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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)5520号 判決 1986年12月25日

原告

東光総合リース株式会社

右代表者代表取締役

鈴木進

右訴訟代理人弁護士

大林清春

池田達郎

白河浩

被告

株式会社ゼネラル・トレード

右代表者代表取締役

渡邉剛三

被告

近藤久義

被告

末広商事株式会社

右代表者代表取締役

桜田幸馬

被告

園川秩夫

右両名訴訟代理人弁護士

三輪泰二

被告

石渡德次郎

被告

石渡愼一

被告

石渡忠之

右三名訴訟代理人弁護士

国分昭治

主文

一  被告株式会社ゼネラル・トレード、同近藤久義、同末広商事株式会社及び同園川秩夫は、原告に対し、各自金五八八三万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年七月三一日から支払済みまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

二  原告の被告石渡德次郎、同石渡愼一及び同石渡忠之に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の七分の四並びに被告株式会社ゼネラル・トレード、同近藤久義、同末広商事株式会社及び同園川秩夫に生じた費用を同被告らの連帯負担とし、原告に生じたその余の費用並びに被告石渡德次郎、同石渡愼一及び同石渡忠之に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金五八八三万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年七月三一日から支払済みまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告株式会社ゼネラル・トレード及び同近藤久義)

公示送達による適式な呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

(その余の被告)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五五年六月一三日、被告末広商事株式会社(以下「被告末広商事」という。)に対し、株式会社小松製作所製E二P―四〇〇型ポイントクランクレスプレス一台の購入代金という名目で金四三四〇万円を交付した。

2  原告と被告株式会社ゼネラル・トレード(以下「被告ゼネラル・トレード」という。)は、昭和五五年六月一三日、右1の物件のリース契約という形式を採つて、次のとおり約定した(以下「本件契約」という。)。

(一) 被告ゼネラル・トレードは、原告に対し、右1の金四三四〇万円に昭和五五年六月一三日から昭和六二年五月末日までの利息金二四三〇万四〇〇〇円を加算した金六七七〇万四〇〇〇円を元利均等月賦支払の方法により支払う。

(二) 月賦金は金八〇万六〇〇〇円とし、第一回分及び前払金三二二万四〇〇〇円を契約締結日に現金で支払い、残り七九回分は昭和五五年七月から昭和六二年一月まで毎月末日を満期とする約束手形で支払う。右前払金は、同年二月から同年五月までの最終四箇月の割賦金の各月末日の支払期日が到来したときに自動的にこれに充当するものとし、被告ゼネラル・トレードが本件契約に違反したときは、原告は、同被告に対する金銭上の請求権につき、右前払金から弁済を受けることができる。

(三) 被告ゼネラル・トレードが月賦金の支払を一回でも遅滞したときは、原告は、同被告に対し、通知又は催告をすることなく、月賦金の残額全額を即時に弁済するよう請求することができる。

(四) 被告ゼネラル・トレードは、本件契約による原告に対する金銭の支払を怠つたときは、日歩四銭の割合による遅延損害金を支払う。

3  被告近藤久義(以下「被告近藤」という。)、同末広商事、同園川秩夫(以下「被告園川」という。)、同石渡德次郎(以下「被告德次郎」という。)、同石渡愼一(以下「被告愼一」という。)及び同石渡忠之(以下「被告忠之」という。)は、昭和五五年六月一三日、原告に対し、本件契約に基づく被告ゼネラル・トレードの債務を連帯保証した。

4  被告ゼネラル・トレードは、右2(二)の約束手形のうち昭和五五年一一月分の決済をすることができなかつた。

5  よつて、原告は、被告ゼネラル・トレードに対しては本件契約に基づき、その余の被告らに対しては右3の連帯保証契約に基づき、月賦金の残金五八八三万八〇〇〇円及びこれに対する期限の利益を喪失した日以後である昭和五七年七月三一日から支払済みまで約定の日歩四銭の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める。

二  請求原因に対する認否

(被告末広商事及び同園川)

請求原因1及び4の事実は認める。同2の事実は知らない。同3の事実のうち、被告末広商事及び被告園川に関する部分を否認する。

(被告德次郎、同愼一及び同忠之)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は否認する。原告は被告末広商事に金四三四〇万円を貸し渡し、更に被告末広商事が株式会社石渡製作所(以下「石渡製作所」という。)に金四三四〇万円を貸し渡したのである(割引料その他の名目で利息の天引がされ、石渡製作所に交付された現金は二九一一万四二九九円であつた。)。本件契約は、原告が、金融業法上の制限等を回避する目的で、被告末広商事と同じく被告園川がその実質的なオーナーである被告ゼネラル・トレードを賃借人とするリース契約の形式を採つたのであつて、、実体を伴わないものである。

3 同3の事実は否認する。被告德次郎、同愼一及び同忠之が被告ゼネラル・トレードを賃借人とするリース契約の連帯保証人になるという形式は採られているが、右被告三名は、石渡製作所の代表取締役又は取締役であつて、右2の石渡製作所の被告末広商事に対する消費貸借債務につき、同被告に対して連帯保証をしたというのが、その実質である。

4 同4の事実は知らない。石渡製作所は、右2の被告末広商事からの借入金の返済のために、元金四三四〇万円に利息を加算した合計金六七七〇万四〇〇〇円につき、額面四〇三万円の小切手一通及び額面八〇万六〇〇〇円の約束手形七九通を被告末広商事に交付し、各手形につき満期ごとの決済を継続中である。

三  抗弁

(被告末広商事及び同園川)

1 免責的債務引受け

日本装備株式会社は、昭和五五年一二月ころ、本件契約に基づく被告ゼネラル・トレードの原告に対する残債務金六三六七万四〇〇〇円を免責的に引き受け、原告は、これを承諾した。

(被告德次郎、同愼一及び同忠之)

2 公序良俗違反

本件契約は、消費貸借をその実質とするものであるのに、金融業法上の制限等を回避するためにリース契約を仮装したものであつて、脱法行為に当たり、公序良俗に違反する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。日本装備株式会社は、被告ゼネラル・トレードの原告に対する債務を重畳的に引き受けたのである。

2  抗弁2は争う。

第三  証拠<省略>

理由

第一本件契約について

一本件契約の形式的内容

<証拠>を総合すると、原告(当時の商号は株式会社大富士総合リース)をリース業者(賃貸人)、被告末広商事をリース物件供給者、被告ゼネラル・トレードをユーザー(賃借人)とするリース契約という形式の下に、昭和五五年六月一三日、原告が被告末広商事にリース物件(株式会社小松製作所製E二P―四〇〇型二ポイントクランクレスプレス一台)の購入代金という名目で金四三四〇万円を交付し(この事実は、被告ゼネラル・トレード及び同近藤を除く被告らとの間では争いがない。)、原告と被告ゼネラル・トレードが請求原因2の(一)ないし(四)の内容の本件契約を締結したことが認められる。

二本件契約の実質的内容

右一の認定事実に加えて、<証拠>を総合すると、本件契約は、実際にはリース物件の供給を伴わないいわゆる空リース契約であること、被告末広商事及び同ゼネラル・トレードの実質的な経営者は被告園川であり、同被告は、被告末広商事を操作して昭和五三年ころから金融業を行い、被告ゼネラル・トレードほかの実体のない会社をもこれに利用したこと、被告園川は、被告末広商事の金融資金を捻出するために原告との空リース契約を利用することを企て、原告の当時の代表取締役社長石田道雄と結託し、多数回にわたつて、被告末広商事ほかの被告園川の経営する会社がリース物件供給者として代金の支払を受けるという形式で原告から金員の交付を受け、被告末広商事から融資を受けようとした者に原告とリース契約を結ばせて原告に割賦金弁済をさせることとした上、交付を受けた金員から多額の手数料等を差し引いて右の被融資者に交付し、あるいは、被告末広商事から融資を受けようとした者を前面に出さず、被告園川の経営する他の会社をユーザーとするリース契約を原告と結び、右の被融資者から被告園川の経営する会社に割賦金弁済をさせることとした上、交付を受けた金員から多額の手数料等を差し引いて被融資者に交付することを繰り返していたこと、本件契約もその一つであつて、その実質は、被告未広商事が原告から四三四〇万円の融資を受け、これを資金として同被告が石渡製作所に融資を行い、石渡製作所から弁済される割賦金によつて被告ゼネラル・トレードが原告に割賦金弁済をしようとしたものであることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠にない。

三被告ゼネラル・トレードの責任

右二に認定したように、実質的な意味で原告から融資を受けたのは被告末広商事であつて、被告ゼネラル・トレードではないが、同被告も被告末広商事と同様に被告園川が実質的に経営する会社であり、被告末広商事が原告から融資を受けるためには被告ゼネラル・トレードが原告に対して本件契約に定める債務を負うことが必要だつたのである。そして、<証拠>によれば、被告ゼネラル・トレードによる本件契約の締結は、同被告の当時の代表取締役であつた被告近藤の意思に基づくものであつたことが認められる。

したがつて、本件契約がいわゆる空リース契約であつても、原告と被告ゼネラル・トレードとの間には、同被告が原告に対して請求原因2の(一)ないし(四)の内容の債務を負うことについて有効な意思の合致があつたものというべきであり、同被告は、これに基づく債務を原告に対して負つたことになる。

第二連帯保証について

一連帯保証契約の形式的内容

<証拠>によれば、前記第一の一に認定した原告を賃貸人、被告ゼネラル・トレードを賃借人とする形式上のリース契約において、被告近藤、同末広商事、同園川、同德次郎、同愼一及び同忠之が、右契約締結と同時に、原告に対し、被告ゼネラル・トレードの原告に対する債務を連帯保証することを約した事実が認められる。

しかし、前記第一の二に認定した本件契約の実質的内容を考えると、右の連帯保証がその文字どおりの効果を有するものであるかどうかについては、更に検討を加える必要がある。

二被告近藤、同末広商事及び同園川の責任

1 まず、被告近藤については、前記第一の三で判断したように、被告ゼネラル・トレードは、実質的な意味で原告から融資を受けた者ではないが、それでも原告に対して請求原因2の(一)ないし(四)の内容の債務を負つているのであるから、当時同被告の代表取締役であつた被告近藤のした連帯保証がその文字どおりの効果を有すると解することには、何も支障がない。

なお、<証拠>によれば、「リース契約書」である前掲甲第一号証には、被告近藤自身が賃借人としての被告ゼネラル・トレード及び連帯保証人としての被告近藤の記名押印をしたことが認められる。

2 次に、被告末広商事については、前記第一の二で認定したように、本件契約の実質は、原告が被告末広商事に四三四〇万円の融資をする与信契約であつて、リース会社である原告が融資をするための方便としてリース契約の形式を採り、同被告の関連会社である被告ゼネラル・トレードに賃借人として原告に対する債務を負わせることにしたのであるから、実質的に融資を受ける主体である被告末広商事が原告に対してこれと同内容の債務を負うこととするのは、当然のことであるということができる。そして、被告ゼネラル・トレードを賃借人とするリース契約の形式を採つたために、被告末広商事に債務を負わせる手段として、被告ゼネラル・トレードの債務の連帯保証という形式を採つたものであると考えられる。したがつて、被告末広商事の連帯保証は言葉の本来の意味での連帯保証ではないが、当事者間においては、これを有効とすることによつて得られる効果を正にその目的として連帯保証契約が結ばれたのであるから、その効力を否定すべきではない。

また、被告園川については、前記第一の二で認定したように、同被告は被告末広商事及び同ゼネラル・トレードの実質的な経営者であり、両会社は被告園川のいわゆる個人会社だつたのであるから、そのような立場にあつた同被告が個人としても被告ゼネラル・トレードないし同末広商事の原告に対する債務を連帯保証することは極めて自然なことであつて、その効力を否定すべき理由は何もない。

なお、被告末広商事及び同園川は、「リース契約書」である前掲甲第一号証中の同被告らの作成部分は被告近藤が同被告らに無断で作成したものであると主張する。しかし、<証拠>によれば、右甲第一号証の作成には被告園川本人及び同近藤本人が立ち会つたこと、被告園川名下の押印は同被告自身がしたこと、また、被告近藤は当時被告末広商事の営業部長であつたことが認められるから、同被告及び被告園川の連帯保証が同被告らの真意に基づくものであることを疑う余地はない。<証拠>によつても右認定を覆すに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  したがつて、被告近藤、同末広商事及び同園川は、いずれも被告ゼネラル・トレードの原告に対する債務の連帯保証責任を負つているものというべきである。

三被告德次郎、同愼一及び同忠之の責任

1 <証拠>を総合すると、被告德次郎、同愼一及び同忠之の三名(以下「被告石渡ら」という。)は、本件契約の当時、石渡製作所の代表取締役又は取締役であつたこと、石渡製作所は、被告末広商事が原告から融資を受けた四三四〇万円(前掲第一の二参照)の一部によつて同被告から融資を受け(実際に石渡製作所が入手したのは、三〇〇〇万円弱である。)、昭和五五年六月一七日、その返済のために、本件契約により被告ゼネラル・トレードが原告に対して負つた総額六七七〇万四〇〇〇円の割賦金弁済債務と同じ支払期日及び金額の約束手形を被告末広商事に交付したこと、そして、石渡製作所がその約束手形の決済を続けていることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

2 そうすると、石渡製作所が被告末広商事に対する右債務の履行をしているにもかかわらず、同被告ないし被告ゼネラル・トレードが原告に対する債務の履行を遅滞したときには、被告石渡らが原告に対してその連帯保証責任を負うとすることは、前記第一の二で認定した本件契約の実質的内容に照らして甚だしく合理性を欠くものというべきであり、原告と被告石渡らとの間の連帯保証契約がそのような趣旨のものであるとすれば、石渡製作所の窮迫に乗じたものとして公序良俗に違反するという評価すら可能である。

したがつて、右連帯保証契約における当事者の合理的意思は、石渡製作所が被告末広商事に対する右債務の履行を遅滞し、そのために同被告ないし被告ゼネラル・トレードが原告に対する債務の履行を遅滞することとなつたときに限つて、同被告らの債務を被告石渡らが連帯保証することにあつたと解するのが相当である。

3  そして、石渡製作所が被告末広商事に対する右債務を遅滞することなく履行し続けていることは、右1に認定したとおりであるから、同被告ないし被告ゼネラル・トレードが原告に対する債務の履行を遅滞したとしても、被告石渡らには、連帯保証契約に基づく具体的な債務はいまだ発生していないものというべきである。

第三履行遅滞及び債務引受けについて

一被告ゼネラル・トレードの履行遅滞

被告ゼネラル・トレードが本件契約に基づいて原告に交付した約束手形のうち昭和五五年一一月分の決済をすることができなかつたことは、原告と被告末広商事及び同園川との間においては争いがなく、原告と被告ゼネラル・トレード及び同近藤との間においても、<証拠>によつてこれを認めることができる。

したがつて、被告ゼネラル・トレードは、本件契約中の定め(請求原因2(三))に基づいて、割賦金弁済の期限の利益を失つたことになる。

二免責的債務引受け(被告末広商事及び同園川の抗弁)

抗弁1の事実(日本装備株式会社による被告ゼネラル・トレードの原告に対する債務の免責的引受け)は、これを認めるに足りる証拠がない(かえつて、<証拠>によれば、被告ゼネラル・トレードと同様に被告園川が実質的に経営者であつた日本装備株式会社が被告ゼネラル・トレードの原告に対する債務を重畳的に引き受けたにすぎないものであることが、明らかである。)。

したがつて、被告末広商事及び同園川の抗弁1は、理由がない。

第四結論

以上の次第で、原告の被告ゼネラル・トレード、同近藤、同末広商事及び同園川に対する本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告の被告德次郎、同愼一及び同忠之に対する本訴請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項ただし書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官近藤崇晴)

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