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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)29号 判決 1983年3月15日

原告 鈴木正一

被告 渋谷税務署長 ほか一名

代理人 平賀俊明 佐藤恭一 ほか四名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告渋谷税務署長が原告の昭和五五年分の所得税について昭和五六年六月一三日付でした更正を取り消す。

被告国税不服審判所長が原告に対して昭和五六年一二月二三日付でした審査裁決を取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告渋谷税務署長(以下「被告署長」という。)

主文同旨

三  被告国税不服審判所長(以下「被告所長」という。)

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告の被告両名に対する請求原因

1  原告の昭和五五年分所得税について被告署長のした更正(以下「本件更正」という。)及び被告所長のした審査裁決(以下「本件裁決」という。)などの課税処分の経緯は別紙一のとおりである。

2  しかしながら、本件更正には所得税法(以下「法」という。)二八条二項、租税特別措置法(以下「措置法」という。)二九条の四第一、二項の解釈を誤つた違法があるので、その取消しを求める。

(一) 原告は、昭和五五年中に受領した厚生年金保険法に基づく老年者年金八七万八八七四円及び恩給法に基づく文官普通恩給一二一万一一二五円の各々から措置法二九条の四第一、二項に定める老年者年金特別控除額(以下「特別控除額」という。)、七八万円を控除して確定申告したところ、被告署長は、右老年者年金と文官普通恩給の収入金額の合計額から特別控除額を控除して本件更正をした。

(二) しかし、給与所得金額を算定するに当たり、老年者が年金及び恩給を受給している場合は、特別控除額は、年金及び恩給からの収入金額の合計額から控除すべきもの(以下「合計説」という。)ではなく、その収入金額の各々の額から各別に控除すべきもの(以下「各別説」という。)である。その理由は次のとおりである。

(三) まず法二八条二項の法意を明らかにすべくこれを本件に即して読み替えると(以下の記号は別紙二の記号説明のとおりであり、読替えのため補足すべき文言を〔 〕内に示す。)、

「〔確定申告者の、昭和五五年分の〕給与所得の金額〔Xの計算〕は、その〔申告者の昭和五五〕年中の〔所得であつた〕給与等〔である給料(y1)、恩給(y3)、厚生年金(y4)〕の〔各〕収入金額〔の合計、すなわち(y′1+y′3+y′4)〕から、給与所得控除額を控除した〔IC〕残額〔に等しい金額〕とする。」

となり、基本的構造式は別紙三算式1のとおりである。

(四) 措置法二九条の四第一項のうち、「所得税法第二条第一項第三十号……については、」の部分は、特例とすべき公的年金等の適用条件を明らかにしたものであり、その公的年金等が条文に列記された公的年金等(y°3,y°4,y°etc)のいずれかであること、その公的年金等からの収入金額は法定の老年者が法定の期間内に受けるべきものであることを要求している。右条件に適う限り、それぞれ単独で特例とすべき公的年金等の適格を有するのであり、特例の対象は、右の適格公的年金等であつて、その金額を受け取る老年者でもなければ、その金額そのものでもない。

(五) 措置法二九条の四第一項のうち、「当該公的年金等に係る……とする。」の部分は主格文句と説明文句からなつているので、まず主格文句の解釈により計算主語を確定しなければならない。

主格文句は、X°てその金額を減額すべき給与を特定し、その特定給与(特例給与)の金額(y°x)はXの計算上減額して特定xとして算出すべきこと、すなわち、特定x=y°x―七八万であることを示し、説明文句は、その特定xの減額計算法を示すものである。

これを明らかにするため、主格文句部分を読み替ると、

「当該〔適格条件に適合する〕公的年金等(y°3,y°4,y°etc)に係る同法第二十八条第二項の給与等(すなわち、Xの計算上計算要素たる(y′1+y′3+y′4)の構造要素位置にあるy1,y3,y4等〕の収入金額〔y°入金額、すなわちy°x〕は、」となる。

つまり、本条文は法二八条二項の給与等のうち、特例公的年金であるものに減額して収入金額とすべき金額の計算方法を示すものであり、計算によつて求めるべき計算主語は減額算入金額xである。そして公的年金等に係り合うのは給与等であり、その収入金額ではなく、またその給与等とは法二八条二項の給与等であるから、(y′1+y′3+y′4)なる構造の所定の位置にある給与等であり、Xの計算上加算すべき位置において拘束されている給与(以下「拘束給与」といい、(+)yで示す。)なのであるから、結局当該公的年金等であるy°3,y°4等に係るものは、拘束給与たる(+)y3,(+)y4等であり、そのうち係り合うのはy°3に係る(+)y3とy°4に係る(+)y4であり、(+)y3と(+)y4とは特定給与であつて、それらの収入金額であるy′3とy′4とはそれぞれx3,x4として減額算入すべき金額なのである。

次に説明文句部分を読み替えると、

「〔y′xに代つて減額すべき金額のx〕は、その〔申告者の昭和五五〕年中の〔xに係る特定給与たる〕当該〔特例の〕公的年金等〔y°3,y°4,y°etc、すなわち、xがx3の場合はy°3、xがx4の場合はy°4〕の収入金額〔xがx3ならばy°3、xがx4ならばy°4〕から老年者年金特別控除額を控除(―七八万)した金額とする。」

となる。

つまり「その」という文言が計算主語xを特定し、計算対象の給与を特定申告者の特定年度における特定給与の減額算入金額と特定するので、一般にx=y°x―七八万、或いはxi=y°i―七八万(i=3、4)となる。すなわち別紙三算式IIとなる。

(六) そこで別紙三算式Iにおける計算要素たるy′3とy′4とを、特例としてx3及びx4として代入すると、特例による給与所得金額(X°ち各別説の適法性が立証されたのである。

(七) また措置法二九条の四第一項の主格文句及び説明文句の読替えとして、

「…については、当該公的年金等に係る同法第二十八条第二項の給与等の収入金額は〔を〕、その年中の当該公的年金等の収入金額から、老年者年金特別控除額を控除〔した金額に代替〕する。」

としても、各別説の正当性が立証される。

(八) 合計説は結論として別紙三算式IVを主張するものであるが、これは、法定の老年者を特例の対象とするか、法定の各公的年金を合体して一つの給与たる公的年金とみなし、これを特例の対象とするか、二以上の公的年金等を同一の老年者が受けるべきときはそれらの公的年金等を一つの給与たる公的年金とみなしてこれを特例の対象とするか、措置法二九条の四第一項の「当該公的年金等に係る」とは当該公的年金等の収入金額の合計に係ると解釈し、その係り合う相手方も法二八条二項の給与等の収入金額と解するかのいずれかによらざるを得ないものであるが、いずれも、措置法二九条の四第一項の計算主語の吟味を怠り、説明文句の文言に捉われた誤つた解釈である。これらの合計説を採用するためには、それぞれの解釈に対応した条文の改正を要する。例えば右の第三の解釈を採用するためには、措置法二九条の四第一項に、「ただし、一人の老年者が受けるべき公的年金等が二つ以上あるときは、それらの年金等は一つの年金とみなす。」という趣旨の規定を追加しなければならないのである。

3  本件裁決には、次のとおり国税通則法(以下「通則法」という。)に違反する違法があるので、その取消しを求める。

(一) 原告は本件の審査請求に当たり、2(二)以下に主張したと同様な「各別説の適法を立証する条文に対照する算式」さらには「合計説が成立するための要改正条文」等を内容とする審査請求理由を主張したが、被告所長は通則法九三条に違反して被告署長に対し右主張に対応する法定の答弁書を提出させなかつた。

(二) 原告は本件裁決の担当審判官に対し、原告の審査請求の理由に認容し難い点があれば質問されたいと申し立てていたのに、被告所長は原告に全く反論の機会を与えず本件裁決に及び、通則法九五条ないし九七条に違反した。

すなわち、担当の樋口審判官は原告の一方的意見を聞き流したのみで、国民を違法課税の被害から救済するという行政目的を達成するために法九七条一項の質問権を行使する義務を怠り、釈明義務を尽くさなかつた違法がある。国税不服審判においては、審査請求人の権利・利益を救済し、行政の適正を確保するため、いやしくも審査請求人の主張に疑問点があればこれにつき釈明を求めるべき義務があるのであり、審査請求人としては処分庁の反論及び審判官からの求釈明により主張を尽くしうるものである。しかるに本件の審査裁決においては、不備な答弁書しか提出されていなかつたのに、担当審判官は原告に対する質問権の行使を怠り、そのため被告所長は原処分庁の主張の実態も原告の主張も理解せず、争点が不明のまま本件裁決に及んだのである。

(三)(1) 本件の審査請求においては、2(三)以下で主張した算式上の主張が審査請求理由の根幹であるにもかかわらず、本件の裁決書はこれを「請求人の主張」の「ロ(イ)年金及び恩給に係る給与所得の金額についての本文中に記載せず、目立たないように、「(ロ)法令用語の解釈の誤りについて」の「C」の中の「当該なる用語の説明の一部として別紙に算式の一部のみを記載したにとどめたうえ、右算式についての判断はこれを条文と照合し、その文意に適合しているか否かを判断しなければならないのに算式の当否に触れずその判断を避け、ただ原告が算式の説明に用いた「その」、「係る」、「当該」なる二、三の文言を取り上げ、これに対して判断し、その解釈を「綜合」するのみで結論を導き審査請求を棄却した。しかし、原告の主張の主眼は算式の成立であり、この算式を離れて用語解釈の当否を論ずることはできないから、算式の主張に対する判断を避けた本件裁決は各別説でなく合計説を正当とする理由を示していない。

(2) また右各文言についても、原告は「その」は「給与に係るものを指すので年中だけに係るのではない。」と主張したのに、裁決書では「給与所得金額又は特定給与の収入金額を指す」と主張が歪曲して記載され、「係る」についても原告は係り合う双方の相手の確認を求め、「公的年金等に係り合う相手は法第二八条第二項の規定で拘束されている給与等である(つまり、給与と給与の係り合いであること)」を主張したのに、裁決書では「係る」のは「公的年金等である。」と主張が歪曲して記載され、「当該」についても原告の主張と裁決書に記載された主張は著しく相違している。

(3) 本件裁決は合計説を適法として審査請求を棄却したものであるが、2において明らかにしたとおり合計説は違法であるから結局本件裁決は適法な理由の記載がないこととなり、この点で裁決固有の瑕疵が存在する。

また、仮に合計説が結論において相当であるとしても、その理由が誤つているときは、本件裁決には合計説を正当とし審査請求を棄却すべき理由が明示されていなかつたことになり違法となるのである。

(4) よつて本件裁決は通則法九八条一項、一〇一条一項、八四条五項、九七条四項に違反する。

二  請求原因に対する認否

(被告署長)

請求原因1、2(一)の事実は認めるが、同2のその余の部分は争う。

(被告所長)

1 請求原因1の事実は認める。

2(一) 同3(一)のうち、原告が本件の審査請求においてその主張する趣旨の主張をしたことは認めるが、その余は争う。

(二) 同3(二)のうち、原告がその主張するとおりの申立てをしたことは認めるが、その余は争う。

(三) 同3(三)のうち、(1)の本件裁決において被告所長が原告主張の二、三の文言を取り上げてこれに対して判断して本件の審査請求を棄却したこと、(3)の本件裁決が合計説を適法として審査請求を棄却したことは認め、その余は争う。

三  被告らの主張

(被告署長)

1 本件課税処分の根拠について

(一) 原告の昭和五五年分の所得金額の内容は次表のとおりである。

所得区分

被告署長主張額(円)

<1>

利子所得の金額

五二、六八四

<2>

配当所得の金額

一八五、一一〇

<3>

給与所得の金額

八二〇、八〇〇

<4>

総所得金額

(<1>+<2>+<3>)

一、〇五八、五九四

(二) 利子所得の金額、配当所得の金額について

利子所得の金額及び配当所得の金額は、いずれも原告の申告に係る金額である。

(三) 給与所得の金額について

給与所得の金額の明細は次のとおりである。

(1) 収入金額(<1>+<2>+<3>)          二一四万九九九九円

<1> 株式会社三栄書房からの報酬                 六万円

<2> 老年者年金                    八七万八八七四円

<3> 文官普通恩給                  一二一万一一二五円

右は、いずれも原告の申告に係る金額で、うち<2>、<3>はいずれも措置法二九条の四第一項の公的年金等に該当するものである。

(2) 特別控除額                           七八万円

右は、措置法二九条の四第一項、第二項の規定により前記<2>及び<3>の合計額より控除する金額である。

(3) 給与等の収入金額((1)の<1>+<2>+<3>-(2)) 一三六万九九九九円

(4) 給与所得の金額                      八二万八〇〇円

右は、法二八条四項の規定により算出した控除後の給与所得の金額である。

2 特別控除額の対象となる公的年金等はその年間の公的年金等の収入金額の合計額であり、特別控除額を各公的年金から各別に控除すべきものではないから、本件更正は適法である。すなわち、

(一) 所得税の課税標準の計算については、法二二条ないし三五条に規定されているところであるが、その課税期間は通則法一五条二項一号において所得税の納税義務の成立が「暦年の終了の時」と定められていること及び法二三条以下に規定する各種所得金額の計算において「その年中の」収入金額を基として所得金額を計算するものとしていることからみても一暦年を指すものであることは明らかである。

そして給与所得の金額の計算については法二八条二項において「その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする」と規定されており、次いで同条三項は給与所得控除額は給与等の収入金額に応じてその金額を計算する旨規定している。従つて、この場合の給与等の収入金額とは、その年中のすなわち一暦年における給与等の収入金額の合計額を意味するものである。

(二) ところで措置法二九条の四においては給与所得の収入金額の計算の特例として公的年金等に係る老年者年金特別控除制度が設けられており、右規定においては法二条一項三〇号に規定する老年者である居住者が公的年金等の支払いを受ける場合には当該公的年金等に係る法二八条二項の給与等の収入金額は、その年中の公的年金等の収入金額から特別控除額を控除した金額とする旨規定されている。

そして右特例の規定における公的年金等とは法二九条一号イからリまでに掲げる法律の規定に基づく年金その他これに類する年金で政令で定めるもの及び一時恩給以外の恩給をいうものと定義されているところから、当該公的年金等とは右各公的年金を総称するものであることは明らかである。

従つて、措置法二九条の四第一項における「その年中の当該公的年金等の収入金額」とは、一暦年における公的年金の総額を指すものであることは明らかであるから、特別控除額を各公的年金から各別に控除すべきであるとする原告の主張はもとより失当というべきである。

(三) なお、措置法二九条の四第一項の規定中の、「当該公的年金等に係る同法第二十八条第二項の給与等の収入金額は、」の「係る」との文言については、同項の規定が法二条一項三〇号に規定する老年者である居住者の昭和四八年一月一日から昭和五八年一二月三一日までの間に受けるべき公的年金等(法二九条一号イからリまでに掲げる法律の規定に基づく年金その他これに類する年金で政令で定めるもの及び一時恩給以外の恩給をいう。)に係る法二八条二項に定める収入金額の算定方法を定めたものであること及び措置法二九条の四第二項の規定自体から、「当該公的年金等に係る」は、「同法第二十八条第二項の給与等の収入金額」、特に「収入金額」に係ることは明らかであつて、この点に関する原告の主張は失当である。

また、同項に定める「その年中の当該公的年金等の収入金額から老年者年金特別控除額を控除した金額とする。」とある、「その」は、その次に続く「年中」に係り、併せて昭和四八年一月一日から昭和五八年一二月三一日までの間に受けるべき公的年金等に係る法二八条二項の給与等の収入があつた年中を意味するのは文理上明らかであり、この点に関する原告の主張も失当である。

(被告所長)

1 被告所長は本件の審査請求の原処分庁である被告署長に対し答弁書の提出を求め、同被告はこれに応じて答弁書を提出したのであるから請求原因3(一)は失当である。

2 通則法九七条一項は担当審判官が審理を行うため必要があるときは各号に定める行為をすることができる旨定めているに過ぎず、審査請求人から申立てがあつても必ずしもその者に質問をし、ないしは反論の機会を与えなければならないものではないから、請求原因3(二)の主張は前提において失当である。なお、本件の審査請求を担当した樋口審判官は昭和五六年一一月二四日及び同年一二月九日の二回にわたり原告に面接してその意見を聞いている(同法一〇一条一項八四条)。

3 被告所長は本件の裁決書に別紙として原告の算式上の主張の要旨を摘示し、かつ原告主張の各別説ではなく合計説が正当であることの理由を示しているので請求原因3(三)も理由がない。

四  被告らの主張に対する原告の認否及び反論

(被告署長の主張に対し)

被告署長の主張1(一)<1><2>、(二)、(三)(1)の事実は認め、同1(一)<3><4>、(三)(2)ないし(4)、2は争う。

(被告所長の主張に対して)

1 被告所長の主張1のうち、同被告が被告署長に対し「答弁書」なる書面を提出させたことは認めるが、その余は争う。

原告は算式等により各別説が正しく合計説をとりえない旨主張したのに、右「答弁書」には原告の審査請求理由に対応する主張の記載がないから、法定の答弁書を提出させたとはいえない。

2 被告所長の主張2のうち、樋口審判官が被告所長主張のとおり二回にわたり原告の意見を聞いたことは認めるが、その余は争う。

3 被告所長の主張3のうち、本件裁決書の別紙に算式の一部が記載されていることは認めるが、その余は争う。

なお右は算式の一部に過ぎず、算式上の主張の要旨には当たらず、しかも原告の主張したものと異なり、附記説明にも誤りがある。

第三証拠<略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  まず本件更正に原告主張の違法があるか否かにつき判断する。

1  請求原因2(一)、被告署長の主張1(一)<1><2>、(二)、(三)(1)の各事実は当事者間に争いがない。

2  そこで法二八条二項、措置法二九条の四第一項の解釈につき、原告のいわゆる各別説と合計説のいずれが正当であるかを検討する。

法二八条一項は、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費、年金(…)、恩給(…)及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」とし、同条二項は「給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。」とし、同条三項は給与等の収入金額に応じて給与所得控除額を定めている。そして通則法一五条二項一号が所得税の納税義務の成立を「暦年の終了の時」と定めていることをも勘案すると、法二八条二項の「その年中の給与等の収入金額」とは当該一暦年中における給与等の収入金額の合計額を意味することは明らかである。

次に措置法二九条の四は給与所得の収入金額の計算の特例として公的年金等に係る老年者年金特別控除制度を設けているが、同条一項は、「所得税法第二条第一項第三十号に規定する老年者(…)である居住者が昭和四十八年一月一日から昭和五十八年十二月三十一日までの間に受けるべき公的年金等(同法第二十九条第一号イからリまでに掲げる法律の規定に基づく年金その他これに類する年金で政令で定めるもの及び一時恩給以外の恩給をいう。…)については、当該公的年金等に係る同法第二十八条第二項の給与等の収入金額は、その年中の当該公的年金等の収入金額から老年者年金特別控除額を控除した金額とする。」と規定する。右文言からみても「当該公的年金等」とは年金又は恩給のそれぞれを指すものではなく、昭和四八年一月一日から昭和五八年一二月三一日までの間に法定の老年者が受けるべき公的年金等の総称であり、「当該公的年金等に係る」の「係る」は「同法第二十八条第二項の給与等の収入金額」とりわけ「収入金額」に係るものであり、「その年中の当該公的年金等」の「その」は「年中」に係り、「その年中」は「『昭和四十八年一月一日から昭和五十八年十二月三十一日までの間に受けるべき公的年金等(…)』に係る法二八条二項の給与等の収入があつた年中」を指すものであることは明らかである。従つて「その年中の当該公的年金等の収入金額」とは法二八条二項の「給与等の収入金額」と同様、一暦年における公的年金等の収入金額の総額を指すものと解するほかはない。結局措置法二九条の四第一項は右総額から特別控除額を控除するいわゆる合計説の立場を規定したものと解するのが相当である。

3  原告はいわゆる各別説が成立する所以を縷々主張するけれども、独自の見解であり、採用の限りではない。特にその主張する条文の読替え及び算式による解釈方法は極めて特異かつ異例のもので、条文の解釈から離れたものであるから到底採用することができない。

また、原告は、合計説を採用するためには、同項に「ただし、一人の老年者が受けるべき公的年金等が二つ以上あるときは、それらの年金等は一つの年金とみなす。」との趣旨の規定を追加するなどの改正が必要であると主張するが、措置法二九条の四第一項の解釈は先に示したとおりであり、採用することができない。

4  原告が昭和五五年中に受領した老年者年金、文官普通恩給が措置法二九条の四第一項の公的年金等に該当することは当事者間に争いがないので、同条一、二項により右両者の合計額から特別控除額七八万円を控除してした本件更正は適法であり、原告の被告署長に対する請求は理由がない。

三  次に本件裁決に原告主張の違法があるか否かにつき判断する。

1  請求原因3(一)について

原告が本件の審査請求においてその主張する趣旨の主張をしたこと及び被告所長が被告署長をして「答弁書」なる書面を提出させたことは当事者間に争いがない。

ところで通則法九三条二項は「答弁書には、審査請求の趣旨及び理由に対応して、原処分庁の主張を記載しなければならない。」と規定しているところ、原告は、算式等により各別説が正しく合計説をとりえない旨主張したのに、右答弁書には右審査請求の理由に対応する主張の記載がないので、法定の要件を具備した答弁書には当たらないと主張する。しかしながら、原告の算式等による解釈方法は極めて特異で採用しがたいものであることは前説示のとおりであるところ、<証拠略>によれば被告署長は右答弁書において、措置法二九条の四の適用について算式を立てるとしてもそれは、同条の条文に基づくものでなければならず、条文の文言の解釈を別にして、算式の正誤だけを論ずることはできないと主張したうえ、同条につきいわゆる合計説をとるべき解釈上の論拠を主張していることが認められ、右は、原告の審査請求の理由に対応する主張として適法かつ適切なものというべきである。従つて請求原因3(一)は理由がない。

2  請求原因3(二)について

原告が担当審判官に対しその主張のとおりの申立てをしていたことは当事者間に争いがない。

原告は右申立てにもかかわらず反論の機会を与えられなかつたので本件裁決には釈明義務を怠り、通則法九五条ないし九七条、特に九七条一項に違反する違法があると主張する。

しかしながら、通則法九七条一項は、審理を行うため必要があるときに担当審判官に質問等の権限を与えたものに過ぎず、審査請求人から申立てがある場合でも必ずしも質問権を行使しなければならないものでないことはその文理上明らかである。のみならず、本件の審査請求においては、原告主張のいわゆる各別説の当否のみが争点であり、その各別説の根拠づけは極めて特異なものであるところから、樋口審判官は二回にわたり原告に面接してその意見を聞いており(この点は当事者間に争いがない。)、<証拠略>によれば同審判官は質問を交えながら十分に意見を開陳させたことが認められるから、本件裁決には釈明義務を怠り原告に反論の機会を与えなかつた違法はなく、もとより通則法九五条ないし九七条違反の違法もない。従つて請求原因3(二)は理由がない。

3  請求原因3(三)について

(一)  原告は、本件の審査請求の理由の根幹である算式上の主張が本件裁決においては目立たないように用語の説明の一部として別紙に算式の一部のみが記載されているに過ぎず、しかもその算式は原告の主張したものと異なり附記説明にも誤りがあり、また、本件裁決は算式の当否に触れず、ただ「その」、「係る」、「当該」なる文言の解釈を示し、これを「綜合」するのみで審査請求を棄却したから、理由を示さぬ違法があると主張する。

本件裁決が原告主張の二、三の文言を取り上げて判断し、結局審査請求を棄却したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、本件裁決には原告主張の算式をも含め、その主張の根幹を誤解したような瑕疵は存しない。先に説示したごとく本件の審査請求の唯一の争点は措置法二九条の四の解釈であり、原告の強調する算式上の主張も右規定の解釈に立脚しなければならないものであるが、<証拠略>によれば、被告所長は同条の解釈を示したうえ、いわゆる合計説が正当であると結論し、これに反する原告のいわゆる各別説の主張を排斥したものであることが認められるから、原告の算式等による主張も理由がないものとして排斥されたことは明らかである。そして右の主張は極めて特異にして到底採用しがたいものであるから、これにつき逐一採用しない理由を説示する必要のないことはいうまでもない。従つて本件裁決には理由が付されているものというべきである。

(二)  原告は本件の裁決書には「その」、「係る」、「当該」なる文言についての原告の主張が歪曲されて記載されていると主張する。

しかしながら前認定のように本件裁決には原告の主張の根幹を誤解したような瑕疵は存しないのみならず、<証拠略>によれば本件裁決は措置法二九条の四の解釈を正当に示していることが認められるから、原告の右主張は失当である。

(三)  原告は合計説は違法であるから合計説を採用した原処分に対する審査請求について合計説を適法として棄却した本件裁決には固有の瑕疵があると主張するが、右主張が行政事件訴訟法一〇条二項により許されないことは明らかである。

また原告は仮に合計説が相当であるとしても理由が誤つているときは本件裁決は違法であると主張するけれども、前説示及び<証拠略>により認められる本件裁決の理由を対比すれば本件裁決の理由は正当であるから、右主張も失当である。

(四)  従つて本件裁決には原告主張の違法はなく、請求原因3(三)の主張はすべて失当である。

4  よつて原告の被告所長に対する請求は理由がない。

四  以上の次第で原告の被告両名に対する請求はいずれも理由がないのでこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 時岡泰 満田明彦 揖斐潔)

別紙一 <略>

別紙二

X:法28条2項による計算主語たる給与所得の金額

X°例として減額される給与所得金額

x:特例給与(X°その金額を減額して算入すべき給与)の収入金額に代わつて減額算入すべき金額

c:給与所得控除額

c′:特別控除額

y:X又はxの計算要素たる給与等の共通記号

y°のうちの特例公的年金(公的年金のうち措置法29条の4第1項の特例条件に適合する年金)等の共通記号

y′1y°:それぞれy1y°収入金額

yi,y°i,xi:iによつて特定された特定のy1y°1x。例えばi=1は給料、i=3は恩給、i=4は年金。

y′x:X°上の特定給与につきその金額をxとして減額すべきy′

y°x:その金額y°xをxに減額すべき給与源

yetc:y1,y3,y4,yetcとあるのはy1,y3,y4の他その他の特定のyの意味

別紙三

X=(y1′+y3′+y4′)-c             …算式I

x=y°x′-78万或いはxi=y°i′-78万(i=3,4,etc) …算式II

X°y1′+x3+x4)-c={y1′+(y°3′-78万)+(y°4′-78万}-c                        …算式III

X°y1+(y°3+y&$176;4′)-78万}-c          …算式IV

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