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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)761号 判決 1984年3月22日

原告

堀口貞雄

被告

有限会社河村造園

主文

一  被告は、原告に対し、金三〇三万五二四六円及び内金二七三万五二四六円に対する昭和五八年二月六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。原告のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

三  この判決は、主文第一項前段に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金八九六万一二〇三円及び内金八一六万一二〇三円に対する昭和五八年二月六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五六年七月五日午前九時ころ

(二) 場所 東京都杉並区松庵二丁目二三番二四号先路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(多摩四五さ五八六二)

右運転者 訴外野田英次

(四) 被害者 原告

(五) 態様 原告が歩道上に佇立していたところ、加害車両が後退して歩道上に乗り上げ、原告に衝突した(以下「本件事故」という。)

2  責任原因

被告は加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき損害賠償責任を負う。

3  原告の受傷及び治療経過

原告は、本件事故により頸椎捻挫、左右手打撲傷、右肩・右肘・右示指・左臀部・右前胸部打撲傷の傷害を受け、秀島病院で、昭和五六年七月六日から同年八月一三日までの三九日間入院治療を、同年八月一七日から同年一〇月二〇日までの間通院治療(実通院日数一四八日)を受けたが、昭和五八年三月一二日症状が固定し、肩凝り、頸痛、左手背・尾骨部の疼痛、右示指末節の拇指側知覚麻痺の後遺障害(自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表一四級に該当。)が残つた。

4  損害

(一) 入院雑費 金二万七三〇〇円

原告は、前記三九日間の入院治療期間中、一日当たり金七〇〇円の雑費を要した。

(二) 通院雑費 金二万九六〇〇円

原告は前記一四八日間の実通院治療期間、一日当たり金二〇〇円の雑費を要した。

(三) 交通費 金一万八九九〇円

原告は、入退院及び通院にタクシーを利用し、右金額を要した。

(四) 医師等に対する謝礼 金三万円

(五) 休業損害 金四九三万一〇四〇円

原告は、本件事故当時洋服仕立業を営んでおり、昭和五五年度の売上げは金八二一万八四〇〇円で、これから経費四割を控除した年間金四九三万一〇四〇円の所得を得ており、本件事故がなければ同程度の収入をあげ得たはずであるが、事故により昭和五六年七月五日から一年間休業を余儀なくされたので、右金額が休業損害となる。

(六) 逸失利益 金八七万四二七三円

原告は、前記のとおりの後遺障害により労働能力の五パーセントを症状固定日である昭和五八年三月一二日から四年間喪失したので、前記の所得を基礎にライプニッツ式計算法により年五分の割合の中間利息を控除して症状固定日における逸失利益の現価を算定すると次の計算式のとおり、金八七万四二七三円となる。

計算式 4,931,040×0.05×3.546=874,273

(七) 慰藉料 金二七五万円

(1) 傷害慰藉料

原告の傷害の部位・程度、入通院治療期間に鑑み、その精神的苦痛を慰藉するためには金二〇〇万円が相当である。

(2) 後遺障害慰藉料

原告の後遺障害の部位・程度からすると、慰藉料としては金七五万円が相当である。

(八) 弁護士費用 金八〇万円

被告は損害賠償額の任意の支払に応じないので、原告は原告訴訟代理人に本訴の提起追行を委任したが、被告の負担すべき弁護士費用としては金八〇万円が相当である。

5  損害のてん補

原告は、加害車両の加入する自賠責保険から、損害のてん補として金五〇万円の支払を受けた。

6  そこで、原告は被告に対し、金八九六万一二〇三円とこれから弁護士費用金八〇万円を控除した内金八一六万一二〇三円に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五八年二月六日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実中、原告がその主張のとおり入通院治療を受けたことは認めるが、原告の症状は既に昭和五七年一月一八日固定しており、同五七年一月一九日以降の治療は本件事故と因果関係がない。また、同日以降の治療は頸椎捻挫等の本件事故の後遺障害のほか慢性高血圧症、前立腺肥大症、感冒、左足切創の本件事故と無関係な疾病に対するものが含まれている。

原告の後遺障害が自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表一四級に該当するものであることは認める。

3  同4の事実中、(一)は争う。一日金六〇〇円が相当である。(二)は否認する。(三)及び四は不知。(五)の事実中原告が本件事故当時洋服仕立業を営んでいたことは認め、その余は不知。休業期間は四か月とみるのが相当であり、所得は確定申告書の申告額に基づいて計算すべきである。(六)は否認する。仮に認められるとしても、労働能力の喪失期間は症状固定日より一年半とすべきである。(七)は争う。(1)は金六三万円、(2)は金六〇万円がそれぞれ相当である。

4  同5は認める。ただし、てん補金額は金八〇万円である。

第三証拠

証拠関係は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び2(責任原因)の事実、同3(原告の受傷及び治療経過)の事実中、原告の入通院治療期間は当事者間に争いがない。

いずれも成立に争いがない甲第三ないし第五号証、乙第一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により頸椎捻挫、左右手・右肩・右肘・右示指・左臀部・右前胸部打撲傷を負い、直ちに秀島病院に搬送され応急手当を受け、同病院で、昭和五六年七月六日から同年八月一三日まで入院治療を受け、同年八月一七日から昭和五七年一月一八日までの間通院治療(実日数五八日)を受けたこと、同病院の医師井出米夫は、昭和五七年一月一八日原告の症状は固定し、後遺障害として肩凝り、頸痛、左手背・尾骨部の疼痛があつて寒冷時に増悪するほか右示指疼痛により屈曲障害(ただし、ゆつくりした運動には疼痛はあるが障害はない。)、右示指末節の拇指側に知覚麻痺等があり、肩凝り、頸痛に対し物療の効果は少なく、予後の所見として、改善には非常に長期を要する見込であり、既に半年以上の治療にて右手疼痛及び肩凝り、頸痛等が続き、頸椎捻挫及び右手の症状はほとんど軽快しない、との判断をしていること、原告は、その後も昭和五七年一月一九日から同五八年三月一二日まで同病院で通院治療を受けたが、症状に特段の軽快も見られなかつたこと、なお、その間原告は同病院で高血圧症、前立腺肥大症等本件事故に起因しない疾病についての治療も併せて受けていたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実からすると、原告の症状は昭和五七年一月一八日固定したものと認めるのが相当である。

原告の前記後遺障害が自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表一四級に該当することは当事者間に争いがない。

二  損害について判断する。

1  入院雑費 金二万七三〇〇円

前記入院期間の三九日間、原告は雑費として一日当たり金七〇〇円を要したことが認められ、合計金二万七三〇〇円となる。

2  通院雑費

原告が通院雑費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

3  交通費

原告本人尋問の結果によれば、原告は秀島病院へ通院するのにタクシーを利用したことが認められる(他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)が、タクシー通院に要した費用(原告本人尋問の結果中には一往復金八六〇円である旨の供述部分があるが、右金額では請求金額金一万八九九〇円が割り切れないので、採用できない。)及びその必要性を認めるに足りる証拠はない。ただし原告において通院交通費を要したことは明らかであるので、これを慰藉料算定の際斟酌することとする。

4  医師等に対する謝礼 金三万円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は秀島病院の医師三名及び看護婦に対し、少なくとも合計金三万円相当の謝礼をしたことが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右費用は本件事故との間に相当因果関係があるものと認められる。

5  休業損害 金一四八万三二二三円

原告が事故当時洋服仕立業を営んでいたことは当事者間に争いがない。

(一)  原告の事故時における収入に争いがあるので検討する。

甲第七ないし第二六号証及び原告本人尋問の結果には、原告の昭和五五年一月から一二月までの売上げが、金七二九万〇一〇〇円で、経費率は四割であり、原告の収入は金四三七万四〇六〇円となる旨の記載及びこれに沿う供述がある。しかしながら右計算の根拠となるべき甲第九ないし第二六号証(注文帳)は原告本人の供述によれば台帳から写し取るものであるというが、日付及び金額欄に写し間違いと思われる誤りがあつて直ちに措信できないし、控除すべき経費についても、原告本人の供述によれば業界における大まかな平均値というのであり、昭和五五年度における台帳に基づき算出されたものではないことが認められ、他に原告主張にかかる休業損害の算定根拠となるべき適確な証拠はないのであるから、原告主張の収入額は採用することができない。

他方、甲第二七号証には、原告の昭和五四年度の所得税確定申告において収益を金二一八万円経費控除後の所得を金七一万九七四一円と、昭和五五年度の同申告において収益を金二一〇万円、経費控除後の所得を金七一万九七四一円と、それぞれ申告した旨の記載がある。しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、右記載は過少申告をしたものであるとの供述があり、前記金額が余りに低額であることに照らし、右供述は信用することができ、前記申告の所得額を基礎として原告の休業損害を算定することも相当でない。

成立に争いのない甲第一号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、大正二年二月一八日生れの男子で、昭和二年から洋服仕立の職に就き、昭和一三年から自営業として、事故当時はマンションの一室を店舗に七坪程度の仕事場を有していたこと、また、原告の職業は加齢による労働能力の減退が比較的少ない職種であることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右営業形態と前記事実に鑑みれば、原告は事故当時少なくとも昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計・全年齢計・男子労働者の平均年収金三六三万三四〇〇円を下らない所得を得られたはずであると認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  原告本人尋問の結果によれば、原告は事故前は平常に仕事に就いていたが、事故後昭和五七年九月ころまで軽易な修理を除き稼働しなかつたことが認められ(右認定に反する証拠はない。)、前記原告の受傷内容・部位・程度、治療経過、原告の職業等の事実に鑑みて、原告は、本件事故により、事故日である昭和五六年七月五日から症状固定日である昭和五七年一月一八日までの一九八日のうち、一〇〇日間は一〇〇パーセント、九八日間は五〇パーセントの割合で休業を余儀なくされたものと認めるのが相当であり右認定を左右するに足りる証拠はない。これにより原告の休業損害を算定すると次の計算式のとおり、金一四八万三二二三円(一円未満切り捨て)となる。

3,633,400÷365×100=995,452

3,633,400÷365×98×0.5=487,771

6  逸失利益 金四九万四七二三円

前記後遺障害の部位・程度、原告の職業及び原告本人尋問の結果によれば原告は昭和五八年三月ころからは事故前程度に至らなくとも相当程度稼働し収入を得るようになつたことが認められること(右認定に反する証拠はない。)からすれば原告は症状固定後、その労働能力の五パーセントを三年間にわたり喪失したものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。前記収入額を基礎に、ライプニッツ式計算法により年五分の中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、金四九万四七二三円(一円末満切り捨て)となる。

3,633,400×0.5×2.7232=494,723

7  慰藉料 金一五〇万円

原告の受傷の部位・程度、入通院治療期間、後遺障害の部位・程度その他諸般の事情に鑑み、原告の精神的苦痛を慰藉するためには金一五〇万円が相当である。

8  損害のてん補

原告本人尋問の結果によれば、原告は、損害のてん補として、加害車両の加入する自賠責保険から金八〇万円の支払を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

9  弁護士費用 金三〇万円

事案の難易、審理経過、認容額に照らし、弁護士費用としては金三〇万円が相当である。

三  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し金三〇三万五二四六円及びこれから弁護士費用金三〇万円を控除した内金二七三万五二四六円に対する本訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和五八年二月六日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本久)

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