表第一のうち建物「木骨モルタル造のもの」細目「住宅用」は22年のところ、所得税法施行令85条1項により1.5を乗じて33年となる。
(三) 償却率 同上省令別表第一〇のうち耐用年数33年のものの定額法(所得税法施行令120条1項1号イ)による場合の償却率である。
(四) 経過年数 自昭和47年9月、至昭和52年10月。ただし、端数処理につき所得税法施行令85条2項2号適用により5年となる。
4 譲渡費用として控除されるべき額の計算
6,327,659円−4,874,686円=1,452,973円
〔Ⅲ〕 衛生工事費(衛生設備)の取得費等の計算
(衛生工事費) (償却率) (減価額)
1 647,000円×(1−0.1)×0.046×5年=133,929円
647,000円−133,929円=513,071円
2 上記の説明
(一) 耐用年数 耐用年数省令別表第一のうち建物附属設備「衛生設備」は15年のところ、上記〔Ⅱ〕3(二)と同じく1.5を乗じて22年(端数処理につき所得税法施行令85条2項1号適用)となる。
(二) 償却率 同上省令別表第一〇のうち耐用年数22年のものの定額法による場合の償却率である。
3 譲渡費用となるべき額の計算
513,071円−395,259円=117,812円
〔Ⅳ〕 公道部分の水道引込費(水道引込設備)の取得費等の計算
(水道引込費) (償却率) (減価額)
1 686,720円×(1−0.1)×0.046×5年=142,152円(円未満切上げ)
686,720円−142,152円=544,568円
2 上記の説明
(一) 耐用年数 耐用年数省令別表第一のうち建物附属設備「給排水設備」は上記〔Ⅲ〕2(一)と同じ。
(二) 償却率 上記〔Ⅲ〕2(二)と同じ。
3 譲渡費用となるべき額の計算
544,568円−419,523円=125,045円
〔Ⅴ〕 アンテナ及び室内照明器具代の取得費等の計算
(償却率) (減価額)
1 150,000円×(1−0.1)×0.046×5年=31,050円
150,000円×31,050円=118,950円
2 上記の説明
(一) 耐用年数 耐用年数省令別表第一のうち建物附属設備「電気設備(照明設備を含む)」細目「その他のもの」は15年のところ、上記〔Ⅲ〕2(一)と同じく22年となる。
(二) 償却率 上記〔Ⅲ〕2(二)と同じ。
3 譲渡費用となるべき額の計算
118,950円−91,637円=27,313円
〔Ⅵ〕 上記〔Ⅱ〕ないし〔Ⅴ〕の合計
1 取得費
4,874,686円+395,259円+419,523円+91,637円=5,781,105円
2 譲渡費用となるべき額
1,452,973円+117,812円+125,045円+27,313円=1,723,143円
3 上記1、2の合計額
5,781,105円+1,723,143円=7,504,248円
〔Ⅶ〕 昭和52年分の取得費、譲渡費用及び譲渡所得
1 取得費
(〔Ⅰ〕) (〔Ⅵ〕1)
9,157,701円+5,781,105円=14,938,806円
2 譲渡費用
(〔Ⅵ〕2) (測量費)
1,723,143円+80,700円=1,803,843円
3 譲渡所得
(収 入) (〔Ⅶ〕1) (〔Ⅶ〕2)
29,500,000円−14,938,806円−1,803,843円=12,757,351円
計 算 書(別 紙)
甲建物取得費の計算
(甲建物の取得価額)(残存割合の控除)(償却率)(経過年数)(減価の額)
7,253,467円×(1−0.1)×0.031×5=1,011,860円
(甲建物の取得価額)(減価の額)(甲建物の取得費)
7,253,467円−1,011,860円=6,241,607円
別表四
電力使用量
(昭和)
年・月
使用量
(キロワット)
(昭和)
年・月
使用量
(キロワット)
(昭和)
年・月
使用量
(キロワット)
四九・ 一
一、二三二
五〇・ 九
六四
五二・ 五
二七
〃・ 二
一、〇二六
〃・一〇
六五
〃・ 六
八六
〃・ 三
一、〇九四
〃・一一
七九
〃・ 七
九一
〃・ 四
六〇九
〃・一二
八四
〃・ 八
一七
〃・ 五
二〇七
五一・ 一
一〇四
〃・ 九
四
〃・ 六
一七四
〃・ 二
八六
〃・一〇
三
〃・ 七
一八六
〃・ 三
八七
〃・ 八
二二〇
〃・ 四
九二
〃・ 九
一二七
〃・ 五
九三
〃・一〇
〇
〃・ 六
八二
〃・一一
六五
〃・ 七
九一
〃・一二
六三
〃・ 八
九二
五〇・ 一
六七
〃・ 九
一〇〇
〃・ 二
六〇
〃・一〇
八六
〃・ 三
六〇
〃・一一
八六
〃・ 四
六八
〃・一二
八三
〃・ 五
六九
五二・ 一
三四
〃・ 六
六六
〃・ 二
八四
〃・ 七
七五
〃・ 三
八二
〃・ 八
六八
〃・ 四
八〇
別表五
水道使用量
(昭和)
自年月―至年月
使用量
(立方メートル)
(昭和)
自年月―至年月
使用量
(立方メートル)
備考
四八・一二―四九・ 一
六六
五一・ 六―五一・ 七
三
四九・ 二―四九・ 三
五〇
五一・ 八―五一・ 九
〇
四九・ 四―四九・ 五
二一
五一・一〇―五一・一一
〇
四九・ 六―四九・ 七
〇
五一・一二―五二・ 一
〇
四九・ 八―四九・ 九
〇
五二・ 二―五二・ 三
〇
四九・一〇―四九・一一
〇
五二・ 四―五二・ 五
三
四九・一二―五〇・ 一
〇
五二・ 六―五二・ 七
六
五〇・ 二―五〇・ 三
〇
五二・ 八―五二・ 九
一
五〇・ 四―五〇・ 五
〇
五二・一〇―五二・一一
二
五〇・ 六―五〇・ 七
四
五〇・ 八―五〇・ 九
二
五〇・一〇―五〇・一一
二
五〇・一二―五一・ 一
六
五一・ 二―五一・ 三
三
五一・ 四―五一・ 五
三
別表六
電話使用料金
(昭和)
年・月
料金(円)
備考
基本料金
通話料金
合計
五一・ 一
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・ 二
一、〇六〇
七
一、〇六七
〃・ 三
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・ 四
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・ 五
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・ 六
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・ 七
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・ 八
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・ 九
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・一〇
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・一一
一、〇六〇
〇
一、〇六〇
〃・一二
一、六四六
〇
一、六四六
五二・ 一
一、四六〇
〇
一、四六〇
〃・ 二
一、四六〇
〇
一、四六〇
〃・ 三
一、四六〇
〇
一、四六〇
〃・ 四
一、八六〇
〇
一、八六〇
〃・ 五
二、〇〇〇
七
二、〇〇七
〃・ 六
二、〇〇〇
二五二
二、二五二
〃・ 七
二、〇〇〇
二四五
二、二四五
〃・ 八
二、〇〇〇
〇
二、〇〇〇
物件目録
一 川崎市高津区土橋五丁目七番六
山林 二四八平方メートル
現況宅地 実測面積 二四八・九四平方メートル
二 右一所在
家屋番号 七番六
木造スレート葺二階建居宅
床面積
一階 五〇・五三平方メートル
二階 三八・八八平方メートル
附属建物の表示
木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建物置
床面積 二・四三平方メートル
三 同所五丁目七番七
山林 九八平方メートル
(地目変更後は宅地)(宅地地積九八・八〇平方メートル) 実測面積九八・八一平方メートル
四 右三所在
木造モルタルカラー鉄板葺二階建専用住宅
床面積
一階 四七・六四平方メートル
二階 二六・五〇平方メートル
地下(ガレージ)一〇・七五平方メートル
五 同所五丁目七番八
山林 一〇一平方メートル
(地目変更後は宅地)(宅地地積一〇一・二六平方メートル) 実測面積一〇一・二七平方メートル
六 右五所在
木造モルタルカラー鉄板葺二階建専用住宅
床面積
一階 三八・四七平方メートル
二階 二四・八四平方メートル