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東京地方裁判所 昭和58年(ソ)19号 決定

【主文】

原決定を取消す。

本件移送の申立を却下する。

【理由】

一抗告人は、主文同旨の裁判を求め、その理由として要旨次のように主張した。

1  原決定は、久留米市が本件請求原因たる不法行為のあつた地に該当し、久留米簡易裁判所も管轄裁判所であるとして、本件訴訟を同裁判所に移送するとしたが、右不法行為地は東京都練馬区であつて、同市ではないから、同裁判所は管轄裁判所ではない。

2  原決定は、本件訴訟を民事訴訟法三一条により移送すべきものとするが、本件訴訟は同条の要件に該当しない。すなわち、原決定は、本件訴訟の審理にあたつては相手方のいう証人尋問及び検証等の証拠調べを必要とすることが記録上容易に予測できるとするが、既に相手方は、争点の一つである久留米市所在の抗告人所有地(以下「本件土地」という。)に対する仮換地指定変更処分(以下「本件処分」という。)が照応原則に反して違法であることを、抗告人の求めに応じて右処分を撤回することにより認めているから、これについての証人尋問及び検証等は不要である。そうでなくとも、本件土地の形状は簡明で、右争点の判断に必要な事実は公文書を中心とした書証や現場写真で容易に認定できるから、やはり本件土地の検証は必要なく、証人尋問もごく少数(主に相手方職員)で足り、嘱託尋問によることも可能である。

これに対し、被害者である申立人は、東京都在住の弁護士であつて多忙を極め、本件訴訟のため久留米簡易裁判所に出頭することになれば、その時間、費用のほか収入の面でも多大の損失を被ることになり、これは、民事訴訟法一五条で不法行為地の裁判所に管轄を認めた趣旨にも反することである。

二そこで判断するに、まず、久留米簡易裁判所は被告たる相手方の普通裁判籍所在地を管轄する裁判所であるから、不法行為地を論ずるまでもなく、同裁判所が管轄裁判所でないとする抗告理由1は結局失当である。

次に、本件訴訟を民事訴訟法三一条により、同裁判所に移送すべきか否か(抗告理由2)について検討する。

一件記録によれば、本件訴訟は、抗告人が相手方に対し、相手方が行つた土地区画整理法に基づく本件処分が、実体的にも手続的にも違法であるとして、これによつて被つた損害(本件処分の変更を求めるために要した費用)の賠償を求めるものと認められ、争点としては、照応原則(同法九八条二項、八九条)違反又は手続的瑕疵、(抗告人名義の仮換地指定変更届の偽造、仮換地指定変更通知の懈怠等)による本件処分の違法性、これらについての相手方の故意又は過失並びに損害の各点が予想される。そして、相手方は、原審で提出した「移送申立書」及び「補充書」において、右照応原則違反の点に関して本件土地の検証及び現地での証人尋問が必要である旨主張するが、一件記録によれば、被告の本件処分の適法性についての主張は、同処分が関係者の仮換地指定変更届に基づいてなされたものであるという点に主眼があると認められるうえ、従前の土地の位置、地積、地形及び利用状況等並びに本件処分の内容は、右争点の判断に必要な程度ならば、公文書を中心とした書証(図面等)、現場写真及び、なお不十分な場合は補充的な人証によつて相当程度明らかになると予想されるから、訴訟の現段階では、本件土地の検証及び現場での証人尋問まで行う必要があるとは認められない。また、人証の取調べは、右のほか、前記手続的瑕疵、故意又は過失(具体的には本件処分の経緯等)並びに損害について必要であると認められるが、一件記録によれば、現地で本件処分に中心的に関与した稲益勲は既に死亡していることが認められ、残る関係者の稲益ツルも高齢で取調べが可能であるか否かは疑わしく、結局取調べを予想しうるのは証人として相手方担当職員若干名と抗告人本人程度であり、原裁判所で審理したとしても人証の出頭確保上の不安は少なく、これに要する費用及び証人の負担も許容できないほどのものとは考えられない。

以上の事情に加え、抗告人が東京都在住であることを考慮すると、原裁判所で審理することによる相手方の損害が、久留米簡易裁判所で審理することによる抗告人の損害を著しく上回るとは認められず(なお、この点に関して、原決定挙示の抗告人が弁護士であるという事実は、本件においては必ずしも重要な事情とは解されない。)、また、原裁判所において審理するときは審理が著しく遅滞するとも認められない。他に右判断を左右するに足りる資料はない。

よつて、民事訴訟法三一条により本件訴訟を久留米簡易裁判所に移送する旨の原決定は失当であるからこれを取消し、主文のとおり決定する。

(野田宏 鈴木健太 半田靖史)

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