東京地方裁判所 昭和58年(特わ)288号 判決 1983年6月09日
本籍
東京都江東区南砂一丁目二七七番地
住居
東京都江東区海辺九番一六号
会社役員
鈴木義男
昭和七年四月一二日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官上田勇夫出席の上審理を遂げ、次のとおりに判決する。
主文
一 被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処する。
二 被告人において右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
三 この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は株式会社丸日プライウッドの代表取締役として同会社を経営するかたわら営利の目的で継続的に株式売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右株式売買の一部を他人名義で行うなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和五四年分の実際総所得金額が一億七六五三万七一四八円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったにかかわらず、昭和五五年三月一二日東京都江東区猿江二丁目一六番一二号所在の所轄江東西税務署において同税務署長に対し昭和五四年分の総所得金額は二八〇四万六七四三円でこれに対する所得税額が源泉徴収税額を差引き一九三万一四〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書(昭和五八年押第六六五号の一)を提出したまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億〇七七五万五一〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一億〇五八二万三七〇〇円を免れ
第二 昭和五五年分の実際総所得金額が二億六七〇三万九一八六円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったにかかわらず、昭和五六年三月一一日前記江東西税務署において同税務署長に対し、昭和五五年分の総所得金額は二二四九万二三九二円でこれに対する所得税額が源泉徴収税額を差引き四九万五八〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書(前同押号の二)を提出したまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億七七三八万二七〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一億七六八八万六九〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全般につき
一 被告人の当公判廷における供述並びに検察官に対する供述調書二通
判示第一、第二の各虚偽過少申告の事実及び判示別紙(一)(二)修正損益計算書中の公表金額欄及び判示別紙(三)ほ脱税額計算書中申告額欄の内容につき
一 押収してある所得税確定申告書類二袋(昭和五八年押第六六五号の一、二)
判示事実全般特に判示別表(一)(二)修正損益計算書中雑所得につき
一 浜中信一郎、山川専三、河田宏昭、矢野弾、石川巌、宮久男、渡辺憲己、鈴木澄江の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の株式売買取引回数調書
判示別紙(一)(二)修正損益計算書中の各勘定科目の内容及び判示別紙(三)ほ脱税額計算書中の実際額につき
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 株式現物取引売買損益調査書(株式現物売買益につき)
2 株式信用取引売買損益調査書(株式信用売買益につき)
3 信用配当金等調査書(信用取引配当金等につき)
4 謝礼金調査書(謝礼金につき)
5 情報収集費調査書(情報収集費につき)
6 支払利息調査書(雑所得中の支払利息につき)
7 配当所得調査書(配当所得中の支払利息につき)
8 給与収入調査書(源泉徴収税額につき)
(法令の適用)
罰条 行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一、二項、裁判時において右改正後の所得税法二三八条一、二項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)
刑種の選択 懲役刑と罰金刑の併科
併合罪処理 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(懲役刑につき犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)、同法四八条二項(罰金刑につき)
労役場留置 罰金不完納の場合につき刑法一八条
執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)
(量刑の事情)
本件は被告人が友人の証券外務員らを通じて多数回(昭和五四年は九〇回、五五年は一〇〇回)にわたり大量の株式取引(昭和五四年は四六三万七〇〇〇株、五五年は五一七万七〇〇〇株)を行いながら、右両年分の株式売買による所得を申告書に計上せず、右両年度で総額二億八二七一万円余の所得税を逋脱したという事案であり、その逋脱結果が大きいこと、その態様においてはその株式取引回数、株式数を少くして非課税所得であるかのようにみせかけるべく、友人や家族名義を利用したり証券外務員と通じ数回の注文を伝票上一括して注文伝票総括表を作成するなどしておき、ことさら株式売買による所得については一切確定申告書に計上せずその所得税を逋脱したものであること、しかし被告人の本件犯行の動機は、たまたま友人が証券外務員となりいわゆる誠備グループ関連株の取引を行うようになったために急激に発生した株式売買取引益を偽ってことさら計上せず、所得税を免れようとしたことにあること、本件犯行発覚後は素直にこれを認め、反省悔悟し今後株式取引からは手を引きいやしくも脱税の再犯など絶対しない旨固く誓うとともに、本件については逋脱税額につき修正申告をなし既に本税二億八二七一万〇六〇〇円とこれに伴う地方税四七三三万三五七〇円とを納付済みであり、加算税、延滞税合計一億〇七四二万四二〇〇円についても分割して一部は納付済みであり残額も納付する予定であること、昭和五六年にその取引にかかるいわゆる誠備グループ関連株が大暴落したことなどあって利益のほとんどは残っていないこと、被告人は何らの前科前歴がなく、若い頃から今日に至るまで本業である株式会社丸日プライウッドのオーナー経営者として約二六〇名の従業員をかかえてその経営に邁進し堅実に業績を上げてきたほか東京港プライウッド協同組合代表理事、東京合板工業組合の副理事長などとして業界の発展にも尽力してきたものであること、その他本件に顕れた一切の情状を総合斟酌して主文のとおり量刑した(なお、本件における検察官の量刑上の意見は懲役一年六月及び罰金七〇〇〇万円である)。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 池田真一)
別紙(一)
修正損益計算書
鈴木義男
自 昭和54年1月1日
至 昭和54年12月31日
<省略>
<省略>
別紙(二)
修正損益計算書
鈴木義男
自 昭和55年1月1日
至 昭和55年12月31日
<省略>
<省略>
別紙(三)
ほ脱税額計算書
54年分
<省略>
ほ脱税額計算書
55年分
<省略>