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東京地方裁判所 昭和58年(行ウ)71号 判決 1990年9月27日

原告

全印刷局労働組合

右代表者中央執行委員長

星宮文雄

外26名

右原告ら訴訟代理人弁護士

清水洋二

大熊政一

右訴訟複代理人弁護士

笹岡峰夫

被告

大蔵省印刷局

右代表者印刷局長

大津隆文

被告

右代表者法務大臣

梶山静六

右両名指定代理人

青野洋士

兼行邦夫

山中正登

布施谷弘

與芝昭

筒井泰夫

主文

一  原告全印刷局労働組合の被告大蔵省印刷局及び被告国に対する訴えをいずれも却下する。

二  原告全印刷局労働組合を除くその余の原告らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(1)  任意的当事者変更の申立て前

被告大蔵省印刷局と原告全印刷局労働組合との間で、被告大蔵省印刷局が原告全印刷局労働組合に対し、昭和五七年度における夏期手当の支給に関する協定及び昭和五七年度における年末手当の支給に関する協定の各二条に記載の「その者が受けるべき俸給の月額、扶養手当の月額及び調整手当の月額の合計額」及び各一〇条に記載の「その者が受けるべき俸給の月額及び調整手当の月額の合計額」の算出につき、昭和五七年四月一日に遡及して引き上げられた新基準内賃金を算定基礎として履行すべき義務のあることを確認する。

(2)  任意的当事者変更の申立て後

被告国と原告全印刷局労働組合との間で、被告国が原告全印刷局労働組合に対し、昭和五七年度における夏期手当の支給に関する協定及び昭和五七年度における年末手当の支給に関する協定の各二条に記載の「その者が受けるべき俸給の月額、扶養手当の月額及び調整手当の月額の合計額」及び各一〇条に記載の「その者が受けるべき俸給の月額及び調整手当の月額の合計額」の算出につき、昭和五七年四月一日に遡及して引き上げられた新基準内賃金を算定基礎として履行すべき義務のあることを確認する。

2  被告国は、原告全印刷局労働組合を除くその余の原告らに対し、それぞれ、別表「未払額合計欄」記載の各金員及びこれに対する昭和五八年四月一三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

原告全印刷局労働組合の訴えを却下する。

2  本案の答弁

(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(3) 仮執行宣言が付される場合には担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  被告らの本案前の主張

1  原告全印刷局労働組合(以下「原告組合」という。)は、昭和五七年度における夏期手当の支給に関する協定(以下「本件夏期手当協定」という。)及び昭和五七年度における年末手当の支給に関する協定(以下「本件年末手当協定」という。)に基づく履行義務確認の訴えについて、訴状においては大蔵省印刷局(以下(印刷局」という。)を被告としたが、印刷局は、国の一行政機関であって独立の法人格を持たないから、右のような通常の民事訴訟においては当事者能力を有しない。したがって、原告組合の印刷局に対する訴えは、不適法として却下されるべきである。

2  原告組合は、右訴えの被告を印刷局から国に変更する旨の任意的当事者変更を申し立てているが、右申立ては不適法である。

民事訴訟法には、当事者の変更を認める行政事件訴訟法一五条のような明文の規定がない。訴えの変更の一態様として許容する見解があるが、この見解は、民事訴訟法上、当事者の変更は訴訟手続の中断、受継、訴訟参加として規定され、また、訴えの変更は裁判所と当事者の同一を前提として請求を変更する場合のみに許容されることに照らして正当でない。新被告に対する訴えの提起と旧被告に対する訴えの取下げとして許容する見解も、一個の行為を二個の行為に分解する点で疑義があるばかりでなく、当事者とすべき者の選択を誤った者に新訴を提起する不便を避けさせ旧訴訟資料を利用することを認めて訴訟経済を図るのがその論拠であるところ、本件で原告組合が任意的当事者変更の申立てをしたのは、訴状に対する答弁書において、印刷局が当事者能力なしとの本案前の申立てをした段階であって、原告組合が利用しなければならない旧訴訟資料は全くないので、訴訟経済の便宜を図る必要はなく、更に、旧訴が当事者能力を欠くため不適法な場合には、併合要件を欠くので、新訴の旧訴への併合自体が不適法となる。

したがって、いずれにせよ、任意的当事者変更は認められない。

3  原告組合が予備的に主張する当事者の表示の訂正には異議がある。

二  被告らの本案前の主張に対する原告組合の反論等

1  任意的当事者変更の性質については、種々の見解があるが、学説は、ほぼ一致してこれを肯定しており、裁判例にも、論拠は単一でないが、許容するものが少なくない。任意的当事者変更を認める理由としては、これを認めることが実際上便宜であり訴訟経済にも合致することがあげられる。本件では、被告を印刷局から国に変更するものであるが、このような被告の変更を認めても実質的な当事者は全く同一であるし、労働協約上の履行義務という法律関係の面でも全く同一で、請求の基礎は同一であるから、任意的当事者変更を否定すべき何らの根拠も存しない。

被告らは、原告組合が任意的当事者変更の申立てをした時点では利用しうる旧訴訟資料は全くないと主張するが、訴訟経済上の見地からすれば、むしろ、訴訟が初期の段階にあるうちに変更を認める方が適切であるし、訴状や準備書面のほか書証などもそのまま利用でき、また、新訴を提起する場合に必要な印紙貼用の負担も避けることができるから、任意的当事者変更を認める実益は十分に存する。原告組合が、印刷局に対する訴えを取り下げた上、新たに印紙を貼用して国に対する新訴を提起し、訴状送達、弁論併合の手続をとるとすれば、原告組合の負担は増すばかりでなく、当事者双方及び裁判所にとっても、訴訟経済上の利益にならないことが明らかである。

なお、労働協約の締結能力を有する印刷局は、右協約の締結を巡る紛争についての当事者能力を有するというべきであるから、旧訴が不適法であって新訴の併合自体が許されないことにはならない。

2  仮に、任意的当事者変更の申立てが認められないとすれば、原告組合は、予備的に、訴状の当事者並びに請求の趣旨及び原因中の被告印刷局とある表示を全て被告国と訂正する。

三  請求原因

1  原告組合は、印刷局に勤務する改正前の公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)二条二項二号に該当する職員をもって組織された労働組合であり、原告組合を除くその余の原告ら(以下「原告組合員ら」という。)は、少なくとも昭和五七年四月一日から同年一二月一日まで、印刷局に雇用され、かつ、組合員であったものである。

2  原告組合と印刷局は、昭和五七年六月三日、昭和五七年度における夏期手当について、同月一日の基準日に在職する職員に対し、(1)期末手当として、基準日現在において当該職員が受けるべき俸給の月額、扶養手当の月額及び調整手当の月額の合計額(定員外常勤職員基本給表の適用者にあっては基本給月額、以下「期末手当基礎額」という。)に基準日以前三か月以内の期間における当該職員の在職期間に応じて一定の割合(在職期間が、三か月の場合は一〇〇分の一四〇、二か月一五日以上三か月未満の場合は一〇〇分の一一二、一か月一五日以上二か月一五日未満の場合は一〇〇分の八四、一か月一五日未満の場合は一〇〇分の四二)を乗じて得た額を、(2)奨励手当として、基準日現在において当該職員が受けるべき俸給の月額及び調整手当の月額の合計額(定員外常勤職員基本給表の適用者にあっては基本給月額、以下「奨励手当基礎額」という。)に勤務成績による一定の割合(定員内職員については〇・五一五七、定員外常勤職員については〇・五〇〇〇であり、勤務成績が著しく不良と認められる者については、右の割合の六割以上一〇割未満に相当する割合)を乗じ、更に勤務期間に応じた一定の割合を乗じて得た額を、それぞれ同月一一日に支給する旨を内容とする本件夏期手当協定を締結した。

3  原告組合と印刷局は、昭和五七年一二月三日、昭和五七年度における年末手当について、同月一日の基準日に在職する職員に対し、(1)期末手当として、基準日現在において当該職員が受けるべき期末手当基礎額に基準日以前六か月以内の期間における当該職員の在職期間に応じて一定の割合(在職期間が、六か月の場合は一〇〇分の一九〇、五か月以上六か月未満の場合は一〇〇分の一五二、三か月以上五か月未満の場合は一〇〇分の一一四、三か月未満の場合は一〇〇分の五七)を乗じて得た額を、(2)奨励手当として、同日現在において当該組合員が受けるべき奨励手当基礎額に勤務成績による一定の割合(定員内職員については〇・六一五〇、定員外常勤職員については〇・六〇八八)を乗じ、更に勤務期間に応じた一定の割合を乗じて得た額を、それぞれ同月四日に支給する旨を内容とする本件年末手当協定を締結した。

4  原告組合員らは、夏期手当として、昭和五七年六月一日に別表「夏期手当内払額」欄記載の金員の支払いを受け、年末手当として、同年一二月四日に別表「年末手当内払額」欄記載の金員の支払いを受けた。

5(1)  本件夏期手当協定及び本件年末手当協定の締結にあたっては、昭和五七年の基準内賃金(俸給、初任給調整手当、扶養手当及び調整手当)について、当時の公共企業体等労働委員会(以下「公労委」という。)の仲裁裁定が国会で承認され、原告組合と印刷局との配分交渉が妥結して組合員の新基準内賃金が確定することを停止条件として、新基準内賃金を算定基礎として計算した夏期手当及び年末手当の額と既払額との差額を追加支給(以下「差額精算」という。)する旨の合意(以下「本件停止条件付合意」という。)が原告組合と印刷局との間でそれぞれ成立した。

本件夏期手当協定及び本件年末手当協定では、期末手当の額について、各二条において「基準日現在において、その者が受けるべき俸給の月額、扶養手当の月額及び調整手当の月額の合計額」に一定の割合を乗じた額とすると規定され、奨励手当の額について、各一〇条において、「基準日現在において、その者が受けるべき俸給の月額及び調整手当の月額の合計額」に一定の割合を乗じた額とすると規定されており、ここに「受けるべき俸給の月額」とあるのが本件停止条件付合意が成立したことを示す条項である。

国家公務員の期末手当及び勤勉手当について規定する、一般職の職員の給与等に関する法律一九条の三第二項、同条の四第二項においては、「期末手当の額は、それぞれその基準日現在において職員が受けるべき俸給及び扶養手当の月額並びにこれらに対する調整手当の月額の合計額」に一定の割合を乗じた額とする旨、「勤勉手当の額は、前項の職員がそれぞれその基準日現在において受けるべき俸給の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計額」に一定の割合を乗じた額とする旨が規定されており、同法の解釈としては、俸給月額が改正されそれが遡及適用される場合に支給済みの期末手当及び勤勉手当についても改正後の俸給月額に基づいて算出された額との差額を支給すべきものとされ、実際にも差額支給が行われており、昭和五六年度において同法の適用を受ける国家公務員について期末手当及び勤勉手当の差額支給を行わない措置を採った際には、一般職の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律(昭和五六年法律第九六号)付則一〇項を設けて「受けるべき俸給の月額」に対する読み替えの手当てをしているのである。

本件夏期手当協定及び本件年末手当協定では、一般職の職員の給与等に関する法律と同様に「受けるべき俸給の月額」という文言が使われているのであるから、同法の場合と同じく差額精算が行われることを合意したものと解されるべきである。

(2)  原告組合と印刷局との間で本件停止条件付合意がされたことは、以下の事実によって明らかである。

<1> 夏期手当及び年末手当は、昭和三二年から二〇数年間にわたって、当該年度における夏期手当の支給に関する協定及び年末手当の支給に関する協定に基づき支給されてきたが、各人に支給される額の算定方法については、いずれの協定においても、本件夏期手当協定及び本件年末手当協定と全く同一の内容が規定されてきた。夏期手当については、毎年夏期手当に関する協定が締結される五月下旬ないし六月上旬には新基準内賃金についての組合と印刷局との間の配分交渉が妥結していないので旧基準内賃金に基づく夏期手当がまず支払われ、その後に配分交渉が妥結して新基準内賃金が四月一日に遡って適用されることが確定した場合には、旧基準内賃金に基づいて支払われた夏期手当の既払額と新基準内賃金に基づく夏期手当の額との差額が支払われるということが昭和三二年から二〇数年間にわたって全く例外なく行われており、また、年末手当については、毎年一一月下旬から一二月上旬に年末手当に関する協定が締結され、通常は配分交渉が妥結して新基準内賃金が決まるのは毎年八月ないし九月で既に新基準内賃金が確定しているので、当然に新基準内賃金に基づく年末手当が支払われるということが行われてきている。

したがって、原告組合と印刷局とは、例年と全く同一内容の本件夏期手当協定及び本件年末手当協定を締結したもので、差額精算がされることを当然の前提としていたのである。

<2> 昭和五七年度の政府予算案は、昭和五七年一月ころ国会に提出されているが、大蔵省印刷局特別会計予算においては、一パーセントの給与改善費が仲裁裁定の実施に基づく賃上げ改善分として計上されており、その給与改善費の中には、基準内賃金の改善分だけではなく夏期手当、年末手当を含む手当の差額支給分を含めた額が計上されている。これは、印刷局が新基準内賃金が配分交渉で確定したときには夏期手当及び年末手当についても差額精算がされるという認識を持っていたことを表すものであり、印刷局は、そのような認識のもとに本件夏期手当協定及び本件年末手当協定を締結したのである。

6  仮に本件停止条件付合意の成立が認められないとしても、昭和三二年から昭和五六年までの二〇数年間にわたり、仲裁裁定又はこれについての国会の承認を受けた配分交渉によって新基準内賃金が確定すれば、一度の例外もなく、しかも特段の合意なしで、個々の組合員に対して夏期手当の差額精算がされ、年末手当については新基準内賃金に基づく支払いがされてきたのであるから、印刷局と各組合員との間においては、毎年の夏期手当及び年末手当の支給については新基準内賃金が確定するまでは旧基準内賃金で内払いをし後日新基準内賃金が確定したときにはその差額分を支給するという慣行が確立し、それは事実たる慣習として原告組合員らと印刷局との間の労働契約の内容になっていたものというべきである。

また、右の慣行が事実たる慣習になっていたと評価することができないとしても、原告組合員らを含む個々の職員は、その年度の新基準内賃金が配分交渉によって確定すれば当然に夏期手当及び年末手当を含むすべての手当についても差額の追加支給請求権を有するという規範意識を有しており、印刷局も、差額の精算義務について規範意識を有していたと解されるから、このような労使双方の規範意識に支えられた労使慣行は、労働協約又は就業規則に準ずる効力を有するものとして、原告組合員らと印刷局との間の労働契約の内容になっていたものというべきである。

7  公労委は、昭和五七年五月八日、印刷局に所属する公労法上の職員の基準内賃金を昭和五七年四月一日以降一人当たり同日現在における基準内賃金の三・二二パーセント相当額に二六九〇円を加えた額九〇〇九円の原資をもって引き上げることとの仲裁裁定を提示し、同年一二月一八日、国会でその完全実施が承認された。

8  原告組合と印刷局は、仲裁裁定の国会承認を受けて配分交渉を行った結果、昭和五七年一二月二二日、昭和三六年四月一日以降の給与体系に関する協約の一部を改正する協約(以下「本件一部改正協約」という。)を締結し、これによって前記合意に係る停止条件が成就し、昭和五七年四月一日以降の原告組合員らの受けるべき期末手当基礎額及び奨励手当基礎額は別表「俸給等合計額」欄記載の金額のとおりに確定した。

9  よって、原告組合は、当事者の任意的変更(予備的に、当事者の表示の訂正)に基づき、原告組合と被告国との間で、被告国が原告組合に対して本件夏期手当協定及び本件年末手当協定に基づく履行義務があることの確認を求め、原告組合員らは、被告国に対し、別表「俸給等合計額」欄記載(略)の期末手当基礎額及び奨励手当基礎額に基づいて算出された夏期手当額及び年末手当額と夏期手当及び年末手当の内払いとして支払われた額との差額である別表「未払額合計」欄記載(略)の金員及びこれらに対する昭和五八年四月一三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実は認める。

4  請求原因4の事実のうち、昭和五七年六月一日に別表「夏期手当内払額」欄記載の金員が、同年一二月四日に別表「年末手当内払額」欄記載の金員が原告組合員らに支給されたことは認めるが、支給の趣旨が夏期手当及び年末手当の内払いであることは否認する。

5(1)  請求原因5(1)の事実は否認する。

本件夏期手当協定及び本件年末手当協定において「受けるべき俸給の月額」との文言を使用しているのは、現実に受ける俸給等の月額が欠務或いは懲戒処分等により本来の受けるべき俸給等の月額より減額して支給される場合でも、期末手当等の額の算定は減額措置の対象とならず、本来の受けるべき俸給等月額を算定基礎にすることを明らかにする必要があるためである。

(2)<1>  請求原因5(2)<1>の事実のうち、昭和三二年から昭和五六年までは、新基準内賃金が確定した場合には、既に支払った諸手当についてもそれに基づいて算定を行いその差額を精算してきたことは認めるが、その余の事実は否認する。

既に支払った諸手当について差額精算が行われてきたのは、印刷局と原告組合との間で差額精算についての合意がされた結果によるものである。

<2> 請求原因5(2)<2>の事実のうち、昭和五七年度の政府予算案の大蔵省印刷局特別会計予算において、一パーセントの給与改善費が仲裁裁定の実施に基づく賃上げ改善分として計上されており、その給与改善費の中には、基準内賃金の改善分だけでなく夏期手当及び年末手当を含む諸手当の差額支給分も含めた額が計上されていることは認め、その余の事実は否認する。

6  請求原因6の事実のうち、昭和三二年から昭和五六年までの二〇数年間にわたって、組合員に対して夏期手当の差額精算がされ、年末手当については、新基準内賃金に基づいて支払いがされてきたことは認め、その余の事実は否認する。このように差額精算がされてきたのは、いずれも差額精算に関して合意がされてきた結果によるものであって、その合意の有無に関係なく当然に差額精算がされるという労使慣行が成立する余地はない。

7  請求原因7の事実は認める。

8  請求原因8の事実のうち、本件一部改正協約の締結により、俸給、調整手当及び扶養手当の合計額が別表「俸給額合計額」欄に期末手当基礎額として記載された額となり、また、俸給と調整手当の合計額が別表「俸給等合計額」欄に奨励手当基礎額として記載された額となったことは認め、その余の事実は否認する。

五  仮定抗弁

仮に本件停止条件付合意が認められるとしても、昭和五七年度については、昭和五七年一二月二二日に締結された、昭和三六年四月一日以降の給与体系に関する協約の一部を改正する協約等に関する付属覚書(以下「本件付属覚書」という。)において、「改正後の協約等は、それぞれの協約に定める俸給等を支給する場合及び昭和五七年度における夏期手当及び年末手当以外の手当を算定する場合に限り適用する。」との条項が設けられ、同年度の夏期手当及び年末手当については、差額精算をしないことの合意が成立している。

六  仮定抗弁に対する認否等

本件付属覚書に被告ら主張の条項があることは認めるが、その余は争う。

本件付属覚書は、同日付けの確認事項(以下「本件確認事項」という。)と一体として解釈されなければならない。すなわち、本件付属覚書及び本件確認事項は、本件一部改正協約とともに同一の日時場所で締結されたものであるが、本件一部改正協約には、印刷局長と原告組合中央執行委員長の記名、捺印がされているのに対し、本件付属覚書及び本件確認事項には、いずれも印刷局職員課長と原告組合書記長の記名、捺印がされており、本件一部改正協約と本件付属覚書及び本件確認事項とでは労使双方の記名、捺印を行った者が異なるのである。そして、本件確認事項には、「本件付属覚書の締結に際し、次のとおり確認する。」との前文のもとに、原告組合の発言として、「この覚書はとりあえず締結することとするが、これは、あくまで、当面、年内に差額支給を実施するためであって、夏期手当及び年末手当にはね返さないことについて同意したものではない。」との記載があり、本件付属覚書と本件確認事項を合わせて読めば、改定後の俸給等月額を昭和五七年度の夏期手当及び期末(ママ)手当の算定基礎としないことについては、当事者の意思の合致がなく、合意は成立していないことが明らかである。

第三証拠関係(略)

理由

一  被告らの本案前の主張について

1  原告組合は、本件夏期手当協定及び本件年末手当協定に基づく履行義務確認の訴えについて、被告を印刷局から国に変更する旨の任意的当事者変更の申立てを行っているが、任意的当事者変更は、新訴の提起と旧訴の取下げとが同時にされているものと解するのが相当であり、その要件、効果は、それぞれの規定によって別個に判断すべきものである。

これを本件についてみると、国を被告とする新訴の提起については、手数料が納付されていないから(原告組合は、任意的当事者変更においては、訴訟経済上の見地から、新訴の提起について手数料の納付を要しないとしている。)、不適法であり、印刷局を被告とする旧訴の取下げについては、同被告の同意がないから、取下げの効力を生ずる余地がなく、また、旧訴は、独立の法人格を持たない国の一行政機関である印刷局を対象とすることが明らかであって、当事者能力を有しない者に対する訴えとして不適法である。

2  原告組合は、印刷局と国とは実質的な当事者が同一であり、労働協約上の履行義務という法律関係の面でも全く同じで、請求の基礎が同一であるとして、任意的当事者の変更が認められるべきことを主張するが、当事者の変更を認める行政事件訴訟法一五条のような明文の規定がない民事訴訟法のもとでは、新訴の提起と旧訴の取下げの双方の要件を具備しない限り、当事者を便宜的に変更することは許されないというべきである。

3  次に、原告組合は、予備的に、訴状の被告の表示を印刷局から国に訂正することを申し立てているが、本件では、原告組合が独自の見解に基づいて印刷局を被告とする訴えを提起したもので、被告の表示に誤記があるとか又は明瞭を欠くという場合ではないから、当事者の表示の訂正が問題となる余地はない。

4  したがって、印刷局及び国を被告とする原告組合の本件夏期手当協定及び本件年末手当協定に基づく履行義務確認の訴えは、いずれも却下を免れない。

二  原告組合員らの請求原因について

1  請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがなく、請求原因4の事実のうち、昭和五七年六月一日に別表「夏期手当内払額」欄記載の金員が、同年一二月四日に別表「年末手当内払額」欄記載の金員が、それぞれ、原告組合員らに支給されたことは、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告組合員ら主張の本件停止条件付合意について判断する。

原告組合員らは、本件夏期手当協定及び本件年末手当協定においては、公労委の仲裁裁定が国会で承認され、原告組合と印刷局との配分交渉が妥結して組合員の新基準内賃金が確定したときは、新基準内賃金を算定基礎として計算した夏期手当及び年末手当の額と既払額との差額を追加支給する旨の停止条件付合意が成立したもので、各協定の二条及び一〇条に「受けるべき俸給の月額」とあるのが右合意が成立したことを示す条項であると主張する。

そして、証人宮入晃の証言及び原告代表者尋問の結果中には、右主張に符合する部分がある。

(1)  しかし、(証拠略)によれば、本件夏期手当協定及び本件年末手当協定と配分交渉に基づいて締結された本件一部改正協約とは、それぞれ、別個の労働協約として締結されたもので、前者の各手当協定が当然に後者の改正協約の締結を予定したものと解することはできないし、本件夏期手当協定及び本件年末手当協定のいずれをみても、期末手当及び奨励手当の各手当について、支給対象となる職員の範囲、手当の算定方法、在職期間の計算、成績率、勤務期間率、勤務期間の計算等について、極めて詳細かつ具体的な条項を定めているのに、将来、仲裁裁定の国会承認を受けた配分交渉が妥結して組合員の新基準内賃金が確定した場合を予想した条項は全く存在しないことが認められるから、本件夏期手当協定及び本件年末手当協定の各二条及び一〇条に「受けるべき俸給の月額」との文言があるからといって、それが原告組合員ら主張の停止条件付合意の成立を表現したものと認めることはできない。

(2)  のみならず、成立に争いのない(証拠略)によれば、印刷局職員給与規程の三四条二項には、期末手当の算定基準として、「基準日現在において職員が受けるべき俸給の月額、扶養手当の月額及び俸給月額に対する調整手当の月額の合計額に別に定める支給割合を乗じて得た額に、基準日以前三か月以内のその者の在職期間に応じて定める割合を乗じて得た額とする。」との規定があり、三五条二項には、奨励手当の算定基準として、「職員が基準日現在において受けるべき俸給の月額及び俸給月額に対する調整手当の月額の合計額に別に定める基準に従って定める割合を乗じて得た額とする。」との規定があって、いずれにも「受けるべき俸給の月額」との文言のあることが認められる。そして、これらの規定は、期末手当及び奨励手当の算定基準を定めた基本規定であり、本件期末手当協定及び本件年末手当協定は、この基本規定に基づいて期末手当及び奨励手当の具体的な算定方法を定めたものであるから、両者の間で「受けるべき俸給の月額」の意義が異なるものであってはならないことは、いうまでもない。

ところが、印刷局職員給与規程は、職員の格付、等級、俸給及び手当の種類、算定基準、支払方法等について規定したそれ自体が完結的なものであって、仲裁裁定に基づく新基準内賃金の確定とかその遡及適用とは本来関係がないことからすると、本件夏期手当協定及び本件年末手当協定中の「受けるべき俸給の月額」の文言のみを停止条件付合意の成立を表現したものとして別異に解することには疑問がある。

(3)  仮に「受けるべき俸給の月額」の文言が停止条件付合意の成立を表したものとすれば、まず仲裁裁定を受けた配分交渉が妥結して新基準内賃金が確定し、その後に夏期手当又は年末手当の協定が成立したような場合には、各手当の基礎となる基準内賃金は既に確定していることになるから、当然に、右文言とは異なる表現がされて然るべきである。

ところが、成立に争いのない(証拠略)によれば、年末手当については、過去一、二の例外を除いて、殆どが仲裁裁定を受けて新基準内賃金が確定した後に年末手当協定が締結されているにもかかわらず、昭和四七年から昭和五六年までのすべての年末手当協定において、「受けるべき俸給の月額」との文言が用いられているのであって、年末手当協定が成立した後に仲裁裁定を受けた配分交渉が妥結し新基準内賃金が確定した本件年末手当協定の場合と比較すると、いかにも不合理である。

(4)  原告組合員らは、一般職の職員の給与等に関する法律一九条の三第二項、一九条の四第二項の各条項、差額支給の実情及び昭和五六年度に期末手当及び勤勉手当の差額支給をしなかった場合における読み替え規定の新設等について主張するが、一般職の職員の給与等に関する法律は、給与額の決定につき当事者能力のない一般職の国家公務員に関するものであるから、たとえ、同法律に「受けるべき俸給の月額」の文言があり、俸給月額が改正されそれが遡及適用される場合には支給済みの期末手当及び勤勉手当についても改定後の俸給月額に基づく差額精算がされてきたとしても、これをもって、本件における停止条件付合意の根拠とすることはできない。

かえって、成立に争いのない(証拠略)と弁論の全趣旨によれば、一般職の職員の期末手当及び勤勉手当については、一般職の職員の給与等に関する法律一九条の三第二項、一九条の四第二項に「受けるべき俸給の月額」との文言があることから、休職者或いは懲戒処分のため俸給等を減ぜられている者についても、これを考慮することなく、その者が本来受けるべきである俸給月額を基礎として算定する扱いがされていることが認められる。また、一般職の職員の期末手当及び勤勉手当について原告組合員ら主張の読み替え規定が新設されたことは、改定された俸給月額が遡及して適用される場合でも、特別の規定を設けることによって、期末手当や勤勉手当には跳ね返らせない取扱いが可能であることを示すものということができる。

(5)  もっとも、印刷局の職員については、昭和三二年から昭和五六年までの二〇数年間にわたって、夏期手当協定及び年末手当協定が成立した後に仲裁裁定を受けた配分交渉が妥結し新基準内賃金が遡及して適用されることが確定されると、これが夏期手当協定及び年末手当協定に基づく各種手当にも跳ね返って一律に差額の精算が行われてきたことは、当事者間に争いがない。

原告組合員らは、この差額精算の事実は、差額支給についての事実たる慣習として個々の労働契約の内容になっているとか、又は、原告組合員らと印刷局双方の規範意識に支えられた労使慣行として労働協約か就業規則に準じた効力を有するものと主張する。しかし、前述したとおり、夏期手当協定又は年末手当協定そのもの中に、原告組合員ら主張のような跳ね返りの根拠となる条項があるとはいえないし、新基準内賃金が遡及して適用されるかどうか、また、遡及して適用されるとしてその範囲をどうするかは、団体交渉及びこれに基づく労働協約によって決定されるべきものであること後記3のとおりであるから、右争いのない状態が継続してきたことは、明示的であるか否かは別として、その旨の合意が成立していたためと解するのが相当であって、夏期手当及び年末手当の支給という基本的な労働条件について、合意の有無に関係なく、事実たる慣習ないし規範的効力のある慣行が成立することは認められないというべきである。

(6)  また、昭和五七年度の政府予算案の大蔵省印刷局特別会計予算において、一パーセントの給与改善費が仲裁裁定の実施に基づく賃上げ改善分として計上されており、その給与改善費の中には、基準内賃金の改善分だけでなく夏期手当及び年末手当を含む諸手当の差額支給分をも含めた額が計上されていることは、当事者間に争いがない。

しかし、予算案に夏期手当及び年末手当を含む手当の差額支給分をも含めた額が計上されたのは、諸手当の差額支給が行われることが決定された場合に備えて、そのための財源措置として計上されたものにすぎず、このことをもって印刷局が差額精算が行われなければならないとの認識を持っていたことの根拠とすることはできない。

(7)  したがって、証人宮入晃の証言及び原告代表者尋問の結果中、原告組合員らが主張するような差額精算の合意が成立したとの部分は、採用することができず、他に右主張の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。

3  そして、公労法八条は、「賃金その他の給与」を団体交渉の対象とし、そこでの合意について労働協約を締結することを認めているのであって、このような公労法の趣旨からすれば、夏期手当及び年末手当の各協定の締結後に仲裁裁定を受けた配分交渉が妥結して基準内賃金が改定された場合に、新基準内賃金を遡及して適用するか、また、遡及して適用するとして夏期手当及び年末手当にも跳ね返させるかどうかは、まさしく「賃金その他の給与」に関するものとして、配分交渉その他の団体交渉によって決定されるべきものと解される。もっとも、成立に争いのない(証拠略)によると、昭和四八年から昭和五七年までの仲裁裁定は、いずれも、基準内賃金を各年の四月一日に遡って引き上げるというものであったことが認められるから、このような仲裁裁定のもとでは、新基準内賃金の遡及適用そのものを否定することは許されないが、新基準内賃金を夏期手当及び年末手当にも遡及して適用するかどうかは、仲裁裁定とは関係がなく、配分交渉その他の団体交渉によって労使が自主的に決定し得るものというべきである。

昭和三二年から昭和五六年までは、新基準内賃金の遡及適用が確定すると支払済みの各種手当についても一律に新基準内賃金に基づく差額の精算がされてきたことは、前記のとおりであり、証人宮入晃の証言及び原告代表者尋問の結果によれば、配分交渉においても、新基準内賃金を夏期手当及び年末手当に跳ね返らせるかどうかが問題となったことは、その間に一度もなかったことが認められるが、右にみたところに鑑みれば、それは、仲裁裁定に従って新基準内賃金の遡及適用を決定した配分交渉において、特にその範囲を限定するような合意もなく経過してきたことの結果であって、新基準内賃金を夏期手当及び年末手当に跳ね返させることの黙示の合意が成立していたためと解するのが相当である。いいかえれば、基準内賃金を算定の基礎とする夏期手当協定及び年末手当協定が締結された後に、基準内賃金が改定されて遡及適用されることとなった場合には、特に遡及適用の範囲を制限する合意がない限り、新基準内賃金が夏期手当及び年末手当にも跳ね返ってその算定の基礎となるのは、いわば当然の結果であって、このような制限の合意のないことが、すなわち、新基準内賃金を夏期手当及び年末手当の算定にも跳ね返らせることの黙示の合意にあたると解されるのである。

そして、このことは、労使間で特別の合意をすることによって、新基準内賃金について遡及適用の範囲を特定の手当のみに制限することも可能であることを意味する。

4  そこで、右にみたところを踏まえて、本件夏期手当協定及び本件年末手当協定の締結後に仲裁裁定の国会承認を受けてされた配分交渉において、新基準内賃金を遡及して適用するか、また、遡及して適用するとしてその範囲をどうするかについて、いかなる合意が成立したかをみることとする。

(証拠略)を総合すれば、昭和五七年の配分交渉は同年一二月一一日ころから行われたが、この交渉の中で、印刷局は、新基準内賃金そのものは遡及させるが、昭和五七年の夏期手当と年末手当については遡及適用の範囲から除外したいとの提案を行ったこと、この提案に対して、原告組合は受け入れることができないとして強く反対したものの、印刷局がこの提案が入れられない場合には新基準内賃金の遡及分についても年内の差額精算は行わないとの態度を示したため、原告組合は、年内の差額精算を実施するには印刷局の右提案を受け入れるほかはないとの結論に達したこと、そして、更に交渉した結果、印刷局と原告組合とは、配分交渉に基づく本件一部改正協約の締結と同時に、同じ場所で、「本件一部改正協約の実施に関し、次のとおり確認する。」との見出しのもとに、「改正後の協約等は、それぞれの協約に定める俸給等を支給する場合及び昭和五七年度における夏期手当及び年末手当以外の手当を算定する場合に限り適用するものとする。」として、夏期手当及び年末手当を遡及適用の範囲から除外することを記載した本件付属覚書を締結し、このような経過を経て新基準内賃金の遡及分についての年内精算が行われたことが、それぞれ、認められる。

5  原告組合員らは、その点について、本件付属覚書と同時に同じ場所で本件確認事項が締結されているところ、本件確認事項には、「本件付属覚書の締結に際し、次のとおり確認する。」との前文のもとに、原告組合の発言として、「この覚書はとりあえず締結することとするが、これは、あくまで、当面、年内に差額支給を実施するためであって、夏期手当及び年末手当にはね返さないことについて同意したものではない。」との記載があり、これを本件付属覚書と合わせて読めば、右覚書記載の内容については当事者の意思の合致がなく、合意は成立していないと主張する。

しかし、(証拠略)によれば、配分協定に基づく本件一部改正協約には、「この協約は、昭和五七年四月一日から適用する。」との規定があるのみで、遡及適用の範囲をどうするかについては何らの規定もないことが認められる上、本件付属覚書が本件一部改正協約と一体のものとして締結されたものであることは、「本件一部改正協約等に関する付属覚書」というその表題自体によって明らかであるから、少なくとも、原告組合としては、配分協定に基づく新基準内賃金の遡及適用の範囲については本件付属覚書記載のとおりの合意をしたものと解するのが相当である。印刷局が、夏期手当及び年末手当を遡及適用の範囲から除外することを新基準内賃金の遡及分についての年内精算の条件としており、この点の交渉の結果として本件付属覚書が締結され、かつ、現実にも遡及分についての年内精算が行われたことを勘案すると、原告組合としても、本件付属覚書の内容を合意したものと解するのが当然であって、本件付属覚書の締結が、年内精算の利益を享受するための単なる形式ないし口実であって、真意に基づかない虚偽のものであったなどとは、到底、考えられないからである。

もっとも、本件確認事項には、原告組合員ら主張のとおりの記載があり、しかも、記名、捺印者がその主張のとおりであることは認められるが、その内容からすると、印刷局と原告組合のそれぞれの発言が併記されているのみで、両者の合意を含まないことは勿論、本件付属覚書記載の合意を破棄することを示す表現もなく、かえって、年内の差額支給のためという留保付とはいえ、原告組合は「この覚書はとりあえず締結することとする」との発言をしていることが明らかであるから、これらを合理的に解釈すれば、原告組合としては、年内精算という組合員の利益を図るために、新基準内賃金の遡及適用の範囲に関する印刷局の提案を受け入れて本件付属覚書を締結したものの、これによって遡及適用の問題に最終的な決着をつけるものではなく、本件付属覚書の締結に付随して、遡及適用の範囲に関する組合の主張を実現するために更に交渉を継続する意思のあることを表明し、印刷局も、その限りにおいて原告組合の態度を容認したに止まるものと解するのが相当である。本件確認事項が原告組合の一方的な発言に止まり双方の合意を含まないことは、原告組合の発言に先立って、印刷局が、「本件付属覚書第一項の『夏期手当及び年末手当以外の手当』とは、調整手当、寒冷地手当及び超過勤務手当をいうものである。」として、本件付属覚書の締結を前提とする発言をしていることによっても明らかである。

その他、本件確認事項には、原告組合員ら主張の前記発言に続けて、「組合としては、従来からの永年の経過及び仲裁裁定が裁定どおり実施することについて国会で議決されたことを考慮して、当然に夏期、年末手当にはね返らせるべきであるという主張を変えるものではない。」との記載があり、また、(証拠略)原告組合自らが、配分交渉の妥結を知らせる機関紙の号外で、「差額精算については、さらに交渉継続」との見出しのもとに、「新旧賃金の差額精算は現在交渉中となっています。これは、期末手当部分を差額精算の対象としないとする当局と、あくまでも従来通り全てにバネ返らせるべきであるとする組合主張とが全面対立となっていることによります。」と記載し、証人宮入晃の証言及び原告代表者尋問の結果によれば、その後に、この点を巡って印刷局と原告組合との間で議論が交わされていることが認められることからすると、本件確認事項の趣旨を原告組合員ら主張のように解することは、いかなる意味においても、不可能というべきである。

6  そうとすると、仲裁裁定の国会承認を受けた印刷局と原告組合との配分交渉に基づく本件一部改正協約においては、これと一体をなす本件付属覚書が作成されたことにより、新基準内賃金を遡及して適用する場合でも、夏期手当及び年末手当には跳ね返させないとの合意が成立していたことになるから、原告組合員らとしては、その主張する差額精算を求める具体的な権利のないことは明らかであり、したがって、その請求はいずれも理由がないことに帰着する。

三  よって、原告組合の本件訴えをいずれも却下し、原告組合員らの本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田豊 裁判官 田村眞 裁判官 山本剛史)

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