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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)10032号 判決 1985年11月20日

原告

八木沢捨春

被告

佐藤照光

主文

一  被告佐藤照光、同共栄火災海上保険相互会社は、各自原告らに対し、それぞれ二五二万三九〇四円〔更生決定 二六二万三九〇四円〕及びこれらに対する昭和五八年八月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告佐藤照光、同共栄火災海上保険相互会社に対するその余の請求及び同北奥羽信用金庫に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告佐藤照光、同共栄火災海上保険相互会社との間に生じた分については、これを三分し、その二を原告らの、その余を右被告らの負担とし、原告らと被告北奥羽信用金庫との間に生じた分については、全部同原告らの負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自原告八木沢捨春、同八木沢美晴に対しそれぞれ七八七万二一二四円及びこれに対する昭和五八年八月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

原告らの二男八木沢桑(以下「桑」という。)は、次の交通事故により頭部外傷の傷害を負い、昭和五八年八月六日、青森県立中央病院において死亡した。

(一) 発生日時 昭和五八年八月五日午前八時一五分ころ

(二) 場所 青森市旭町一丁目六番二号先道路上

(三) 加害車 被告佐藤照光(以下「被告佐藤」という。)所有の普通乗用自動車(青せ一四〇九)

(四) 運転者 被告佐藤

(五) 態様 被告佐藤は、事故現場を国鉄青森操作場方面から勤務先である被告北奥羽信用金庫(以下「被告金庫」という。)旭町支店駐車場に向つて走行中、前方注視義務を怠つたため、路上にいた桑に気づかず、桑を轢過した。

2  責任原因

(一) 被告佐藤は、加害車を保有しこれを自己のために運行の用に供していた者である。

よつて、被告佐藤は、自賠法三条による損害賠償責任がある。

(二) 被告金庫は、被告佐藤を雇傭していた者であり、被告佐藤が業務執行中に本件事故を発生せしめたのであるから、民法七一五条による損害賠償責任がある。

(三) 被告共栄火災海上保険相互会社(以下「被告会社」という。)は、被告佐藤との間で、本件加害車について対人賠償保険金額一億円とする自家用自動車保険契約を締結しているところ、原告らは被告佐藤に対し前記(一)のように損害賠償債権を有しており、被告佐藤は資力がないから、原告らは、民法四二三条により被告佐藤が被告会社に対して有する本件保険契約に基づく保険金を同被告に代位して被告会社に対して請求することができる。

3  損害

(一) 逸失利益 一六二〇万〇九三五円

桑は、死亡時二歳であつたから、今後満一八歳から満六七歳まで四七年間就労可能であるところ、昭和五八年賃金センサス第一巻第一表の男子全年齢平均の賃金額三八九万〇四〇〇円を基礎とし、生活費を五割控除したうえ、ライプニツツ式計算方法により中間利息を控除して逸失利益の現価を計算すると、合計一六二〇万〇九三五円となる。

(二) 入院関係費用 三三万〇五二〇円

(1) 治療費等 三一万四五二〇円

(2) 付添費用 一万四〇〇〇円

(3) 入院雑費 二〇〇〇円

(三) 葬式費用 七〇万円

(四) 示談交渉、調査費用 八一万九二一三円

(五) 慰藉料 原告ら各七五〇万円

(六) 弁護士費用 原告ら各一五〇万円

(七) 原告らの損害 原告ら各一八二〇万五三三四円〔更生決定 一八〇二万五三三四円〕

原告らは、桑の相続人として、右(一)の逸失利益について二分の一の割合で相続し、右(二)ないし(四)については二分の一の割合で支出した。

よつて、原告ら各自の損害は一八二〇万五三三四円〔更生決定 一八〇二万五三三四円〕となる。

4  損害の填補

原告らは、本件損害の填補として、自賠責保険から二〇三〇万六四二〇円の支払を受け、これを二分の一宛各自の損害に充当した。

5  結論

よつて、原告らは、各自被告らに対し七八七万二一二四円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五八年八月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、その(五)は否認ないし争い、その余は認める。

2  同2の(一)の前段は認める。同(二)は否認する。同(三)のうち、被告会社が被告佐藤との間で加害車について原告ら主張の対人賠償保険契約を締結していることは認めるが被告会社の保険金支払義務は争う。

3  同3の(一)は認める。同(二)のうち、治療費は二九万八〇二〇円、付添費用は六四〇〇円、入院雑費は一二〇〇円の限度でそれぞれ認めるが、その余は争う。同(三)は不知。同(四)は否認する。同(五)は争う。同(六)は不知。同(七)は不知

4  同4は認める。

5  同5は争う。

三  被告らの抗弁

1  過失相殺

本件事故は、桑が駐車車両の陰から急に道路上に飛び出してきたことによつて発生したものであるから、桑の不注意な態度もしくは親権者である原告らの監護義務違反の過失があるものというべく、三割の過失相殺をするのが相当である。

2  弁済 二二二一万九九五六円

被告らは、原告らに対し、自賠責保険金二〇三〇万六四二〇円を支払つたほか、葬儀費用として四八万二〇〇〇円、航空運賃として四八万一二七五円、遺体輸送費として二四万九五一六円、治療費として三一万四五二〇円その他として四〇万円を支払つている。

四  抗弁に対する認否

1  被告佐藤は、閑静な住宅街の行止まりの道路を時速三〇キロメートルを超すスピードで走行した重大な過失があるから、本件は過失相殺すべき事案ではない。

2  原告らは、被告らから葬儀費用、航空運賃、遺体輸送費、治療費として被告ら主張の金額の支払を受けたことは認めるが、治療費以外は本訴請求に係る損害以外に充当されるべきものであるから、弁済の抗弁とはなり得ない。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1は、その(五)を除き当事者間に争いがない。

二1  請求原因2の(一)の前段は当事者間に争いないから、被告佐藤は、自賠法三条により損害賠償責任を負うものというべきである。

2  原告らは、被告金庫は、民法七一五条により損害賠償責任を負う旨主張するので、この点につき判断する。

成立に争いのない乙第二号証と被告佐藤本人尋問の結果を総合すると、被告佐藤は、昭和五八年四月から被告金庫旭町支店に勤務し、窓口業務に従事しているが、通常は自宅から自転車で通勤し、月一、二回程度自己所有の加害車を運転して通勤していたこと、被告金庫ではマイカーで通勤するには申請することが必要とされていたが、被告佐藤はマイカー通勤の申請をしないで徒歩で通勤することにし、その手当として一か月五〇〇円程度の支給を受けていたため、自動車で通勤したときも燃料費や給油のためのチケツトなどを貰つたことはなかつたこと、被告金庫では被告佐藤に自己所有の加害車を利用して業務を遂行するよう命じたことはなく、本件事故は被告佐藤が被告金庫に無断で加害車を運転して自宅から出勤する途上で起こしたものであることが認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、本件事故時における被告佐藤の加害車の運行が、被告金庫の業務の執行について行われていたとみることは困難であるから、本件事故について、被告金庫に対し賠償責任を負わせることはできない。

3  被告会社は、被告佐藤との間で加害車について原告ら主張の対人賠償保険契約を締結していることは当事者間に争いがなく、被告佐藤には原告らに対する損害賠償債務を弁済するに足りる十分な資力があるとは認められないから、原告らは、被告佐藤に対する損害賠償債権の保全のため、債権者代位権に基づき、被告佐藤の被告会社に対して有する対人賠償保険金を請求することができるということができるといわざるをえない。

三  そこで、原告ら各自の損害について判断する。

1  逸失利益 一六二〇万〇九三五円

請求原因3の(一)の事実は当事者間に争いがないから、桑の逸失利益の合計は原告ら主張のとおり一六二〇万〇九三五円と認めるのが相当である。そして、原告らが桑の父母であることは当事者間に争いがないから、原告らは相続分に従い、前記逸失利益の二分の一にあたる八一〇万〇四六七円(一円未満切捨)の損害賠償請求権を相続取得したものというべきである。

2  入院関係費用等 三二万二一二〇円

(一)  治療費等 三一万四五二〇円

弁論の全趣旨によれば、原告らは、治療費、診断書料など合計三一万四五二〇円の支払義務を負い、右と同額の損害を被つたことが認められる。

(二)  付添費用 六〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、桑の症状が重篤であり、原告らが桑の死亡するまで二日間付添看護にあたつていたものと認められるから、近親者の付添費としては、一日当たり三〇〇〇円が相当であり、右期間で合計六〇〇〇円を損害と認めるのが相当である。

(三)  入院雑費 一六〇〇円

桑の入院期間中の雑費としては、一日当り八〇〇円を下らない出費を要したものと推認するのが相当であるから、右期間で合計一六〇〇円を損害として認められる。

3  葬式費用 八〇万円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証、乙第一〇号証の一に原告八木沢美晴(以下「原告美晴」という。)及び被告佐藤各本人尋問の結果によれば、原告らは、桑が死亡した青森市内で葬儀を行つたほか、住所地のアメリカでも葬儀を行い一〇〇万円以上の費用を支出したものと認められるが、桑の年齢、社会的地位、原告らの住所地その他本件記録にあらわれた事情を考慮すれば、本件事故と相当因果関係のある葬式費用としては八〇万円が相当である。

4  示談交渉、調査費用 四〇万円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四号証の一ないし四、同第五号証の一、二、同第六号証に原告美晴本人尋問の結果を総合すると、原告らは、桑の死亡による損害賠償請求について青森市内の福音キリスト教会の鎌田氏らを代理人に選任して被告佐藤らと交渉したが、事実関係及び損害額の算定に争いがあつて交渉が順調に進捗しなかつたため、アメリカから日本に再三にわたつて国際電話をかけたほか、昭和五八年一一月九日には来日し、青森市内に赴いて事故状況等を調査し、保険請求の手続をしたことによりその費用として合計八〇万円相当の支出をしたものと推認することができる。そして、この種の裁判外の交渉ないし事実調査は交通事故に関する紛争の解決のために必要なことであり、かつ、通常の現象というべきものであるから、これに要した費用は、それが事件の性質経過に照らし相当な範囲内のものである限り、事故による損害としてその賠償を請求することができると解するのが相当であるところ、本件事案の内容、当事者間の交渉態度、被害者の主張内容、特に原告ら二名が揃つて来日する必要があつたとは認められないこと等諸般の事情を総合すれば、右のうち四〇万円をもつて、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

5  慰藉料 各五五〇万円

本件事故の態様、桑の年齢、同人と原告らとの身分関係本訴提起に至つた状況その他諸般の事情を総合すると、原告らの慰藉料は各五五〇万円をもつて相当と認める。

6  過失相殺

成立に争いない乙第一ないし第七号証に原告美晴及び被告佐藤各本人尋問の結果を総合すると、被告佐藤は、加害車を運転し、青森市旭町一丁目六番二九号先道路(幅員四・二メートル)を時速約二〇キロメートルで進行中、前方の道路左右に駐車している普通乗用車を発見し、その側方を通過しようとしたが、同所付近は住宅街であつて駐車中の車両の陰から何時歩行者が飛び出すかもしれないことが予測されたにもかかわらず、前方注視や減速徐行を怠り、警音器を鳴らすなどの事故回避措置をとらなかつた過失があると認められるが、他方、原告美晴は二歳の桑が道路に飛び出すことを知りながらこれを制止するなどの措置をとらなかつたのであるから、幼児を監督すべき同原告にも過失があつたものというべきである。したがつて、同原告の過失は被害者側の過失として損害賠償の算定にあたつてこれを斟酌するのが相当であるところ、右の事実その他諸般の事情を考慮して損害額の一〇パーセントを減額するのを相当と認める。

そして、原告らの以上1ないし5の損害の合計は、各自一四三六万一五二七円であることが計算上明らかであるから、一〇パーセントの過失相殺をすると、原告らの損害は各一二九二万五三七四円(一円未満切捨)となる。

7  損害の填補 各一〇五五万一四七〇円

原告らが本件損害の填補として自賠責保険から二〇三〇万六四二〇円の、被告らから治療費として三一万四五二〇円の支払受けたことは当事者間に争いがなく、また、原告らは、被告らから青森市内で行つた葬儀の費用として四八万二〇〇〇円の、各支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これはその性質上、本件損害賠償債権に充当すべきものと認めるのが相当である。なお、被告佐藤は、原告らがアメリカに帰国するに際し航空運賃として四八万一二七五円、遺体輸送費として二四万九四九六円、見舞金として一〇万円、をそれぞれ支払つていることは当事者間に争いがないが、弁論の全趣旨によれば、被告佐藤は右金員を好意的に支払つたものであつて、本件事故によつて発生した損害の填補として支払つたものと認められないから、本訴請求の損害から控除するのは相当ではない。他に、被告らが原告に対し損害賠償債務を履行したと認めるに足りる確かな証拠はない。

そうすると、原告らの有する損害賠償債権は、原告各自につき二三七万三九〇四円となる。

8  弁護士費用 各二五万円

原告らが本訴の提起と追行を原告代理人らに委任したことは本件記録上明らかであり、本件事案の性質、内容、訴訟の経緯、認容額等諸般の事情を総合すると、原告らが本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、各原告につき二五万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告佐藤、同被告会社に対し各自二五二万三九〇四円〔更生決定 二六二万三九〇四円〕及びこれに対する桑が死亡した昭和五八年八月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容するが、右被告らに対するその余の請求及び被告金庫に対する請求は理由がないのでいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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