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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)1176号 判決

一 請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二 右当事者間に争いのない本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によると、本件考案の構成要件は以下のとおりであることが認められる。

1 乾燥室の内部にチエンへ軸着した通気性乾燥板を、ガイドにより水平に保持させる複数段の移動棚を設け、これらの棚に下方から熱風を供給する茶葉等の乾燥機において、

2 上記各ガイドの後部に、

(一) 乾燥板を希望位置において一挙に物品の起動角まで傾斜させる段落と、

(二) 起動角まで傾斜した乾燥板の傾斜角度を漸増させる傾斜面

とを設けたこと、

3 右2を特徴とする改良形乾燥機

三 被告が遅くとも昭和五二年一月から被告製品を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によると、被告製品の構造は以下のとおりであることが認められる。

1 乾燥室1の内部に、ガイド2が複数設けられ、これらガイドの上を複数の無端チエン3へ軸着した多孔性乾燥板4が該ガイドにより水平に保持されたまま移動することによりなる複数段の移動棚5が設けられており、これらの棚に下方から熱風を供給して茶葉等を乾燥させる乾燥機であり、

2 右各ガイドに、

(一) その乾燥板移動方向後方部分へ、傾斜角ほぼ七二度の傾斜面(A傾斜面)と

(二) 傾斜角ほぼ四二度の傾斜面(B傾斜面)

とを連続して形成した

3 乾燥機

四 被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

1 被告製品の構造1が本件考案の構成要件1を充足することは明らかであり、なお、この点は被告も争わない。

2 本件考案の構成要件2(一)と被告製品の構造2(一)とを対比する。

(一) まず、前掲甲第二号証によると、本件明細書においては、「段落」と「傾斜面」とが用語として使い分けられていることが認められるところ、「段落」とは一般に物事の区切りないし切れめを意味するものである。

次に、右甲第二号証によると、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、従来の乾燥機の構成及び欠点について、「従来一般の乾燥機は乾燥板ガイドの後部を図面第3図に示す様に希望位置Cを起点とした緩勾配の斜面に形成して、乾燥板3を徐々に傾斜させ・・・る様に設計したものであつたが、茶葉等の物品は乾燥板3・・・の角度が物品の起動角α即ち、物品が傾きにより動き始める角度・・・以上になつたとき急に落下を始めるから、下部の乾燥板3上には図面第3図に示す様に物品が全然落ちない部分と、山状に重なつて落ちる部分とが出来るため、・・乾燥効果が極めて悪く、又乾燥板を徐々に傾斜させるときは、枢軸部の不具合等により、之が傾斜することなくチエンの換向部に移動し、この部分に物品をこぼしてしまう欠点があつた。」との記載(本件公報一欄三七行目から二欄一七行目まで)があることが認められる。そして、右にいう起動角αが静止摩擦が破れる際の傾斜角であることは、力学上明らかである。

また、前掲甲第二号証によると、右詳細な説明の欄には、本件考案にかかる乾燥機の作用効果について、本件考案にかかる乾燥機は、前記登録請求の範囲記載の構成を採用したから、「乾燥板3を図面第4図に示す様に希望位置Cにおいて起動角α迄傾かせ、この部分から下段の乾燥板3上へ物品を落下させ始めると共に、起動角αに達した乾燥板3の傾斜角度を傾斜面10により漸増させて、物品を下段の乾燥板3上へ徐々に落下させ、・・・乾燥棚Aの全面に平均した物品層を形成させるため、・・・茶葉その他の物品を極めて能率よく乾燥することができるばかりでなく、ガイドに段落を設けて乾燥板を物品の起動角迄急速に傾斜させるときは、枢軸部に多少の不具合がある場合でも、乾燥板は確実に傾斜して下段の乾燥板へ物品の送り出しを行う」との記載(本件公報二欄二二行目から三六行目まで)があることが認められる。ところで、右にいう起動角αは、前述の従来機におけるそれとは異なり、静止摩擦より小さい傾斜角を意味するものというべきである。けだし、仮に本件考案における起動角αが静止摩擦の破れる際の傾斜角であるとすれば、たとえ乾燥板が右起動角αまで急速に傾斜したとしても、本件考案は、従来機と同様に、乾燥板の傾斜が起動角以上になつたとき、物品が急に落下を始め、山状に重なつて落ちる部分ができるという欠点を免れえないことになるからである。そして、本件考案において、起動角αが静止摩擦の破れる際の傾斜角より小さくなる理由は、乾燥板が段落を落下して傾斜面に衝突した際の弾みを利用したことによるものであることが明らかであり、当事者双方ともこれを認めている。

更に、前掲甲第二号証によると、本件考案の実施例を示す願書添付図面第四図(本件公報第4図)では、段落9が垂直状のものとして図示されていることが認められる。

以上に述べた諸点を合わせ考えると、本件考案にいう「乾燥板を希望位置において一挙に物品の起動角まで傾斜させる段落」とは、必ずしも垂直な形状のみに限られないが、(1)乾燥板が希望位置又はその直近において自然落下し、落下を開始してから時間的な間隔をおかずに右段落に続く傾斜面に衝突することができ、(2)この衝突時の衝撃及び衝突時に形成される乾燥板の角度により静止摩擦を破る角度よりも小さい角度で起動角を形成することができるに十分な落差を有する形状のものを意味するというべきである。

(二) これに対し、被告製品の乾燥板ガイド2は、前記三2のとおり、傾斜角ほぼ七二度のA傾斜面と傾斜角ほぼ四二度のB傾斜面とを連続して形成したものである。

そして、弁論の全趣旨により原告ら主張のとおりの写真であることが認められる甲第一九号証、第二四、第二五号証(ただし、甲第一九号証の被写体と撮影者が原告ら主張どおりであることは当事者間に争いがない。)、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙第二号証の一、二及び弁論の全趣旨により被告主張のとおりの写真であることが認められる乙第一六号証の二によると、被告製品における乾燥板の下降状況を撮影した八ミリフイルム(一秒間に三五コマのスピードで撮影したフイルム)である甲第二四号証では、乾燥板がA傾斜面を下降し始めてから茶葉が落下を始めるまで(すなわち、起動角を形成するまで。)約九コマ(三五分の九秒以下コマ数と時間の関係はすべて同じ。)を、茶葉が落下し始めた九コマ目から乾燥板がB傾斜面の終わりまでくるのに約一〇コマを、乾燥板がB傾斜面をはずれてから、摺動しない状態で落下して垂線位置に垂下するまで約二コマを要していることA傾斜面の開始地点から起動角を形成する地点までの長さと乾燥板がB傾斜面をはずれてから垂線位置に垂下するまでの長さとでは、大差がないこと、しかるに、降下に要した時間は前者のほうがはるかに長いこと、茶葉が落下し始めた九コマ目において、乾燥板の先端はA傾斜面を経てB傾斜面にわずかに入つた地点にあつたこと、甲第二四号証と同様の八ミリフイルムである甲第一九号証(ただし、乾燥板に茶葉が載つていないので、この場合の起動角は不明である。)においても、約六コマをかけて乾燥板がA傾斜面を下降していること、従来機(乾燥板ガイドの後部を緩勾配の斜面に形成したもの。)における乾燥板の下降状況を撮影した前同様の八ミリフイルムである甲第二五号証では、乾燥板が傾斜面を下降し始めてから茶葉が落下を始めるまで七コマないし一〇コマを、茶葉が落下し始めた七コマないし一〇コマ目から乾燥板が傾斜面の終わりまでくるのに七コマないし一〇コマを、乾燥板が傾斜面をはずれて垂直になるまで約二コマを要していることがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると、被告製品においては、乾燥板4が自然落下するのではなく、A傾斜面及びB傾斜面を摺動しながら下降し、本件考案にいう希望位置に該当するA傾斜面の傾斜開始位置から離れた地点である、B傾斜面にわずかに入つた地点で起動角を形成しており(したがつて、下降を開始した乾燥板がA傾斜面ないしB傾斜面に衝突するということはない)、かつ、起動角形成までの時間が従来機とほぼ同様の三五分の九秒程度であつたことがそれぞれ明らかである。

したがつて、被告製品のA傾斜面は、(1)乾燥板4が希望位置又はその直近において自然落下し、落下を開始してから時間的な間隔をおかずにB傾斜面に衝突することができる形状であるとも、(2)この衝突時の衝撃及び衝突時に形成される乾燥板4の角度により、静止摩擦を破るよりも小さい角度で起動角を形成することができるに十分な落差を有する形状であるとも認められない。

(三) してみると、被告製品は、本件考案にいう「乾燥板を希望位置において一挙に物品の起動角まで傾斜させる段落」を備えていると認めるには足りない。

なお、原告らは、被告製品においては、乾燥板4がA傾斜面を摺動し始めてから約〇・二秒という瞬時にB傾斜面に達し(A傾斜面を降りきり)、かつ、B傾斜面に達した段階で乾燥板4に衝撃(強いブレーキ)がかかつて、静止摩擦を破る角度よりも小さな角度のうちに乾燥板4上の茶葉等が起動し始めるから、被告製品のガイドのA傾斜面は、本件考案の構成要件(二)の「ガイドの後部に設けた段落」に当たると主張する。

しかし、右に述べたとおり、被告製品にあつては、乾燥板4がA傾斜面を下降し始めてから起動角に達するまでの時間が従来機とほとんど変わらないし、B傾斜面に達した段階で乾燥板4に衝撃(強いブレーキ)がかかるとしても、これが物品の起動角の形成に何らの影響を及ぼさないことは被告の指摘するとおりである(請求の原因に対する認否記載6(一)末段参照。)から、原告らの主張は理由がない。

よつて、被告製品は、本件考案の構成要件2(一)を充足せず、本件考案の技術的範囲に属しない。

五 以上の事実によれば、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却する。

〔編註その一〕本件考案の実用新案登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、左のとおりである。

「乾燥室の内部にチエンへ軸着した通気性乾燥板をガイドにより水平に保持させる複数段の移動棚を設け、之等棚に下方から熱風を供給する茶葉等の乾燥機において、上記各ガイドの後部に、乾燥板を希望位置において一挙に物品の起動角迄傾斜させる段落と、起動角迄傾斜した乾燥板の傾斜角度を漸増させる傾斜面とを設けたことを特徴とする改良形乾燥機。」

〔編註その二〕本件に関する物件目録は左のとおりである。

一 製品の名称

1 自動乾燥機 120K―2

2 自動乾燥機 120K―3

3 自動乾燥機 60K―1

4 自動乾燥機 60K―2

二 構成(各機種共通)

乾燥室1の内部に、ガイド2を複数段設け、これらガイドの上を複数の無端チエン3へ軸着した多孔性乾燥板4が該ガイドにより水平に保持されたまま移動することにより成る複数段の移動棚5が設けられており、これらの棚に下方から熱風を供給して茶葉等を乾燥させる乾燥機において、各ガイドに、その乾燥板移動方向後方部へ、傾斜角ほぼ七二度の傾斜面6と傾斜角ほぼ四二度の傾斜面7とを連続して形成した乾燥機。

<省略>

<省略>

〔編註その三〕本件実用新案の明細書添付の図面は左のとおりである。

<省略>

<省略>

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