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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)52号 判決 1985年10月28日

原告

有限会社郡山シューパーツ

右代表者代表取締役

林裕

原告

株式会社サンコー

右代表者代表取締役

木村稔

原告

昭和ゴム株式会社

右代表者代表取締役

矢島政吉

原告

有限会社白井

右代表者代表取締役

白井孝昭

原告

大日ゴム株式会社

右代表者代表取締役

中村一郎

原告

東洋化工株式会社

右代表者代表取締役

石川政夫

原告

東京栗原産業株式会社

右代表者代表取締役

栗原貞利

原告

株式会社廣瀬

右代表者代表取締役

廣瀬ミチ子

原告

有限会社邊見商店

右代表者取締役

邊見忠夫

原告

平和ゴム工業株式会社

右代表者代表取締役

水山惠造

右一〇名訴訟代理人弁護士

西本恭彦

被告

三浦錦吾こと

文麗玉

右訴訟代理人弁護士

松井宣彦

主文

一  被告は別紙認容額表記載の原告らに対し、同表記載の各金員及びこれらに対する昭和五八年二月三日から各支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告東洋化工株式会社、同東京栗原産業株式会社、同株式会社廣瀬のその余の主位的請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  主位的請求

被告は別紙請求額表記載の原告らに対し、同表記載の各金員及びこれらに対する昭和五八年二月三日から各支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  予備的請求

被告は別紙請求額表記載の原告らに対し、同表記載の各金員及びこれらに対する昭和五八年二月三日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(主位的請求原因)

1 原告らは、いずれも靴材料の販売を目的とする会社である。

2 原告らの債権

(一) 原告有限会社郡山シューパーツは訴外有限会社ミウラ(変更前の商号は有限会社三浦商店、以下「本件会社」という。)に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、スタックヒール等を売り渡し、その残代金は金四〇六万九七四五円である。

(二) 原告株式会社サンコーは本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、中底材料等を売り渡し、その残代金は金二九七万一四四八円である。

(三) 原告昭和ゴム株式会社は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、ゴルフユニットソール・ケショウバン等を売り渡し、その残代金は金二四五万七一六二円である。

(四) 原告有限会社白井は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、靴底用合成ゴム材料等を売り渡し、その残代金は金一四六万六四〇〇円である。

(五) 原告大日ゴム株式会社は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、製靴用ゴム板各種ヒール等を売り渡し、その残代金は金四四九万九一五一円である。

(六) 原告東洋化工株式会社は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、ゴムクレープ底材・ゴムスポンジ底板等を売り渡し、その残代金は金一一〇五万四三七五円である。

(七) 原告東京栗原産業株式会社は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、靴部品ヒール等を売り渡し、その残代金は金三九六万一〇六九円である。

(八) 原告株式会社廣瀬は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、靴本底用の部品各種等を売り渡し、その残代金は金一九一万五一九〇円である。

(九) 原告有限会社邊見商店は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、底材料等を売り渡し、その残代金は金四四五万六五二一円である。

(一〇) 原告平和ゴム工業株式会社は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、スポンジゴム板等を売り渡し、その残代金は金一六四万三〇〇〇円である。

3 法人格否認の法理の適用

本件会社は形式上は法人格を有するものの、次の諸事情に照らすと、その実体は被告の個人企業で、本件会社即ち被告というべきものであるから、法人格否認の法理の適用により、2記載の各債務の負担に関する関係においては、被告にもその支払義務があるものである。

(一) 本件会社は、被告がかねてから営んでいた個人企業の製靴材料の加工及び販売事業を昭和五一年二月四日に法人組織にして設立した有限会社で、東京都台東区千束四丁目一一番一一号所在の被告所有の別紙物件目録三記載の建物に本店を置き、代表取締役である被告のほかに独自の従業員はおらず、被告の個人企業時代と同じ製靴材料の加工及び販売業を営んでいたが、昭和五七年八月二五日、不渡手形を発生させ倒産した。

(二) 本件会社は、登記簿上は、資本の総額三〇〇万円で、被告(出資額二〇〇万円)、その妻である訴外三浦由子(出資額一〇〇万円)の二名で社員を構成し、代表取締役である被告のほかに右三浦由子が取締役に就任していることになつているが、本件会社の運営については、被告がすべての経営上の実権を掌握し、一人で本件会社を切り廻していた。

(三) 本件会社はさしたる資産を有せず、金融機関からの借入には、被告の個人保証及び個人資産の担保差入を必要とした。

(四) 本件会社、被告間の金銭貸借は、被告の自由裁量でなされていた。

(五) 被告が本件会社を設立した目的は、税金の軽減及び債権者からの責任回避であつた。

4 よつて、原告らは被告に対し、別紙請求額表記載の各金員(売買残代金)及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年二月三日から各支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(予備的請求原因)

1 主位的請求原因1、2と同旨。

2 本件会社は昭和五七年八月二五日不渡手形を発生させて倒産してしまつたため、右各売買残代金は回収不能となり、原告らは各同額の損害を被つた。

3 有限会社法三〇条ノ三の責任

被告は、本件会社の代表取締役であるが、次のとおり取締役の職務を行うにつき悪意又は重過失があつたから、有限会社法三〇条ノ三の規定により原告らの被つた前記損害を賠償する責任がある。

(一) 被告は、前記のとおり原告らから商品を購入する際、代金を支払う意思も支払ができる見込もなく、原告らに損害を及ぼすことを熟知しながら、あえて原告らから商品を購入して原告らに損害を被らせた。

(二) 被告は、昭和五七年八月二五日、本件会社を計画的に倒産させた。

(三) 仮に、本件会社の倒産が訴外有限会社桜シューズ、同ボンシューズ、同有限会社宇津井の倒産による連鎖倒産であるとしても、被告は、右各会社の経営状態や支払能力に不安があることを知りながら、漫然と右各会社と取引を継続した。

4 よつて、原告らは被告に対し、別紙請求額表記載の各金員(売買残代金相当損害金)及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年二月三日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(主位的請求原因について)

1 主位的請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は不知。

3 同3は争う。

(一) (一)の事実は認める。但し、本件会社は六名の従業員を雇用していた。

(二) (二)の事実は認める。但し、訴外三浦由子も本件会社の運営に参画していた。

(三) (三)ないし(五)の事実は否認。

4 同4は争う。

(予備的請求原因について)

1 予備的請求原因1に対する認否は主位的請求原因に対する認否1、2と同旨。

2 同2の事実は不知。但し、本件会社が昭和五七年八月二五日不渡手形を発生させて倒産したことは認める。

3 同3は争う。(一)ないし(三)の事実は否認。

4 同4は争う。

第三  証拠<省略>

理由

第一主位的請求について

一主位的請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二原告らの債権について

1  原告有限会社郡山シューパーツ関係

<証拠>によれば、主位的請求原因2(一)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  原告株式会社サンコー関係

<証拠>によれば、主位的請求原因2(二)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

3  原告昭和ゴム株式会社関係

<証拠>によれば、主位的請求原因2(三)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

4  原告有限会社白井関係

<証拠>によれば、主位的請求原因2(四)の事実が認められ、右認定に反する甲第八号証の原告有限会社白井に関する記載の部分は前掲各証拠に照し容易に採用し難いところ、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

5  原告大日ゴム株式会社関係

<証拠>によれば、主位的請求原因2(五)の事実が認められ、右認定に反する甲第八号証の原告大日ゴム株式会社に関する記載部分は前掲各証拠に照し採用し難いところ、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

6  原告東洋化工株式会社関係

<証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

原告東洋化工株式会社は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、ゴムクレープ底材・ゴムスポンジ底板等を売り渡し、その残代金は金一〇九九万九九七五円である。

7  原告東京栗原産業株式会社関係

<証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

原告東京栗原産業株式会社は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、靴部品ヒール等を売り渡し、その残代金は金三九四万九五六八円である。

8  原告株式会社廣瀬関係

<証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定に反する甲第八号証の原告株式会社廣瀬に関する記載部分は前掲各証拠に照し採用し難いところ、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

原告株式会社廣瀬は本件会社に対し、昭和五七年一月二一日から同年八月二五日までの間、靴本底用の部品各種等を売り渡し、その残代金は金一九〇万七三二四円である。

9  原告有限会社邊見商店関係

<証拠>によれば、主位的請求原因2(九)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

10  原告平和ゴム工業株式会社関係

<証拠>によれば、主位的請求原因2(一〇)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三法人格否認の法理の適用について

原告らは、本件会社の法人格は形骸にすぎず、濫用されているものであるから、その背後の実体である被告に本件各売買残代金の支払義務がある旨主張するので、以下検討する。

法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合に法人格を認めることは、法人格の本来の目的に照して許すべからざるものであるから、取引の相手方は会社という法人格を否認して、法人格がないのと同じようにその背後者たる個人の行為であると認めて、その責任を追求することができるものと解するのが相当である。

そこで、これを本件についてみるのに、次の事実は当事者間に争いがない。

1  本件会社は、被告がかねてから営んでいた個人企業の製靴材料の加工及び販売業を昭和五一年二月四日に法人組織にして設立した有限会社で、東京都台東区千束四丁目一一番一一号所在の被告所有の別紙物件目録三記載の建物に本店を置き、被告の個人企業時代と同じ製靴材料の加工及び販売業を営んでいたが、昭和五七年八月二五日、不渡手形を発生させ倒産したこと。

2  本件会社は、登記簿上は、資本の総額三〇〇万円で、被告(出資額二〇〇万円)、その妻である訴外三浦由子(出資額一〇〇万円)の二名で社員を構成し、代表取締役である被告のほかに右三浦由子が取締役に就任していること。

右争いのない事実、<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果(第一、二回―各一部)は前掲各証拠に照し容易に採用し難いところ、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

1  本件会社は、代表取締役である被告のほかに従業員六名を雇用して、製靴材料の加工及び販売業を営んでいたが、右従業員に対する給料の支払は労務費ではなく外註費または外注加工費としてなされていたこと。

2  被告の妻である訴外三浦由子は、社員として本件会社の運営に参画したような形跡はなく(本件会社の社員総会が現実に開催されたことを認めるに足る証拠はない。)、また、役員報酬を受領することもなく、本件会社の運営については、被告がすべての経営上の実権を掌握し、一人で本件会社を切り廻し、三浦由子の役員報酬も自由に処分していたこと。

3  本件会社の登記簿上の目的は、(一)製靴材料の加工及び販売(二)純喫茶店及びスナックの経営(三)麻雀業(四)不動産の賃貸及び管理等であるが、本件会社が実際に営んでいたのは右(一)の事業のみであり、右(二)ないし(四)の事業は被告が個人名義で営んでおり、右三浦由子は、もつぱら右(二)ないし(四)の事業に従事していたこと。

4  本件会社は、被告所有の建物を借り受けて事業を営んでいるものであり、ある程度の預金(金五〇〇万円前後)を有していたが、有形資産は、裁断機ほか一七台の機械、自動車二台及び工具・備品程度で見るべきものはなく、法人としての企業活動を続けていくには、その経済的基盤は弱少であつたため、金融機関との取引においては、被告の個人保証及び被告所有の別紙物件目録記載の各不動産の担保差入を必要とし、このことからうかがえるように、本件会社の運営は、被告個人の信用に依存せざるを得ない状況にあつたこと。

5  被告は、昭和五〇年九月二七日、別紙物件目録一記載の建物を前記個人事業用に購入し、その購入代金を訴外株式会社三和銀行(取扱店三河島支店)から借入れ、同目録一ないし三記載の各不動産について根抵当権(極度額七〇〇〇万円)を設定したが、昭和五二年六月三〇日、自己の意のままに、訴外永代信用組合(取扱店浅草支店)から本件会社名義で金五五〇〇万円を借入れ、本件会社から右金員の一部を借入れて、被告の右株式会社三和銀行に対する債務の弁済に充て、本件会社の右永代信用組合に対する債務の担保として右各不動産に根抵当権(極度額五五〇〇万円)を設定したこと。

6  被告は、自己の意のままに、昭和五六年六月一九日、訴外永代信用組合(取扱店浅草支店)に、被告名義の定期積立預金口座を開設し、本件会社の金銭をもつて右口座に振込んだこと。

7  本件会社には経理担当の女子事務員がいて記帳を行つており、税金の申告についても、被告とは別個に確定申告をしており、経理上個人と会社は一応区別されていたが、被告は、自己の意のままに、本件会社、被告間の金銭貸借を行つていたこと。

右争いのない事実及び認定事実によれば、本件会社は、有限会社形態をとつてはいるものの、持分を有する社員は被告及びその妻であるいわゆる法人成りした同族会社であり、しかも、妻の持分は実質的には被告の所有に属するものと考えられるから、被告は、実質的には、本件会社の全持分を所有し、本件会社を自己の意のままに支配することができる地位にあつて、実際に自己の意のままに支配してきたものであり、本件会社が組織及び管理方法が簡素で会社の自治にゆだねられる部分の多い有限会社であるという点を考慮しても、なお法の要求する意思決定の方式が履践されていなかつたものであるから、本件会社は法人とはいつても全く形骸化していて、その実質は背後にある被告が本件会社の名義を用いて個人で事業を行つていたのにほかならないというべきである。

なお、経理上本件会社と被告は一応区別されていたが、法の要求する会社の意思決定の方式が履践されていないということは、とりもなおさず会社運営の成果である利益の処分を被告が自己の意のままに行つていたことにほかならないから、右の点は法人格否認の法理を適用する妨げとはならない。

従つて、本件会社の実体は全く被告の個人企業にほかならないものと目すべく、本件会社即被告であつて、法人格は形ばかりであるから、取引の相手方たる原告らは、被告に対しても本件会社に対すると同一の責任を追求することができるものというべきである。

第二以上によれば、原告らの主位的請求は、別紙認容額表記載の各金員及びこれらに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五八年二月三日から各支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官渡邊了造)

請 求 額 表

(一)有限会社郡山シューパーツ

金 四〇六万九七四五円

(二)株式会社サンコー

金 二九七万一四四八円

(三)昭和ゴム株式会社

金 二四五万七一六二円

(四)有限会社白井

金 一四六万六四〇〇円

(五)大日ゴム株式会社

金 四四九万九一五一円

(六)東洋化工株式会社

金 一一〇五万四三七五円

(七)東京栗原産業株式会社

金 三九六万一〇六九円

(八)株式会社廣瀬

金 一九一万五一九〇円

(九)有限会社邊見商店

金 四四五万六五二一円

(一〇)平和ゴム工業株式会社

金 一六四万三〇〇〇円

認 容 額 表

(一)有限会社郡山シューパーツ

金 四〇六万九七四五円

(二)株式会社サンコー

金 二九七万一四四八円

(三)昭和ゴム株式会社

金 二四五万七一六二円

(四)有限会社白井

金 一四六万六四〇〇円

(五)大日ゴム株式会社

金 四四九万九一五一円

(六)東洋化工株式会社

金 一〇九九万九九七五円

(七)東京栗原産業株式会社

金 三九四万九五六八円

(八)株式会社廣瀬

金 一九〇万七三二四円

(九)有限会社邊見商店

金 四四五万六五二一円

(一〇)平和ゴム工業株式会社

金 一六四万三〇〇〇円

物件目録<省略>

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