東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)158号 判決
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【事実及び理由】
一原告の請求の趣旨は、次のとおりである。
1 被告は、岩崎嗣子が昭和五一年一〇月一日株式会社東京近鉄百貨店に使用されるに至り健康保険法及び厚生年金保険法による各被保険者資格を取得したことを確認せよ。
2 被告は、岩崎嗣子に対し、同人を被保険者とする健康保険被保険者証を交付せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二原告の請求の原因は、次のとおりである。
1 原告の妻岩崎嗣子は、昭和五一年一〇月一日、健康保険法一三条及び厚生年金保険法六条一項に規定する適用事業所である株式会社東京近鉄百貨店(東京都武蔵野市所在)に使用されるに至り、右両法による各被保険者資格を取得した。
2 原告は、無職、無収入であり、右各被保険者資格を取得した岩崎嗣子の被扶養者となる(健康保険法一条)。そこで、原告は、被告に対し、健康保険法二一条ノ二第四項及び厚生年金保険法一八条二項の規定により職権で右各被保険者資格の取得の確認を行うように請求したが、被告は、何らの処分をしない。
3 よつて、原告は、被告に対し、岩崎嗣子が右各被保険者資格を取得したことの確認及び同人を被保険者とする健康保険被保険者証の同人に対する交付を求める。
三そこで、本件訴えの適否について判断する。
1 請求の趣旨第一項に係る訴えについて
右訴えは、いわゆる無名抗告訴訟の一種である義務付け訴訟と解されるところ、行政事件訴訟法上、無名抗告訴訟の原告適格についての規定はないが、たとえばそれが許容される場合があるとしても、行政庁の公権力の行使に関し、法律上の利益を有する者に限り提起することができるものと解される。そこで、本件についてこれを検討するに、健康保険法及び厚生年金保険法による各被保険者資格の取得の確認は、事業主のする届出(報告)若しくは被保険者(被保険者であつた者を含む。以下同じ。)の請求により、又は職権によつて行われるものであり(健康保険法二一条ノ二、厚生年金保険法一八条)、被保険者以外の者は、右各被保険者資格の取得の確認の請求をすることは認められていないものである。原告は、原告が被保険者の被扶養者であると主張しているところ、健康保険法は、被扶養者に一定の事由が発生した場合にも保険給付(家族療養費等)を行うこととしているが、その受給権者は被扶養者自身ではなく被保険者本人である(同法五九条ノ二、同条ノ二ノ二、同条ノ三、四。なお、被保険者が死亡した場合に支給される埋葬料、埋葬費の受給権者は、同法四九条に規定されているとおり「被保険者ニ依リ生計ヲ維持シタル者ニシテ埋葬ヲ行フモノ」又は「埋葬ヲ行ヒタルモノ」であり、被扶養者であることは要件となつていない。)から、被保険者の被扶養者であることをもつて、同法による被保険者資格の取得の確認について法律上の利益を有するとすることはできない。また、厚生年金保険法上、被扶養者についての規定はなく、同法による保険給付の受給権者は被保険者又はその遺族であり(同法三七条、四二条、四六条の三、四七条、五五条、五八条、六八条の三、六九条)、被保険者の被扶養者は、何らの権限も認められていないから、同法による被保険者資格の取得の確認についても法律上の利益を有しない。したがつて、右両法による各被保険者資格の取得の確認を求める請求の趣旨第一項に係る訴えは、原告適格を欠き不適法である。
更に、原告適格の点を別として、右のような義務付け訴訟の適否について検討するに、いわゆる無名抗告訴訟は、行政事件訴訟法所定の四類型の抗告訴訟によつては行政庁の違法な公権力の行使による国民の権利又は法律上の利益の侵害を救済することができない場合において、一定の要件の下に例外的にのみ許容されるものと解されるところ、適用事業所に使用されることにより被保険者資格を取得した者がある場合において、確認権者(都道府県知事又は健康保険組合)により資格取得の確認がなされないときには、被保険者から確認権者に対し確認を請求することにより確認がなされる建前となつているものであり、仮に、請求が却下された場合(健康保険法二一条ノ二第三項、厚生年金保険法三一条二項)には、行政不服申立てを経由して(健康保険法八三条、厚生年金保険法九一条の三)、当該却下処分の取消しの訴えを提起することにより、また、請求後相当の期間を経過したにもかかわらず何らの処分(確認又は却下処分)がなされない場合には、不作為の違法確認の訴えを提起することにより、資格取得の確認がなされていない被保険者の地位を救済することができるから、確認権者に対して直接確認を求める訴えを提起することは許されないものというべきである。
したがつて、いずれにせよ請求の趣旨第一項に係る訴えは不適法である。
2 請求の趣旨第二項に係る訴えについて
都道府県知事又は健康保険組合は、健康保険法による被保険者資格の取得の確認をした場合には、健康保険被保険者証を被保険者に交付すべきものとされており(健康保険法施行規則二三条)、右被保険者証の交付は、被保険者資格の取得の確認を前提とするものであるから、岩崎嗣子を被保険者とする健康保険被保険者証の交付を求める請求の趣旨第二項に係る訴えは、被保険者資格の取得の確認について前記1に述べたのと同様の理由により、原告には訴えの利益がなく、かつ、無名抗告訴訟として許されず、不適法である。
四よつて、本件訴えは、いずれも不適法であり、しかもその欠缺を補正することができないから、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法二〇二条によりこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(泉徳治 大藤敏 杉山正己)