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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)12077号 判決 1988年1月25日

原告

三浦屋商事株式会社

右代表者代表取締役

渡辺重雄

右訴訟代理人弁護士

重松彰一

被告

中川かつら

右訴訟代理人弁護士

相良有一郎

下島正

主文

一  被告は、原告に対し、昭和五九年一〇月一日から別紙物件目録一、二記載の土地明渡ずみまで一か月金八万円の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録三記載の建物を収去して同目録一、二記載の土地を明け渡せ。

2  被告は、原告に対し、昭和五九年一〇月一日から右明渡ずみまで一か月金六六万円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録一、二記載の土地(以下一括して「本件土地」という。)は、もと木下勇(以下「木下」という。)の所有であつたところ、原告は、昭和五九年一〇月一日本件土地を競落により取得した。

2  被告は、本件土地上に同目録三記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有して、本件土地を占有している。

3  本件土地の昭和五九年一〇月一日以降の賃料相当額は、本件土地の更地価格金一億六〇〇〇万円に対する民法所定年五分の割合による一か月金六六万円である。

4  よつて、原告は、被告に対し、本件土地の所有権に基づき、本件建物を収去して本件土地を明け渡すことを求め、かつ、昭和五九年一〇月一日から明渡ずみまで一か月金六六万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実のうち、本件土地の更地価格が金一億六〇〇〇万円であることは不知。その余の事実は否認する。

三  抗弁

1  被告は、昭和二二年一二月一六日、当時本件土地を所有していた深谷長玄から、本件土地を普通建物所有の目的、期間二五年の約定で賃借した。

2  深谷長玄は、昭和二五年に死亡し、深谷基雄が本件土地を相続により取得した。

3  その後、被告は、昭和四八年八月一日深谷基雄との間で、本件土地の賃借期間を昭和六七年一二月一五日までの二〇年間とする旨合意更新した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は不知。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実は不知。

五  再抗弁

1  木下は、昭和五七年四月一〇日深谷基雄から、本件土地を買い受け、同月一三日、本件土地につき所有権移転登記を経由した。

2  原告は、同月一〇日木下に対し、金八〇〇〇万円を貸し付けた際、同日木下との間で、原告の木下に対する右貸金債権を担保するため本件土地につき抵当権設定契約(以下「本件抵当権」という。)を締結し、同月一三日、本件土地につき抵当権設定登記を経由した。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実のうち、木下が、昭和五七年四月一〇日深谷基雄から、本件土地を買い受けたことは不知。その余の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

七  再々抗弁

1  建物保護法による対抗力の存在

(一)(1) 被告は、昭和二二年一二月一六日本件土地を賃借後間もなく本件土地上に別紙物件目録四記載の建物(以下「旧建物」という。)を建築して本件土地を使用し、昭和四四年八月二〇日旧建物につき所有権保存登記を経由した。

(2) その後、被告は、旧建物を取り壊したうえ本件土地上に堅固な建物を建築することを計画し、深谷基雄及び同人の代理人であつた木下と交渉したが、その承諾を得られなかつた。そこで、被告は、昭和五六年東京地方裁判所に、深谷基雄を相手方として、借地条件変更の申立てをしたところ、昭和五七年一月二七日深谷基雄との間で、被告が深谷基雄に対し同年四月末日までに金一〇〇〇万円の承諾料を支払うことを条件に、深谷基雄は被告が本件土地上に堅固な建物を建築することを承諾する旨の和解が成立した。

(3) 被告は、その頃本件建物の建築工事を発注し、深谷基雄及び木下に承諾料金一〇〇〇万円の支払を申し出たが、承諾料の金額が不満であること、本件土地を第三者に売却する予定であること等を理由に受領を拒絶された。そこで、被告は、当初の計画どおり、同年四月初旬頃から、旧建物の取壊しに着手する一方、同月二二日右承諾料を供託した。

(4) ところが、旧建物が取り壊されて間もなくの同月一三日、本件土地につき、深谷基雄から木下に対する所有権移転登記及び木下から原告に対する本件抵当権設定登記がそれぞれ経由された。

(5) その後、木下は、同年五月一〇日夜、基礎工事終了間際の工事現場に、トラックで土砂を投入したうえコンクリートを張り、工事を実力で阻止する行為に及んだ。

(6) そこで、被告は、東京地方裁判所に、建築工事妨害禁止の仮処分を申請したところ、木下は、以後工事を妨害しない旨の上申書を提出したので、被告は、右申請を取り下げた。

(7) その後、被告は、工事を続行して本件建物を完成し、同年一一月四日本件建物につき所有権保存登記を経由した。

(二) 本件抵当権設定登記当時、旧建物が取り壊され存在しなかつたとしても、以下の理由によれば、被告は、旧建物の所有権保存登記により、被告の借地権をもつて抵当権者に対抗することができるというべきである。

すなわち、借地上の建物を建て替えるにあたり、本件のように借地が狭い以上、建物新築のためには旧建物を取り壊さざるをえず、このため、一時的に借地上の建物が存在しないこととなるのは不可避的なものである。この場合物理的に建物が存在しないという理由のみで、新築建物が完成しその登記を経由するまでの間、借地権の対抗力が消滅すると解すべき合理的根拠はない。したがつて、①旧建物につき、建物保護法一条所定の登記が存在し、②借地上の建物が取り壊されていた期間が避け難い相当な期間であり、③新築建物につき遅滞なく同法一条所定の登記がなされた場合には、同法一条の対抗力はなお存続すると解すべきである。

被告は、右(一)のとおり、右①ないし③の要件をすべて満たしているものである。

2  権利濫用

原告は、本件抵当権を取得するにつき、被告の賃借権の存在を知り、若しくは、仮にこれを知らなかつたとしても、何らの調査を行わなかつたことにつき過失があるにもかかわらず、本件抵当権設定登記当時、たまたま被告が旧建物を取り壊しこのためやむをえず建物がなかつたことをとらえ、被告の賃借権は原告に対抗することができないと主張して本訴請求に及び、これにより多額の利益を得ようとするものであり、原告の本訴請求は権利の濫用として許されないというべきである。

(一) 被告は、昭和二二年に本件土地を賃借して以来本件土地上に旧建物を所有して居住していたものであるところ、前記のとおり、その後旧建物の建替えを計画し、深谷基雄に対する借地条件変更申立事件において、昭和五七年一月二七日、前記和解の成立を得た。そこで、被告は、同年二月一日から本件土地上に建築基準法に基づく掲示を行い、同年三月一五日から本件建物建築中の表示及び被告の移転先の表示を行つたうえで、旧建物をその登記を残したまま取り壊した。そして、本件建物の新築工事に取りかかり、本件建物完成後速やかに本件建物の登記を行うとともに、旧建物の登記を抹消した。

(二) 一方、深谷基雄は、被告との間に前記和解が成立していることを熟知している木下の勧めるまま、わずかの金員で本件土地の所有権を木下に移転した。そのうえ、木下は、本件土地を担保に原告から金員を借り入れ、被告が旧建物を取り壊した後の同年四月一三日、深谷基雄から木下に対する所有権移転登記、木下から原告に対する本件抵当権設定登記をそれぞれ経由した。

(三) 原告及びその関連会社は、宝石売買業、ボクシングジム、特殊浴場等のほか、金融業をも経営するものであるところ、木下に対する右貸付けに際し、原告は、木下の融資申込みについて、何らの調査を行わず木下を漫然と信用し、木下に高額の金員を貸し付け、本件抵当権を設定した。

すなわち、原告は、木下から、木下が本件土地上にビルを建築するにつき、その建築資金を金融機関から借り入れるまでのつなぎ資金八〇〇〇万円を、当時いまだ深谷基雄の所有名義であつた本件土地を担保として借りたい旨の申込みを受け、その後わずか三日後に融資をしたものであるが、深谷基雄の所有名義であつた本件土地につき深谷と木下との間の取得契約の存否の調査、木下の資金の使途、その返済見込み、木下が建築資金の借入れをするとする金融機関に対する調査等をすべきであるのに、原告は、何らの調査をせず、高額の金員を短期間のうちに貸し付けたものである。

(四) 更に、被告は、前記のとおり、所要の手続を経たうえ、前記提示板等を掲示して工事を行つていたのであるから、原告において、登記簿による本件土地上の建物の調査、建築現場その他近隣における確認等簡単な調査をしていれば、本件土地上に建築中の建物が被告のものであることを容易に知りえた。したがつて、仮に原告が被告の賃借権の存在を知らなかつたとしても過失があるというべきである。

(五) 原告は、本件抵当権を実行したうえ、その競売手続において本件土地を自ら買い受けたものであるが、本件土地を買い受けるについては、木下に対する融資につき原告自身に右過失があることを知つていたことに加え、事前に競売記録を閲覧して、本件土地の最低売却価額が金四一〇九万円とされるに至つた事情、本件土地につき買受けの申出がなく特別売却となつたことがあるとの事情を知りながら、あえて本件土地を金六〇〇〇万円で買い受けたものである。

(六) 本件土地の更地価格は、競売手続における昭和五七年八月九日を評価時点とする鑑定においてさえ、金一億四七六三万六八〇〇円であつたものであり、右更地価格が、その後の都心部における土地の高騰により、原告が買い受けた昭和五九年当時までの間に更に上昇したことは明らかである。したがつて、本訴請求が認められると、原告は、労せずして、鑑定時における更地価格を遙かに越える昭和五九年当時の時価と最低売却価額との差益を取得することができるという不合理な結果となる。

八  再々抗弁に対する認否

1(一)(1) 再々抗弁1(一)(1)の事実は不知。

(2) 同1(一)(2)の事実は不知。

(3) 同1(一)(3)の事実は不知。

(4) 同1(一)(4)の事実は認める。

(5) 同1(一)(5)の事実は不知。

(6) 同1(一)(6)の事実は不知。

(7) 同1(一)(7)の事実のうち、被告が本件建物を完成し、被告主張の日に被告主張の所有権保存登記を経由したことは認める。その余の事実は不知。

(二) 同1(二)は争う。

本件抵当権設定登記当時、本件土地上に建物が存在していなかつた以上、被告の借地権が建物保護法一条の保護を受けえないことは明らかである。

2 同2は争う。

本件抵当権設定の際、原告は、被告の賃借権の存在を知らず、かつ、これを知らなかつたことにつき無過失であつたものであり、これに対し、被告は、本件建物の建築につきいまだ地主との間で紛争中であるにもかかわらず、原告の本件抵当権設定当時、本件土地上に自己の占有ないし借地権の存在を示す明示方法を採つていなかつた過失がある。したがつて、原告の本訴請求は、権利の濫用にあたらない。

(一) 原告は、昭和五七年四月一〇日の本件抵当権設定当時本件土地に被告の借地権が存在することを知らなかつた。原告がこれを知つたのは、同年五月中旬頃、本件土地上に被告代理人名義の掲示板が立てられた時である。

(二) 原告が被告の借地権の存在を知らなかつたことにつき、次のとおり、過失はない。

(1) 原告は、宝石売買等を業とする会社であり、宝石を担保とする金融も行つているが、木下に対する本件融資まで土地を担保に貸付けをしたことはなかつた。

(2) 木下は、昭和五七年四月七日頃原告に対し、「本件土地は自分が買い受けることとなり、本件土地上に七階建のビルを建てる予定である。建築資金は金融機関から借り受けることとなつているが、借入れを受けるまでのつなぎ資金が必要である。本件土地は現在更地であるので時価金一億数千万円の価値がある。ついては、本件土地を担保に金八〇〇〇万円を貸して欲しい。」旨申し向けた。これに対し、原告は、後記のとおり、現地を調査確認する等したうえ、同月一〇日木下に対し、金八〇〇〇万円(諸費用を差し引いたため、現実の交付額は金七二八〇万円)を貸し付け、同日木下との間で本件土地につき抵当権設定契約を締結したうえ、その旨の登記手続を司法書士に依頼した。

(3) その際に、原告の社員が木下に同道して右司法書士方に赴き、木下が持参した登記に必要な書類等に基づいて、本件土地の権利関係につき、右司法書士に慎重な調査をして貰つた。

(4) これと同時に、原告代表者渡辺重雄が、自ら本件土地を検分し、現地が更地であること、木下が本件土地を占有している外観を呈していたこと、本件土地に第三者が建物を建築する旨の表示は何ら存在しないことを確認した(被告は、本件土地の隣地の金網に被告の移転先を表示する掲示板を立てたと主張する。仮に原告代表者渡辺重雄が現地を検分した際右掲示板が現地に存在しこれに気付いたとしても、右掲示板には、「中川ドレスメーカー女学院は下記の場所に移転しました。」と記載されていたのであるから、原告代表者渡辺重雄において右掲示板は木下がビルを建築するため被告が本件土地から退去したことを表示していると信じたとしても無理はないものである。その記載内容から、本件土地の被告の借地権の存在を窺わせるものはなかつた。)。なお、木下は、昭和五九年一一月九日東京地方裁判所において、本件土地に被告が借地権を有し、地主との間で係争中であることを隠して原告に対し詐言を弄し借用名下に金員を詐取したことが詐欺罪にあたるとして、懲役三年の実刑判決を受け、服役した。

(三) 借地権の対抗要件は、まず借地上に建物が存在し、そのうえで右建物につき登記がなされていることである。仮に旧建物の登記が残存していても、建物が現存しなければ、借地権の対抗要件を満たさないことは明らかである。したがつて、原告が現地を検分して更地であることを確認した以上、更に建物の登記の有無を調査することの必要を感じなかつたとしても当然であり、建物登記簿を調査しなかつたことをもつて過失があるとはいえない。

(四) 抵当権を設定するについて、目的物件の近隣の者にその権利関係を聴取するとの慣行はなく、また、本件土地は銀座に所在するものであり、近隣の者の間に交流がないのが通常であるから、仮に原告においてこれを行つたとしても効果があつたか疑問である。

(五) 深谷基雄は、被告主張の和解が成立した後、これを不服として、昭和五七年三月一一日民事調停の申立てをした。被告は、右調停がいまだ継続中であるにもかかわらず、本件建物の建築工事に着手するため、同月二五日から同年四月五日までの間に旧建物を取り壊した。被告は、このように本件建物の建築を強行するにあたり、深谷基雄及び木下との間に紛争が生ずることを充分予測することができた。このような場合、被告としては、本件土地の占有関係を明確にし、かかる紛争により第三者が被害を被らないよう、現地に管理人を常駐させるとか、被告の占有ないし借地権が存在すること及び被告が建物を建替え中であることを第三者に示す強固な表示をする等の措置を講じるべきであり、このような措置を講じなかつたことについて、被告に過失がある。

(六) 原告が本件抵当権の実行をしたところ、第三者が競売において本件土地を買い受けても、被告との間に紛争が生じ、このため買受後直ちに本件土地を使用、転売することが困難であることが予め分かつており、また、暴力団らしいものが介在し始めて容易に手を出すことが難しいとの事情があつたため、本件土地につき買受けの申出をする者がいなかつた。そこで、原告は、やむをえず本件土地を自ら買い受けたものである。

(七) 原告は、本件訴訟における和解において、被告に対し、原告が本件建物を相当価格で買い取り被告の居住についても保障するとの案、また、原告の未回収貸金の元利金を参考とし相当の価格で被告が本件土地を買い取るとの案を提示し、本件紛争の最終的解決を図りたいとの申出をしたが、被告は、頑として借地権を主張し、和解による解決を拒絶した。

(八) 原告は、勝訴しても、被告に本件建物の収去等を行うにつき、被告が要した建築費及び被告の居住に対する保障をする用意があり、何らの反対給付なくして本件建物収去土地明渡を迫るつもりはない。

第三  証拠<省略>

理由

第一まず、原告の本訴請求中、建物収去土地明渡請求の部分につき判断する。

一請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、被告は、昭和二二年一二月一六日別紙物件目録一記載の土地を所有していた深谷長玄から、ほぼ右土地に相当する19.45坪を普通建物所有の目的、期間二五年の約定で賃借したこと、その後、深谷長玄が、昭和二五年頃死亡したことにより、深谷基雄が右土地を相続により取得し、賃貸人の地位を承継したこと、昭和四七年一二月一五日の期間満了の際に、被告は、昭和四八年八月一日深谷基雄との間で、賃借人を自己単独の名義としたうえ、当時深谷基雄が東京都から払い下げを受けていた別紙物件目録二記載の土地を含め本件土地二筆全部について、右賃貸借の期間を二〇年間更新する旨の契約を締結したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三再抗弁1の事実のうち、木下が、昭和五七年四月一三日本件土地につき所有権移転登記を経由したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、木下は、同月一〇日深谷基雄から、本件土地を買い受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。再抗弁2の事実は当事者間に争いがない。

四そこで、再々抗弁につき判断する。

1  建物保護法による対抗力の存在の主張について

被告は、再々抗弁1のとおり、一定の要件を満たす場合には建物が取り壊され存在しなかつたとしても建物保護法一条の対抗力が存続すると解すべきである旨主張する。しかしながら、本件抵当権設定登記当時、旧建物が取り壊され、本件土地上に建物が存在していなかつたことは当事者間に争いがない以上、被告が本件土地上に建物保護法一条にいう「登記シタル建物ヲ有スル」といえないことは同条の解釈上明らかである。したがつて、被告の右主張は採用することができない。

2  権利濫用の主張について

(一) そこで、次に、被告の権利濫用の主張につき検討すると、前記一の争いのない事実と、<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

(本件建物建築に至る経緯)

(1) 被告は、戦後間もなくまで横浜に居住していたところ、深谷長玄から、土地を賃借して欲しい旨の依頼を受けた。そこで、被告は、被告の縁戚にあたる者とともに、昭和二二年一二月一六日深谷長玄から、前記のとおり、本件土地のうち19.45坪を普通建物所有の目的、期間二五年の約定で賃借した。その際、被告は、横浜の家屋を売却して、深谷長玄に権利金を支払つた。

(2) 被告は、その頃、本件土地上に旧建物を建築したうえ、旧建物において中川ドレスメーカー女学院の名称で洋裁学校を開業した。

(3) その後、昭和四七年一二月一五日の期間満了の際に、被告は、前記のとおり、昭和四八年八月一日深谷基雄との間で、本件土地二筆全部について右賃貸借の期間を二〇年間更新する旨の契約を締結した。

(4) ところが、女学院の生徒数が減少し、女学院の経営のみでは生活が困難となつたことから、被告は、旧建物を七、八階の堅固な建物に建て替え、家賃収入で生計をたてることとし、昭和五四年東京地方裁判所に、深谷基雄を相手方として、借地条件変更の申立て(昭和五四年(借チ)第五一号)をした。その結果、被告と深谷基雄との間で、昭和五五年四月三〇日、被告が深谷基雄に対し昭和五六年二月末日までに金一〇〇〇万円の承諾料を支払うことを条件に、賃貸借契約の目的を堅固な建物の所有とし、期間を三〇年とする旨の和解(以下「第一和解」という。)が成立した。しかしながら、被告は、右期限までに右承諾料を支払うことができず、非堅固な建物の所有の目的のまま賃貸借契約が存続することとなつた。

(5) その後、被告は、規模を四階建に縮小して旧建物を堅固な建物に建て替えることを再度計画し、昭和五六年同裁判所に、深谷基雄を相手方として、借地条件変更の申立て(昭和五六年(借チ)第二一号)をした。その結果、被告と深谷基雄との間で、昭和五七年一月二七日、被告が深谷基雄に対し同年四月末日までに金一〇〇〇万円の承諾料を支払うことを条件に、賃貸借契約の目的を堅固な建物の所有とし、期間を四〇年とする旨の和解(以下「第二和解」という。)が成立した。

(6) ところが、深谷基雄は、同年三月一一日東京簡易裁判所に、被告を相手方として、第二和解において定められた承諾料の金額等につき不満があるとして、被告との賃貸借関係の調整を求める旨の民事調停(昭和五七年(ユ)第三八号)を申し立てた。

(7) ところで、木下は、住宅設備関係の会社を経営するものであるが、深谷基雄と旧知の間柄であつたことから、深谷基雄の代理人として被告との交渉に以前から関与し、深谷基雄と被告との間の事情を承知していた(被告とのこれまでの経過により深谷基雄が本件土地売却の意向を持つたことから、木下は、深谷基雄との間で、本件土地に関し昭和五七年一月九日付け売買契約書を既に取り交わし、深谷基雄から本件土地を被告又は第三者に売却する権限を与えられていた。)。木下は、右調停事件の同年三月二三日の第一回調停期日においても深谷基雄に同道して裁判所に赴いていた。

(8) 一方、被告は、右調停事件の処理を被告訴訟代理人下島正弁護士(以下「下島弁護士」という。)に委任する一方、予定どおりの本件建物の建築を行うこととし、同年三月九日から同月一三日までの間に旧建物から仮移転先への引越を完了した。被告から本件建物の建築工事を請け負つた株式会社間工務店(以下「間工務店」という。)の担当者は、同月一五日、旧建物の外壁に、「中川ドレスメーカー女学院は下記のところに移転しました」と記載したうえ、仮移転先への案内図を表示した掲示板を取り付けた。

(9) その後、旧建物は、同月二五日から同年四月五日までの間に解体撤去された。その際、本件土地北東側の隣地に東京瓦斯株式会社の整圧器室があり周囲が金網で囲まれているところ、間工務店の担当者は、同月四日、前記掲示板を、本件土地の出入口と同じ側(南東側)の右金網の、本件土地間際に付け替えた。なお、右金網の南東側には、当時古くからあつた町内案内図(本件土地の位置に、「中川ドレスメーカー女学院」との表示がある。)等が掲示されていた。

(10) その後、同月七日から、本件土地の地質調査が行われ、そのための機材が本件土地上に搬入されて、やぐらが組まれた。地質調査は、同月九日に終了し、同日やぐらが撤去された(この間の同月八日、木下から、間工務店に、何で井戸など掘るのかとの電話による問い合わせがなされた。)。

(11) その後、基礎工事を開始するにあたり、間工務店の担当者は、同月一六日、本件土地の南東側に、建築基準法による確認済であることを表示する標示板、道路占用使用許可の標示板等を掲示した。

(原告の融資の経過)

(12) 一方、木下は、前記のとおり、前記調停事件の同年三月二三日の調停期日に深谷基雄に同道して裁判所に赴いた頃、被告が旧建物の取壊しに着手したことを知つた。木下は、被告により旧建物が取り壊されて本件土地が更地になることを奇貨として、本件土地を賃借権等の負担のない更地と偽つてこれを担保とすることにより、他人から金員を借り出し、自己の事業資金等を捻出することを企図した。そこで、木下は、同月下旬頃、自己の知り合いで土木建築業を営む原徳造こと全徳雄(以下「全」という。)に、この話を持ち込み、木下に融資をしてくれる金融業者の紹介を依頼した。

(13) これに対し、全も木下に協力することとし、本件土地に被告の借地権がついていること及び地主深谷基雄と被告との間で調停中であることを隠して融資を依頼することを木下と互いに了解した。そこで、全は、取引先の建設会社を経営する渡辺兼司に、銀座の本件土地を担保とする融資の仲介を依頼した。渡辺兼司は、これを承諾し、都内デパート外商部に勤務し自己の会社に出入りしていた佐藤純一(以下「佐藤」という。)に、更に右融資の仲介を依頼した。

(14) これに対し、佐藤は、渡辺兼司に対し、借主との引き合わせを求め、同年四月上旬頃、佐藤と渡辺兼司は、全に会い、全から、木下が本件土地上にビルを建築するにつきその建築資金を貸してやつて欲しい旨の説明を受けた。そこで、佐藤は、かねて融資元と考えていた原告代表取締役渡辺重雄に、銀座の本件土地を担保とする融資の話を持ち込んだ。

(15) 原告は、いわゆる特殊浴場等を経営するとともに、角海老宝石の名称で宝石を担保とする金融業を経営する会社であるところ、原告代表取締役渡辺重雄は、それまで土地を担保とする融資を行つたことはなかつた。しかしながら、渡辺重雄は、長年の取引により佐藤と懇意にしており、同人を信用していたことから、本件土地が更地で権利関係に心配がなければ貸してもいい旨回答した。

(16) その後、同月九日、木下、全、渡辺兼司、佐藤らが集まり、木下側が、本件土地は深谷基雄の所有名義であるが既に同人との間で売買契約ができており、いつでも木下に所有権移転登記できること、木下は本件土地上に賃貸ビルを建築する予定であること、木下において王子信用金庫から建築資金の融資を得られる目処がついているが実行が遅れるので、つなぎ資金として金八〇〇〇万円を三か月間、月三分の利息で借りたいこと、木下に所有権移転登記をすると同時に貸主に担保として本件土地に抵当権設定登記をつけること、本件土地は更地であつて充分な担保価値を有すること、なお、本件土地に地質調査の機械が入つているかも知れないが了解して欲しいことなどの説明をしたうえ、急いでいるので翌一〇日に融資を実行して貰いたいと要請した(途中、渡辺兼司らが、本件土地の登記簿謄本をとり、佐藤らと本件土地が登記簿上抵当権等の負担のない土地であることを確認した。また、佐藤は、同月九日までに、実際に本件土地を見に現地にも赴いていた。)。そこで、佐藤は、直ちに渡辺重雄と電話で連絡をとり、翌一〇日に融資を実行することの了承を得た。同夜、佐藤は、渡辺重雄と会い、木下側の説明の詳細を伝え、本件土地の登記簿謄本を見せた。

(17) 同月一〇日、原告からは原告の従業員山崎が来て、原告の事務所近くの喫茶店に関係者全員が集まり、木下、佐藤、山崎の三名が、原告の指定した斉藤茂雄司法書士の事務所に赴き、斉藤司法書士に登記手続を依頼した。ところが、深谷基雄の委任状が白紙委任状であつたことから、本人に委任事項を記載させるようにとの斉藤司法書士の指摘を受けたので、木下は、与野市内の深谷基雄方に赴いた。

(18) 一方、これと平行して、渡辺重雄は、その頃、原告の従業員一名とともに、本件土地が更地であることを確認するため、自ら本件土地に赴いた。問題ないと判断した渡辺重雄は、斉藤司法書士の事務所に電話し、登記手続を進めるよう述べた。その際、佐藤は、当日が土曜日であり、渡辺兼司がどうしても必要なので登記委任手続完了より先に金二〇〇〇万円を渡辺兼司に交付して貰いたいとの依頼を渡辺重雄に取り次ぎ、その了承を得た。その後、同日昼前、渡辺重雄は、原告の事務所を訪れた渡辺兼司に、現金二〇〇〇万円を交付した。その際、渡辺重雄は、渡辺兼司に以前原告の店舗の工事を請け負わせたことがあり面識があつたが、特に右金員の使途を聞かなかつた(渡辺兼司は、取引先に対する自己の会社の債務の支払のため、近くの銀行から直ちに右金員を送金した。)。

(19) 同日午後、登記委任手続を終了した木下及び佐藤が、原告の事務所を訪れた。渡辺重雄は、初めて借主である木下と面談したが、木下は、前日の前記説明と同様の説明をした。その後、渡辺重雄は、利息金七二〇万円を天引きし、前記金二〇〇〇万円を差し引いた現金五二八〇万円を木下に交付した。

(20) このようにして、原告は、木下に対する貸付けを終えたが、事前に、王子信用金庫に木下への融資予定の存否を確認すること、木下から工事の施工会社を聞き、右会社に工事予定の存否を確認すること、本件土地の登記名義人に本件土地の経緯を確認すること等の措置を購じなかつた。同月一三日、深谷基雄から木下に対する所有権移転登記、木下から原告に対する本件抵当権設定登記がそれぞれ経由された。

(21) 一方、被告は、約定の期限内である同月二二日承諾料金一〇〇〇万円を供託し、同月下旬から基礎工事に着工した。ところが、同年五月七日、被告の移転先を表示した前記掲示板が、工事関係の前記標示板とともに破壊撤去された。更に、その後、木下が、同月一〇日から掘削後の工事現場に多量の土砂を投入する等の妨害行為を継続した。そこで、被告は、東京地方裁判所に、木下を債務者として建築工事妨害禁止仮処分(昭和五七年(ヨ)第三八〇一号)を申請したところ、木下が今後工事を妨害しない旨の上申書を提出したので、被告は、同月三一日右申請を取り上げた(これに先立ち、深谷基雄が申し立てた前記調停事件も、同月一八日取り下げられた。)。その後、本件建物の建築工事は、順調に進行した。

(22) この間、本件土地上に、被告の工事の妨害を禁止する旨の下島弁護士ら名義の看板が立てられたが、これを聞き知つた原告の渡辺重雄は、直ちに現地を見るほか、同年六月に木下と会つたところ、木下は、本件土地は被告に賃貸中であるが、原告が聞かなつたから言わなかつたなどと弁解した。原告は、約定の弁済期日に木下から弁済がなかつたので、木下を詐欺罪で告訴した(木下と全は、昭和五九年に詐欺罪で起訴され、有罪判決を受け確定した。)。

(本件土地の競売の経過)

(23) 一方、原告は、東京地方裁判所に本件土地の競売の申立て(昭和五七年(ケ)第九六七号)をし、これに基づいて、本件土地につき、昭和五七年七月七日競売開始決定がなされた。その手続において、評価人は、同年八月一七日付け評価書を提出し、本件抵当権設定に至る経緯に鑑み、本件土地が被告の借地権の負担付きであることを前提とし、いずれも同月九日を評価時点として、本件土地の更地価格を金一億四七六三万六八〇〇円、底地価格を金一五三三万円と評価した(後日、評価人は、被告の借地権には対抗力に問題があり、賃借権の存否を不明とした場合、借地権価格を二割減価し、底地価格を金四一〇九万円と評価する旨の同年一二月二七日付け補充書を提出した。)。執行裁判所も被告を審尋したほか、被告代理人の下島弁護士らから、被告の借地権は競落人に対抗できる旨の上申書が関係書類とともに提出された。その後、物件明細書が作成されたが、賃借権不明とし、被告が賃借権を対抗しうると主張していること、これを考慮して最低売却価額を定めたとの付記がなされた。

(24) 一方、原告から右競売手続の代理人に選任された原告訴訟代理人重松彰一弁護士(以下「重松弁護士」という。)は、昭和五八年二月に競売事件記録全部を謄写した。

(25) その後、本件土地につき、最低売却価額を金四一〇九万円として、同年三月一四日から期間入札が実施されたが、入札はなかつた。その後、昭和五九年四月九日から再度期間入札が実施された。その際、原告は、第三者から買受けの申出がなされる可能性が少ないほか、最低売却価額程度で落札されることを防ぐため、重松弁護士を代理人として自ら金六〇〇〇万円で入札した。他に入札はなかつた。

(26) このようにして、原告は、同月二七日売却許可決定を受け、同年一〇月一日所有権移転登記を得た。その後、原告は、同月二五日本件訴訟を提起した。

(本件建物の完成)

(27) 本件建物は、本件土地の競売中である昭和五七年九月二六日頃完成し、被告は、同年一〇月二八日旧建物につき滅失登記をすると同時に、本件建物につき表示登記をし、更に同年一一月四日本件建物につき所有権保存登記をした。被告は、本件建物の建築に、深谷基雄に対する承諾料金一〇〇〇万円、工事代金約金七一〇〇万円等合計約金一億円を要した。

(28) 被告は、既に高齢であるが、本件建物の一、二階を飲食店に賃貸しその賃料収入等で生計を立てるほか、三階を中川ドレスメーカー女学院として使用し、生徒数は少ないものの女学院を存続させ、自らも本件建物に居住している(なお、本件訴訟の和解において、被告は、被告において本件土地を買い取る案も検討したが、支払能力等の関係から原告の提示額を受け入れることができなかつたことは、当裁判所に顕著である。)。

以上の事実が認められ、甲第八号証の五、六の各供述記載、第九号証の八の供述記載、原告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲その余の各証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  以上認定の事実に基づき、権利濫用の主張につき判断すると、本件は、借地人において建物保護法一条所定の登記を怠つていた場合とは異なり、同法一条所定の登記を経由した後、建物建替えのため、借地上の建物を一時的に取り壊した場合であるところ、被告は、本件建物建築のため地主に対する所要の手続を経たうえ、旧建物取壊し後直ちに本件建物の建築に着手し、本件建物完成後間もなく本件建物につき所有権保存登記を経由したものであつて(この間旧建物の所有権保存登記は、旧建物の取壊し後も残存していたものである。)、この間一時的に建物保護法一条による対抗力を喪失したことにつき宥恕されるべき事情があること、原告は、もともと自己の貸金債権の担保として本件土地につき抵当権を取得したものであるが、本件土地の競売において、第三者から買受けの申出がなされる可能性が少ないほか、最低売却価額程度で落札されることを防ぐ目的で本件土地を買い受けたものであつて、特に自己において本件土地を使用する必要性を有するものではないこと、これに対し、被告は、長年にわたり賃借してきた本件土地上に高額の資金を投じて本件建物を建築したばかりのものであり、本訴請求が認められると、その生活及び洋裁学校の運営に多大の影響を生ずること、原告は、本件土地を買い受けるにつき、本件土地の更地価格の約四割程度の代金でこれを取得したものであり(右買受価格自体も、最低売却価額の約五割増の金額である。)、本訴請求が認められると、原告は、右買受価格に比較し多額の利益を取得することとなること、原告の融資の経過についてみると、原告代表者及び融資を仲介した佐藤において本件土地の登記簿謄本を見るほか現地を検分しているとしても(前記認定事実によれば、右両名は、いずれも、被告が本件土地の隣地の金網に掲出した被告の移転先を示す掲示板に気付かなかつたものと認められる。)、前記認定の融資の経過、特に融資申込みから実行までの期間が短いこと、木下の資金使途が不明確であること、木下はつなぎ資金として借用するものでありながら、現実の受取額金七二八〇万円のうち金二〇〇〇万円を渡辺兼司が使用すること等に照らせば、木下らの言動に疑念を生じてしかるべき事情があつたものであるから、更に、木下が融資を受けるとする金融機関に融資予定の存否を確認すること、木下から工事の施工会社を聞き、右会社に工事予定の存否を確認すること、本件土地の登記名義人に本件土地の経緯を確認すること等適切な措置を講じるべきであつたにもかかわらず、木下らから融資を急がされるまま、融資申込みからわずか数日後に融資を実行したものであつて、落ち度がないとはいえないこと、原告は、本件土地の競売手続において、被告が借地権の存在を主張していることを充分知りながら、あえて本件土地を買い受け、これによる所有権移転登記を取得後間もなく本件訴訟を提起したものであること等前記認定の諸事情によるときは、本訴請求は権利の濫用として許されないと解するのが相当である。

被告の再々抗弁2は理由がある。

五したがつて、原告の本訴請求中、建物収去土地明渡請求の部分は、失当として棄却を免れない。

第二次に、原告の本訴請求中、損害賠償請求の部分につき判断する。

一被告が本件土地上に本件建物を所有し本件土地を占有していることは、前記第一の一のとおりである。そして、前記第一の四の2に説示の理由により、原告の建物収去土地明渡請求が権利の濫用となり排斥される場合においても、これにより被告の占有が適法な占有に転化するものではないから、被告は、原告に対し、被告が本件土地を占有することにより原告が被つている損害を賠償すべき義務がある。

二原告は、本件土地の昭和五九年一〇月一日以降の賃料相当額は本件土地の更地価格金一億六〇〇〇万円に対する民法所定年五分の割合による一か月金六六万円である旨主張するが、本件全証拠によるもこれを首肯することはできない。

三<証拠>によれば、被告と深谷基雄との間に昭和五七年一月二七日成立した和解において、本件土地の賃料が一か月金八万円と定められたことが認められ、右認定に反する証拠はない。したがつて、他に特段の立証のない本件においては、本件土地の賃料相当の損害額もこれと同額と認めるのが相当である。

四そうすると、被告は、原告に対し、昭和五九年一〇月一日から本件土地明渡ずみまで一か月金八万円の割合による賃料相当損害金を支払う義務があるというべきである。

第三以上の次第で、原告の本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官岩田眞)

別紙物件目録

一 所在 東京都中央区銀座八丁目

地番 二〇四番一

地目宅地

地積 64.39平方メートル

二 所在 東京都中央区銀座八丁目

地番 二〇四番一八

地目 宅地

地積 5.25平方メートル

三 所在 東京都中央区銀座八丁目二〇四番地一、二〇四番地一八

家屋番号 二〇四番一の二

種類 店舗共同住宅

構造 鉄骨造陸屋根四階建

床面積

一階 52.42平方メートル

二階 54.11平方メートル

三階 59.78平方メートル

四階 59.78平方メートル

四 所在 東京都中央区銀座八丁目二〇四番地一、二〇四番地一八

家屋番号 二〇四番の一

種類 校舎居宅

構造 木造スレート葺三階建

床面積

一階 62.79平方メートル

二階 63.74平方メートル

三階 13.27平方メートル

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