東京地方裁判所 昭和58年(ワ)10680号 判決
一 請求の原因1の事実は、当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一号証(本件特許公報、別添特許公報と同じ。)によると、本件発明の構成要件は、請求の原因2(一)のとおり、イないしヌからなるものと認められる。
二 被告日本電気が、昭和五七年五月以前のある時期において、被告方法により可撓管を製造したこと、被告方法が別紙目録(一)記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右目録の記載及び弁論の全趣旨によれば、被告方法は、請求の原因4のとおり、(イ)ないし(ヌ)の各構成からなるものと認められる。
三 そこで、被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か検討する。
1 先ず本件発明の構成要件と被告方法の構成のうち構成要件トと構成(ト)とを対比してみるに、前者が、中央部溝の高さ以上の寸度の芯金を、溝側面にして水平折曲面の裏側の可撓管巻取金との間に介在させることを要件としているのに対し、後者は、低い方の水平折曲面を基準とした溝の高さよりも帯金の厚さdの〇・三倍の寸法だけ低い寸度の芯金を、溝側壁4の側面にして水平折曲面の裏側の可撓管巻取金との間に介在させている点で異つており、このこと自体は原告も自認しているところである。
2 しかるところ、原告は、被告方法の構成(ト)は、本件発明の構成要件トに、何ら格別の作用効果を奏さない、単なる権利侵害を免れるための構成を付加したものにすぎないので、結局、構成要件トを充足することになる旨主張するので、以下その当否について検討する。
前掲甲第一号証によると、本件発明の構成要件トは、本件発明の奏する作用効果として、本件特許公報の発明の詳細な説明の項に記載された「上下の折曲面を螺旋状に重合してはぜ継ぎするに当り、溝側面にして水平折曲面の裏側には可撓管巻取金との間に中央部溝の高さ以上の寸度の芯金を介在せしめることにより、押圧ローラーによる折曲部の押し倒しにより中央部溝が押潰されることを防止」するための、必須不可欠の構成要件であり、芯金の寸度が中央部溝の高さと等しい場合が含まれるか否かを議論するまでもなく、右芯金の寸度が中央部溝の高さよりも低い場合は、右押し潰し防止という作用効果が奏されることはないことは明らかである。
ところで、被告方法において、本件発明にいう中央部溝の高さが、どこの高さを示すかはさておいても、芯金の寸度が、低い方の水平折曲面を基準とした溝の高さあるいは高い方の水平折曲面を基準とした溝の高さのいずれよりも低いのであるから、被告方法においては、前掲の押し潰し防止という作用効果が奏されることはなく、むしろ、中央部溝は積極的に押し潰されることになり、本件発明の作用効果とは全く逆の作用効果を奏することになる。本件発明の作用効果を奏する上で、このように必須不可欠の構成要件を充足しない場合には、これが本件発明の技術的範囲に属さないことは多言を要しないところであり、この理は、芯金の高さが、中央部溝の高さより低い割合が僅少であるか否か、あるいはこれが低いことにより格別の作用効果が奏されるか否かによつて径庭をきたすものではない。
したがつて、原告の主張は採用できない。
3 以上のとおり、被告方法は、本件発明の構成要件トを充足しないから、その余の点について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。
四 よつて、被告方法が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却する。
〔編註その一〕 本件発明の構成要件は左のとおりである。
イ 長尺帯金を中央部を適宜幅及び深さの溝となし、
ロ この溝の両縁を両側に適宜幅に等しく水平に折曲し、
ハ この水平折曲面の両端を適宜長さ等しく互に上下反対方向に折曲せしめてなる形状に成形し、
ニ この下方に折曲した折曲部を上方に折曲した折曲部に螺旋状に重合し、
ホ この重合面をはぜ継ぎしてなることにより構成される可撓管に於て、
ヘ 上下の折曲面を螺旋状に重合してはぜ継ぎするに当り、
ト 溝側面にして水平折曲面の裏側には可撓管巻取金との間に中央部溝の高さ以上の寸度の芯金を介在せしめて、
チ はぜ継ぎすべく押圧ローラーによりはぜ折りせしめ、
リ 後、芯金を引き抜いてなる、
ヌ 可撓管の製法
〔編註その二〕 被告方法の構成は左のとおりである。
(イ) 長尺帯金1を、幅方向の中心2より帯金の厚さdの二倍の寸法2dだけ幅方向に偏移した位置3を中心とした適宜幅の溝となし、
(ロ) 前記片寄せた側の側壁4に続く水平折曲面6の高さが、他の側の側壁5に続く水平折曲面7の高さより帯金の厚さdの三倍の寸法3dだけ低い寸法関係で両側壁が水平に折曲した形状に成形し、
(ハ) 高い方の水平折曲面7の幅が低い方の水平折曲面6の幅より帯金の厚さdだけ広い寸法関係で、高い方の水平折曲面7の所定位置を下方に折曲して下方折曲面9となし、低い方の水平折曲面6の所定位置を上方に折曲して上方折曲面8となし、
(ニ) この下方折曲面9を上方折曲面8に螺旋状に重合し、
(ホ) この重合面をはぜ継ぎしてなることにより構成される可撓管に於いて、
(ヘ) 上方折曲面8と下方折曲面9を螺旋状に重合してはぜ継ぎするに当り、
(ト) 溝側壁4の側面にして水平折曲面6の裏側には可撓管の巻取金11との間に、低い方の水平折曲面6を基準とした溝の高さhよりも帯金の厚さdの〇・三倍の寸法だけ低い寸度の芯金1を介在せしめて、
(チ) はぜ継ぎすべく押圧ローラーによりはぜ折りせしめ、
(リ) 後、芯金を引き抜いてなる、
(ヌ) 可撓管の製法