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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)603号 判決 1983年6月24日

裁判所書記官

久保田堅蔵

(被告人の表示)

本籍並びに住居

東京都新宿区原町二丁目三八番地

会社役員

木村千代吉

昭和八年一〇月二〇日生

主文

1  被告人を懲役一年六月及び罰金三七〇〇万円に処する。

2  右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

3  この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都新宿区新宿五丁目一五番六号において、「東京高島易断神相館本部」の名称で易占業等を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五四年分の実際総所得金額が九一一〇万六三三七円あった(別紙(一)修正貸借対照表参照)にかかわらず、同五五年三月一五日、同区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、同五四年分の総所得金額が五九二万三八二四円でこれに対する所得税額が六一万〇二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五八年押第四一〇号の1)を提出し、そのまま法定納期限を待過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五二五七万六七〇〇円と右申告税額との差額五一九六万六五〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五五年分の実際総所得金額が一億三〇二五万七三一三円あった(別紙(二)修正貸借対照表参照)にかかわらず、同五六年三月一六日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、同五五年分の総所得金額が七五二万九八三五円でこれに対する所得税額が四八万一一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を待過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額八〇二七万四二〇〇円と右申告税額との差額七九七九万三一〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書七通

一  次の者の検察官に対する供述調書

斉藤力、西浦譲(ただし、別表を除く。)、萩原万弘、木皿信、二木常夫、永井庸浩(ただし、二項を除く。)、伊藤正、徳川佐恵子、木村笑美子(六通)

一  西浦譲作成の上申書

判示第一、第二の事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)、(二)修正貸借対照表中の公表金額につき

一  押収してある所得税の確定申告書二袋(昭和五八年押第四一〇号の1、2)

判示第一、第二の事実ことに別紙(一)、(二)修正貸借対照表中の各勘定科目の金額につき

一  収税官吏作成の現金調査書(右修正貸借対照表(一)、(二)の勘定科目中各<1>。以下調査書はいずれも収税官吏の作成したもの)

一  当座預金調査書(同(一)、(二)の各<2>)

一  普通預金調査書(同(一)、(二)の各<3>)

一  通知預金調査書(同(一)、(二)の各<4>)

一  定期積金調査書(同(一)、(二)の各<5>)

一  定期預金調査書(同(一)、(二)の各<6>)

一  受取手形調査書(同(一)、(二)の各<7>)

一  未収金調査書(同(一)、(二)の各<8>)

一  貸付金調査書(同(一)、(二)の各<9>)

一  車輌調査書(同(一)、(二)の各<10>)

一  設備造作調査書(同(一)、(二)の各<11>)

一  器具備品調査書(同(一)、(二)の各<12>)

一  電話加入権調査書(同(一)、(二)の各<13>)

一  敷金・保証金調査書(同(一)、(二)の各<14>)

一  前渡金調査書(同(一)、(二)の各<15>)

一  出資金調査書(同(一)、(二)の各<16>)

一  検察事務官作成の捜査報告書(一四枚綴のもの。同(一)、(二)の各<17>)

一  支払手形調査書(同(一)、(二)の各<18>)

一  未払金調査書(同(一)、(二)の各<19>)

一  銀行借入金調査書(同(一)、(二)の各<20>)

一  検察事務官作成の捜査報告書(二枚綴りのもの。同(一)、(二)の各<21>)

一  事業主借勘定調査書(同(一)、(二)の各<22>)

一  車輌譲渡損調査書(同(二)の<26>)

一  雑所得調査書(同(一)、(二)の各<27>)

なお、弁護人は、本件はいわゆる事前の所得秘匿行為を伴わない単純過少申告の事案であるから、所得税法二三八条所定のほ脱犯は成立しない旨主張する。しかしながら、前掲証拠によれば、被告人は、青色申告の承認を受けていたのに帳簿書類等を備え付けず、証憑類の保存もせず、かえって、実際収入金額を秘匿するため各年分の日限収入の集計表をみずから破棄するなどの挙に出ているほか、各年分の所得税申告にあたり、収入が飛躍的に向上していたのにかかわらず前年申告額と対比してこれをあまり上回らない程度の申告額を算出するため過少の収入金額を決定し、この額をもとにして適宜経費等を調整するよう妻らに指示していたことが認められるのであって、右は、ことさらな事前の所得秘匿行為にあたることは明らかである。所論は、前提を欠き、採用することができない。

(法令の適用)

一  罰条

各所為につき、行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一、二項、裁判時において改正後の所得税法二三八条一、二項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)

二  刑種の選択

いずれも懲役刑及び罰金刑の併科

三  併合罪の処理

刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項

四  労役場留置

刑法一八条

五  刑の執行猶予

懲役刑につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、易占業等を営む被告人が、判示のとおり、その収入を秘匿するなどしたうえ、昭和五四、五五年分の実際の所得税額が一億三二八五万円余にのぼるのに一〇九万円余の所得税額にしかならない旨の虚偽の過少申告をし多額の所得税を免れた事案であり、ほ脱税率は、通算して九九・一八パーセント、各年分ではそれぞれ九八・八四パーセント、九九・四〇パーセントと著しく高率である。また、実際所得金額に対する申告税額の割合も〇・四九パーセントという低率であって、ほ脱額、ほ脱割合だけをとってみても、本件は、同種事犯に比し、甚だ悪質、大型のものということができる。

ところで、被告人は、本件の動機について、将来事業を宗教法人とするための必要資金を蓄積しようとしたとか、世間からアウトロー的存在と考えられていることに不満を抱いていたところからまともに申告する気持がなかったなどと述べているが、これらの動機が斟酌に値するものでないことは多言を要しないし、その他本件に至る経緯等の中にも格別被告人に有利に勘案すべき事情もみあたらない。また、本件における被告人の画策状況は、前認定のとおりであるところ、被告人が事業の収支内容をみずから掌握しながら本件のような申告に至っていることを考慮すると、本件は、大胆かつ計画的な犯行ともいうべきであって、被告人の納税意識の稀薄さは著しいものがあるというべきである(なお、弁護人は、青色申告の承認をした税務当局は帳簿書類の備付け等につき被告人を十分指導するべきであるのに、本件査察前に税務調査が行われながら何らの指導が行われた形跡もなく、本件においては税務当局の行政指導のあり方にも若干の責任があると主張する。しかしながら、青色申告の承認を受けた納税者が右承認に伴う義務を誠実に履行すべきは、むしろ当然の事柄であって、右義務をみずから履行しない納税者がその不履行の責任の一半を税務当局の指導不足に帰するごときは本末転倒というべきである。のみならず、所論の税務調査は、昭和五六年二月に実施されたものであるから、その際に指導がされても本件各年(昭和五四、五五年)分の帳簿書類等が完備され正当な申告がなされる筈はなく、この点からもまた所論は失当である。)。

さらに、被告人は、本件発覚後、多数の借入金、預金がある旨の虚偽の主張を構え、関係者に口裏合せを依頼し内容虚偽の書証を作成させるなどしており、真摯な反省の念があるとも認め難い。

しかしながら、他方において、被告人は、本件発覚を契機に易占業を株式会社組織とし、関与税理士らの指導の下に適正な経理体制をとる旨公判廷で誓約していること、本件二年分を含む三年分につき修正申告をし、本件二年分の本税につき四二二〇万円余を納付したほか、残額についても納付計画を具体的に立て国税当局に申し出る等し、早急に納付する決意を公判廷でも披瀝していること、被告人には十数年以上前の罰金刑二回の前科のほかは前科がないこと等被告人に有利な点も認められるので、右のほか、被告人の家庭状況、右株式会社の近時の事業の状況、被告人の収入の現況等諸般の情状をも併せ考慮して主文のとおり刑を量定した。

(求刑懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

出席検察官 五十嵐紀男

弁護人 杉政静夫(主任)・山田有宏

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一)

修正貸借対照表

木村千代吉

昭和54年12月31日

<省略>

別紙(二)

修正貸借対照表

木村千代吉

昭和55年12月31日

<省略>

別紙(三)

税額計算書

<省略>

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