東京地方裁判所 昭和58年(む)415号 決定 1983年5月27日
被疑者 加藤三郎
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
一 本件準抗告申立の趣旨及び理由の要旨は、「申立人は被疑者の弁護人となろうとする弁護士であるが、昭和五八年五月二五日東京地方検察庁検察官尾崎幸宏に対し被疑者との接見を申入れたところ、同検察官は同月二六日、何ら正当な理由がないのに右接見を拒否したので、右接見拒否処分の取消と同月二七日午後一時から同四時までの間三〇分間の接見を認める旨の裁判を求める。」というのである。
二 そこで検討すると、本件記録及び当裁判所の事実調の結果によれば、被疑者は前記被疑事件につき昭和五八年五月一六日逮捕され、同月一八日勾留決定を受けて現在代用監獄である警視庁本部留置場に勾留されているものであること、被疑者は、逮捕された直後、司法警察員に対して、弁護人としていわゆる救対の庄司宏弁護士を選任したい旨述べたので、右依頼を受けた同弁護士は、同月一七日弁護人となろうとする者として被疑者と接見し、その際被疑者から、同弁護士を弁護人として選任する旨の弁護人選任届を受取り、同月二〇日これを警察官に提出したうえ、同月二四日弁護人として再度被疑者を接見したこと、右のとおり、庄司弁護士が弁護人となろうとする者又は弁護人として合計二回被疑者と接見しているのであるが、このほか同月一八日には武内俊文弁護士が、同月一九日には申立人が、同月二一日には伊神喜弘弁護士が、同月二六日には富永敏文弁護士が、いずれも庄司弁護士の依頼を受け(伊神弁護士を除く。)弁譲人となろうとする者として被疑者と接見していること、右のうち、武内弁護士が被疑者と接見した際、被疑者は弁譲人選任届二通(うち一通は武内弁護士の署名のあるもの、一通は弁譲人欄空白のもの)にそれぞれ自署してこれを同弁護士に渡したこと、被疑者と接見した右各弁護士のうち伊神弁護士を除いた庄司、武内、申立人、富永の各弁護士は、いずれもいわゆる救対に属する弁護士であつて、日頃たがいに連絡をとりつつ、時間のあいている者が被疑者と接見しているものであることが認められる。
ところで、弁譲人となろうとする者の被疑者との接見交通権は、被疑者から被疑事件を聴取することにより弁譲人として受任するか否かを決定し、かつ被疑者の選任の意思を明確にすることなどを主たる目的とするものであつて、弁譲人としての活動をすることまでも許すものではないと解されるところ、前記のとおり、申立人は既に同月一九日に被疑者との接見を了しているほか、申立人と同じいわゆる救対に属し、日頃申立人と連絡を取り合つている三人の弁護士が既に合計四回にわたつて被疑者と接見し、しかも武内弁護士が被疑者から被疑者が自署した弁譲人選任届二通を受け取つていることなどを総合考慮すると、現時点において申立人は、弁譲人として受任するかどうかを決定し、かつ弁譲人選任届を提出することが十分可能な状態にあるものといわざるをえず、従つて、現時点においては、申立人は弁譲人選任届を提出し、弁譲人として被疑者と接見すべきものというべきである。そうすると、検察官が現時点において申立人に対し、弁譲人選任届を提出しない限り被疑者との接見を認めない旨の処分をしたのは妥当であつて、これを違法不当な処分ということはできない。
三 よつて、本件準抗告の申立は理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 松本昭徳)