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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)7956号 判決 1985年1月30日

原告 佐藤由男

右訴訟代理人弁護士 浅岡輝彦

右訴訟復代理人弁護士 川端基彦

被告 社団法人 全国宅地建物取引業保証協会

右代表者理事 須永正臣

右訴訟代理人弁護士 雨宮真也

同 川合善明

同 島田康男

同 緒方孝則

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、被告が宅地建物取引業法六四条の七に基づいて供託した弁済業務保証金について原告が弁済を受けることができる額は金七五万円であることを認証せよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、宅地建物取引業法(以下「業法」という。)第五章の二に定める宅地建物取引業保証協会である。

2(一)  原告、訴外佐藤カヨ及び訴外佐藤清(以下「原告ら三名」という。)は、訴外宝日商株式会社(以下「宝日商」という。)から、昭和五〇年一〇月ころ、左記の土地を代金三一五万円で買い受け、そのころ代金を支払った。

北海道茅部郡南茅部町字著保内野一六番

山林 三四六四平方メートル

(二) 原告ら三名は、宝日商との間で、同五一年一一月ころ、右売買契約を合意解除した。

(三) 宝日商は、右売買契約及び合意解除の当時、被告の社員であった。

3  宝日商が被告の社員でないとしたならば供託すべき業法二五条二項の政令で定める営業保証金の額に相当する額の範囲内で、同法六四条の七に基づいて被告が供託した弁済業務保証金の額は七五万円である。

よって、原告は、被告に対し、業法六四条の八第二項に基づき、被告が同法六四条の七に基づいて供託した弁済業務保証金について原告が弁済を受けることができる額は七五万円であることを認証することを求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  抗弁

1  宝日商は、昭和五三年六月二四日、廃業し、被告の社員たる地位を失った。

2  被告は、昭和五三年一一月一六日、宝日商にかかる宅地建物取引業に関する取引により生じた債権に関して業法六四条の八第一項の権利を有する者に対し、同月一七日から起算して六か月以内に同条の八第二項の規定による認証を受けるため申し出るべき旨を公告した。

3  昭和五三年一一月一七日から起算して六か月である昭和五四年五月一六日が経過した。

四  抗弁に対する認否

全部認める。

五  再抗弁

1  原告は、宝日商が被告に対して有する弁済業務保証金分担金取戻請求権の仮差押の申請をし、これに基づく、仮差押決定正本が昭和五四年五月一四日被告に送達された。

2  原告は、被告に対し、昭和五四年五月一七日、認証申出書を提出した。

よって、原告は、被告に対し、前記公告期間経過前である昭和五四年五月一四日に業法六四条の八第二項の認証を受けるための申出をした。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁1及び2の事実は認める。

ただし、再抗弁1の仮差押決定正本の送達は、業法六四条の八第二項の認証を受けるための申出には当たらない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因について

請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二  抗弁について

抗弁事実は、すべて当事者間に争いがない。

三  再抗弁について

1  原告が、宝日商の被告に対する弁済業務保証金分担金取戻請求権の仮差押の申請をし、これに基づく仮差押決定正本が昭和五四年五月一四日被告に送達されたこと(再抗弁1)及び同月一七日に、原告が被告に対し認証申出書を提出したこと(再抗弁2)は、いずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、右仮差押決定正本の送達をもって、原告が、被告に対し、業法六四条の八第二項の認証を受けるための申出をしたものと解すべきか否か、について判断する。

思うに、宅地建物取引業保証協会の社員が、業法六四条の九第一項に基づき同協会の弁済業務保証金に充てるため、同協会に納付した弁済業務保証金分担金の取戻請求権に対する仮差押決定正本の送達は、同法六四条の八第二項の認証を受けるための申出には当たらないものと解すべきである。その理由は、次のとおりである。

(一)  宅地建物取引業保証協会が供託した弁済業務保証金から弁済を受ける権利(以下「弁済業務保証金還付請求権」という。)は、同協会の社員が右弁済業務保証金に充てるために同協会に納付した弁済業務保証金分担金の取戻請求権とは、その権利の主体が異なり、権利の内容も異なるから、後者に対する仮差押決定の効力が前者に対して及ばないことはいうまでもない。

(二)  弁済業務保証金還付請求権を有する者は、業法六四条の八第一項に基づき、宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者であって、その取引により生じた債権に関して、右権利を有するところ、弁済業務保証金分担金取戻請求権を仮差押することのできる者は、右の者に限られず、また右のような取引により生じた債権に関してこれを有する者でなくても差し支えない。したがって、弁済業務保証金分担金取戻請求権を仮差押した者であっても、当然に弁済業務保証金還付請求権を有するものとはいえないから、同法六四条の八第二項の認証を受けるための申出権者と取り扱うのは相当ではない。もっとも、右の仮差押をした者が、たまたま右申出権者である場合もありうるが、認証申出制度の趣旨からすれば、その申出順位の先後の確定が極めて重要であるから、認証申出受理手続には、集団的処理に親しむ安定した画一的処理が可能であることが要請されるところ、宅地建物取引業保証協会に、仮差押決定正本のみを資料として、右の仮差押をした者が認証申出権者に当たるか否かの区別、判断をすることを委ねるのは、相当ではないというべきである。

(三)  次に、《証拠省略》を総合すれば、被告は、本件仮差押のあった当時、業法六四条の五第一項に定める苦情解決の申出があった後に認証の申出がなされた場合にも、内部的な事務取扱上の慣行として、右苦情解決申出の日時をもって、認証申出の日時とする取扱をしていたこと、この慣行は、業者との間の紛争を被告の助言を得て自主的に解決しようとして苦情解決の申出をしている者が、かかる自主的解決を求めず、直ちに認証の申出をする者に、弁済業務保証金の還付請求において遅れる不利益、不都合が生ずるのを避けるため、苦情解決の申出に順位保全効を認めたものであることが認められる。そして、この慣行は、認証申出制度の趣旨に照らし、相当であるというべきである。

そこで、原告の本件仮差押決定正本の送達をもって、原告が被告に対し、右のような苦情解決の申出をしたものと認めることができるか否かについて検討するに、《証拠省略》によれば、被告に本件仮差押決定正本が送達されることによって、被告が、原告と宝日商との間で不動産取引に関し紛争があることを推知し得たことを認めることはできるが、すすんで、その取引が宅地建物取引業に関する取引であり、その取引に関する苦情解決について原告が被告に対し必要な助言等を求めているとまでは認めることはできない。

もっとも、《証拠省略》によれば、当時苦情解決の申出について格別の方式はなく、一般相談の申出でもよいとの取扱がされていたこと、なお電話で相談があったときは一刻も早く出頭して相談の受付をするよう指示していたこと、相談の受付をしたときは、その日時等順位確保の手段を講じたうえ、相談に当たる担当者が、苦情解決の申出か否か、その解決ができない場合弁済業務保証金の還付を求めるか否かについて、相談者に直接面接して確かめていたこと、右還付請求の意思がある場合には、認証申出書の提出をうながすとともに、相談受付時に前記順位保全効があるとして処理していたことが認められるが、本件仮差押決定は、被告に対し弁済業務保証金分担金の支払をしてはならない旨を命じた裁判であって、その内容が裁判所によって公証されているだけに、かえって、紛争の自主的解決のために被告に必要な助言等を求める苦情解決の申出ではないことが明らかであるというほかなく、また、これに前記順位保全効を認めるべき実質的根拠もなく(保全のためならば、仮差押申請の段階で認証申出をすれば目的を達する。)、したがって、本件のような仮差押決定正本の送達を苦情解決の申出とはしない取扱も相当であるといわなければならない(《証拠省略》によれば、本件のような仮差押決定正本は、ほとんど被告中央本部に送達され、会員の地位得喪に関するものとして会員管理課で処理され、認証申出は、被告地方本部の弁済業務課の職務として処理され、それぞれ、担当部署を異にしていることが認められる。)。

以上のように、本件仮差押決定正本の送達は、形式的には勿論、実質的にも業法六四条の八第二項の認証を受けるための申出と解する余地はないから、原告が、公告期間経過後に提出した認証申出とあいまって、期間内の同申出と解することはできず、本件は、結局、被告が同法六四条の一一第五項により認証することができない場合というほかはなく、再抗弁は採用することができない。

四  結論

以上の事実によれば、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小倉顕)

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